《インタビュー》良知真次『宝塚BOYS』

2007年初演、その秘された史実と共に大きな感動を呼び話題となり、以降2008年、2010年、2013年と上演を重ねてきた舞台『宝塚BOYS』。
“女性だけのレビュー劇団”として、世界でも知られる存在となった宝塚歌劇団の、100年を超える華やかな歴史の中に、かつて「男子部」が特設されたという事実に焦点を当てた作品。これが5年振り5度目となる2018年夏、東京芸術劇場 プレイハウス他にて、上演される。今回は、「team SEA」「team SKY」という2チームで新生BOYSが誕生する。

「team SEA」に出演する良知真次さんに作品のことや宝塚歌劇団で振付の仕事をしたこと等を目一杯語ってもらった。

 5回も上演できるっていうのは、今、現代に残せるメッセージがあるからだと思います

ーー初参加当時の感想、またエピソードなどがあればお願いいたします。

良知:ただただ鈴木裕美さんとご一緒する緊張感がありましたね。今回も裕美さんと「初めまして」の人が多いですが、多分、僕と同じ気持ちじゃないかなと・・・・・・今でも覚えていますが、僕も上山(竜治)君も「宇宙人だ」って言われたんですよ。上山君は天然なところもあって、誰が見ても宇宙人だとは思うんですが(笑)、「良知はよく見たら宇宙人だ」って言われて(笑)。「よく見なきゃわかんないならいいですね」って言ったら「そういうところがダメなんだ、やっぱり宇宙人だ」って言われました。宇宙人には宇宙人の魅力があるんだから〜みたいな(笑)。人と考え方が違うだけで、それは個性、ただ、それが時々ダメな時もあるって言われたのは覚えています。

――細かいところを見ていますね。

良知:ハイ。本当にしっかり舵を握ってくださる演出家の先生なので、本当についていけばいいんだなって・・・・・・その上この作品は今回で5演目ですから、絶対に安心して皆様にお届けできると思っています。ただ、稽古段階ではどうなるのかな?っていう不安な気持ちはいっぱいありますが。これは宝塚100年を超える歴史の中に実際にあった話で、しかもそれがハッピーエンドではない、本当に切ない話なんです。それが5回も上演できるっていうのは、今、この時代に残せるメッセージがあるからだと思います。

――それだけ、メッセージ性が強いっていうことですね。

良知:そういうことですね。舞台だけじゃなく、映画とかアニメとか、そういうものになってもおかしくないと思います。いろんな人たちに見てもらいたい。舞台に興味がない人もたくさんいると思いますが、映画になれば、映画好きな人も見るし、アニメになれば、日本だけでなく、宝塚は中国公演もやっていますので、中国の方やそれ以外の海外の方々にも見てもらえる可能性がある。今は、日本のオリジナル作品が海外に行ける可能性を持っている時代。team SEA!海を越えて行きたいですね〜。でも今回、SEAは、残念ながら東京公演だけなんです。SKYは各地公演を回るんですけどね。

作品をやる上では、自分に何ができるんだろうっていつも思います。

――いわゆる2.5次元舞台はそのほとんどが100%フィクション。『宝塚BOYS』はフィクションとはいえ、現実にいらした方がいて、それをモデルとして作り上げたキャラクターなので、100%フィクションのキャラを演じるのと、実際にそういう人たちがいたというキャラを演じることの難しいところとか面白いところ、あるいは共通するところがあれば。

良知:俳優の仕事、創作の世界で“誰か”を演じること自体が2.5次元だと思うんです。3次元に生きている人たちを演じるのか、2次元のアニメやゲーム、マンガのキャラクターを演じるのか、その違いはありますが、僕は特に使い分けすることなく、同じに考えています。アニメ、ゲーム、マンガの原作は見ますし、3次元の場合でも実際にあった話も史実を調べたりする、そのやり方は一緒です。さらに作品をやる上では、自分に何ができるんだろうっていつも思うんです。任された以上は責任を持って、その自分の答えを見つけたいと思います。自分が台本を読んだ時にどう感じるかっていう感性も大事にしながら。自分が発するその音、その呼吸が、舞台上ではその人たちになるのですから。ここはどう感じたんだろう、とか、言葉を詰まらせたのか、スラスラと言ったのか、それだけでもだいぶ違うと思うんです。そこを自分がどう読み解くかっていうことですね。

――台詞をためるためない、ちょっとしたニュアンスでも受け取る側の印象は変わりますね。

良知:そういったニュアンスが毎回違ってくるのは舞台の魅力だし何度も観たくなるところはそこだと思います。映画やドラマの場合は、撮る、その一発に全てを込めないといけない。だからこその良さがあるし。舞台はそうじゃない、毎回、スタートとゴールは一緒。その道行きが違っているのが、生のすごいところかなと。

――舞台はお客様と作る、そういった部分がありますね。しかも毎回お客様は変わる訳ですし。

良知:お客様の笑いが入ったりするシーンもあるし、お客様が感動して泣いているシーンもある。毎回、笑いの大きさも違っているし、笑うツボも違うので、それに振り回されちゃいけないし、それに乗りすぎてもいけないと思っています。『宝塚BOYS』は、ショーのシーンはありますけど、ミュージカルではなく、ストレートプレイ。誰かが台詞忘れてもそれを埋める事ができるメンバーにならないといけない。実は前回公演で、本当は、竹内役の僕が後半、ずっと歌い続けているところに『上原』が乗ってくるっていう場面がありました。今でも覚えていますが、上原の歌が乗ってきた時に僕が歌えなくなって、「お前、そこ、歌うだろ!」と。僕は「リーダー(上原)に任せようと思うんですよね」って。「リーダーが歌ってくれたから、自分も感動して歌えなくなった。それじゃあ、だめですか?」ってきいたことがありまして、怒られるかと思いました。さらに生意気にも「それは今、そう思っただけで、明日はわかんないです。そうなればそうするし、そうならなかったら、そうしないし。だめですか?」って。そうしたら、裕美さんから「そこまで来たか!」みたいに言われたんです。「いや、いい。預ける」と。それは今でも覚えています。これはそういう作品なんだと思いますし、それができるのがオリジナルの良さ。裕美さんの演出の仕方もそうですね。

(仕事で宝塚歌劇団に)呼ばれた時、最初、入る時は緊張しました!

――宝塚歌劇団で実際にお仕事したそうですね。

良知:そうです。以前に宝塚出身の方にも宝塚の演出をやっていた方にも「良知さんが行ってないのは宝塚ぐらいじゃないの?」ってよく冗談で言われたんです。『宝塚BOYS』に出演が決まった時に「宝塚入ったのと同じですよ!」って(笑)。もう全部、夢、叶った!羽もしょえるし、シャンシャンも持てるし、階段も降りれるし!もう、味わった!と・・・・・・思っていたんですが、人生っていうのは本当に夢、見せてくれるんですね。(仕事で宝塚歌劇団に)呼ばれた時、最初、入る時は緊張しました!「これが宝塚歌劇・・・・・」って。宝塚には集合日っていうのがあるんですが、これはいわゆる「顔合わせ」のことです。この集合日にスタッフで行く人は宝塚の人以外はなかなかいないんですが、演出家さんが「来て、一回、空気に触れてみませんか?」って呼んでくださいました。「ぜひ、お願いいたします」って。稽古場を案内していただいたときに「これがBOYSの人たちが入った稽古場なんだな」と。もちろん彼らが体験した実際の稽古場とは違いますが、宝塚の人の匂いがしたっていうんでしょうか、こういうことなんだなって思いました。自分がまさか指導する側になるとは思ってもみなかった。しかも憧れ以上のものを見ることができたんですよね。宝塚の方たちが全力投球で稽古する姿を見た時に、外の稽古の仕方は甘いんじゃないかと思ったぐらい、皆さん、本当に休まずやるし。男役さんだけでなく、娘役さんもかっこいいなと思ったんです。だから『スタア』っていう言葉があるんだなって。そういうのを僕は見ることが出来た。『スタア』が宝塚には残っているんです。

――『スタア』、この字のニュアンスですね。

良知:そうです、そうです。それがすごいなーって。また宝塚の振付をしたくなりました。この作品は宝塚の生徒さんたちに絶対に見に来てもらいたいなと思います。

――宝塚の稽古場は独特の雰囲気とスタイルですよね。

良知:稽古を横で見るスタイル。

――そう。

良知:最初に男役さんだけ振付して、それが終わって、娘役さんに見てもらおうと思ったんですよ。演出家の人に「前から見てもらっていいですか」って確認したら「いいよ、いいよ」って言ってくださって。振付し終わった後に「娘役さん、じゃあ、前に入って、前から全員で見てください」って。そうしたら男役さんがみんな服を直すんです。「え?」って。踊りも娘役さんが見ているときはかっこうのつけ方が全然、違っていて一瞬「これは男?」と思うくらいすごく意識が変わるんですよ!驚きました。娘役さんだけで振付した時も稽古場がピリッとします。それだけ違うのには意味がある。そこを見ることができた、体験できたのは、自分の考えの変わる要素になりますね。

――体験するのとしないのとでは取り組みが変わりますね。

良知:本当に。芝居作っているシーンは、振付を担当する僕は見なくっていいのですが、見たくってずーっと稽古場にいたんです。演出家の方と同い年だったので、いろいろと話せました。舞台からの退場の仕方について思ったことを言ってみたら、その場で実際に取り入れて下さり、「ありがとね」って言ってくれた。それから「芝居シーンも見てくれ」って言ってくださって、その後も「芝居で思ったことを言ってくれ」と。「僕は自分がこの役を演じるならこうかな?って思ったことはお伝えしますね」と。それに対して「それでいいです」と言ってくださった。実際に振付する時も「全て思うようにしてくれていいから」と言ってくださいました。下級生に至るまでレベルが高く、また演出家の方や生徒さんとディスカッションしながら作品を作れたのは嬉しかったですね。最初は距離感がありましたが、みんな寄ってきてくれて、「こういう芝居はどうですか?」って聞きに来てくれました。僕なりのアドバイスですが、「自分だったら、こういう風にやってみるよ」と言ってみたところ、「じゃあ、やってみます」と。そうしたら演出家の先生が「芝居良くなったよ」って。後でその生徒さんが「良知先生のおかげで」「僕のおかげじゃなくって自分で考えた、間違ってなかった、それはすごいことだよ」と・・・・・・そういう風に一緒になって作れたのは嬉しい体験でした。僕はちょうどその時は、ライブスペクタクル「NARUTO-ナルト-」の稽古のタイミングだったんです。その最中の振付のお仕事だったので、公演には宝塚の生徒さんが何人も見に来てくれたんですよ。みんな楽しんでくれて、後で挨拶に来てくれて「すごいいい役じゃないですか!」って言われたのはすごく覚えています(笑)。

人は1個の夢が叶えられなくても生きていける。

――最後に観に来てくださるお客様に向けての締めのPR。

良知:僕たち、team SEAは東京公演しかありませんので、全てを込めてやらないといけない。実際にあった話がモチーフになっているので、演じる上での責任は絶対にあると思います。今、日本のエンターテイメントは当たり前のように多くの作品が上演されていますが、この時代はそうではなかった。しかも成功してHAPPY ENDのストーリーが主流にもかかわらず、これは夢に賭けて当たって砕けた人たちの話。でも、最後は救いがある、みんな、笑って去っていくんです。人は1個の夢が叶えられなくても生きていける、今、叶えようとしている、その夢が大事です。そこに全力投球できることが次のステップに歩める資格になると思います。もちろん夢が叶えられるのは素晴らしいことです。しかし、叶えられなくても次があるって思える。それがこの僕なりの『宝塚BOYS』ですし、人間の宝の部分、そこを是非!今回は2チームあります!ご期待ください!

 

<物語>
昭和20年秋・・・第二次世界大戦が終わったばかりの激動の時代。
幼い頃から宝塚の舞台に憧れていた若者・上原金蔵。彼は一枚の召集令状で青春を失い、今度は自らの書いた一枚の手紙で、人生を変えようとしていた。
手紙の宛先は宝塚歌劇団創始者・小林一三。内容は宝塚歌劇団への男性登用を訴えるものだった。
折よく小林一三も、いずれは男子も含めた本格的な“国民劇”を、と考えていたのだ。
そうして集まったメンバーは、上原をはじめ、電気屋の竹内重雄、宝塚のオーケストラメンバーだった太田川剛、旅芸人の息子・長谷川好弥、闇市の愚連隊だった山田浩二、現役のダンサー・星野丈治、と個性豊かな面々だった。
宝塚歌劇男子部第一期生として集められた彼らではあるが、劇団内、観客などの大半が男子部に反対。
前途多難が予想される彼らの担当者として歌劇団から、池田和也が派遣されていた。
池田は彼らに厳しく言い放つ。
「”清く正しく美しく”の歌劇団内では生徒といっさい口をきいてはならない。」
「訓練期間は2年。その間、実力を認められるものは2年を待たずに仕事を与える。」

男子部のメンバーはいつか大劇場の舞台に立てることを信じ、声楽・バレエ・・・と慣れないレッスン明け暮れる日々が始まった。
報われぬ稽古の日々が一年近く続く中、やっと与えられた役は・・・馬の足・・・。そして男子部の存在を否定するかのような事件が起こり、彼らの心中は激しく揺れ動く。
そんな中、新人・竹田幹夫が入って来る。
月日は流れて行く。やり切れない想いをかかえながらも、相変わらず日々のレッスンに励む男子部の面々。しかし、彼らの出番は相変わらずの馬の足と陰コーラス。
プログラムに名前すら載らない。それどころか、男子部反対の声はますます高まり、孤立無援の状況。
そんな彼らをいつも温かく見守ってくれるのは、寮でまかないの世話をしてくれる君原佳枝だけだ。
そんなある日、彼らの元に宝塚男女合同公演の計画が持ち上がった。喜びにわく彼らだったが・・・・・・。

【公演情報】

『宝塚BOYS』

原案:辻 則彦 <「男たちの宝塚」(神戸新聞総合出版センター刊)>
脚本:中島淳彦 演出:鈴木裕美
協力:宝塚歌劇団 企画・製作:キューブ

出演:
☆ team SEA
良知真次、藤岡正明、上山竜治、木内健人、百名ヒロキ、石井一彰、東山義久
愛華みれ、山西 惇
☆ team SKY
永田崇人、溝口琢矢、塩田康平、富田健太郎、山口大地、川原一馬、中塚皓平
愛華みれ、山西 惇

公演日程・劇場:
東京公演 2018年8月4日(土)~19日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
名古屋公演 2018年8月22日(水) 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
久留米公演 2018年8月25日(土)~26日(日) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
大阪公演 2018年8月31日(金)~9月2日(日) サンケイホールブリーゼ

公式サイト:
http://www.cubeinc.co.jp/stage/info/takarazukaboys_2018.html

文:Hiromi Koh