
猫とダジャレで知られる版画家 大野隆司の作品展が、千葉県柏市花野井にある仏教寺院「大洞院」のギャラリーで8月24日まで開かれている。

展示されているのは、大野の過去の様々な作風の版画や手描きの絵、大野が影響を受けた昭和時代前期に活躍した版画家・谷中安規の作品など。来場者の目を引いていたのはダジャレとユーモラスな絵をくみあわせて昨年夏に手描きで制作した絵だ。
暑い日が続くこの夏だが、その絵にはミミズの絵に添えて、こう書かれている。「暑い日が続くねえ。ミミズが苦しそうにこう言ったよ。」そしてオチは「み、みずをくれ~」。絵の中で、ミミズに水をあげようとしているのは、猫とサツマイモを合体させた彼独自のキャラクター「ねこいも」だ。

ところで、ミミズは声を出すのだろうか。俳句の秋の季語に「ミミズ鳴く」というのがある。秋の夜長に土中から聞こえる「ジー」という音を、俳句の世界では「ミミズ鳴く」と表現する。実際にはミミズは鳴かず、ケラの出す音だという。俳人たちは、その音を通じてはかなさや秋の趣を感じる。
また民間説話として、昔、歌がうまかったが目がなかった蛇に、歌を習いに行ったミミズが「目」と「声」を交換したという言い伝えがある。その説話に従うなら、蛇は目を得て、ミミズは目を失って声を得たということになる。

昨年秋に手描きで制作した絵は「恋のかけひき」がテーマ。「押してもだめなら引くし。」そして、オチは「引いてもだめならお寿司。」ほのぼのとして絵とダジャレを眺めていると、外の暑さを忘れ、さわやかな気分になる。

作品展では、多数の木版画のほか、銅版画などの過去の様々な傾向の作品が並んでいる。会場に掲示されたあいさつ文には「三十歳前後の頃」に「古書店で谷中作品に出会い」とふりかえり、「恋に落ちました」とあった。彼が谷中安規にあこがれ木版画を彫ったという。様々な傾向の版画も「押したり、引いたり」して研究したようで、それが作品展に並ぶ版画から見てとれる。
あいさつ文によれば、たどり着いたのは、「誰かを励ますものを作り、伝えていくこと」だという。大洞院には様々な御朱印があるが、その一部の絵は、彼が描いている。それらの絵は、手にした人々を励ます絵柄だ。

問合:大洞院(☎ 04・7132・5868 、10:00〜16:00)