ゴツプロ!が名作翻訳劇「十二人の怒れる男」を上演する。世界中でさまざまなカンパニーが上演、もちろん日本でも繰り返し上演されている作品だ。ゴツプロ!は旗揚げ以来、オリジナルにこだわって上演し続けていたが、今回は初の翻訳劇となる。この「十二人の怒れる男」は元々はテレビドラマ。1957年にヘンリー・フォンダ(陪審員八号)主演で映画化、舞台化は1964年ロンドンにて、レオ・ゲン主演で上演された。「法廷もの」に分類されるサスペンス作品、密室劇の金字塔として高い評価を受けている。今回のゴツプロ!版、キャストも個性的かつ曲者揃いのメンツが集まった。この「十二人の怒れる男」の演出を担うことになった西沢栄治さんのインタビューが実現した。
――「十二人の怒れる男」を演出することになった感想をお聞かせください。
西沢:まさか自分がこれをやることになるとは思っていなかったですね。今までいろんな方が、プロダクションがいろんな形でやられてきているものですし。変なものばかり今までやってきた自分としては、こういうどストレートな不朽の名作を手掛けるとは思いもかけなかったので、意外な出会いに緊張しているところです。
――この作品、そもそもはテレビドラマなんですよね。それに感銘を受けたヘンリー・フォンダが映画化したものが有名だと思いますが、この作品の面白さとか、難しさはどんなところでしょうか?
西沢:だいぶ、昔に作られた映画ですし現代とは状況が違ってきていますよね。裁判の制度もしかり。とはいえシンプルに俳優たちを見せるということが僕の中にはありまして。この作品は登場人物の名前もないので、そこに存在する男たちを見せればいいのではないかと。僕の余計なケレン味とか、演出でどうこうするかということは考えていないですね。なので、俳優たちの熱い芝居を観てもらいたいなと。僕、ゴツプロ!自体は初めてなんです。塚原(大助、ゴツプロ!主宰)さんとはご一緒したことありまして、不器用だけれど誠実で一本気な、信頼できる俳優だなという印象。でも、これがまあ不思議なもので、彼の劇団自体と交わることは今までなかったんですが、今回声をかけていただけて…印象も相変わらずでしたから断る理由はなかったです。で、どんな作品をやればいいのかなという話になったとき、『今までゴツプロ!はオリジナルでやってきたから、新しい展開で入っていきたい』ということになりまして。だったら演劇のド真ん中みたいなものをやったほうがいいんじゃないのかなと相談しました。新しいことをやるときにはそのほうがよいと思ったから。それも男たちが挑戦するに値するような作品でなくてはと考えて、あえて手強い相手、すなわち『十二人~』に決定したわけです。じゃなきゃ、なかなか怖くて手を付けられない作品ですね。
――たしかに、他のカンパニーでもよくやられている作品ですよね。そして、ストーリーのきっかけを作るのが陪審員8番。正しいことを言っているようでも、現実社会ではそうとは限らない。マイノリティインフルエンサー&同調圧力という、割と現代のような話ではないかと思います。
西沢:そうですね。現代は、個人の意見が言いにくかったりとか、少数の言葉が黙殺されたりとかあります。かと言って8番のような正義がすべて正しいかというとそうではないし、それぞれがそれぞれの正しさを持っていますよね。もちろん客観的に見れば非常に受け入れられない意見、感情はありますが。それぞれが抱えている事情、生き方であるとかにおいての『正しさ』というものがぶつかり合っている、そんな構図ではないかと思います。
――12人にいろいろバックボーンがあって、各々の主張が変わっていく過程が観ている側としてはおもしろいところです。ちなみに原作では1から12番まで、職業がそれぞれ書いていますが、今回はそこに関しては明記されていませんが…。
西沢:その部分はあえて言っていないというわけではなく、そこに関しては俳優たちの作り方によって、稽古場の様子から反映されていくものかなと。もちろんバックボーンとしてあるのは当然なんですけれど、それが前面に押し出されるわけでは現段階ではまだありませんし、そういった部分も含めて12人の個性を構築していくのが楽しみではあります。とはいえ、このメンツを見わたせば嫌でも出てくるでしょうね(笑)。
――絶妙な配役で、役者さんとしての個性が見えてくるのがまた楽しみですね。演出プランとしては、ガチンコでいくのではないかなと予想していますが。
西沢:もちろん!ちょっといろいろやると思いますが、役者の邪魔をしないようにというか(笑)。俳優たちの論議を観てもらうということがメインになると思います。それを演出的には重きをおいてやらないとなとも思っています。
――みなさん個性的な方々だから、想像するだけでもおもしろい配役です。
西沢:ゴツプロ!メンバーもそうですけれど、いい具合に人生を重ねてきた人たちなので。つまり僕もそうですけれど、やっとこの作品にふさわしい年齢で出会えたんじゃないのかなと思いますね。若いからといってできないというわけではありませんが……。
――40を超えて演じると味が出る、そんな感じですね。
西沢:ですね!40とか50に入ってくると人生面倒くさいことばっかり増えてきますし、それがにじみ出てくるというか(笑)。ズルいところや弱いところも含めてね。若くて爽やか、純粋そしてまっすぐな姿では出せないもの。面と向かって話すということが少なくなってきてしまったこの現代、やっぱり目の前にいる人間と話すということはしないといけないなとつくづく思いますね。リモートでいくらでも話し合えるといいつつも、熱量であるとか、いいこと悪いことも含めて与えられる印象とかが全然変わってしまう。便利ですが、面と向かって話すことがどんどん少なくなっているのが怖いなと感じています。『十二人~』は今ではありえなくなってしまった密室での論争ですから。今の環境に完全に逆行する設定ばっかりです。あ、窓はありますからコンプライアンスは守られていましたね(笑)。目の前にいる人間とちゃんと話をする、言葉をぶつけ合うということができるのか、ということの検証でもあると思うんです。今回、演劇を通して、そのチカラが我々に残っているのかというのが試される作品ですね。また“怒れる”、“怒る”というのはどんなことなのか。今の御時世“怒る”ってことができない人も多々いるわけです。ちゃんと、間違っていることも……偏見や差別意識も含めて自分の人生を通して“怒る”ということが大事なのではないかと思うんですよね。つまりは『人とちゃんとコミュニケーションを取っているかい?』と言いたいわけです。衝突を避けてばかりいないか、何かに背を向けごまかしてはいないか、曖昧なところで落とし前をつけるようになってしまってはいけないんじゃないか、と投げかけたい。こういう世界だからもうできないのかというのが検証されればといいなと。今の風潮は“怒り”はいけないって、そう若い世代は教えられているじゃないですか。でも、喜びや悲しみと同等に怒りもあっていいんじゃないかと思いますね。
――人間の感情の喜怒哀楽……最近はマスクもしていますし、それが表に出にくいというか、より出せなくなっている環境にありますよね。この作品はもろに感情をぶつけ合っている。それでは、最後にメッセージを。
西沢:はじめてご覧になる方、演劇に親しみのない方は特になんですけれど。時代背景とか、陪審員制度とか難しいところにとらわれすぎないで、十二人のおじさんたちが人生をかけて『怒っている』というところを、シンプルに楽しんでみるのもよいかと。その中で民主主義とはなにか、正義とはなにかということがついてくるだけ。そこで男たちの人生がぶつかっている。その熱い討論に立ち会っていただきたいですし、それでご覧いただいた皆さんの人生になにか問いかけられればいいのかなと思っております。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
ストーリー
スラム街に暮らす少年が父親を殺した容疑で起訴された。夏の暑い日、見知らぬ十二人の男たちが陪審員室に集まり審議に入る。
判決は全員一致でなければならない。
誰もが有罪を確信する中、一人の陪審員が「話し合いたい」と異議を唱える。彼は粘り強く語りかけ、少年に不利な証拠や証言の疑わしい点を一つ一つ再検証するよう、集団心理を導いていく。息詰まる展開で浮き彫りにされるのは、人間の様々な偏見や矛盾、無関心、先入観……。
そして、有罪を信じていた陪審員たちの心は、徐々に変化していく。
概要
ゴツプロ!第七回公演『十二人の怒れる男』
作:レジナルド・ローズ
訳:額田やえ子
演出:西沢栄治
会場:本多劇場
日程:2022年5月13日〜5月22日 全14回
出演
陪審員第一号:渡邊聡
陪審員第二号:佐藤達(劇団桃唄309)
陪審員第三号:山本亨
陪審員第四号:塚原大助
陪審員第五号:関口アナン
陪審員第六号:44北川
陪審員第七号:佐藤正和
陪審員第八号:泉知束
陪審員第九号:小林勝也(文学座)
陪審員第十号:佐藤正宏(ワハハ本舗)
陪審員第十一号:浜谷康幸
陪審員第十二号:三津谷亮
守衛:木下藤次郎(椿組)
題字揮毫:柿沼康二
企画・製作:ゴツプロ合同会社
主催:ゴツプロ合同会社 WOWOW
ゴツプロ!公式サイト: https://52pro.info/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし