ゴツプロ!「十二人の怒れる男」5月13日開幕!スリリングな密室劇、同調圧力、マイノリティ・インフルエンサー、結末は有罪?無罪?

ゴツプロ!が名作翻訳劇「十二人の怒れる男」を上演、下北沢の本多劇場にて5月13日開幕。

「十二人の怒れる男」は世界中でさまざまなカンパニーが上演、もちろん日本でも繰り返し上演されている作品。ゴツプロ!は旗揚げ以来、オリジナルにこだわって上演し続けていたが、今回は初の翻訳劇となる。この「十二人の怒れる男」は元々はテレビドラマ。1957年にヘンリー・フォンダ(陪審員八号)主演で映画化、舞台化は1964年ロンドンにて、レオ・ゲン主演で上演された。「法廷もの」に分類されるサスペンス作品、密室劇の金字塔として高い評価を受けている。
このゴツプロ!版は、本多劇場史上初となる変形舞台を組み、四方を客席に囲まれたリング状のセンターステージ、12人の男たちが熱く討論を繰り広げる。死角なし!の、まさにスリリングなしつらえになっている。
時間になり、裁判長の声が響き渡る。「判決は全員一致でなければならない」と言う。そして「では退廷してください」と。舞台の後方中央にしつらえてある通路、ドアを開けて次々と登場人物たちが入ってくる。季節は夏、かなり暑い、と言う設定、皆、暑そうにハンカチで額を拭いたり、あるいはシャツの襟を緩める者もいれば、上着を脱ぐ者もいる。皆、少々ぐったりしている。「暑いよ」「パパッと片付けようぜ」と口々にいう面々。この12人、陪審員を仰せつかった男たち、もちろん、知り合いでもなければ、無論、友達でもない。裁判のために集められた男たち、育ちも収入も皆、バラバラ、名前すら知らない間柄。行きがかり上、真面目を絵に描いたような陪審員第一号は陪審員長、意見をまとめようと「皆さんのお好きな方法でやりたいと思います」という。まず、被告人の少年が有罪か無罪か、まず挙手をさせることに。

有罪11、無罪1。「話し合ったらどうです?」と陪審員第八号。他の11人、内心、早く終わらせて帰りたい、と思う。たった一人が異議を唱えたことで帰れなくなるわけだ。「彼は16です」と無罪を言う陪審員第八号に対して「立派な大人だ」「あいつに何の義理もない」という言葉が。それでも貼り強く皆に語りかける陪審員第八号。しかし、証言や状況は少年に対して不利なものばかり。「少年が走っていくのが見えた」という老人の証言、そういったことを陪審員第八号は一つ一つ粘り強く、その証拠の信憑性を検証していこうとする。陪審員第三号は少年の素行の悪さをいう。「大人のいうことを聞かない」ともいい、陪審員第四号は「あの少年を詮索しにきたのではない」と尤もなことを言う。皆がそれぞれの考えを言い合う。そこで陪審員第一号はもう一度、有罪か無罪かの決をとる。なんと「無罪」が一人増えた。それは話をじっと聞いていた陪審員第九号だった。

物語の節目で盆が回る。観客は見えにくかった位置にいた登場人物がよく見えるようになる。しかも観客が四角い舞台を取り囲んでいるので、この状況がさらにスリリングさを倍増させる。陪審員第八号は「命の問題」と言う。まさに正論、その言葉は重みがあるだけに皆、そこでふと立ち止まる。全員が有罪としたらば、少年は間違いなく死刑になるからだ。陪審員第八号はじっくりとこの殺人事件に対する証拠や証言を実に論理的に冷静に切り崩していく。

この物語は『正義は必ず証明される』といった単純なものではない。陪審員第八号が無罪を主張、「話し合いたい」と言った時点で他の11人は言葉で、あるいは態度で圧力をかける。暑いし、早く帰りたいし、面倒臭いし、証拠あるし、と11人は思う。一種の連帯感が生まれている。彼らにとっては、この裁判は自分の人生や生活に影響があるわけではないし、何の義理もない、少年とは無関係な人々。つまり「まあ、いいや」的な無責任な考え、それが同調圧力となって陪審員第八号にプレッシャーをかける。だが、陪審員第八号はそれに押し潰されることなく、じわじわと他の陪審員たちを自分の側につかせていく。彼はマイノリティ・インフルエンサー、つまり、どんなことがあっても自分の考えを主張し続けて、大勢の意見を変えさせるのである。また、キャラクター設定の説明文にもあるように”策士な一面もある”のである。

彼は、時々「命がかかっている」と言う。それ自体は正しいので、皆、反論できない。しかもそれを言うことによって論点をずらし、心理的に揺さぶりもかける。それで少しずつ自分の側につかせ、気がついた時には無罪、有罪が半々になり、やがて逆転していく。この過程は何度観ても飽きない。結末を知っているのに、いや、「ここでナイフ出てくる」などの過程を知っていても、だ。しかも登場人物たちの偏見や差別意識なども見えてくる。物語の設定場所はアメリカ、1950年代。多様な人種がいる、そんな背景もこの物語にはある。そして登場人物たちを演じる12人の男優たち。演技が達者な面々が揃っているのでスリルに満ちた会話劇を十分に堪能できる。また、客席の位置に寄って見え方も変わり、さらに盆も使っているので、各登場人物たちの表情や動きがよくわかる。

ヘラヘラしてる軽薄な人、自分に自信がない人、頑固で意固地な人、流されやすい人、無関心な人、誰かを攻撃する人、皆、取り立ててキャラ立ちしてるわけではなく、ごく普通の人々。そしてアメリカの物語、差別的な発言をする者もいる。陪審員第五号はスラム育ち、陪審員第十一号はユダヤ移民、彼らに対して攻撃的で差別をする陪審員第三号、陪審員第十号。さらに陪審員第三号は実の息子との確執があり、その感情をこの話合いの場に持ち込む。つまり、登場人物全員、彼らの奥底に隠れて見えない姿が透けて見えてもいる。さらにアメリカの陪審員制度は民主主義の実現にとって重要と考えられている。また、原作者のレジナルド・ローズが実際に殺人事件の陪審員を務めた経験があり、その後、この作品の執筆に取り掛かっている。上演時間は1時間45分ほど。

配役
意見をまとめて審議を進めようと努力する真面目な陪審員長の陪審員第一号役を渡邊聡。
控えめで優しく他人に影響されやすい陪審員第二号役を佐藤達。
自分の意見を主張し譲らない性格で息子とも確執がある陪審員第三号役を山本亨。
合理的で常に冷静な議論を展開する陪審員第四号役を塚原大助。
陪審員としての義務を真剣に考えているが自分の意見を言うことをためらいがちな陪審員第五号役を関口アナン。
義理人情に厚く誠実だがはっきりした意見を持たない陪審員第六号役を44北川。
シニカルで劣等感があり野球観戦のため時間を気にしている陪審員第七号役を佐藤正和。
物静かで思慮深く策士な一面もある陪審員第八号役を泉知束。
穏やかな老人で鋭い観察力をもつ陪審員第九号役を小林勝也
差別意識が強く怒りっぽい陪審員第十号役を佐藤正宏。
自分を卑下しがちだが責任感が強く 真剣に正義を求めている陪審員第十一号役を浜谷康幸。
頭がよく社交的だが軽薄で審議に興味がない陪審員第十二号役を三津谷亮。
守衛役を木下藤次郎。
裁判長(声)は青山勝

ストーリー
スラム街に暮らす少年が父親を殺した容疑で起訴された。夏の暑い日、見知らぬ十二人の男たちが陪審員室に集まり審議に入る。
判決は全員一致でなければならない。
誰もが有罪を確信する中、一人の陪審員が「話し合いたい」と異議を唱える。彼は粘り強く語りかけ、少年に不利な証拠や証言の疑わしい点を一つ一つ再検証するよう、集団心理を導いていく。息詰まる展開で浮き彫りにされるのは、人間の様々な偏見や矛盾、無関心、先入観……。
そして、有罪を信じていた陪審員たちの心は、徐々に変化していく。

概要
ゴツプロ!第七回公演『十二人の怒れる男』
作:レジナルド・ローズ
訳:額田やえ子
演出:西沢栄治
会場:本多劇場
日程:2022年5月13日〜5月22日 全14回
出演
陪審員第一号:渡邊聡
陪審員第二号:佐藤達(劇団桃唄309)
陪審員第三号:山本亨
陪審員第四号:塚原大助
陪審員第五号:関口アナン
陪審員第六号:44北川
陪審員第七号:佐藤正和
陪審員第八号:泉知束
陪審員第九号:小林勝也(文学座)
陪審員第十号:佐藤正宏(ワハハ本舗)
陪審員第十一号:浜谷康幸
陪審員第十二号:三津谷亮
守衛:木下藤次郎(椿組)
裁判長(声):青山勝
題字揮毫:柿沼康二
企画・製作:ゴツプロ合同会社
主催:ゴツプロ合同会社 WOWOW
ゴツプロ!公式サイト: https://52pro.info/