新国立劇場のバロック・オペラシリーズ第1弾として大注目の集まる中、2020年3月にリハーサルが無念の中断、公演中止となった 『ジュリオ・チェーザレ』が、2年半の時を経て、オペラパレスにて開幕、10日まで。
凝った仕掛けを多用し、歌手が次々技巧を披露する一大エンターテインメントとして隆盛を極めたバロック・オペラ、その中でも大作曲家ヘンデルの最高傑作にして絢爛たる歴史スペクタクル『ジュリオ・チェーザレ』を、ロラン・ペリー演出版で上演。2011年パリ・ オペラ座ガルニエで初演されたペリー版は、現代のエジプトの博物館のバックヤードを舞台に設定、巨大な彫像や絵画が次々に現れるユーモアいっぱいの演出て。装飾に満ちたバロック的価値観と壮大な歴史劇という作品背景を逆手に取った、大胆かつ秀逸な演出で、21世紀の“バロック祭り”を。
『ジュリオ・チェーザレ』(ジュリアス・シーザー)は、シーザーとクレオパトラの有名な史実の物語。チェーザレ(シーザー)、クレオパトラ、 トロメーオ(プトレマイオス)といった歴史上の人物たちを、バロックに定評あるキーランド、世界で活躍する森谷真理、大注目を集める カウンターテナー藤木大地らが演じる。指揮にはバロック音楽の第一人者リナルド・アレッサンドリーニが登場、まさに必見必聴の贅沢な上演。ちなみにジュリオ・チェーザレ (Giulio Cesare) は、ユリウス・カエサルのイタリア語読み。
世界のオペラ界では、20世紀終盤からのバロック音楽ブームを受けてバロック・オペラの魅力が見直され、今や新たな創造的アートとして、作品に新たな光を当てた上演が人気。
大野和士芸術監督は2018年の新国立劇場着任時より、世界的潮流であるバロック・オペラを新国立劇場のレパートリーに取り入れることを表明。凝った仕掛けによる舞台装置を多用し、カストラート(94年公開の同名の映画で有名)歌手の特殊な声や、バロックならではの装飾的音楽を歌う特殊技巧が次々展開する一大エンターテインメントとして、17世紀から18世紀の欧州各地で爆発的に隆盛を極めたバロック・ オペラ。
中でも大作曲家ヘンデルの最高傑作のひとつ『ジュリオ・チェーザレ』は、レチタティーヴォで導かれるアリアが次々と展開し、劇的効果と共に多彩な音楽の美しさ、歌手の妙技を存分に楽しめる、絢爛たるスペクタクル。
ヘンデルは後にイギリス王のジョージ2世となるハノーヴァー選帝侯の庇護もあって主にイギリスで活躍。今風で言えばヘンデルは、さしずめヒットメーカー。
『ジュリオ・チェーザレ』を新国立劇場で上演するにあたり大野芸術監督が白羽の矢を立てたのが、パリ・オペラ座ガルニエで2011年に初演されトリノ王立劇場でも上演された、ロラン・ペリー演出版。現代のエジプト・カイロの博物館のバックヤードを舞台に設定し、巨大な彫像や絵画が次々と現れる、ペリーらしいユーモアにあふれた演出。装飾と虚栄に満ちたバロック的価値観と壮大な歴史劇という作品背景を逆手に取った秀逸な演出、歴史上の人物が人間臭く描かれ、バロックならではの百花繚乱の世界に観客を誘う。
ジュリオ・チェーザレ役をノルウェーのメゾソプラノ、マリアンネ・ベアーテ・キーランドが歌う(男性役を女性が歌う)。クレオパトラには評価の高いソプラノ、森谷真理が、トロメーオに日本を代表するカウンターテナー、藤木大地という布陣。
いかにもバックヤードという雰囲気、新聞を読んでいる人がいる、大勢の博物館の人々がやってきて展示のためだろうか、彫像を運び出そうとしたり、忙しく働いている。保護のためのビニルのカバーを外したり。この博物館の日常のなかで、『ジュリオ・チェーザレ』の物語が展開する。ジュリオ・チェーザレが登場し、勝利の歌。巨大な彫像など、博物館らしいものが出てくるのだが、ちゃんと登場人物とシンクロさせているところは演出のセンスが光る。また、登場人物が、彫像によじ登って歌い、彫像と同じように足を上げてみたり、あるいは展示物を保護するボックスに登場人物が入って歌ったり、ユーモアもあり、こういったところはユニークで楽しい。また、ポンペーオの首、もちろん博物館なので、生々しくなく、博物館の展示品の”首”だったり、また、博物館のスタッフが壺を持ってくるのだが、そこで歌うチェーザレ。そして現代人には彼らの姿は見えていないので、チェーザレの前を横切ったりもする。それにしても出演者が超一流、ジュリオ・チェーザレ役のメゾソプラノのマリアンネ・ベアーテ・キーランドはじめ、アリアを聴かせてくれる。また、ジュリオ・チェーザレがクレオパトラに一目惚れする場面はジュリオ・チェーザレの挙動に注目したい。そのほか、次々に出てくる展示品と登場人物との絡み具合は必見。上演時間は休憩込みの4時間15分。
<ものがたり>
【第1幕】ローマの将軍チェーザレは、政敵ポンペーオを追ってエジプトへ来る。エジプトの将軍アキッラがトロメーオ王からと言い、ポンペーオの首を差し出す。悲嘆にくれるポンペーオの妻コルネーリア。息子セストは復讐を誓い、チェーザレも暴挙に憤る。その頃クレオパトラは弟トロメーオから王座を奪うべく、チェーザレへの接近を図っていた。アキッラはトロメーオにチェーザレ暗殺を唆し、報酬にコルネーリアを要求する。クレオパトラが侍女リディアと身を偽ってチェーザレを訪れると、彼はまんまと魅了され、クレオパトラは狂喜する。トロメーオは宴にチェーザレを招く。そこへ忍び込んだコルネーリアとセストは捕えられる。
【第2幕】クレオパトラのもとを従者ニレーノの手引きでチェーザレが訪れる。アキッラはコルネーリアに愛を迫るが拒否される。トロメーオもコルネーリアを口説くが拒絶される。コルネーリアは誇り高く自害しようとするが、ニレーノに導かれたセストが現れ、命を取り留める。クレオパトラとチェーザレが愛を交わしているとトロメーオのチェーザレ暗殺の動きが知らされ、チェーザレは出陣する。
【第3幕】アキッラはクレオパトラへ寝返る決心をする。クレオパトラはトロメーオに捕らえられ、絶望している。追い詰められ海へ飛び込んだチェーザレが生還。瀕死の傷を負ったアキッラは、自らがポンペーオ殺害を唆し、コルネーリアを得るべくチェーザレ暗殺を諮ったことをセストに告白する。死を覚悟したクレオパトラの前へチェーザレが現れ助け出す。なお もコルネーリアに言い寄るトロメーオの前にセストが現れ、ついに復讐を果たす。クレオパトラとチェーザレ、コルネーリア、セストを人々が讃え、幕となる。
概要
日程・会場:2022年10月2日(日)14:00/5日(水)17:00/8日(土)14:00/10日(月・祝)14:00 新国立劇場 オペラパレス
※予定上演時間:約4時間15分(休憩含む)
指揮:リナルド・アレッサンドリーニ
演出・衣装:ロラン・ペリー
美術:シャンタル・トマ
照明:ジョエル・アダム
ドラマトゥルク:アガテ・メリナン
演出補:ローリー・フェルドマン
舞台監督:髙橋尚史
出演:
ジュリオ・チェーザレ マリアンネ・ベアーテ・キーランド
クーリオ 駒田敏章
コルネーリア 加納悦子
セスト 金子美香
クレオパトラ 森谷真理
トロメーオ 藤木大地
アキッラ ヴィタリ・ユシュマノフ
ニレーノ 村松稔之
合唱指揮:冨平恭平
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:大野和士
主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場
WEBサイト https://www.nntt.jac.go.jp/opera/giuliocesare/
舞台撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場