イッセー尾形,木村達成,入野自由出演 鬼才ハロルド・ピンター、不条理劇の決定版『管理人/THE CARETAKER』取材会レポ

イッセー尾形,木村達成,入野自由が出演する鬼才ハロルド・ピンターの『管理人/THE CARETAKER』。
本作は20世紀の演劇界に多大な影響を及ぼしたノーベル文学賞受賞の鬼才ハロルド・ピンターが1959年に執筆、翌60年に発表。開幕と同時に大きな反響を呼び、この作品によって不条理演劇の大家として名声と地位を確立。ピンターポーズと呼ばれる、ピンター特有の“間”を多用しながら、追い詰められていく人間をめぐる不条理を恐怖とユーモアのうちに描く独特の作風は「ピンタレスク」と名付けられ、英和辞典にも記載されているほど。
作品は一人の老人と兄弟がある部屋を巡るものがたり。現実と非現実、現在と過去、理性と狂気、論理と非論理、明晰さと曖昧さが縦横無尽に交錯する本作は、やがて多様な解釈を受け入れることが出来る奥行きを観る者に気付かせる。
演出は気鋭の演出家・小川絵梨子が担う。
人間の存在の脆さとたくましさが表裏一体となって常軌を逸したやりとりを繰り広げられる不条理劇の最高峰に果敢に挑む。
出演は「一人芝居」の第一人者として国内のみならず、海外からも高い評価を得、数々の映画、TVドラマにおいて圧倒的な存在感を放つイッセー尾形、ミュージカルをはじめ、TVドラマにおける秀逸な表現力で各界から熱い注目を浴びている木村達成、声優として数々の映画、アニメで比類なき個性を放ち、さらに数々の映画、ドラマ、舞台など、幅広いフィールドで多彩な活躍をみせる入野自由という最高の組み合わせが実現。
9月某日、時節柄、オンラインによる取材会が行われた。

まずは挨拶。
イッセー尾形「デーヴィス役をやらせて頂きます。ハロルド・ピンターは20歳の頃、50年ぐらい前に『ダムウェイター』という作品を演じたことがありましたが、分かったようなわからないようなまま終わって…もやもやとしたものがあったんですが、それこそ50年ぶりにピンターの作品に取り掛かるわけですので、今回は納得いくまで演じたいと思います」

入野自由「ハロルド・ピンターの不条理劇であることと三人芝居、膨大なセリフ量と難しい戯曲ということでプレッシャーもかなりあります。それと同時に素敵なキャスト、スタッフで挑める、そこにワクワクが止まらず不思議な感じです」

木村達成「よくわからないことだらけなんです。ピンタレスク、ハロルド・ピンターの不条理劇…ノーベル賞も受賞しているすごい作者。その作品をやれること自体の光栄さがすごくありますし、全力で楽しめたらと思っております」

Q:戯曲を読んだ感想をお願いいたします。

イッセー尾形「デーヴィスはとにかく話が長くて、ずっと同じようなことを喋っているんです。止めることなく延々と喋っている。アストンが話を止めないからなおさらよく喋る。いい加減止めてくれと思うんだけど、相手が老人だから止めづらいんでしょうと解釈していたんですけれども。それと、デーヴィスは差別主義者でもあり、やたら人種を論っている。自分はイングランド人と言われると居心地いいんでしょうね。ここに寝ぐらを決めることになったんだろうと、ところが若者2人は自分が思った相手ではないですから、いい顔をすればいいのかがわからない。このデーヴィスは人にいい顔して生きてきたんでしょうが、それが通用しない現実になっちゃった…ということで老人の悩みは深刻なんですけれども、二人の方はこの老人をどう扱うか、兄弟と二人で暮らすにはきついと思うんですよね。ただ老人がいたらいいんじゃないかと…だから管理人でいいのでは?と。ここで「管理人」が出てくる。とはいえ管理人というのは社会的仕事でもありますから、浮き草のような老人にとって管理人になるということは社会人になれる第一歩になるかもしれない。そう思うと、表向きはイヤイヤに見えても、誘われたということが本当はすごい嬉しいのでしょう。そんなふうにして、行き場所の無い、どこに行こうかという3人の話のような気もするんですが。これは稽古で二人と格闘、ピンターと格闘しつつ小川さんとも格闘して…この戯曲に向き合うためには、稽古の日々が大切と思っています」

入野自由「なぜだか、2人のシーンが多いんです。そこにはある種の緊張感がずっとあって、それが自分が台本を読んでいるなかで惹きつけられる部分。そんな緊張感がいろんなうねりを経て変化していって。アストンと老人と、この3人の関係性が変わっていくところが面白いと思います。実際に掛け合ってみたらどんな感じになるのか楽しみです。全体を通してみるといろんな捉え方があり、わからないところだらけなんですが、なぜこの作品が長い間上演されているのか。そして今回なぜ、この戯曲をやることになったのかということ。小川さんやキャスト陣で、読み解いていき、稽古していく中で『あ、これだ』と、見えてくるものはなんなのか、どんなところに辿り着くのが楽しみです」

木村達成「難しいなりに各々がそれぞれの解釈を持ってきて稽古場でぶつかると思いますが、その発見も自分の役でしか読めていなくて作品全体を把握すること自体、なかなか難しいと思うんです。でも、ぶつかり合ったとしても、わからなくなる瞬間も、もちろんあると思いますが。それでいて3人で描く『管理人』はこういうところに向かうべきなんだなという終着点も見いだせてくるのかなと思いながら、稽古に励みたいです。(台本の面白さについて)やはりデーヴィスに対して何回も名前を聞く下り、怪しんでいるのか、それでいてなぜ管理人に指名したのか理解しがたい部分も思うんです。でもそういうのってよくあることで、発言も明日、変わっているかもしれないしし、考え方も、その日のコンディションで変わるような…不条理がたくさん詰められているんだなと。演じがいもありますし、僕たちはロボットではないし、生きている人間ですし。舞台上で生きることができる役者としてうってつけの作品だと思います」

Q:デーヴィスはアストンやミックに対してどう映っている?

イッセー尾形「まずは(自分も含めて)力関係でみていると思う。どっちが実力者であるかという。(デーヴィスは)自分がここをねぐらにしていくには、どっちにすり寄ればいいのか。そんな印象があるんですが、(アストンは)どうも暖簾に腕押しなんですね。そんななかでミックという凶暴な奴が出てきて、要は痛ぶられるんですが。ところがそんなこんなでミックが優しくなってききたとき“じゃあ、こいつだな”とすり寄っても最終的には怒らせてしまう。思惑がずれていくんですよね、デーヴィスにとって。最後は爺さんが居座るような、そんな予感を残すような終わり方がいいかなと(笑)」

Qアストンとミック、どんな兄弟だと思いますか。

入野自由「“本当のアストン”…元々の人物が不明瞭ですし、それが一貫してわかりそうでわからないということがある。そのつかみどころのなさが面白いと思いますが、演じるうえではなんとも説明が難しい。これから役を作っていくことになるんですが、彼らがどんな兄弟なのかも、不確かなところが大きい。でも、ミックがあの家に住まわせているのだとすれば、きっと互いに愛されるようないい兄弟関係だったのかもしれないし、一方のミックは疎ましい存在かもしれない。まだ、『こういうキャラです』とは言えないんですよね。彼らについては観る人によって解釈は違うと思っています」

木村達成「今、もはやハロルド・ピンターの不条理劇のようです(笑)。演じるはずの我々ですら、ピンターの術中にハマっている。そんな気分です。演じるからには堂々とやろう、という気持ちはあります。人間の解釈が追いつかないなんてことは当然あるし、でもそこに近づきたいとも思うし。だから兄弟の関係性も、役者同士で繋いでいくことも可能だと思っています。それでいてデーヴィスという役へのフォーカスについてはわりと戯曲のなかに鮮明に描かれていると思うんですね。そういったところでも、3人の関係性を稽古場で新たに作れたらなと」

Q:不条理劇を難しいと思う方々へ向けてのメッセージを。

木村達成「わからないことは大いにわからなくていいと思う、わからないのは当然ですから。ただし、わからないことで逆に勝ち誇るのは恥ずかしいことだとも思っているんですよね。でも、これはお客様を置いてきぼりにしつつも引き込ませるような、魔力を持った舞台です。だから、ぱっと見わからないということで食わず嫌いせず、観てほしいなと思っています」

イッセー尾形「『管理人』、これを観れば不条理劇がなんたるかがわかるようになる作品です。きっと、この作品がずっと続いてきたのは、現代と『管理人』のあいだに、深い関係性があったからなのだと思います」

入野自由「会話を楽しむところ。人間の会話って面白い。テンポだったり、わからないなりの興味深さにフォーカスを当ててみたりだとか。この空間を楽しむこともできそうですよね。きっと異様な空間にはなるでしょうし、違和感というか日常との違いもわかるでしょうね」

Q:間を多用しているのが特徴ですが、お芝居における「間」について

イッセー尾形「私も、一人芝居では間を多用していますよ。というのは、間は自分が考える時間と、相手が考える時間でもあって。簡単に言えば“階段の踊り場”。どんどん上ってきたら、階段のないところがある、まだまだ上るけれどちょっとここで頭を整理してみよう、といったような。ピンターも、きっとそう解釈しているんじゃないのかな。いいところで間を入れているんですよね、さすがノーベル賞(笑)。すなわち、間というのは言葉の空白ではなくて、言葉が充満している時間、と言ってもよいのでは」

入野自由「間って難しいですよね。芝居をやる上では、セリフよりも大事。何もない間は、ちゃんと自分のなかで埋められていないと長く感じてしまうし、それは相手にとっても同じ。自分だけではなく、この空間とお客様と役者同士で、共有している気持ちいい瞬間というものを、逃さないようにキャッチしなきゃ、と常々思っています」

木村達成「これ、3番目に回答するのはきついですね(笑)。まあ、“間”っていうのは戯曲に書いてあってもあってないものとして捉えたい。文字を見ただけだとある種“止まって”いるように思えるけれど、人間って喋っていなくても頭の中ではすごく揺れ動いていますよね。常にいろんな言葉が頭のなかで飛び交っている。それが間だと思うので、気持ちとか、心とか、頭のなかに出てくる会話、言葉が常に巡っていく時間と、思えるのが間なのかな。本当にわからなかった瞬間に止まるのも、理解する時間なので。間をただ止まっている瞬間だとして捉えたくはないですね、どんな作品でも」

Q:この会話劇のような、噛み合っているようで噛み合っていない瞬間って経験したことは?

ッセー尾形「それは日常茶飯事です(笑)。そうならないように意識しながら喋っているんですけどね。とはいえ一つ一つは不条理でもなんでもないんですね。爺さんは延々喋っていますけれど。やたらどっちがどうかとか、ミックに対しては『ここの家の持ち主は自分だ』みたいに。でも気になるんだから仕方がない。全体的に噛み合っていないように見えるのは、互いを理解してないからかと思います」

入野自由「この戯曲のなかに流れている時間だったり、会話はさして変なことではない。外側からしたらわからないように見えることも、彼らのなかでは通っているかもしれないから。噛み合ってなさそうで噛み合っている、逆のパターンでも日常ではよくあることだと思います」

木村達成「僕は、初めましての時は噛み合っているようで噛み合っていないというのがよくありますね。誰かが相手に合わせることもあるし。ただ初対面でどこまで深掘りするか、ということにもよりますけど。僕は割りと初対面の人にも胸の内をすぐ明かしてしまうようなところがあるので、攻めた会話になりがち。ただそういうときは第三者から見ると噛み合っていないように見えるケースもあるみたい」

入野自由「たしかに遠慮とかそういうものが、曖昧さを生んで噛み合わないというところにつながるのかなと聞いていて、今、気づきました。さすが“切れ者のミック”ですね。一方、アストンはボヤっとしています(笑)」

Qこれは不条理と思ったことは?

イッセー尾形なんといっても、ウクライナ侵攻ですね、不条理ナンバーワン」

入野自由「思い付かない。不条理ってなんなんでしょう……。最近声をやったゲームのキャラがいて。そのキャラがほしいんだけどどんなに課金しても出てきてくれないんです(笑)」

木村達成各々の思想で動くと不条理になる。ネットでも暴言がいくらでも飛び交っていますよね。表現の自由とはいえ、誰かを傷つけてまですることなのかと思うから、僕はSNSやらないし。もちろんそれが出来る性格ではないとも思っているし。そのあたりが制度化されないとまだやる必要もないかなと。まだまだそんな野放しにしておくのか。ほぼサブスクで埋め尽くされている世の中なのに、インターネットを通してインタビューもできているのに、なんでもっとシビアに取り締まってくれないのかなと思います。人間を取り巻く世界自体が不条理なんじゃないのかな」

Q:演出家についてお願いいたします。

イッセー尾形「小川さんの喜ぶ顔が見たいですね。それ自体がこの話をお受けしたきっかけ。『ART』の演出に引き続き、『管理人』も明確に課題を出してくると思います。それをクリアーしてその先に何があるのか、この戯曲でもそうですし、長いんですよね。目で読むだけで2時間もかかっちゃった。だから持続力ですね。最初の入口から出口に向かうまで、僕たちもお客様と一緒に旅をする。それはかなり辛抱強く、時間を込めて作ります。もちろん飽きさせないようにしないといけません」

入野自由「以前、小川さんが演出助手の時にご一緒したことがあって。演出されている舞台も、いくつも観てきました。だから今回は『管理人』を小川さんがどう読み解いていくのか楽しみです」

木村達成「僕は初めましてですし、どういった方だろうか、どういう演出をつけられているんだろうか、というのが未知数です。ただ、人は出会いですごくいろいろな変わり方をすると思いますし、僕が小川さんの演出を受けたら自分はどう変わっていくのか楽しみ。そういう一つひとつの出逢いを大切にしながら、それでいてこのハロルド・ピンターの作品に挑めるのは素敵なこと。それでいて『初めまして』の不条理さも…一つひとつの瞬間を無駄にせず大切にしていきたい」

概要
作品名:『管理人/THE CARETAKER』
作:ハロルド・ピンター
翻訳:小田島創志
演出:小川絵梨子
出演:イッセー尾形、木村達成、入野自由
日程・会場
東京公演
2022年11月18日(金)~11月29日(火)紀伊國屋ホール
兵庫公演
2022年12月3日(土)~4日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール公式HP:http://kanrinin-stage.com/
製作:インプレッション
公式サイト:https://kanrinin-stage.com

イッセー尾形
ヘアメイク  久保マリ子
スタイリスト 宮本茉莉
衣裳クレジット:DUELLUM(デュエラム)

木村達成
ヘアメイク  齊藤沙織
スタイリスト 部坂尚吾(江東衣裳)
衣裳クレジット:ジャケット¥75,900、ニット¥68,200、パンツ¥45,100(すべてBARENA / 三喜商事 03-3470-8232)

入野自由
ヘアメイク  浅津陽介
スタイリスト 村田友哉(SMB International.)