全国の劇場施設が文化庁の支援を受け共同で作り上げる“全国共同制作オペラ”。
今年度は、ヴェリズモ・オペラ代表作『道化師』と『田舎騎士道』を、2023年2月に東京芸術劇場で、3月に愛知県芸術劇場で上演。
今回、この名作を演出するのは今年3月まで在籍していた宝塚歌劇団で数々の話題作を手掛けてきた上田久美子。 今回初のオペラ演出に挑戦、上田は文楽に想を得て、歌手とダンサー二人でひとつの役を演じるという演出プランを組み立てている。
指揮は、ウィーン・フォルクスオーパー音楽監督、ニュー・イスラエル・オペラ音楽監督等を歴任し、バイエルン国立歌劇場日本公演でも絶賛されたアッシャー・フィッシュ、両作品の主演はイタリアが誇るテノール、アントネッ ロ・パロンビが務める。
本格的なリハーサル開始を前に、上田久美子と日本人出演者(歌手・ダンサー)による記者会見が開催された。出席したのは演出の上田久美子、『道化師』出演のネッダ:柴田紗貴子、トニオ:清水勇磨、シルヴィオ:高橋洋介、ダンス出演:蘭乃はな、小浦一優(芋洗坂係長)、三井聡、森川次朗。『田舎騎士道』出演のローラ:鳥木弥生、アルフィオ:三戸大久、ルチア:森山京子、ダンス出演:三東瑠璃、宮河愛一郎。
まず、演出の上田久美子が挨拶。「大役を仰せつかり、ワクワクしています。退団後初めて、歌手とダンサーのコラボレーションが楽しみ」と語り、ポスターについては「普通のオペラじゃないんだぞ、と」従来のオペラとはだいぶ違うビジュアル、これだけでも何かが起こりそうな予感。
ヴェリズモ・オペラ、1890年代から20世紀初頭にかけてのイタリア・オペラの新傾向。ヴェリズモとは、日本語で真実主義あるいは現実主義とでも訳される一種のリアリズム運動。市井の人々の日常生活、残酷な暴力などの描写を多用、声楽技巧を廃した直接的な感情表現に重点をおき、重厚なオーケストレーションを駆使。その代表作として『道化師』と『田舎騎士道』が真っ先に挙げられる。上田久美子は「ヴェリズモ・オペラの成り立ち、人間社会、人間の真実を描く、また当時の意気込み、そこから今の日本を考えた」とコメント。『道化師』はルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲、1892年に初演された全2幕のオペラ。カニオが歌う「衣装をつけろ」のアリアが有名。『田舎騎士道』はシチリアの山間部を舞台として、貧しい人々の暮らし、三角関係のもつれから起きる決闘と殺人を描いた小説が元になっている。上田久美子は観客が日本人であることを考え、「今の日本の社会と被る」と語る。「日本社会の現実を重ねてみることはできないかな?と」とコメント。ダンサー陣は日本人の日常を、そこに歌。「社会が見えてくる」と上田久美子。歌手とダンサー、この2者によって生み出されるもの、どのような景色が見えるのか、想像するだけでも実際の舞台がどうなるのか興味が湧いてくる。
それから出演者の挨拶。『道化師』でネッダを演じる柴田紗貴子は「演出プランを聞いてびっくりしました」とコメント。他の出演者も演出プランには驚いたと異口同音に。一つの役を、歌手と役者(ダンサー)の二人の共同作業。ただ、演出家の「日本の観客に伝えたい」という意図に柴田紗貴子は「すごく納得した」と語る。トニオ役の清水勇磨は「トニオはバリトンにとっては難しい」と言いつつ、「人間臭さがポイント」と語る。シルヴィオ役の高橋洋介は「唯一、道化師ではない役です。お客様と同じ視点で見る人物」と言い「大衆演劇についてもしかしたら下にみているかもしれないし、一種の憧れもあるかも」と分析。「ねじれている部分もあって稽古始めてみないとわからない」と言い、音楽的には「ネッダとの二重唱」が聴きどころと高橋洋介。ダンサー陣、三井聡は「(演出家から)普通のダンスではない、と」と言われたことを明かし、三井は続けて「言葉で表現するのが非日常」とダンサーらしい発言。蘭乃はなは上田久美子と同じ宝塚歌劇団出身、だが、上田作品に出演するのは今回が始めて。「日本人で演じること、ヒリヒリ感が伝われば」と語る。そして「狂気と生命力を爆発させてください」と演出家から注文を受けたことを語り「こだわりの強い演出家です」と言い、ご本人は苦笑い。小浦一優こと芋洗坂係長、オファーがあったときは「オペラ?!何かの間違いでは」とコメント。「大丈夫かな」と言い「55歳、精一杯、頑張って素晴らしい声に負けないように」と意気込んだ。村岡友憲は「アクロバット、自分にしかできない身体表現を」と高い身体能力をアピール。
そして『田舎騎士道』の出演陣、ローラ役の鳥木弥生は「イタリアと日本がリンク、意外とイケるのではないかと」とコメント。アルフィオを演じる三戸大久は「台本は届いてます。上田さんの抉った言葉が印象的」と言い「45歳、120キロです」と笑わせた。ルチア役の森山京子は「この中では人生が長い人です。楽しみながら演じたい。ダンサーの方は身体表現が魅力的です」とコメント。柳本雅寛は「全てが楽しくなるような…いろんな動きから見出していく人間臭さ、化学反応が起これば」とコメント。三東瑠璃は「オペラ出演は始めて。こだわりの強い演出家さん、私もこだわりが強いので」と言い、髙原伸子も「演出家のコンセプトはすごく感じるところがある」とコメント。宮河愛一郎は「オペラは何度か出させていただいてますが、斬新です。オペラは可能性が高いです」と語る。ケイタケイは「いつもは1人で活動しています。今回は皆様と。楽しみにしています」とコメント。
両方の演目に出演するやまだしげきは「細かいことはこれから上田さんと相談。舞台の上で異質の存在として。とても楽しみです」と語り、同じく両演目に出演の川村美紀子は「2人で」とコメント。
概要
日程・会場:
東京
2023年2月3日、2月5日 東京芸術劇場 コンサートホール
愛知
2023年3月3日、3月5日 愛知県芸術劇場 大ホール
指揮:アッシャー・フィッシュ
演出:上田久美子
『道化師』
カニオ[加美男]:アントネッロ・パロンビ&三井聡*
ネッダ[寧々]:柴田紗貴子&蘭乃はな*
トニオ[富男]:清水勇磨&小浦一優(芋洗坂係長)*
ペッペ[ペーペー]:中井亮一&村岡友憲*
シルヴィオ[知男]:高橋洋介&森川次朗*
『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』
トゥリッドゥ [護男]:アントネッロ・パロンビ&柳本雅寛*
サントゥッツァ[聖子]:テレサ・ロマーノ&三東瑠璃*
ローラ[葉子]:鳥木弥生&髙原伸子*
アルフィオ[日野]:三戸大久&宮河愛一郎*
ルチア[光江]:森山京子&ケイタケイ*
両演目:やまだしげき*、川村美紀子*
東京芸術劇場公式サイト:https://www.geigeki.jp/performance/concert255/
撮影:2/FaithCompany