ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』が日生劇場にて上演中。
2018年、米演劇界の最高名誉であるトニー賞で、ノミネートされた11部門のうち、作品賞を含む10部門を独占。
本作は大規模で派手な趣向のある作品ではないものの、イスラエルに演奏旅行に来たエジプトの音楽隊が道に迷い、 言葉も文化も異なる中、地元のイスラエル人とぎこちなくも心を通わせていく一晩の様子を描くシンプルな物語の中に流れる、抒情的な空気と独創的な音楽は、得も言われぬ魅力を放つ。演出を手掛けるのは、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞、第47回菊田一夫演劇賞を受賞した森新太郎。アレクサンドリア警察音楽隊を率いる誇り高い楽隊長、主演のトゥフィーク役には風間杜夫。迷子の警察音楽隊を気前よく助ける、食堂の女主人には濱田めぐみ、カーレド役に新納慎也。また実際に舞台上にも上がり警察音楽隊として出演し、中東の音楽を表現する豪華ミュージシャン陣が集結。今回、イツィク役の矢崎 広さんとパピ役の永田崇人さんのインタビューが実現した。
――このミュージカルに出演するにあたっての感想を。
矢崎:最初にお話を頂いた段階ではどんな作品かはわからなかったんですけど。プロットもいただいて、トニー賞を10部門獲得しているというのももちろんすごいと思いつつ、でもいちばん僕の中で惹かれた部分は、この作品を日本で初演できるというところ。というのも僕はわりと日本初演の機会に携わることが多かったので、作っていく過程を見ていくことも好きだったので。で、これをどう日本でやっていくのか、森さんがどう作るのか。そこが最もやってみようと思ったところです。
永田:僕はオファーをいただいて単純にうれしかったです。そもそもオファーをいただくこと自体、必要とされている気がして。
矢崎:そうだよね、うれしい。
永田:自分では「なんでオレが」と思うことも。そんなにミュージカルに出演しているわけでもないので、大丈夫かな、間違いじゃないのかなと。でも、この映画『迷子の警察音楽隊』がすごく、大好きなので、ぜひやってみたいなと思いましたね。
――お二人は今回初共演ですよね。お互いの印象は?
矢崎:永田くんは僕の知り合いとも繋がっていたのに、僕とだけ共演がなくて。
永田:たしかに、矢崎さんの話はよく出てきていて、「ぴろし」って呼ばれているのも知っていました(笑)。
矢崎:あ、本当?でも、知り合いの俳優からはどんな人かは聞いていないまま会うことになったけど、でも実際に会ってみて役柄の関係もあるんでしょうけどとても人懐こいなと思いましたね。懐への入り方がすごく上手。出会って2日目の時点でいろいろ話せるようになりましたよね。さっきも映画の話をしていましたし。今回、舞台でどう広げていこうかというのも話せる間柄になれました。
永田:とても光栄です。でもどちらかというと矢崎さんが引っ張ってくれたというか…そんなに堅苦しくなくてもいい、という雰囲気を出せたからすぐに打ち解けられたと僕は思っています。逆に、僕らが一緒にやるシーンって序盤で終わってしまうから、今はあんまり稽古で出会うことがないのが寂しくて(笑)。
矢崎:(笑)。僕もそう。永田くんいないなあって思っている(笑)。
――それぞれの役についてはどう考えてますか?
矢崎:最初はディナの賑やかしみたいな人なのに、家庭に戻ると少し辛い立場にいる。居場所がなくて、なにか抱えているような、すごく複雑ですよね。イツィクという人物をどう表現していこうかというのを森さんといろいろ試しているところですが……。イツィクは働いてないダメ夫として描かれているんですけど。いわゆる夫婦関係における男性、夫側の「奥さん、なんでこんなイライラしてるのかわからない」といったような、夫あるあるみたいなものが詰まっているのかな、と思っています。本当はちゃんと妻のことを想っているのに不器用すぎて伝えられないようなもどかしさを表現できたらいいなと考えています。とはいえ、イツィクには「あまり深く考えず巻き込まれる」ような部分もあったりしてますので、そこにトライしているところです。作品的に作りすぎても不自然になってしまいそうだし。
永田:パピは見たまんま、不器用でかわいい男の子だなってイメージで、そんなフシはあるのですが、森さんの稽古って不思議で、そういうレッテルは一旦忘れて、その場を生きている、楽しむところに重きを置くので、今はあまり役柄を意識する、決めつけるというよりも森さんの言うことに全力で取り掛かっているところ。言葉で言えちゃうことって表層でしかなかったりしますが、今は中身を少しずつ詰め込んでいる、そんな稽古をしています。
――この作品は、世界を救ったりとか大層なものではなく、どこか日常的な風景を描いているような、そんなストーリーですね。
矢崎:そうですね。「何が起きたの?」みたいなところがありますよね。静かに物語が進んでいく。心の動きがグンと振れるのではなくて、なにかひとつ進んだけどこの先はどうなるの、といった終わり方でもある。そこの楽しさというか、そんな素敵さを多くの人に伝えていけたらなと思いますね。とはいえ、そこに至るまでの表現の面白さなどもたくさんあるので、そこもがんばりたい。パピのシーン、スケートが……。
永田:そう。ローラースケートなんです。でも、演出の森さんは光GENJI世代らしくて、ちゃんと滑れるんですよ。
矢崎:僕らはローラースケートというよりインラインだけどね。
永田:僕はどちらかというと、ローラーシューズ(笑)。
矢崎:あ、あのツーッって滑るやつね(笑)。
永田:ですね。あれは女の子に流行っていたので、妹が持っていて時々借りて遊んだりしていました(笑)それはさておき、ローラースケートは難しいけど、新しいことにチャレンジできるのはとても楽しいです。
――あとは、楽隊が来ることに伴う、気持ちの変化、表現などが難しそうですね。
矢崎:そうですね。そこをすごく丁寧に森さんと作っている感じです。とはいえこれはストレートプレイではなくミュージカルなので。心情を吐露できる歌があったりして、とてもミュージカルっぽいし、それで見やすくなってますね。
――たしかに、ストレートプレイよりもミュージカルのほうが伝わりやすい。
矢崎:ストレートプレイだと、きっとすごく淡々とした芝居になるでしょうし。そもそも、ブロードウェイの作品で、エジプトの人とイスラエルの人が「カタコトの英語」でしゃべるけれども、心で通じ合うという面白さが根本にはあるんです。それが、今回日本版だとどう表現していくのかという壁があるわけですが、どう相手に自分の意思を下手なら下手なりに伝えるか、というところもぜひ表現したいところです。
――お互いが母国語ではない、という部分ですね。そこが一つの見どころでもありそうです。
矢崎:実は、僕が森さんと「どうしようか」と悩んでいるのに、風間さんや濱田さんはもうすでに出来上がっていて。もうすでに面白いんです。なんにも臆していないというか。その2人がいるから「大丈夫だろう」という安心感はあります。
永田:風間さん、もうずっとおもしろいですね。どうやったらあの次元に行けるのかわからないんですけど(笑)。
矢崎:風間さんがおもしろい、というのがこの作品の要でもあるし、それだけで観る価値あるんじゃないかと思います。
――それでは、最後にメッセージを。
永田:『バンズ・ヴィジット』は100分のミュージカルなんですよね。
矢崎:ですね。長さ的にも観やすいミュージカルだと思います。で、たぶんチラシだけだとカタい作品じゃないかと思われがちなんですが、実は結構ハートフルなお話で。楽曲も中東のエッセンスが含まれていて、そういう新しさにも出会える。そこに日本語の言葉が入ってミュージカルになっている、とても斬新な作品でもあるので。そこをぜひぜひ難しく捉えず、楽しんでいただければと思いますし、国と国との交わりという、今だからより刺さるメッセージもあるので、多くの方にいろいろなものを感じ取ってもらえるんじゃないかと思います。
永田:世代間も広いというか、本当に老若男女が出てくる作品で。誰が観てもちょっとした自分の中にあるもやもやというんでしょうか、悩み事などをみんなで一つひとつ解決するような。そういう美しさがある作品、観ていただければ心が晴れやかになるような力を持っています。ぜひ劇場にいらしていただきたいですね。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
<公演レポ記事>
風間杜夫, 濱田めぐみ, 新納慎也 etc.出演 ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』開幕 たった一晩のささやかな奇跡
公演概要
ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』
日程・会場
東京:2023年2月7日(火)~2月23日(木祝) 日生劇場
大阪:2023年3月6日(月)~8日(水) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
問合:06-6377-3888(10:00~18:00)https://www.umegei.com/schedule/1079/
愛知:2023年3月中旬 刈谷市総合文化センター大ホール
問合:052-331-9966(平日10:00~18:00)
キャスト
風間杜夫:トゥフィーク(指揮者)
濱田めぐみ:ディナ
新納慎也:カーレド(トランペット)
矢崎 広:イツィク
渡辺大輔:サミー
永田崇人:パピ
エリアンナ:イリス
青柳塁斗:ツェルゲル
中平良夫:シモン(クラリネット)
こがけん:電話男
岸 祐二:アヴラム
辰巳智秋:警備員
山崎 薫:ジュリア
高田実那:アナ
友部柚里:サミーの妻
太田惠資:カマール(バイオリン)
梅津和時:警察音楽隊(マルチリード)
星 衛:警察音楽隊(チェロ)
常味裕司:警察音楽隊(ウード)
立岩潤三:警察音楽隊(ダルブッカ)
スタッフ
原作:エラン・コリリンによる映画脚本
音楽・作詞:デヴィッド・ヤズベック
台本:イタマール・モーゼス
翻訳:常田景子
訳詞:高橋亜子
演出:森 新太郎
公式HP= https://horipro-stage.jp/stage/bandsvisit2023/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
撮影:金丸雅代
舞台撮影:編集部
ヘアメイク:〈矢崎広、永田崇人共に〉松村南奈
スタイリスト:
〈矢崎広〉
田中トモコ(HIKORA)
〈永田崇人〉
東 正晃
衣裳クレジット:
〈矢崎広〉
ジャケット¥42,350円パンツ¥24,200円/全てFACTOTUM(Sian△PR)
シャツ¥44,000円/LUFON(Sian△PR)
シューズ¥79,200円/(Paraboot△青山店)
お問い合わせ先
Sian△PR
03-6662-5525
Paraboot△青山店
03-5766-6688
※金額は税込価格です。
※△は半角スペースです。
〈永田崇人〉
・デニムジャケット・・・¥25300
・シャツ・・・¥13200
上記2点共に、
2nd existence(エフエムワイインターナショナル㈱ 03-6421-4440)
・スニーカー・・・¥17600
PONY®(世界長ユニオン株式會社お客様相談室 0120-419-265)
・その他・・・スタイリスト私物