ブロードウェイ・ミュージカル「Rodgers/Hart(ロジャース/ハート)」、天才2人の出会いと成長と躍進と別れと

本作は、ブロードウェイの歴史に名を刻むソングライターの名曲を基に構成された、ミュージカルシリーズ『ブロードウェイ・ショウ ケース』の第二弾。描かれるのは、1930 年から 40 年代にかけて、数々のスタンダード・ナンバーを世に送り出してき た作曲家 リチャード・ロジャースと、作詞家 ロレンツ・ハートの半生。ジュディ・ガーランドやダイアナ・ロスなど数々のスターたちが 歌ってきたスタンダードジャズの名曲と共に、歌あり、ダンスあり、タップありのゴージャスなショー。

作曲家のリチャード・ロジャース役を務めるのは、「喜劇 有頂天一座」や「滝沢歌舞伎 2018」に出演するなど、近年舞台 での活躍が目ざましい林翔太(ジャニーズ Jr.)。作詞家のロレンツ・ハート役は、ミュージカルを中心に幅広い舞台で活躍し、 際立つ存在感の矢田悠祐。そして、実咲凜音、寺西拓人(ジャニーズ Jr.)、樹里咲穂、そして、上演台本・訳 詞・演出・振付・出演と 5 役をこなす玉野和紀といった個性豊かなキャスト陣が集結。

さて、タイトルにもなっているリチャード・ロジャーズとロレンツ・ハート。リチャード・ロジャーズはミュージカルファンなら誰もが知っている作曲家で彼が亡くなった時はブロードウェイのすべての劇場は灯を消してその死を悼んだ、というくらい。作詞家のロレンツ・ハートは1919年頃からロジャーズとコンビを組んで数々の名曲を生み出したが、ロレンツ・ハートは早逝している。リチャード・ロジャーズはその後はオスカー・ハマースタイン2世とコンビを組むことになる。

幕開きはピアノの旋律、ミュージカルファンならほぼ聞いたことはあるはず。帽子の男とピアノを弾く男、帽子の方はロレンツ・ハート(矢田悠祐)、そしてピアノの男はリチャード・ロジャーズ(林翔太)だ。ロジャーズの言葉、「1918年、僕は初めて出会った」という。続けて「僕はプロの作曲家を目指している」とも言う。奇跡の出会い、「コンビを組まないか?」「是非!」ブロードウェイのゴールデン・コンビの誕生だ。

この作品は楽曲はもちろん、このコンビのものによる。そのすべてがキャッチーで耳に残る。たちまち、人気コンビになり、ラジオ番組も持つことに。そしてトントン拍子についにはハリウッドへの進出を果たす。

基本、ストーリーは2人の出会いから別れ(死別)までを描いている。林翔太、矢田悠祐以外のキャストは複数役を演じるのだが、中でも玉野和紀は上演台本・訳詞・演出・振付もやっている上に3役も(女性役も!艶やか!)!流石!というより他にない。楽曲は全部で32曲使用するのだが、ほぼ音楽が途切れない印象。またラジオ収録の場面やハリウッドのシーンはユーモアたっぷりで、ここは笑いどころ。生真面目なロジャーズ、自由奔放で型破りなハート、真逆なコンビだが、お互いに尊重しあい、珠玉の名曲を紡ぎ出していく。ハートは早逝している。晩年は酒に溺れ、ロジャーズは「コネチカット・ヤンキー」の再演を企画し、彼に新曲を書かせるが、再演の初日に行方不明となり、5日後に死亡、太く短き人生であった。終盤近く、ハートのソロがあるが、これは情緒たっぷりで泣かせるシーンとなっている。生真面目なロジャーズは年下ではあるが、ちょっと不安定なところのあるハートを気にかけており、このコンビだからこそ、これだけの名曲が生まれたのだと思わせてくれる。

そして歌、ダンス、歌、ダンスと畳み掛けるような躍動的なシーンが続くかと思いきや、スローなシーンもあり、このメリハリとテンポの良いステージングが心地よい。そしてハートの死はロジャーズの台詞、最後に「僕は君にさよならは言わないよ」と言う。背中を向けるロレンツ・ハート。湿っぽくならず、それでいてどこかキラキラとしたラスト。ミュージカルシーンに輝く2人の数々作品、楽曲、それは不滅。

リチャード・ロジャーズ役の林翔太は実直で真面目、そしてミュージカルをこよなく愛する人物像を好演、対するロレンツ・ハート役の矢田悠祐は時折、孤独をにじませた陰影のあるキャラクター作り、実咲凜音 、樹里咲穂、よく通る声で観客席を魅了する。寺西拓人もスターからウエイターまで八面六臂の活躍を見せるし、 玉野和紀はタップダンスのシーンは流石の貫禄、そして実咲凜音 、樹里咲穂とともに女性トリオのシンガーを演じるが、これがなかなかキュートで可愛らしい!

シンプルな舞台セット、そして俳優6人の頑張り、休憩なしの1幕物、上演時間は約1時間40分程度、楽しく、そしてブロードウェイ気分にさせてくれるステージだ。

なお、ゲネプロ終了後に囲み会見があった。6人が揃って登壇。林翔太は「珍しくド緊張しました!」と開口一番。幕開きでピアノを弾くのだが「ピアノが・・・・・・震えています(笑)」とコメント。さらに「スタンバイしてる時が心細い」と語る。対する矢田悠祐は幕開きの時はソファで新聞を読んでいるのだが「リラックスして〜自由な・・・・・・でも(林翔太の緊張を)感じています」とコメント。そして林翔太は矢田悠祐のことを「めちゃ怖い人かと・・・・・・そしたら中学生みたいに喋って面白い人だなと」と初対面時の印象を語る。そして「千秋楽までに成長していけるんじゃないでしょうか」とコメント。そこに玉野和紀が林翔太について「タップもね、一回教えたらね、イケるので、飲み込み早いですよ」と絶賛。また、ぴしっとした髪型に関して林翔太は「すっきりしてるので、これでいこうかと」と笑わせる。矢田悠祐は「才気のある役なので、林君といると安心する」とコメントしたが、そんなところがなかなかのコンビぶり。林翔太は「人と比べるもんじゃないけど、毎日凹んでました。玉野さんが色々とアドバイスしてくださって、信じて一緒にやれば大丈夫と・・・・・・」とコメント。そこで玉野和紀の女性シーンの話になり、樹里咲穂は「嫉妬を覚えながらやってました(笑)」と笑わせた。実咲凜音は「落ち着いた年齢なので、頑張ろうと」とコメントしたらキャストを含む全員から『まだ、まだ(笑)』といった空気が・・・・・・。寺西拓人は「前回の玉野さんの作品でリードさせてしまったので・・・・・」と言い、そこで樹里咲穂から「大丈夫!完璧です!」とお墨付きをもらい寺西拓人が恐縮する一幕も。玉野和紀から「楽曲が素敵なので」と作品PR。矢田悠祐は「ファンの方にとっては触れたことのない感じの作品と役なので・・・・・玉野さんの素敵な訳詞を伝えたい」と言い、林翔太は「作品を愛して!」と言い会見は終了した。

【概要】
ブロードウェイ・ミュージカル「Rodgers/Hart(ロジャース/ハート)」
<東京公演>
日程:2018年8月14日(火)~9月9日(日)
場所: DDD AOYAMA CROSS THEATER
<大阪公演>
2018年9月11日(火)・12日(水)
大阪府 松下IMPホール
<神奈川公演>
2018年9月15日(土)
神奈川県 やまと芸術文化ホール メインホール

上演台本・訳詞・演出・振付:玉野和紀
詞:ロレンツ・ハート
作曲:リチャード・ロジャース
出演:林翔太(ジャニーズJr.)、矢田悠祐、実咲凜音 / 寺西拓人(ジャニーズJr.)/ 樹里咲穂、玉野和紀

文:Hiromi Koh