トニー・クシュナーの超大作『エンジェルス・イン・アメリカ』を新国立劇場にて開幕。
一部と二部それぞれ約4時間、計8時間の上演。
新国立劇場のフルオーディション企画の5弾目に当たる本作は、上村聡史の演出で二部作を一挙上演。
演劇部門も芸術監督小川絵梨子が、その就任とともに打ち出した支柱の一つ、「演劇システムの実験と開拓」として、すべての出演者をオーディションで決定する「フルオーディション企画」。
『エンジェルス・イン・アメリカ』は1980年代のニューヨークを舞台に、エイズに冒された同性愛者たちと、その周りの人間模様を描いている群像劇。第一部『Millennium Approaches』、第二部『Perestroika』の2部構成で、第一部は1991年、第二部は1992年に初演された。1993年~1994年に第一部・第二部ともブロードウェイで上演され、それぞれ1993年・1994年のトニー賞で演劇作品賞を受賞。第一部は1993年のピュリッツァー賞で戯曲部門に輝いた。2003年にテレビドラマ化、2004年にフランスでオペラ化されている。 日本では、1994年11月、ロバート・アラン・アッカーマンの演出で、第一部『至福千年紀が近づく』を銀座セゾン劇場にて上演。翻訳は吉田美枝。出演は宝田明(ロイ・コーン役)、堤真一(ジョー役)、余貴美子(ハーパー役)、高橋和也(プライアー役)、小須田康人(ルイス役)、天宮良(ベリーズ役)、麻美れい(天使役)、佐藤オリエ(ハンナ役)。その後、同じくロバート・アラン・アッカーマン演出で、第一部『至福千年紀が近づく』・第二部『ペレストロイカ』をベニサン・ピットにて一挙上演。翻訳は薛珠麗。出演は中川安奈(ハーパー役)、山本亨(ロイ・コーン役)、パク・ソヒ(ジョー役)、斉藤直樹(プライアー役)、矢内文章(ベリーズ役)、池下重大(ルイス役)、松浦佐知子(ハンナ役)、植野葉子(エミリー役他)、深貝大輔(ラビ役他)、チョウソンハ(天使役)、藤沢大悟(天使役他)、小谷真一(天使役他)。第39回紀伊國屋演劇賞団体賞、第12回読売演劇大賞優秀作品賞、第12回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。2007年に同会場で再演。その後は2009年9月、杉原邦生の演出により第一部を上演。今回の公演はそれ以来となる。
オーディションは、21年10月より公募を開始、12月に約3週間のオーディションを経て、浅野雅博、岩永達也、長村航希、坂本慶介、鈴木杏、那須佐代子、水夏希、山西惇の出演が決定した。
初日に先駆けて公開稽古が行われ、第一部『Millennium Approaches』の一部が公開された。
2幕5場、痩せ細ったプライアー(岩永達也)がベッドに横になっている。そこに、ミスター・ベリーズ(浅野雅博)が見舞いにやってきて彼を励ます。彼が帰った後、天使(水夏希)の声が響き渡る。動揺するプライヤー。
場面変わって2幕6場、マンハッタンの高級レストランのシーン、ロイ(山西惇)とジョー(坂本慶介)、マーティン(鈴木杏)が食事をしている。ジョーにワシントンで働かないかと誘うロイとマーティン。シャンパンを片手に、いかにも、な雰囲気。
ロイは連邦判事の首席書記官であるジョーを可愛がっており、それでワシントンDCの司法省でジョーを働かせたいと思っている。ロイ・コーンは実在の人物で赤狩りの黒幕。共産主義者だけではなく、同性愛者も攻撃したが、後にエイズにかかったのは事実であり、皮肉な顛末。
そして2幕7場、ブルックリンの裁判所の外、ルイス(長村航希)とジョー(坂本慶介)がホットドッグを片手に談笑、別れたあと、ジョーが吐血する。2幕8場、ジョーは母親のハンナ(那須佐代子)に電話をかける。険しい表情のハンナ、ジョーは告白する「俺、ゲイなんだ」と。
そして2幕9場、ここは二重構造、ハーパーの家とプライヤーの病室。場面が同時進行で進む。
ルイス(長村航希)はプライアー(岩永達也)に別れを告げる、ジョーはハーパー(鈴木杏)に同性愛者であることを告白する。ハーパーは精神不安定、ジョーもハーパーもモルモン教徒。舞台中央からハーパーの想像上の人物、ミスター・ライズ(浅野雅博)が登場する。
セットチェンジの後、3幕9場の後半。中央にプライヤー、羽の音が聞こえてくる、怯えるプライヤー、フライングで天使登場。
岩永達也、鈴木杏、水夏希、山西惇が会見に応じた。
初日を迎えるにあたっての感想。
岩永達也「ワクワクです。本当はもっと緊張すべきものかと…初日テンパるだろうなと思ってたんですけど。いい雰囲気で出来そうな気がしています。ご一緒してきた皆さんと改めて、同じ方向を向いていた感覚はありました。だからこそ、早く観に来てください!」
鈴木杏「普段よりも長期間の稽古、1ヶ月以上稽古して初日を迎えられるなと。本当に充実していたのと、キャスト・スタッフ、最高なので、この姿をお客様に観ていただきたい」
水夏希「最初の出番が声だけで…。お客様の反応がどう来るのか、稽古場ではわからないものがたくさんあるので、それを楽しんで」
山西惇「オーデションに応募したのが一昨年の秋、ここから『やりたいな』と思った人たちが集まった。時間がかかって『いよいよだな』と。(お客様が)反応して下さって初めて完成するものなので、早く、完成形をみたいなと」
それから、作品に対しての想いや応募した動機など、岩永達也は「僕は役者を志そうと思っていた時であって、オーデションの情報とか常に探し、あったらチャレンジする。そしてこの作品のことを知って、ビビッと来るものがあった。それは何だろうと…最近、ようやくわかってきた。僕はプライヤーという役を志望しましたが、彼には自分にはないものがすごくあった。そこに無意識に惹かれていたんだろうなと。この稽古期間で分かったこと、僕はこの時代に生まれて角が立たないように、波風立てないように生きてきた人間なので、そういった意味において抗うことは憧れっていうんでしょうか、声を発する重要さとか感じていたんだなと。いいきっかけと思いました」鈴木杏は「私は、この作品がすごく好きで、観るたびに感動するんです。なんでこんなに感動するのか、わからなくって、その秘密を知りたいという気持ちで。知るためには参加するのが一番だと思って…とても下心満載で(笑)。この作品自体をもっと深く知りたいという気持ちが強くって応募しました」と下心を”白状”。水夏希は「私はこのプロジェクトに参加したいとずっと思っていて…オーデションのようになかなか初めての人と出会う機会がなかった、こういう機会、皆さん『初めまして』の環境にチャレンジしたいと。ずっと演劇界にいたのにこんなにも違っていて稽古場はシーンとしてて、ミュージカルとかはわいわいしてた、何もかもが新鮮です」、山西 惇は「この企画は日本の演劇界にとっても面白い企画。ロイ・コーンという人にすごく興味が湧いて、調べていくと59歳、僕も59歳で、縁を感じました。アメリカのテレビドラマ版をみまして、アル・パチーノさんの役で、俺しかいないだろう(笑)という思いで。他のキャストさんも本当に日本でやるならこの人しかいない!という人しか集まらないのでびっくりしました」とコメント。
また役作りについて岩永達也は「減量しました、10キロぐらい(3ヶ月で10キロ!)、増減は得意な方で…」と言い周囲から感嘆の声が。食べ物は「ゆで卵、納豆、豆腐、カニカマ、ちくわ、ブロッコリー、わかめ」食べ物の名前が出るたびにまたまた感嘆の声が上がった(笑)。それを受けて山西惇が「僕も芝居に合わせてちょっと痩せたんです」と告白。「3キロにとどまりまして、自分としてはすごい努力した(笑)これ以上は無理」。ちなみに岩永達也は集合日にはすでに3、4キロ痩せてたそう。また、稽古場でのエピソードを聞かれ、稽古場は静かだったそうで「ピリピリした感じではなく、セリフの量が多い、やることが多い、各々調べものをしたり、集中している静けさ」と鈴木杏。また、フライングシーンがある水夏希は「人生で初めてなので、憧れてまして、やっと飛ぶことが出来た」と”夢のフライング”実現。
最後に岩永達也が作品PR。
「8時間の尺は気になると思いますが、なぜ8時間の舞台を今、ここでやるのか、これがすごくポイントになってると思います。僕ら世代。若者こそ観てほしい、僕も知らないことが多かったし、この作品に出会って、知識だったり歴史だったり、教科書やインターネットで出てくるものではない。熱量、全てがここに詰まっている…声を大にして言いたい、ぜひ、皆さん、たくさんの方に観ていただきたいので、『エンジェルス・イン・アメリカ』、よろしくお願いいたします」と締めて会見は終了した。
演出:上村聡史より
「劇場が一体となって旅をしている」という気持ちです。8名の俳優の表現とお客様の反応が、共に熱気を帯びながら、目的地に向かって駆け抜けていく感覚を初日の舞台に覚えました。エイズ、レーガン政権などと1980年代のニューヨークが舞台となっていますが、改めて「今」を語る作品となりました。8時間という上演時間に尻込みするかもしれませんが、演出も演技もあっという間に時間が過ぎていくような変化の醍醐味に満ち溢れています。是非、劇場で体験していただけたら何よりです。
あらすじ
第一部
1985年ニューヨーク。
青年ルイスは同棲中の恋人プライアーからエイズ感染を告白され、自身も感染することへの怯えからプライアーを一人残して逃げてしまう。モルモン教徒で裁判所書記官のジョーは、情緒不安定で薬物依存の妻ハーパーと暮らしている。彼は、師と仰ぐ大物弁護士のロイ・コーンから司法省への栄転を持ちかけられる。やがてハーパーは幻覚の中で夫がゲイであることを告げられ、ロイ・コーンは医者からエイズであると診断されてしまう。
職場で出会ったルイスとジョーが交流を深めていく一方で、ルイスに捨てられたプライアーは天使から自分が預言者だと告げられ……
第二部
ジョーの母ハンナは、幻覚症状の悪化が著しいハーパーをモルモン教ビジターセンターに招く。一方、入院を余儀なくされたロイ・コーンは、元ドラァグクイーンの看護師ベリーズと出会う。友人としてプライアーの世話をするベリーズは、「プライアーの助けが必要だ」という天使の訪れの顛末を聞かされる。そんな中、進展したかに思えたルイスとジョーの関係にも変化の兆しが見え始める。
概要
演目:『エンジェルス・イン・アメリカ』 第一部「ミレニアム迫る」 / 第二部「ペレストロイカ」
日程会場:2023年4月18日(火)~5月28日(日) 新国立劇場 小劇場
作:トニー・クシュナー
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:浅野雅博 岩永達也 長村航希 坂本慶介 鈴木 杏 那須佐代子 水 夏希 山西 惇
芸術監督:小川絵梨子
主催:新国立劇場
全国公演
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール 2023年6月3日(土)
兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール 2023年6月10日(土)