珠玉のガーシュウィン・ナンバーに彩られる、ハッピーなミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』が4月25日に開幕し、好評上演中だ。
キャッチフレーズは「観るだけで、幸せになれる。これぞミュージカル・コメディの決定版!」。
典型的な“ボーイ・ミーツ・ガール”のラブ・ストーリーではあるが、細かい笑いのタネが随所に散りばめられている。演出のマイク・オクレントは、ミュージカル『ミー・アンド・マイ・ガール』の演出でも知られているコメディの第一人者。アメリカ的な上品なセンスに溢れた笑いが持ち味だ。
本作の基となったミュージカル『ガール・クレイジー』のナンバーほかスタンダードナンバーに未発表曲なども加え、全く新しい台本と構成で“90年代のニュー・ガーシュウィン・ミュージカル”を創り上げたクリエイティブ・スタッフたち。
彼らの努力は大いなる実を結び、1992年のトニー賞で最優秀作品、衣裳、振付賞の3部門を受賞しました。
そして、この作品の振付を担当したのがスーザン・ストローマン。
『コンタクト』、『プロデューサーズ』の振付・演出を手掛け、ブロードウェイを席巻してきたが、トニー賞を初受賞し、事実上のメジャーデビューを飾ったのがこの『クレイジー・フォー・ユー』。実際に物語の舞台となる炭坑町に足を運んでイメージを膨らませたとのこと。タップを多用、電話機、ロープ、つるはし、トタン板、パエリア皿、椅子など、日常生活にあふれる道具をふんだんに活用した独創的で迫力あるダンスシーンは、『クレイジー・フォー・ユー』の見どころのひとつとなっている。
翌年の1993年に日本初演。以来、東京をはじめ全国各地で愛されてきた、劇団四季の代表的レパートリー作品の一つ。
心地よいタップをはじめ多彩なダンス、そして笑いあふれるラブ・コメディと、まさにミュージカルの真髄ともいえる魅力満載の『クレイジー・フォー・ユー』。8年ぶりとなる。また、今年は劇団四季創立70周年、記念公演となる。
公演に先駆けて簡単な会見が行われた。登壇したのはボビー役の萩原隆匡とポリー役の町 真理子。
公開稽古が終わったばかりでやや興奮覚めやらぬ面持ち。「無我夢中で」と萩原隆匡、町 真理子は「大好きな作品。プレッシャーはありますが、歌を歌ってる時は幸せな気持ちに。ハードではありますが、結構楽しい」とコメント。
「劇場に足を運んで欲しい、一緒に笑って欲しい、劇場で同じ時間を…コメディなので!拍手も待ち遠しい」と萩原隆匡。長らくコロナ禍で、いっときは公演すらなかった時期があったが、ここにきてようやく今までの活気が少しずつではあるが、戻ってきた感じの今日この頃。町 真理子も「一体感がありますね。お客様が入ってこそ完成する、ぜひ、足をお運びいただいて、楽しんでいただければ」と言い、萩原隆匡も「足取り軽くなって帰って欲しい、お客様に喜んでいただければ、これ以上に幸せなことはありません」と笑顔で。町 真理子は「テーマの中に『復興』、寂れていた街がどんどん活気が」と語る。ボビーが母親の言いつけで向かった街の劇場、その街がとにかく寂れていて、という設定。
道具を使うシーンについての質問がでた。このシーンは振付のスーザン・ストローマンのアイディアに満ちたショー・ストッパーな場面であるが、萩原隆匡が「子供の頃のアイディアだったとお伺いしまして『子供の頃に思い描いていたものがここにあるんだ』と…ピュアな気持ちを持って」と語る。ここは様々な道具を使って歌い、踊る場面で、まさに大きな見どころの一つ。続けて、「落ち込みやすいんで(笑)、前に前に進んで行かないと」と笑う。さらに「出来てないと思うのはやめようと。自然に無理しないところでやれたら…『良くなったね』っって言われて、力入ってるとか、そういうのがなくなって自分的にはいいなと思ってます」と初日前の心境を語った。また、劇団四季は層の厚いことでも知られているが、町 真理子は「先輩が温かく見守ってくださる、稽古場で与えてくださるっって言うんでしょうか」と語る。日本初演は1993年、今年は2023年、実に30年!「僕たちの中で生まれるものを大事にしています」とコメント。
また、見所を聞かれ、「いっぱいあって…」と町 真理子。萩原隆匡は「ダンスは必見」と明言。スーザン・ストローマンのテクニカルなだけでない、エモーショナルな振り付けに注目したい。町 真理子も「歌、歌詞が面白くておしゃれ」とコメント。楽曲の良さだけでなく、内容にも注目。日本語歌詞は、イラストレーターなど幅広く活躍し、2019年に逝去された和田誠と、2014年に映画「アナと雪の女王」の訳詞を手掛け、2016年には劇団四季『アラジン』の訳詞により第23回読売演劇大賞優秀スタッフ賞を受賞した高橋由美子(知伽江)が担う。
「笑って帰っていただけたら。コメディで全国回れるのは久しぶりなのでパワーをお届けできたら」と町 真理子。萩原隆匡も「僕らの『クレイジー・フォー・ユー』は劇場でしか観られない、この仕事が好きになって…できるところまでやりたい、劇場の中だけは(何ものにも)縛られない、そういう空間でありたいです」と語った。
これぞ、コメディ、ハッピーで高揚した気分になれること、間違いなしのミュージカルコメディの傑作、『クレイジー・フォー・ユー』、4月25日より開幕。
登壇者プロフィール
ポリー・ベーカー役 町 真理子(まち まりこ)
兵庫県出身。幼いころからクラシックバレエを始め、ジャズダンス、声楽のレッスンも重ねる。ストリートダンスなども得意とし、入団以前にもいくつかの舞台やテーマパークのショーに出演した経験がある。『キャッツ』の観劇をきっかけに四季を目指し、2012年オーディション合格。『ライオンキング』で四季での初舞台を踏み、のちにナラ、『コーラスライン』ディアナ、『キャッツ』ジェミマ、『マンマ・ミーア!』アリ、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』ブライオニーを演じている。『クレイジー・フォー・ユー』には、今回が初参加となる。
ボビー・チャイルド役 萩原 隆匡(はぎわら たかまさ)
東京都出身。1999年研究所入所。『コーラスライン』で初舞台を踏み、のちにグレッグを演じる。ダンス力を武器に、『キャッツ』マンカストラップ、マンゴジェリー、ギルバート、コリコパット、『ウェストサイド物語』ベルナルド、ビッグ・ディール、『ライオンキング』スカー、『アラジン』ジーニー、カシーム、『マンマ・ミーア!』サム・カーマイケル、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』カトウを演じている。近年は、『カモメに飛ぶことを教えた猫』『バケモノの子』の振り付けも手掛けている。
『クレイジー・フォー・ユー』には、2010年からピート役、2015年からボビー役で出演している。
物語
1930年代、ニューヨーク。銀行の跡取り息子、ボビー・チャイルドは、仕事も婚約者も放り出して踊ることに夢中。大プロデューサーのザングラーに自分のタップを売り込んでいます。けれど、人生はそんなにうまくいくものではありません。ザングラーの機嫌は損ねるし、婚約者からは結婚を迫られ、うるさい母親からは銀行の仕事を命じられ……ボビーはもううんざりです。
結婚か、銀行の仕事か。板挟みになったボビーは、結局母親の命令に従って、物件を差し押さえるためにネバダ州のデッドロックへ向かいます。
かつては金鉱の町として賑わったデッドロックは、いまやすっかり寂れ、まるで時間が止まってしまったかのよう。駅から砂漠を歩くこと1時間、フラフラになってやってきたボビーの視界に飛び込んできたのは、町でただ1人の女性、ポリーでした。男勝りだけれどとってもチャーミング! 一目でポリーの虜になってしまったボビーは、得意のダンスで彼女の心をつかもうとします。
最初は嫌々だったポリーも、踊っているうちに彼に心惹かれていきます。ところが、事もあろうにポリーは、ボビーが差し押さえに来た劇場のオーナーの娘だったのです。ボビーはショーを上演して抵当に入っている劇場を救おうと彼女に提案します。しかし彼の正体を知ったポリーは、劇場を乗っ取るための作戦ではないかと勘ぐり、その申し出を拒絶してしまいます。
しかし、そんな事でめげるボビーではありません。数日後、ザングラーが踊り子たちを引き連れてやってくるなり、ここでショーをやると宣言します。突然のことに町は騒然。実はこの“ザングラー”は、変装したボビー。でもポリーは“ザングラー”を本物と思い込み、劇場復活のチャンスと大喜び。早速、町の男たちは即席ダンサーになるべく、踊り子たちと猛レッスン。デッドロックの町は次第に活気を取り戻してゆきます。
ボビーは“ザングラー”としてショーの準備を進めながらも、ポリーの気持ちを自分の方へ向かせようと奮闘しますが、空回りばかり。それどころか、なんとポリーは“ザングラー”に恋をしているではありませんか!
さあ、ボビー、ポリー、“ザングラー”の奇妙な三角関係はいったいどうなるか? 次から次へと起こるハプニングの中、ショーの初日はどんどん近づいてきます……。
概要
日程・会場
2023年4月25日〜7月22日 KAAT神奈川芸術劇場<ホール>
2023年8月26日〜 全国公演
公式サイト:https://www.shiki.jp
写真提供:劇団四季