JR東日本四季劇場[秋](東京・竹芝)においてミュージカル『ノートルダムの鐘』東京公演が上演中だ。
この『ノートルダムの鐘』これまで幾度の映画化、舞台化を経ている世界的文豪ヴィクトル・ユゴーのゴシック小説に発想を得た作品。
ディズニー・シアトリカル・プロダクションズが製作し、2014年に米国カリフォルニア州サンディエゴのラ・ホイヤ劇場で、翌15年には同ニュージャージー州ペーパーミル劇場で上演が行われ、日本では2016年東京にて開幕。
長編アニメーション映画『ノートルダムの鐘』を観ているファンも多いことであろう。だが、このミュージカルを観ると、その違いは一目瞭然である。ミュージカルナンバーはこの長編映画に基づいているが、内容は確かに『ノートルダムの鐘』であるに違いないのだが、映画はハッピーエンドで終わっている。だが、こちらはそうではなく、むしろ原作に近いエンディング。また、アニメではコミカルな石像ガーコイルが登場するが、ここではカットされている。キャストとクワイア(聖歌隊)全員で物語を進行させている。
メインキャラクターはノートルダム大聖堂の鐘楼に住む男カジモド、その彼を密かに世話する大聖堂聖職者フロロー、同警備隊長フィーバス、そして、その3人が愛するジプシー娘エスメラルダ。男性3人が女性1人に恋愛感情を持つ、という四角関係を中心に物語は進行していく。
フロローの生い立ち、今の地位についたのは彼の努力、孤児のカジモドはフロローに引き取られ、大聖堂に閉じ込められている。塔の上から街を眺める、友は鐘と石像だけ、いつも自由になることを夢見ていた。そんな折に年に一度の”道化の祭り”、カジモドは意を決して外に出る。そこで美しいジプシーの踊り子・エスメラルダに出会う。そこでは最も醜い顔をした者を決めるコンテストが開かれており、エスメラルダに手を引かれてステージに上がった。持てはやされたが、次の瞬間、罵りの言葉を浴びせられ、モノを投げつけられたり。エスメラルダはカジモドを庇う。カジモドは大聖堂にもどったが、責任を感じたエスメラルダは誠実に優しい言葉をかける。一方、エスメラルダの美しさにフロローも彼女に恋をしてしまうが、市民と教会を守る名目で大聖堂警備隊長フィーバスにジプシー排除を命じる。だが、フィーバスもまた、彼女の魅力に取りつかれていた…。
冒頭で描かれるフロローのバックボーン、根は真面目、そしてカジモドを引き取った経緯、ここはスピーディーに語られる。真面目故にエスメラルダの魅力に一目で心奪われ、聖職者としての自分と人間としての自分に悩む。この『人間としての自分の感情』、これを邪念と捉え、それをエスメラルダのせいにする。「Hellfire/地獄の炎(Frollo,Congregation)」で歌われる彼の感情、想い、ラスト、フロローは典型的なヒール役であるが、彼の複雑な感情を想像すると胸が痛い。
警備隊長フィーバス、この「フィーバス」の意味だが、ラテン語のポイブス、ホエブスの英語読みが「フィーバス」、ギリシャ神話に出てくる「太陽神」、イケメンで正義感の強い人物、エスメラルダが惹かれるのも無理からぬこと。そしてカジモドは障害がある青年、純粋で真面目、そんな彼がエスメラルダに恋をする。そしてエスメラルダは情熱的な風貌、自由を愛する女性、しかも意志も強い。
またジプシーは犯罪者の温床と考えられ、1499年にはスペインが入国を禁止、16世紀半ばにはイギリスの各地の地方自治体も退去命令を出し、1561年にはフランスのシャルル6世が2ヶ月以内に領土から追放するよう命令を出した。このような時代背景を押さえておくとフロローがエスメラルダに対して取る態度や彼らの行動もよくわかる。
記憶に残る楽曲、深く様々なことを描いているストーリー、その一つ一つを述べるとキリがないが、人間の業や愛を描いているミュージカル、光があれば影がある。公演は8月6日までの限定公演となっている。
概要
ミュージカル『ノートルダムの鐘』東京公演概要
日程・会場:2023年5月14日(日)~8月6日(日)JR東日本四季劇場[秋]
予約方法: ネット予約 SHIKI ON-LINE TICKET http://489444.com(24時間受付)他
問合せ:劇団四季ナビダイヤル 0570-008-110
劇団公式サイト:https://www.shiki.jp
撮影:阿部章仁