2020年、公演途中でコロナ禍のため、中止になった舞台『ART』が2023年5月、ようやく開幕する。
この作品は1994年出版、同年にパリで初演、国際的に高評価を受けた。
登場するのは男3人。そのうちの一人・セルジュ(小日向文世)が現代アートの高い絵を買った。現代アートが趣味の彼、友人のマルク(イッセー尾形)に見せるも彼の頭の上に「?」マーク。その高い絵は…ただただ白い。「真っ白なキャンバスに真っ白な絵の具で描いた絵」なのである。相当高かったこの絵。始まりは洒落たピアノの旋律。だが、そのあとは音楽はほぼない。
ずっと会話、あるいは独白。誰かが、何かしら喋っている、という状況。彼らの会話がとにかく面白い。念願の絵を手に入れてご満悦な表情のセルジュ。会話・独白から彼らの関係性や性格が見えてくる。舞台は回転して場面が変わる、という趣向。マルクはイヴァン(大泉洋)のところへいく、「あいつ、絵を買ったんだよ、白い…」「白い?」「真っ白(笑)」。その値段がすごい!500万。大親友という設定なので、結構いいたい放題な感じの会話、彼らの表情、リアクション、会話がちょっとズレたり、「そっちじゃない」方向に行ったりもするが、これが図らずも彼らに様々な気づきを与えることになるのだが、それがいいのか悪いのか(笑)。
現代アートの絵、価値観の相違、セルジュにとっては大層な価値のあるものに違いないのだが、マルクにはわからない。長年の親友のはずだったマルクとセルジュ、そしてイヴァン。友人というのはお互いに何かを求めていたりするのだが、それがちょっと違っていた様子。イヴァンは結婚を間近に控えていたが、母親がストレスの模様。中盤で大泉洋演じるイヴァンが5分ほどの長台詞をまくし立てる。呆然として聞いているマルクとセルジュ、イヴァン的には親友故にまくし立てたのだが…(笑)。
この3人、それぞれ自分自身が思う”自分の立ち位置”、虚飾と傲慢、これも会話から見えてくる。この白い絵についてマルクがトンデモ発言をしてしまってセルジュが不機嫌になったり。時折、笑い声が客席から。だが、彼らの会話はあくまでも日常会話であるから、尚更、シニカルでブラックユーモアたっぷり。イッセー尾形、小日向文世、大泉洋の絶妙のバランス、挙動、声のトーン、表情、いい歳をした男3人の”バトル”、ラスト近く、「!」なシーンがあるので、お楽しみに。
コメント
イッセー尾形
滑稽でもあるし辛辣な内容でもあるけど1回壊れたものが思いもよらないかたちで再生していく、そういうキラキラした可能性を色々投げかける作品にしたいですね。きっとご覧になる人によって見方が変わるかもしれない作品かなと思います。
3年前とくらべて濃度が上がっている分、頭で考えることと身体を使うことが増えて疲れますが(笑)、この3年という時間も作品に反映させていきたいです。小日向さんも大泉さんも3年ぶりに共演できてすごく楽しいです。人となりがお互いにわかっている分やりやすく、配役がそれぞれに合ってるなと改めて思います。
大千穐楽に向けて新たな発見もあると思うので、1ミリ1ミリがんばりたいです!
小日向文世
3人が元気で揃ったってことがやっぱり嬉しいです。3年前の初演はセルジュの役どころを真面目な人として捉えてたので、貶されることに対してものすごい反発やマルクに対してもっと神経質だったんですが、今回はもう少しラフな感じに役作りして、気持ち的にすごく楽になれました。
初演はほんとうに大変で余裕がなかったんですが、今回はイッセーさんの表情を見ていたり、大泉くんとセリフを交わす時に余裕ができて楽しいですし、年齢を重ねたことで役に対しての力が抜けた分見え方もだいぶ変わっている気がします。
3年越しに稽古をしてそれぞれが役を楽しんで出来ている部分があると思うので、三人三様を楽しんでもらえたらと思います!
大泉洋
3年ぶりにまた同じメンバーで芝居が出来ることに幸せを噛み締めながら稽古しました。前回の公演のときよりも深く解釈できた部分もあり、3年前とは明らかに違う『ART』になりました。イヴァンという役もさらに深めることが出来たと思うし、3年前とはみんなビジュアルも含めていろいろと変わっているので(笑)、初演を観た方も違いを楽しんでいただけるかと思います。
演出の小川さん、イッセーさん、小日向さんと、芝居を作っていく過程は相変わらず居心地が良くて幸せな気持ちでした。1時間半の舞台を1ヶ月稽古して「セリフの一言一言にどういう背景があるのか」っていうことを話し合いながら創っていく作業は役者にとっても大切な時間だなと思いました。
今回は東京から始まって、大阪、福岡、愛知、松本と巡るのでいろんな土地で『ART』がどんな風に受け入れられるのか楽しみです。
あらすじ
マルク、セルジュ、イヴァンは長年の大親友。ある日、セルジュが現代アートの高い絵を買ってきた。皮膚科の医師で現代アートが趣味のセルジュにとっては、やっと手に入れた自慢の作品。ところが一緒に喜んでくれると思ったマルクは不思議な顔をするばかり。そんな二人の会話には妙なすれ違いが生まれ・・・。
一方、結婚を間近に控えるイヴァンにとってもこの友達関係は何よりも大事。三人はお互いの関係を何とかしようとするが、一生懸命になればなるほど、会話はおかしな方向にズレていく。エスカレートしていくうちに実はお互いに相手に求めていることが全く違っていたことに気付く三人。それでも関係を修復しようとするが、事態は思わぬ方向に。これは果たして喜劇か、それとも悲劇か・・・。
公演概要
作品名:『ART』
作:ヤスミナ・レザ
翻訳:岩切正一郎
演出:小川絵梨子
出演:イッセー尾形 小日向文世 大泉洋
日程・場所:
東京:2023年5月27日(土)~6月11日(日)世田谷パブリックシアター
大阪:2023年6月15日(木)~6月25日(日)サンケイホールブリーゼ
福岡:2023年6月29日(木)~6月30日(金)キャナルシティ劇場
愛知:2023年7月7日(金)~7月9日(日)東海市芸術劇場 大ホール
長野:2023年7月15日(土)~7月16日(日)まつもと市民芸術館
製作:インプレッション
公式サイト:https://art2023.jp