『ジーザス・クライスト=スーパースター』〈ジャポネスク・バージョン〉が東京 浜松町の自由劇場にて上演中だ。
劇団四季は今年7月14日に創立70周年を迎える。今年から来年にかけて代表作や再演リクエストの多かった人気作をラインナップ。
作曲は『オペラ座の怪人』『キャッツ』のアンドリュー・ロイド=ウェバー、作詞は『ライオンキング』『アイーダ』のティム・ライス、今でこそ『巨匠』だが、当時は共に20代、出世作にして記念すべきブロードウェイ・デビュー作でもある。1970年にコンセプトアルバムとして発表、翌年に上演、以来、さまざまなプロダクションが世界各地で生まれ、1980年までに世界中で興行収入2億3,700万ドル以上をあげた。
劇団四季は、大掛かりなオーデションを実施、そして1973年に『ジーザス・クライスト=スーパースター』〈ジャポネスク・バージョン〉を上演、それから1976年に〈エルサレム・バージョン〉が上演された。
白い舞台、白い衣装、白塗り、歌舞伎の隈取り、改めて観ると、ビジュアルは今観ても斬新だ。傾斜のある舞台、そして白い大八車を黒衣ではなく白衣が縦横無尽に動かし、舞台をダイナミックに変化させる。ジーンズ、デザインが当時流行ったシルエット、時代の空気感も感じさせる。そして四季は当時、大スター・越路吹雪を主演にした海外ミュージカルの公演を行っていたが、この作品は初めて四季の俳優陣を中心として上演されたもの。実力がある俳優陣が深いテーマ性のある作品を上演する、その姿勢を最初に見せた作品としても興味深い。
音楽、もちろん楽曲はアンドリュー・ロイド=ウェバー&ティム・ライスのコンビの曲に違いないのだが、日本の楽器、三味線や笛、太鼓の音をオーケストラに加えている。日本的でありつつも、元々の楽曲が持つテイストとの融合、西洋の楽器と日本の楽器の音のハーモニーが”国”を超えた新しい音を創造している。そして振付も歌舞伎風な動きなど日本らしい動きを随所に取り入れ、”ジャポネスク”と銘打っているのもよくわかる。
物語はイエス・キリストの最後の7日間。今から2000年前、ローマ帝国が支配するパレスチナ。ユダヤ人の王であるヘロデが統治していたが、実権はローマ人知事・ピラトが握っていた。さらにエルサレムではユダヤ大司教カヤパとその義父であるアンナスが権力をふるっており、民衆は3重の支配による圧政に苦しんでいた。そこに現れたのがジーザスだった。キリストの弟子・ユダの目を通して表現され、神の子と崇められるキリストは人間として描かれている本作。
一般的にはユダはキリストを裏切る者として悪名高い人物だが、ここではキリストを熱烈に愛する人物として描かれている。キリストが好きすぎるユダは彼が民衆から神の子、あるいは救世主として崇め奉られることを危惧、それを警戒する支配者によって弾圧されるのでは?と思い、キリストを売り渡してしまうキャラクターだ。キリストを愛するマリア、苦悩するピラト、単純な聖書の物語ではなく、そこにオリジナルな解釈、民衆の素早い”手のひら返し”、さまざまな景色が描かれているミュージカル。聴きどころも多く、ロックを中心とした、初演当時では画期的な作品。
そして、この〈ジャポネスク・バージョン〉、ちょっとした道具類、細かいところまで和のテイストがふんだんに。そしてこの白塗りが独特の雰囲気を醸し出す。ラスト近く、キリストが磔にされるシーンの民衆の表情がシニカルだったり、悲しげだったり、クールだったり、あるいは皮肉っぽかったり、その多様な表情が作品のクライマックスを盛り上げる。公演は7月16日まで、自由劇場にて。
概要
日程・会場:2023年6月22日〜7月16日 自由劇場
公式サイト:https://www.shiki.jp
撮影:上原タカシ