『ドン・カルロ』(Don Carlo)は、ジュゼッペ・ヴェルディ作曲によるオペラ。
パリ・オペラ座の依頼により、1865年から1866年にかけて作曲、全5幕のオペラとして1867年3月にオペラ座にて初演(フランス語では『ドン・カルロス』Don Carlos)。
ヴェルディの23作目のオペラ(ヴェルディの創作期間の中では中期の作品に分類される)。原作はフリードリヒ・フォン・シラー作の戯曲『ドン・カルロス』(1787年作)。
舞台上には何もない。人々が疲れた様子で登場する。足を引きずる者、倒れる者もいる。「冬は長い、生活は辛い、パンは高い」と歌う。そして「戦争はいつ終わる」とも歌う。戦争と貧困に喘ぐ人々、現代の世界も戦争は続いているし、物価高、天候不順による作物の高騰、どこか似ている状況。
スペインの王子ドン・カルロと許嫁であるフランスの王女エリザベッタは相思相愛の仲。ところが政略結婚によってカルロの父であるフィリッポII世に王妃として迎えられることになった。カルロにとって「まさか」の展開、青天の霹靂。修道院で哀しみに暮れるカルロ、その気持ち、状況を親友のロドリーゴに告げる。彼は友情は変わらないと言い、フランドルへ行き、プロテスタントの民を統治するように勧める。2人は共に生きることを誓い合う。ここから本格的にストーリーが動き出す。
主要な登場人物たち、個性的でキャラクターが際立っている。恋に苦しむドン・カルロ、男前で友情を大切にし、自由な考え方の持ち主であるロドリーゴ、ドン・カルロと許嫁だったエリザベッタはカルロの父であるフィリッポII世に嫁ぐのだが、それは民衆の声の後押しがあったから。彼女はその悲しい運命を受け入れ、強く生きようとする。カルロを好きなもう1人の女性・エボリ公女。その強い想いのために激しく嫉妬、とんでもない行動に出るのだが、その切ない恋心、自分のしたことの重大さに気がつき罪を償おうとする、本当は心優しい女性。
フィリッポII世、「無敵艦隊」と呼ばれるスペイン艦隊を率いて、全世界にスペインの領地を作ったことは有名。フィリッポII世はフランドル(現在のオランダ、ベルギー、ルクセンブルク周辺)の都市に重税をかけ、さらにカトリックを強制。そして息子・カルロがフランドルの新教徒と通じていた(史実によると)ので幽閉。これだけの強大な力を持っていたにもかかわらず、妻の心が自分に向いてないことを嘆く。ヒエラルキー、権力、対立、これだけの力を持つ国王に宗教裁判長は彼に「圧」をかける。宗教が絶大なる権力があった時代、強い者が弱い者を押さえつける、だが、それは現代でもあること。また、本作品、登場人物の衣装は時代がかってはおらず、現代風(20、30年後のスペインという設定だそう)。描かれている内容は普遍的であることがわかる。
作曲はジュゼッペ・ヴェルディ、言わずと知れた天才、もちろん、聴きどころは多い。ドン・カルロとロドリーゴが歌う、意気投合し、義兄弟的な関係になるが、ここで歌われる歌は勇壮で元気が出る楽曲、2人の友情を示す場面でしばしば登場。また、エボリ公女が感情を爆発させるシーン、手紙に騙されるカルロ、現れたのはエボリ公女、顔を隠してるので、カルロは別人と気が付かないで愛を告白、ところが違うとわかり、エボリ公女も王妃とカルロの関係を理解する。この無茶苦茶に怒り狂った彼女の歌は圧巻、そして後半にエボリ公女は後悔に苛まれる。ここも聞きどころだが、彼女の心の変化を楽曲で表現、熱演が光る。エボリ公女の恋敵・エリザベッタ、彼女が歌うシーン、カルロと結ばれないことを知り、歌う場面、カルロへの愛が蘇るシーン、気丈で心優しいなエリザベッタのキャラクターがよくわかる。権力者のフィリッポII世が歌う、孤独感いっぱいの歌、恋が叶わない、物事がどんどん悪くなる一方のカルロの悲痛な歌声、最期まで男前のロドリーゴ、辞世のアリアなど、多数。また、国王、ロドリーゴ、エボリ、エリザベッタの四重唱、それぞれの独白は胸に響く。子供のシーン、ここは象徴的、子供たちは全員白い衣装、それが彼らの行動をより際立たせる役割を担っている。
新教と旧教の対立、それから個人の葛藤、カルロとエリザベッタの結ばれない愛、エリザベッタに対するエボリ公女の嫉妬、カルロとロドリーゴの友情、妻から愛されないフィリッポII世の孤独など、上演時間は長めだが、それでも観客をグッと引き込む。舞台上に現れる菱形の壁、これが照明によって様々な表情を見せる、シンプルな舞台装置。今年は二期会創立70周年とのこと。シュトゥットガルト州立歌劇場との提携公演、シュトゥットガルト州立歌劇場は1912年創立だが、前身の宮廷劇場は18世紀初頭から存在、通算して350年以上の歴史がある。
ものがたり
スペインの王子ドン・カルロの許嫁、フランスの王女エリザベッタは、政略結婚によってカルロの父であるフィリッポII世に王妃として迎えられる。絶望するカルロに対し、親友ロドリーゴは「圧政に苦しむ民を救おうと立ち上がろう」と彼を奮い立たせる。しかし、カルロは血気あまって王に向かって剣を抜いてしまった罪で捕まってしまう。
一方、カルロを慕うエボリ公女は、思いがけない出来事からカルロの本心を知ってしまい、エリザベッタへの嫉妬を燃えあがらせ、彼女を陥れる。さらに、カルロを救おうとしたロドリーゴは宗教裁判長の刺客により殺害される。ロドリーゴの身代わりによって解放されたカルロは、フランドルへ向かう前にエリザベッタに別れを告げる。そこへ国王と宗教裁判長が現れ、2人を逮捕しようとするが、前王カルロV世の霊声が響き渡り、カルロは前王の霊廟に引き込まれていく。
概要
《二期会創立70周年記念公演》
シュトゥットガルト州立歌劇場との提携公演
東京二期会オペラ劇場
ドン・カルロ〈新制作〉
指揮:レオナルド・シーニ
演出:ロッテ・デ・ベア
演出補:カルメン・クルーゼ
配役
フィリッポII世:妻屋秀和/ジョン ハオ
ドン・カルロ: 城宏憲/樋口達哉
ロドリーゴ:清水勇磨/小林啓倫
宗教裁判長:大塚博章/狩野賢一
修道士:清水宏樹/畠山 茂
エリザベッタ: 木下美穂子/竹多倫子
エボリ公女:加藤のぞみ/清水華澄
テバルド:守谷由香/中野亜維里
レルマ伯爵&王室の布告者:児玉和弘/前川健生
天よりの声:雨笠佳奈/七澤 結
6人の代議士:
岸本 大
寺西一真
外崎広弥
宮城島 康
宮下嘉彦
目黒知史
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団
舞台美術:クリストフ・ヘッツァー
照明:アレックス・ブロック
振付:ラン・アーサー・ブラウン
合唱指揮:佐藤 宏
演出助手:太田麻衣子
舞台監督:村田健輔
公演監督:大野徹也
公演監督補:永井和子
主催:公益財団法人東京二期会