「Swimming with Sharks」は 94 年にハリウッド で映画として製作され(邦題「ザ・プロデューサー」 主演:ケヴィン・スペイシー)、07 年にロンドン・ウエストエンドで舞台化(主演:クリスチャン・スレイタ ー)、いずれも大きな話題に。観客の胃までも痛くなる程に理不尽で横暴な大物映画プロデューサーと、夢を持って映画業界に足を踏み入れた 新人アシスタントの関係性を中心に、欲望うごめく世 界に生きる人間模様を、速射砲の様に繰り広げられる台詞の数々で描き出していく秀作。
オリジナル映画版の脚本・監督を手がけたジョージ・ホアンは、ルーカス・フィルムでのインターン、コロンビア映画副社長のアシ スタントとして働いた他、パラマウントピクチャーズ、ワーナーブラザーズなどを渡り歩き、自身が見聞きしたハリウッドでの実話から着想を得て、皮肉とユーモアたっぷりにこの作品を書き下ろした。作品中で描かれる、映画界でのし上がるための熾烈 なマウンティングは、まさに今、現実のハリウッドで起きている様々なハラスメント問題を想起させる。また、舞台版戯曲では、9・11 テロが娯楽産業に与えた影響を背景に織り込んで物語にさらに奥行きを与えた。
演出は、読売演劇大賞優秀演出家賞を3度受賞 している千葉哲也。 本作の主人公となる、権力を振りかざす大物映画プロデューサー・バディ役を、テレビや映画、舞台など幅広いジャンルで 活躍する田中哲司が、脚本家を志す新人アシスタント・ガイ役を、この春の主演ドラマにて大きな話題を呼んだ田中圭が務める。更に、情熱と野心を秘めたフリープロデューサー・ド ーン役として、野波麻帆が、映画会社会長・サイラス役で演出の千葉哲也も出演する。
舞台上のセットは無機質で都会的な印象、物語の出だしはひっきりなしにかかってくる電話、忙しく応対する男・レックス(石田佳央)、キャッチを使って素早く、そつなく話している。そこへ新入りのガイ(田中圭)がやってくるが、いかにも、な風貌、リュックを背負い、いわゆる『スレてない』印象の若者だ。そこへハリウッドの大物プロデューサーであるバディ・アッカーマン(田中哲司)が入ってくる。いかにも『THE 業界』なファッション、ガイと簡単な挨拶をするや否やヘッドセットをつけて電話の対応を始める。キョロキョロ、ほぼ『お上りさん』状態なガイ。彼は映画界でのサクセスを夢みており、バディの元で働き始めるのだが、バディの傍若無人ぶりはかなり激しい。無理難題はもちろん、暴言浴びせまくりで、要するに『パワハラ』。しかし、ガイは脚本家として成功したい一心で我慢に我慢を重ねる。
そこへフリーのプロデューサーであるドーン(野波麻帆)が企画を売り込みにくる。さらに高みを目指しているバディは会長であるサライス(千葉哲也)にアピールするためにドーンの企画を利用しようと考え、新人のガイにある提案をする。
業界で権力を得たい、富と名声が欲しい、成功したい、そんな欲望に忠実な人々の織りなす駆け引き、せめぎ合い、時には力でねじ伏せる。コインの裏表のように信頼と猜疑心が現れる。さらに男と女の恋愛模様がクロスし、各々の登場人物たちが己の『本懐』を遂げるためにうごめく。その『本懐』のためなら、何をやってもいい、いや、もうなりふり構ってはいられない。ある意味、己の心に正直な人々、そして彼らが発する『ボディランゲージ』、バディは椅子に座ると足をテーブルに投げ出し、横柄で不遜な態度を取る。力があることを見せつけ、ガイはタジタジになる。しかし、バディが所属する大手映画製作会社キーストーンピクチャーズの会長・サライスもまたふん反り返って足をテーブルに投げ出す。
厳然たるヒエラルキーがそこに存在し、ガイは下っ端。バディが激怒し、筆記用具やらなんやらを床にぶちまけたり、わざとコーヒーを床にこぼすシーンがあるが、それをガイは床に這いつくばって拾い、コーヒーを雑巾で拭く。ビジュアル的にそれぞれの立場を見せていてわかり易い。「お前は俺のためだけに存在する」とバディはガイに言い放つ。ヘマをすれば「クソガキ!」と罵る。さらに「お前は道具だ」ともいう。そんなことを言っておきながらバディは高らかに「世界に貢献する映画を!」と得意満面で言う。小道具の中にオスカー像、彼の名誉の証だ。またガイはバディの真似をしてテーブルにあるゼンマイのおもちゃを動かすシーンがあるが、ここは興味深い場面。またシーンの切り替えをテーブルのベルの音で表現するが、このベルはよくファミレス等で見かける、人を呼ぶあのベル。これも象徴的に使われていて心憎い演出だ。
舞台のセット、小道具、全てがクライマックスへとつながる。物語の展開はスピーディかつ大きくうねり、それぞれの欲望へと向かっていく。シリアスなテーマ、題材だが、クスリと笑える場面もある。ブラックユーモアに溢れるコメディー、ここまでじゃなくても多分、日本の会社でも、「ある、ある」。
それにしてもよい座組、田中哲司演じる大物プロデューサー・バディは登場した瞬間になかなかに感じの悪い業界人風を吹かせ、田中圭のガイは出だしは初々しかったが次第に『知恵』がついたのか『手垢』がついたのか、だんだんと図太く、逞しくなっていく様を好演。演出の千葉哲也がほぼワンポイントリリーフ的に登場するが、しっかりと爪痕を残す。フリーのプロデューサー・ドーンの野波麻帆は色香を放ち、ガイを虜にしつつ、己の欲望に忠実で野心満々な女性を熱演。派手な演出ではないが、照明や音楽もよく練られておりスタイリッシュな興味深い秀作。
<演出家・出演者コメント>
[演出/サライス役:千葉哲也]
硬質な芝居というより、柔らかい中に毒のある作品になっていればいいなと思います。僕はどこか力の抜けた演劇が好きなんだな、と改めて実感しました。出演者もスタッフもとてもいいチームで、穏やかに稽古に取り組めました。ハリウッドが舞台ではありますが、人生の中では誰しもに起こりうる、集団社会で大きなものに潰される軋轢、不確かなものを確かだと思ってしまう人間の姿が描かれていると思います。「人生は映画じゃない」という台詞が出てきますが、観ている皆さんにどう響くのか?共感できる人、できない人、感じ方はそれぞれですが、何か持ち帰ってもらうものがあれば嬉しいですね。
[バディ・アッカーマン役:田中哲司]
緊張や不安はもちろんありますが、初めてご一緒した演出の千葉さんが自由を許してくれるので、余白をもって、力を抜いて、固まりすぎずに舞台上で起こることを楽しみたいと思います。最初に台本を読んだ時から面白いと思っていたラストシーンは実際に演じてみてもやっぱり面白い。圭くんのガイは物語の中でどんどんカッコよく成長していくし、野波さんのドーンは彼女にしか出せない雰囲気を放っているので、自分も一瞬も気をぬくことができないですね。僕自身は大人が楽しめるブラックコメディだと捉えているので、真面目な作品だと構えることなく、肩の力を抜いて観に来てください。
[ガイ役:田中圭]
今は幕が開いたらどうなるんだろう、やってみるしかない!という気持ちです。単純なストーリーにみえて、中で渦巻いているものが多く、何が本当か嘘かわからなくなる。自分でも日々作品の見え方が変わっていきます。演出の千葉さん、哲司さんや野波さんとの関係性を信じて、周りからもらうものを大切にしたいです。僕自身、響く台詞が多く、今この作品に出演する意味を感じます。この舞台を観た後に、僕たちのような作り手側に対して見え方が少し変わる、そんな部分があればいいなと思います。
[ドーン・ロッカード役:野波麻帆]
千葉さんが役者に対して絶対に否定しない演出をされるので、稽古の中でいろいろな角度からドーンという役を探せる時間を過ごせたことをとても感謝しています。哲司さんも圭さんも日々変化しているし、自分も毎日新鮮でありたいですね。本番でも皆で変わっていけるのではと思えることが幸せです。この作品の登場人物はみんなが必死で戦っているけれど、お互いの情熱がうまくかみ合わない。誰が悪いということではなく、それぞれの歯車が狂ってしまう気持ち悪さを是非観てもらえたらと思っています。
<ストーリー>
ハリウッドの大手映画製作会社キーストーンピクチャーズの大物プロデューサー・バディ・アッカーマン(田中哲司)は、 数々の作品をヒットさせ、業界中にその名を広く知られていた。人間としての評判は最悪だが、彼の元で働いたアシスタント は皆ハリウッドで成功すると言われている。脚本家志望のガイ(田中圭)は、そのポジションを手にして意気揚々。バディか らの挨拶代わりの痛烈な侮辱の言葉と共に、ガイの屈辱に耐えながら無理難題に対応する日々が始まった。 そんな中、新作の企画を売り込みに来たフリーの映画プロデューサー・ドーン(野波麻帆)にガイは心を奪われ、やがて恋人 関係になる。制作部門のトップへの昇進に命をかけるバディは、キーストーン会長のサイラス(千葉哲也)にアピールするた め、ドーンの企画を利用しようと一計を案じ、ガイにある提案をもちかける。
信頼と懐疑心、名誉と屈辱、希望と失意、それぞれの思惑が入り乱れる中、ある出来事をきっかけに、バディとガイの 歯車が狂い始める――――
【概要】
公演名 :関西テレビ放送開局60周年記念舞台公演「サメと泳ぐ」
原作 :ジョージ・ホアン
上演台本:マイケル・レスリー
演出 :千葉哲也
翻訳 :徐賀世子
出演 :田中哲司、田中圭、野波麻帆、千葉哲也 他
<東京公演>
日程:2018年9月1日(土)~9日(日) 全 12 回公演
会場:世田谷パブリックシアター
お問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(10:00~18:00)
主催:関西テレビ放送
運営協力:サンライズプロモーション東京
<仙台公演>
日程:9月11日(火) 18:30 開演
会場:電力ホール
お問合せ:仙台放送 022-268-2174(平日 9:30~17:30)
主催:仙台放送/関西テレビ放送
<兵庫公演>
日程:9月14日(金)~17日(月・祝)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
お問合せ:芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休/祝日の場合翌日)
主催:関西テレビ放送/兵庫県/兵庫県立芸術文化センター
<福岡公演>
日程:9月20日(木)18:30 開演 / 9月21日(金)13:00 開演
会場:ももちパレス
お問合せ:ピクニックチケットセンター 050-3539-8330(平日 11:00~17:00)
主催:ピクニック / 関西テレビ放送
共催:福岡県立ももち文化センター
<愛媛公演>
日程:9月28日(金)18:30 開演
会場: 松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
お問合せ:テレビ愛媛 事業部 089-933-0322(平日 9:30~17:00)
主催:テレビ愛媛
<広島公演>
日程:10月4日(木)18:30 開演
会場:JMS アステールプラザ大ホール
お問合せ:TSS 事業部 082-253-1010 (平日 10:00~18:00)
主催:テレビ新広島
企画・製作 :関西テレビ放送 <関西テレビ放送開局 60 周年記念公演>
公式サイト :https://www.ktv.jp/event/sharks/
お問合せ :関西テレビ放送 公演事務局 06-6314-8262(平日 10:30~17:30)
文:Hiromi Koh