新国立劇場『シモン・ボッカネグラ』開幕

新国立劇場にヴェルディの『シモン・ボッカネグラ』が初登場。数々の伝説的プロダクションで名を馳せる世界的演出家ピエール・オーディが現代アートの世界トップスター、アニッシュ・カプーアとタッグを組み、抗争の歴史の中で平和を求めたシモン・ボッカネグラの孤独を浮き彫りに。そして世界主要劇場を主役として飛び回るトップ歌手陣が勢揃いし、重厚な歴史劇を展開。この作品は1857年にヴェネツィアで初演したものの大失敗に終わり、24年後、すでに老境に差し掛かったヴェルディによって大幅な改訂が行われ、アルリーゴ・ボーイトが台本を書き直し、新たな音楽も加え、生まれ変わった『シモン・ボッカネグラ』、1881年のミラノで大きな成功を収める。ヴェルディの壮年期と老年期の楽曲が一つの作品で楽しめる貴重な作品とも言える。

演出はエクサン・プロヴァンス音楽祭総監督、その革新精神でオペラ界をリードする演出家ピエール・オーディ。インパクトの大きな大規模彫刻やパブリック・アートで世界を席巻するアーティスト、アニッシュ・カプーアとのコラボレーション。シモンの苦悩、人間への洞察がクローズアップされる美的で壮大な世界に期待が集まる。本プロダクションはフィンランド国立歌劇場及びテアトロ・レアルとの共同制作で、新国立劇場での初演後にヘルシンキ、マドリードでの上演が予定されている。

指揮はイタリア・オペラへも情熱を注ぐ大野和士自らが当たる。シモンにはヴェルディ・バリトンとして世界を飛び回り、本年5月『リゴレット』で張りのある華やかな声と完璧な声楽テクニック、そして繊細にして段違いのスケールの表現でオペラパレスを熱狂させたロベルト・フロンターリが再び登場。宿敵フィエスコにはミラノ・ スカラ座をはじめ著名劇場でバスの諸役を務め、新国立劇場では <オペラ夏の祭典>『トゥーランドット』ティムールで感動を誘ったリッカルド・ザネッラート、シモンを裏切るパオロに22年新国立劇場 でのドン・ジョヴァンニ役のしなやかな表現で劇場中を魅了した実力派シモーネ・アルベルギーニと重厚な布陣。アメーリアにスター・ソプラノとして日本でもファンの多いイリーナ・ルング、そして恋人ガ ブリエーレには輝かしい声が持ち味のルチアーノ・ガンチが待望の登場を果たす。世界のオペラファン必聴必見の豪華歌手陣がこの秋の東京・新国立劇場に勢揃いするのも魅力。

舞台装置が現代アート、白、赤、黒が基調。プロローグでは三角形のセットが複数、船の帆、港。それから1幕に。逆さまの火山。煮えたぎるマグマを思わせる鮮烈な赤が印象的。物語の主人公は14世紀に実在した初代ジェノヴァ総督シモン・ボッカネグラ。プロローグは14世紀前半のイタリアの港町ジェノヴァ。当時のジェノヴァ共和国は貴族同士の対立、そして貴族vs平民の対立もあり、さしずめ内乱状態。平民階級のパオロは、総督選挙のために、貴族にも対抗できる海賊のシモンを推薦、だが当のシモンは総督の地位に乗り気ではなかった。パオロはシモンに、総督になればマリアを救えるかも、とささやく。シモンとマリアは愛し合う仲、マリアの父フィエスコがそれに反対し、マリアを館に閉じ込めており、不運にもマリアはこのとき命を落とす。マリアに会わせてほしいというシモンに、フィエスコは、マリアとの間にもうけた子供を引き渡すように言うが、シモンは、子供はある老婆の手で養育されていたが、老婆が亡くなると子供の行方がわからなくなったという。フィエスコが立ち去った後、シモンは館の扉が開いているのに気づき、中に入ると、そこには亡きマリア。シモンは悲しみに打ちひしがれる中、選挙の結果、自分が総督に選ばれたことを知る。その次の1幕ではそこから一気に25年の月日が流れている。

グリマルディ家の娘アメーリアには、恋人がいた、それが貴族の青年ガブリエーレ。総督シモンは、グリマルディ家の財産を没収するため、忠臣のパオロをアメーリアと結婚させようとするも、シモンはアメーリアと話しているうちに、なんとお互いが生き別れた父と娘だったことに気が付く。ここのシモンとアメーリアの二重唱はドラマチック。シモンから結婚話を帳消しにされたパオロは、シモンを逆恨み、パオロは部下を使いアメーリアを誘拐、それをガブリエーレはシモンの仕業と勘違いしてしまう。

25分の休憩をはさんで第2幕と第3幕。およそ1時間でジェットコースターのような怒涛の展開。パオロはシモンに毒を、飲水(史実ではワイン)の中に毒を入れ、知らずに飲んでしまうシモン、そして眠ってしまう。そこをガブリエーレは短剣で刺そうとするもそれをアメーリアが阻止、この2人が実は親娘であることを知る。だか、時すでに遅し、貴族派の群衆が決起して総督シモンの宮殿を…。貴族の一員としてガブリエーレは自らが貴族派を説得し、和平を導こうと考える。シモンは、その成功の暁にはアメーリアとの結婚を許すと彼に告げ、騒乱も収束、ガブリエーレとアメーリアの婚礼の式が愛でたく始まり、その中でパオロは反乱軍に加わった罪で極刑を受けて連行。だが、シモンは毒が身体中に回って瀕死状態。そこになんと、25年間雲隠れしていたフィエスコがシモンの前に現れた、積年の恨みを晴らすために。なんと彼は自分が死んだことにして、偽名でグリマルディ家でアメーリアの養育にたずさわっていた、というシモンにとっては衝撃の事実。生死の境目にあるシモンはアメーリアがマリアの産み落とした娘だということをフィエスコに打ち明け、恨みと憎しみにピリオドを打つ。
シモンはアメーリアに、フィエスコが実の祖父であることを伝えて、ガブリエーレには総督の地位を譲ると宣言、息絶える。

重厚なオーケストラ、それが切れ目なく続く印象、音楽とドラマの融合。また主要5人の登場人物の歌のアンサンブルは見事なまでの聞き応え。紅一点のアメーリアはソプラノ、力強い歌唱、イリーナ・ルング、カーテンコールでは大きな拍手。そして男性陣、シモンはバリトン、シモーネ・アルベルギーニ、フィエスコはバス、リッカルド・ザネッラート、パオロはバス・バリトン、シモーネ・アルベルギーニ、男性陣の重低音、音楽にさらに厚みをもたらし、しっかりした歌声が響き渡る。ガブリエーレはテノール、ルチアーノ・ガンチ、待望の登場。複雑なドラマ、軸はタイトルロールのシモン・・ボッカネグラの生き様、人生であるが、そこに絡まる人間関係と思惑、男女の恋愛、親子の絆、だが人は弱い生き物、平民派と貴族派の争い、嫉妬や憎しみに絡め取られてしまい、シモンは最終的には、そのために命を落とす。緊張感のあるドラマに呼応する音楽、重唱、合唱、手堅い布陣で圧倒的なドラマを魅せる。フィエスコの沈痛なアリア「引き裂かれた父の心は」、アメーリアの「暁に星と海はほほえみ」、ガブリエーレの「わが心に炎が燃える」、シモンの「慰めてくれ、海のそよ風よ」など聴きどころ多く、数えきれない。斬新かつインパクトのある舞台セットと相まって、圧倒的なドラマを観客に見せる。

公演は11月15日から26日までオペラパレスにて上演。

概要
新国立劇場 2023/2024 シーズン オペラ ジュゼッペ・ヴェルディ 『シモン・ボッカネグラ』
日程・会場:2023年11月15日(水)19:00/18日(土)14:00/21日(火)14:00/23日(木・祝)14:00/26日(日)14:00 新国立劇場 オペラパレス
指揮:大野和士
演出:ピエール・オーディ
美術:アニッシュ・カプーア
出演・配役
シモン・ボッカネグラ:ロベルト・フロンターリ
アメーリア(マリア・ボッカネグラ):イリーナ・ルング
ヤコポ・フィエスコ:リッカルド・ザネッラート
ガブリエーレ・アドルノ:ルチアーノ・ガンチ
パオロ・アルビアーニ:シモーネ・アルベルギーニ
ピエトロ:須藤慎吾
隊長:村上敏明
侍女:鈴木涼子
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:大野和士
共同制作:フィンランド国立歌劇場、テアトロ・レアル
主催:公益財団法人新国立劇場運営財団、独立行政法人日本芸術文化振興会、文化庁
制作:新国立劇場
委託:令和5年度日本博2.0事業(委託型)

WEB:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/simonboccanegra/

撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場