今夏7月24日に開幕を控え、今年で44年目を迎えるブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』。もはや夏の風物詩とも言える公演、初演は1981年、新宿コマ劇場。初代ピーター・パンは榊原郁恵(※榊はキヘンに神)。それからいくつもの夢を紡いできた。今年は第44回ホリプロタレントスカウトキャラバン(TSC)「ミュージカル次世代スターオーディション」でグランプリを獲得した山﨑玲奈が昨年に引き続きタイトルロールを務め、宿敵の海賊フック船長役も昨年に引き続き小野田龍之介が続投する。演出・振付を担当するのは、長谷川寧。ダイナミックな振付やパルクールを用いた演出で大きな話題となった新生『ピーター・パン』。今年はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、ピーター・パン役の山﨑玲奈さんとフック船長役の小野田龍之介さんのクロストークが実現した。
ーー昨年の公演の思い出、エピソード…初フライング体験ですとか、誰もが知ってるキャラクターを演じたにあたってのお話などお願いいたします。
山﨑:はい。もちろん、フライングも初体験、アクションも初体験、初めてのことを色々やらせていただいた年ではありました。飛ぶのは大好きでとっても楽しかったので、今年はさらにもっと、躍動感あふれる飛び方にチャレンジしたいです。アクションも小野田さんに食らいついて、今年はもっとかっこよく決めたいです。お稽古場では本当に皆さんとっても温かく。体力を使う舞台だったのですが、皆さんが笑って和ませてくれたり、アンサンブルの皆さんもすごく話しかけてくださって…本当に楽しく毎日お稽古することができてとても充実した時間でした。
ーーフライングはどんな感じでしょうか。
山﨑:楽しいです。ふわふわ浮いてる感じ…浮いてるんですけど…フワッと『雲になりました』みたいな気持ちで飛んでます。また、ジェットコースターに乗るような躍動感もあって楽しいですね。
ーー舞台客席から見てるとフライング、とても楽しそうにやっていらっしゃいますよね。
山﨑:高いところは大好きなので本当にとっても楽しいですし、ずっと地面にいるとなんか逆に飛びたい気持ちになる、本当に鳥の気分になれてとても楽しかったです。
ーー小野田さんは世界一有名な船長を演じてみていかがでしたか。
小野田:僕はもう本当に子供の頃から『ピーター・パン』が大好きだったので、フック船長は本当に世界一有名な船長で、フックは悪役の中で大好きなキャラクター、男の子はみんな多分フック船長のまねをするだろうなって。僕も子供の頃よく遊んでましたし、もともとディズニー映画が大好きだったので、ミュージカル版も子供の頃に見た記憶はあります。ディズニーアニメーションで育ってきて、夜寝る前に『ピーター・パン』のVHSを毎日流して見てまして…。だから去年は自分がその一部になれるのは非常に興奮しました。今は『ピーター・パン』はどう受け入れられてるんだろうとか、どう見られるんだろうなってずっと稽古中思いながらやってましたが、僕はもう初日の客席に度肝を抜かれました、いまもこんなに大人気なんだと…お客様が、大人から子供まで、本当にかぶりつきで観てて、一緒にワーッて騒いで…去年から新演出で全部変わってますけど、日本では40年以上続いている演目ではありますが、ファンタジーと夢を与えている気がします。連日ほぼ満席のお客様で、この作品は、日本でこんなにも、いまだに愛されてたんだって…感動と興奮を味わいました。
ーーフック船長の見どころといえば仲間のパイレーツとのやり取りとアクションですよね。
小野田:個性豊かなパイレーツたちがいて、その日その日のフックのテンションも変わってきますので、そのやり取りが非常に面白かった。ピーターとの戦いに関して言うと、これ非常にクレームなんですけど(笑)、ピーターが飛べば、私たちは走らなきゃいけないですよね。ピーターは飛んでて楽しいかもしれないけれども、その分こっちは陸地を爆走するという…しかも去年からパルクールっていうエッセンスも入りまして、90度のところを走って登る、片手にフックを付けて…ガーッて駆け上るわけですよ、重いコスチュームで…もうクレームですね(笑)、大変ですよ〜先輩を走らせないでくれってよく言ってて(笑)
ーー確かにピーターはふわっと飛べちゃいますが、フックは地上でとにかく全力疾走。
小野田:全力疾走!ピーターとフックの戦うシーンは本当に非常に密度の濃いシーンで緊張感があるものを作りたいというのがあって、演出の長谷川さんしかり、アクション・パルクールのHAYATEさんしかり、本当にガーッて戦う…そういう部分の要望も多かったので、今年もそういうふうになってくると思いますけれども、去年は緊張感のあるシーンができたんじゃないかなと思います。
ーー確かに去年のアクションは結構パワフルでした。
小野田:印象が違いますよね。
ーー全く同じ話でありながら。
小野田:演出家が変わるだけでここまで変わるかっていう…近年ではこの前が森新太郎さんで、その前が藤田俊太郎さん。お2人ともストレートプレイの芝居をずっとおやりになってた方で、お二方は『ピーター・パン』で初ミュージカル演出。演出は玉野和紀さんぶりに身体表現をもともとやってた長谷川さん、やっぱり演出家の色が出るなと…でも演出家の色がいくら出ても面白い、そういった無限大の可能性を持ってるのは『ピーター・パン』の凄さだなと思いますし、感動ポイントも変わってくると思います。近年続いたシンプルにお芝居テイストな『ピーター・パン』から去年はガラッと変わった印象を持っていただけただろうなとも思いますし、それを2人で立ち上げられたのは良かったです。
ーーお二人は今年で2年目ですけれども、初演から44年。
山﨑:すごい!
ーー初演のときに、観劇してた子供たちはいいおじさんとおばさん(笑)
小野田:もしかしたらお孫さんがいる方もいらっしゃるかもしれない。
ーー初演のときに、例えば6歳だったら。
小野田:50歳、すごいですよね。新宿コマもなくなり…。
ーー青山劇場も…。
小野田:初演から40年以上。それだけの年月が経ってもその時代の演出家をちゃんと起用する、ただのレプリカではなく、アップデートしてやり続けているのが面白いし、それがネバーランドの無限大の広がりだなって思います。これからもずっと続いていくと思うし、継続させるためには、毎年続いているとはいえ、俳優、演出家始め、スタッフ陣全員、油断はできません。自分たちの代で打ち止めになったら俺たちの責任になっちゃう。
ーーコロナも落ち着いてきましたし、昨年の公演を踏まえて、今年はちょっとこんなことをしてみたいな、何かこんなふうにしたいなとか、それから去年を超えるにはどうしようかな、というのはございますか。
山﨑:去年を超えるには、もちろんお芝居や歌、ダンスももっともっと極めていきたいなと思います。ウェンディ役が岡部麟さんから鈴木梨央さんになって、ウェンディが変わることはピーター・パンにとってもすごい変化があること。1幕の最初はほぼウェンディとの会話から始まるので、去年の岡部麟さんと一緒に生み出されたウェンディとの空間とはまた違う、鈴木梨央さんとその空間を生み出していくためのお稽古がすごく楽しみですし、梨央さんと試行錯誤しながら、またネバーランドに行けるように頑張りたいなって思ってます。
ーーフック船長は、今年はどういう戦いを?
小野田:去年熱い熱い公演をやりましたが、まずそこで染みついた垢を落とし、稽古で余分なものを削ぎ落としながら…どうしても再演で、特にこういう無限大な情熱的なファンタジー作品って楽しくなっちゃうし、付け足したくなっちゃうのですが、そういう部分をなるべくカットしながらまずは挑んでいく…私たちは続投させていただきますが、新しいキャストの方々もいらっしゃいますし、僕はダーリング氏もやりますが、奥様が2年ぶりに戻ってきます。続投の方、初参加の方、久しぶりな方、いろんなキャリアの方々がこの作品のチームに集まってますので、そういったエッセンスをキャッチできるように、僕は余白をいっぱいあけておきたいなと思います。勢いだけでやろうとするとできちゃう、でもそれだと中身がなくなってしまうので、そうならないように、稽古場の段階でまず台本に戻って、言葉とかあるべき姿をもう一回…どうしてもプラスアルファしたくなると思うんだけど…去年よかったところなど…心がけていきたいなと。ピーターが子供として生きる葛藤とか、この作品はハートフルで冒険心に溢れた楽しいわくわくする作品って表向きはそう見えるけれど、実は結構子供のままでいたかったりする、ちょっとわがままな欲求とか、それが大人になって時間に追われて、それがチクタクワニ、時計だったりとか、生きる上でのいろんな世代のいろんな葛藤がすごく詰め込まれているのがネバーランドの世界だと思うんです。そういうところがもっとスピーディーにクリアにお届けすることができたら、輪郭がもっとクリアになっていったらいいなって。あとはピーター・パンをやる役者さんは10代、若い俳優さんが多い。彼女たちの成長記録として、いかにどんな成長が見られるのかっていうのは、これは続投したフック船長しか感じられない部分であるかもしれませんが、それは舞台に立つ姿ではなく、稽古場でどういう取り組み方をしてどういう苦労をしてとかそういうところ…去年のお披露目、僕もそうですけれども、お披露目したピーター・パンが、今年はいかにその殻を打ち破って、ダイナミックな進化を遂げていくのかは、今からすごく楽しみです。
ーーやっぱりピーター・パンはずっと子供のままでいたい、そんな元気なピーターがフック船長相手にチャンバラをする、そういうイメージがどうしてもありますけれども、作品としては奥深い。フック船長が演じる役者さんとダーリング氏は同じ俳優さんが演じることに意味がありますし、それからウェンディが最後に大人になりますが同じ役者さんが、早替わりで演じるところが、作品の奥深さ、面白さかなと思いますね。
山﨑:そうですね。私も子供の頃『ピーター・パン』拝見させていただいて、奥深さもそうですが、子供の頃に見たときは、やっぱりネバーランドの世界観は楽しいし、見ているだけでわくわくするような、帰ってもピーター・パンごっこをやりたくなるような、とても楽しいミュージカルだなっていう記憶だったんですけど、改めて中学生になってからこの作品を見たとき、涙が出ちゃうような感動のシーンもあって、以前は”楽しい”で終わっていた作品が、何かその奥深さを知るというんでしょうか、ウェンディ目線で見ながらも、ピーター・パンの孤独が垣間見えて本当に涙しました。子供の頃は楽しくはしゃいでいましたが、中学生、高校生になって改めて観ると涙する作品で、20歳を超えたり、親世代になって観たらきっとまた違う視点で観れるのはすごく素敵、そこが『ピーター・パン』の素晴らしいところだと思います。
小野田:フックとダーリングが同じ役者だっていうのは僕も本当に面白い作り方だと思いますし、今回の長谷川さんの演出の面白いところ、全てを人間の力でやることだと思うんです。あとは着ぐるみ的キャラクターが全く出てこない。ワニは影で、実際には登場していない。また1幕でダーリング家族が「時間がない、時間がない」、どこの家庭にもある、時間に追われた大人の姿をリアルに表現している。場面がネバーランドに変わった時も、時間を司った何かに追われているフック…その後、チクタクワニに追われる、本当のワニに追われているのではなく、大人になってしまったがために時間や何かの制限、いろんなものに追われている大人を表現しているのがダーリング氏とフック船長の共通しているところ。それを経てフックは死にますけれども、実はワニに食べられて死んだのか、ピーターが殺したのか、それはお客様の想像の中で感じてくださればいいのですが、それを経て、またダーリングの家に戻ってきた時に、人生を解放されたダーリング、いろんなものを経て、解き放たれたダーリングがそこにいるんですよね。それって時間とかいろんなものを忘れることができた大人の姿というんでしょうか、もしかしたら死後の世界をちょっと暗示している部分もあるかもしれないし、そこまでいかなくてもいいけれども、ガーッとがんじがらめになっているところから、そんなに頑張らなくてもいいんだよっていう大人への応援歌じゃないけれども、そっと寄り添ってくれる感覚になれたダーリング、全てのドラマが続いているので。ダーリング氏は冒頭と最後しか出てこないけれども、フック船長を通して全編、ちゃんとダーリング氏がいるような見方ができるので、構造としては非常に面白いなって思いますね。
ーー最後にお客様へのメッセージを。
山﨑:ピーター・パンはその世代によって観ると本当に違う感じ方があると思うので、ぜひ家族で見に来てほしいし、子供から大人の方まで楽しめる作品だと思うので、ぜひ過去に観に来てくださってた方も、迷ってる方も、みんなで一緒にネバーランドにお越しください!!
小野田:本当にどの時代でも愛される作品なんだなっていうのを去年出演して非常に実感しました。それは出演者としても本当に嬉しかったし、世の中こんなに変わったよねって言ってるけどやっぱり変わってないじゃん!っていう…本来人間が求めてるものって変わらないじゃん!っていうのを感じられた部分、現代を生きるイチ人間としても嬉しかったし、ネット社会になってきた昨今ですけれども、でもこのミュージカルって初観劇が『ピーター・パン』っていうお子様がたくさんいらっしゃる作品の一つだと思うんですよ。この作品は年齢制限がない。劇場に子供と一緒に行く大人の役割、これ非常に大きな役割を果たすと思うんですよね。やっぱり家族、友人、どういう皆様で来るかわかりませんが、生身の人間だけで過ごす数時間、その中で感動や驚き、いろんなものを実感できるって本当に豊かなことだと思います。この生の感動やわくわくをぜひ、大人から子供まで楽しんでいただければなと思いますので、ぜひ!ご家族揃って観に来てほしいなと思います。
<2023年公演レポ記事>
ストーリー
ロンドンに住むダーリング夫妻の子どもたち、ウェンディ、ジョン、マイケルの部屋に、空を飛べる不思議な男の子が“あるもの”を取りに忍び込みます。その子の名前は、ピーター・パン。ピーターは3人の子どもたちを連れ、いつまでも子どもでいられる“ネバーランド”へ飛び立ちます。 ウェンディはネバーランドで出会った迷子たちの“お母さん”になり、タイガー・リリー率いるモリビト(森の住人たち)とも仲良くなりました。ウェンディたちは、みんなと楽しく愉快な時を過ごしながらも、いつしか我が家が恋しくなり、迷子たちも連れてロンドンの家に戻ることにします。 一方、フック船長率いるパイレーツたちはウェンディを自分たちの“お母さん”にしようと、捕まえてしまいます。それを知ったピーターは、ティンカーベルとともに海賊船へ向かい、リリーたちと協力して、フック船長やパイレーツたちとの激しい戦いの末、ウェンディを救います。 いよいよ、ロンドンに帰る時、ピーターとの最後の別れを惜しむウェンディたち。ウェンディは彼にお願いをします。「春の大掃除の季節にはきっと迎えにきてね。」と。時が経ち、約束を果たしにピーターがやってくるのですが・・・。
公演日程・会場
東京:2024年7月24日(水)~8月2日(金) 東京国際フォーラム ホールC
ツアー公演
愛知:2024年8月11日(日)~12日(月・祝) 御園座
広島:2024年8月17日(土)~18日(日) 広島文化学園HBGホール
魚津:2024年8月24日(土)~25日(日) 新川文化ホール 大ホール
大阪:2024年8月31日(土) 梅田芸術劇場メインホール
公演概要
青山メインランドファンタジースペシャル
ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』
キャスト
ピーター・パン:山﨑玲奈
フック船長:小野田龍之介
ウェンディ:鈴木梨央
ダーリング夫人:壮 一帆
タイガー・リリー:住 玲衣奈
パイレーツ*:荒川湧太、今村洋一、加瀬友音、鈴木真之介、鳥居留圭、渡部又吁
ロストボーイズ*:小熊 綸、梶 みなみ、田代 明、德岡 明、松尾音音
モリビト*:ASUKA、石原詩月、伊藤 奨、児玉彩愛、小宮海里、七理ひなの、古澤美樹、森田駿介
ジョン*(Wキャスト):畠中一花、三木美怜
マイケル*(Wキャスト):杉山穂乃果、須田麗央
スウィング*:島野知也、三井夕萌
*五十音順
スタッフ
原作:サー・J・M・バリによる作品を元にしたミュージカル
作詞:キャロリン・リー
作曲:モリス(ムース)・チャーラップ
翻訳・訳詞:福田響志
演出・振付:長谷川 寧
音楽監督:宮川彬良
美術:BLANk R&D
照明:齋藤茂男
音響:井上正弘
衣裳:高橋 毅
ヘアメイク:河村陽子
アクション・パルクール:HAYATE
映像:anno lab
フライング:松藤和広
歌唱指導:板垣辰治
振付助手:仙石孝太朗/溝上瑞季
アクション・パルクール助手:島野知也
稽古ピアノ:中野裕子
演出助手:坂本聖子/玉置千砂子
舞台監督:小澤久明/瀧原寿子
エグゼクティブ・プロデューサー:堀 威夫
主催・企画制作:ホリプロ
特別協賛:青山メインランド
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/peterpan/
撮影:平岩 亨
舞台撮影:宮川舞子