舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』平方元基取材会レポ

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が好評ロングラン上演中だ。2022年7月に東京・TBS赤坂ACTシアターで開幕し、`24年7月にはロングラン3年目を迎え、つい先日には入場者数が100万人を突破。まだまだ続く『舞台ハリポタ』、ハリー・ポッター役の平方元基の合同取材会が行われた。

ーーオーディションからハリー役としてデビューする前について、それから作品に対する印象をお願いいたします。

平方:ちょうど『ハリー・ポッターと呪いの子』がイギリスでオープンする年にたまたま旅行に行って見ることができたんですけど、こんなにスムーズにハリー・ポッターの世界が舞台になることを知って、演劇の力ってすごいなって思っていました。まさか日本で上演するとは…当時の僕は全然わかりませんでしたが、これが日本に来たらどうなるんだろうなって思ってはいました。日本人のキャストで、ハリー・ポッターの世界観を表現することを想像は全くできてなかったので、本当にやると聞き、赤坂で開幕したときは、単純にすごいことが起きたんだな、世界で上演されてるものと同じように日本でもできるんだなっていうのが、日本の演劇の底力じゃないけど、そういうものを見せつけられた気がして…。その時は自分が出ることになるとは全く思っていませんでした。

ーー決まった時のお気持ちは?

平方:(出演が)決まったときは嬉しかったのと同時に、まずいことになった(笑)ではないですが、歴代の先輩たちと話す機会があり、(舞台上で)やってることがすごい大変だと聞いていたので、とてつもないことをやるんだなと…。ですがハリー・ポッターは(スタッフが)海外の方だったので、自分のことを知らない方と一緒にゼロから作っていくのはすごくいい経験になるので挑戦してみたいと思いました。

ーーハリーデビューして何か変わったことは?

平方:密度濃く、魔法もたくさんあり、人間模様がすごく濃密に描かれてるというのはありました。稽古場に行くときは、台本で描かれていたものを頭の中に入れて、毎日毎日ディスカッションをしていきましたが、そのディスカッションの中で、3次元というんでしょうか、役者の体にそのセリフが入って、各役者さんから放たれるセリフが稽古場でみてた時よりもグッと…大人な作品だなという印象を受けました。

ーーロングラン公演になりますと、一緒に舞台に立つキャストさんとはいかがでしょうか?

平方:僕が入った時点…3年目のキャストさん、皆さんプロ、ちゃんと仕事をしに来ていて、なおかつ他の方たちをリスペクトしていらして、稽古はとても楽しかったですね。毎日毎日ヘトヘトになりながら、稽古場に行ったり帰ったりする間に他のキャストさんと話す時間も大事だったし、そういう雰囲気は舞台に絶対出ると思うんです。その点で言うと、この新しい3年目のカンパニーにしか出せない色やチームワークの良さがあるんじゃないかなと…。

ーーWキャストの吉沢さんと一緒に稽古をされていたと思いますが…。

平方:誰よりも一緒にいたし、毎日連絡取り合う…彼がいないと僕は多分、今、ハリー・ポッター役として参加することもできなかったし、彼がいたからこそ、自分の演技のプランというんでしょうか、「こういうハリー・ポッターでいいんだ」と思えることもたくさんあった。”吉沢さんがああやってるから自分はこうやろう”みたいなことでは全くなく、お互いにちゃんとその演出家が求めているハリー・ポッター像について同じ方向を見て歩めたのがすごく印象的でした。ライバルとか、負けないぞみたいなものが一度もなかったのは自分の中では不思議な経験でしたし、それが今もずっと続いていて、吉沢さんは、「今日は2回だね頑張ってね」とか、「今日はそこが大変だと思うけど頑張ってね」とか…お互いにそういうやり取りを毎日毎日して…信頼関係が表れてるんじゃないかなと思います。

ーー今回は19年後のハリー、父親になったハリー・ポッター、何かイメージが変わったところは?

平方:小説と映画と舞台、小説から始まって映画になり、今回は小説から始まって舞台になってるので、帰り着くところは多分、基本的には小説だと思うんですけど、僕は最初は映画から見ました。小説に立ち返ったときに、ハリー・ポッターっていうキャラクター自体、それが文字になってることによって、余計に見る側の想像力とで物語が膨らんでいく…映画版を見るとそこに絵があったり、いろんな視覚的な要素が入ってきます。ダークでもっと大人が耐えうる文学という点が印象的だったので、そこの部分をすごく大事にして19年後のハリー・ポッターの物語を作られてるんだなと感じていました。ヒーローが頑張って悪いものを倒すことではない部分が色濃く描かれてるのがポイントなんじゃないかな?と思います。

ーー今回のハリー、同年代の共感するポイントは?

平方:年齢が同じだけではなかなか難しいんですけど、幼いときに親父とうまくいかなかったことなど、親との対立関係が今回のテーマになっているので…母と娘もそうだと思いますし、どこの家庭もそうだと思います。そういう家族内の確執、うまくいかないこともあり、そして自分が大人になる。たとえば、1年過ぎたらちゃんと1年分大人になってるかっていうのは誰の物差しで測ればそれがわかるのか?っていうのもあると思う。大人になることが果たしてどういうことなのかとか。あるいは父親になることがどういうものなのかというのをすごく考えさせられるなって…そういう状況に置かれたときにどうなるんだろうって…(ハリーと)共に歩んでる感じがします。

ーーデビューから1ヶ月が経ちました。

平方:ありがたいことに連日たくさんのお客様に来ていただいていますが、夏休みはお子さんを連れて家族で見てくださる方がすごく多いんですね。お客様の声が聞こえてくる日もあるし、子供が僕たちが言う台詞に答えちゃう日もあるし、生の反応がとても新鮮に感じられる舞台。それを得て、舞台上がどんどん変わっていくので、お客様の反応によってその日その日の公演が色合いが変わっていくのが面白いですね。

ーー舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が3年目となり、8月9日には総観客数100万人という快挙を達成しました。これまで演じてこられた方々を含めて多くのキャストの皆様が紡いできた作品だと思います。今ハリー役としてご出演されている中で、これまでの歴史や、これから先の舞台を更に繋いでいくことについて、感じていらっしゃることを教えてください。

平方:2016年のイギリス公演から始まって8年ぐらい経ち、アジア初の”ハリポタ”が日本で上演されていますが、最初の1年目はゼロから作り上げなきゃいけなかったのでものすごく大変だったと思うし、それを紡いで2年目、3年目と来ています。キャスト全員が変わっていくわけではなく、残っているキャストの方もいらっしゃるので、その方たちの見方や引き継いでくださる思い、そういうものをちゃんと感じながら、3年目もやれている実感もありますし、4年、5年と続いていく中で自分たちがこの作品のバトンをちゃんと繋げていかなければいけない責任を持って皆さんやっていらっしゃるのがこの3年目。とにかくちゃんと繋いでいかなければいけないことが大きな課題の一つなんじゃないかなと思います。

ーー舞台美術、演出、作品の見どころは?

平方:様々な賞を取っている作品ですが、照明がすごい。何かを見せるために照明を当てるわけですが、何かを消すための照明とか、何かを見せないための照明、これはすごいですね。それとキュー出し、それをいろんなところで出して物語が進んでいく、それが止まるとこの作品はもう何もできないぐらい緻密に作られています。自分たちが自由に演じられるところと、絶対に守らなきゃいけないところのその狭間がものすごくあるんです。そこが難しいところですが、やっぱり世界で認められた数々の賞をいただいてる作品なので、そこは安心して作品に乗っかって、みんなで信じてやっていけてるんじゃないかなと思います。

ーー海外スタッフの方々とお稽古のエピソードを。

平方:自主性を求められますね。この稽古場では、3年前のあなたの気持ちはどうですかとか、今この状況でどうですかと。その役の人に質問してディスカッションから始まるんですけど、そこをさらけ出していくっていう作業は難しかったように思います。それを毎日毎日続けてきたおかげで、初日もみんなでディスカッションをしやすくなったというんでしょうか、言葉を交わす回数も多くなりました。最初、稽古場では下の名前で呼ぼうと、それを覚えるために大きく円を作るんですね。それぞれがぱっと指さしてその人の名前を言えないこともあり、それを覚えないと自分も前に進めない、そういうコミュニケーションを最初に取ることで、次の日から何々おはよう何々おはようって言えるようになりました。そういう環境を作ってくれた、書かれてることと、やらなきゃいけないこと以外の部分のコミュニケーションの作り方、話したい、聞きたい、困ってる、助けてっていうことがあれば、それを素直に言えば、向こうも助けてくれるし、話をしてくれるし。僕も少なからずいろいろな経験をさせていただきましたが、まだ経験が少ない子供たちとかは、ドキドキする部分もあったんじゃないかな?非常にクレバーで優しい演出家さんそして振付家さんですね。

ーーハリーはアルバスと向き合うことが多いと思います。アルバス役の方の印象を。

平方:たまたま先日、ピンチヒッターで福山康平くんが帰ってきまして、3年目の演出家さんに演出を受けてない状態で舞台を一緒にやったんですけど、それはものすごく面白かった。一緒に稽古をしてきたアルバス役の佐藤 知恩さん、渡邉 蒼さん、そのキャラクターをまじまじと感じて…どこか人懐こい、お父さんに対しての愛情をしっかりひねくれすぎずにまっすぐ持ってる部分が見え隠れする、現時点ですが、佐藤 知恩さん、渡邉 蒼さんのアルバスのいいところ、それに気づけた。ピンチヒッターの福山くん、最後のシーンまで父親に寄り添ってこない、これがないと…こういうことが起こるからこそ、わかるし、届かない追いかけても追いかけてもたどり着かないっていうそこを見せる3時間40分、いろんなことに気づかせてくれる二人と一人でした。(キャラクターの)大枠は演出家のエリックさんがつけてくださるのですが、稽古を積んでる中で、僕がどういう人かということも含めて、お稽古していますので。今、公演中ですが、違う演出家でやった時に、『そうなんだ』って言うのは貴重な経験でした。だからこそ、息子・アルバスが大事になったし、次またやるときにどういうふうに挑発してくるんだろうと(笑)。あんなに舞台上で起こったりとか叫んだりとか、めちゃくちゃ大変なんですよ、やっぱりあんなにしかも昼と夜とやったりすると、何にこんなに怒ってるんだろうしかもロングラン。先にどうなるのかっていうことよりも、次にくるシーンにどう反応していくかっていうことだけを考えてやってます。そこをアルバスとハリーと、役者としては手放さないでちゃんとやれる、二人とも信頼してます。

ーー平方さんと吉沢さんのハリー、毎日LINEやり取りされているとのことですが、平方さんと吉沢さんのハリーはどう違うのでしょうか?

平方:よく記者の方たちに質問されますが、よくわからないですね。結局、見てくださったお客様がどう思うかってこと。ハリー・ポッターのファンの方々がたくさん見に来てくださるので、もしかしたら元々知っていたとか、元々知っていたわけではない方たちが、ハリー・ポッターとして僕を見てくれている。そのときに見てくれた感想は、やっぱり新しかったとか…何が新しいかは自分ではやっぱりわからなくて、同じように苦しんで、同じように悩んではいるんですけど、出てくる声のトーンなのか、身振り手振りなのか…でも本当に劇場ってその日に起きることしか起きない場所。(みんなと)一緒にいすぎてるのかな?よく話しますけど大体『そうだよねそうだよね』ってなることが多くて。そこは僕ら以外の人に聞いた方がわかりやすいのかもしれないですね。

ーー体調管理はどのようになさってますか?連日、猛暑ですし。

平方:舞台上はやっぱりイギリス本国から持ってこられた衣装で本物志向、そのままやるので、舞台上の室温、空調の温度をちょっと下げてるんです。だからお客様の方が寒いんじゃないかな?って。『すごく寒いです』とちらほら聞くんですけど(笑)。皆さん、暑さ対策の涼しいやつ(手持ち扇風機、ネッククーラーetc.)やったりとか、熱中症対策みたいなのはやってると思うのですが、体調管理という面でいうと(自分は)普段は朝、公演の前は7時ぐらいに起きてその日の太陽を浴びて散歩をしています。(劇場に)到着するとずっと夜まで公演2回公演とかありますし、そういう期間が長くなればなるほど、やっぱり心身的に影響が出てくるのでそれは割と気をつけています。30〜40分ぐらいかな?外歩きをしてます。

ーー作品の魅力について改めて。

平方:何か答えが出ない舞台だから見に来るんじゃないかなと思っています。大概は一番最後のシーン、結末って『どうぞー!』って感じでやるじゃないですか、あれがなくて(笑)。この先は息子とうまくやっていけるんだろうか、いけなかったんだろうか、でもこれからどうなるんだろうかと…。先日、スタッフの方と喋っていて、『それがこの舞台なんですよ』って言われたんですね。あ〜、そうか、自分たちでわざわざ答えを出す必要がない、演出家さんもそう言ってたなと。答えが出ない、お客様が一番最後にこの扉を開けて劇場をあとにした後に持って帰れる何かっていうのを渡す、それがこの舞台なんだよと。だから一度見て、何だったんだろう。2度見て、私はここはそう思わないっていう舞台に対する賛同もあれば、舞台に対する人としての批判もあればそういうものがすごく生まれやすい。日常的に感じてるもの…人間として生きていて思うことが散りばめられてるなと思うので、そこが魅力なんじゃないかなと思います。『愛って何ですか?愛ってこういうものです』って絶対言わない舞台だから、それで僕も一番最初に見て思ったし、そこが何かモヤモヤするのが、この舞台のいいところなんだなって思います。

ーーご自身がハリーになりきるきっかけもしくはご自身が役者として新境地を築く何か魔法にかかったなって思うようなことはありますか。

平方:(額の傷)あれを毎朝つけるんですけど、舞台が大変なのもあるんですけど、また今日も逃げられないって思うんです(笑)ハリー・ポッターになるってこんなに大変なんだ、こんな重圧と戦わなければいけないんだ、しかも役として。本物のハリー・ポッターって、よく生きてたなって思うぐらい、1人で何本の十字架背負ってたんだろうって。メイクさんがうまく僕が楽しく舞台に上がれるように「今日も楽しいですよ♪」みたいな感じでメイクしてくださるのはありがたいなと(笑)。どんな役も大変なシーンをしょって出てくるので。始まる前に必ずみんなで裏で上手と下手で円陣を組むんですね。それで「よし、始まるぞ!」っていうのを感じざるを得ない、それをやったら2分後にはもう台詞を言っている。メイクが取れた瞬間、自分で取るんですが、それから「終わったーー!家でビールだ!」みたいな(笑)。メイクがあることによって、自分で自分自身に戻れるような…メリハリがものすごくつきますね。でも、家でラーメン作っている時に菜箸持って呪文をぼそっと言ってしまうこともあります。生活が『ハリー・ポッター』になっちゃって(笑)。

ーーありがとうございました。長丁場、頑張ってください。

<吉沢悠インタビュー記事>

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』吉沢 悠 インタビュー

イントロダクション
ハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法界を救ってから19年後、かつての暗闇の世を思わせる不穏な事件があいつぎ、人々を不安にさせていた。魔法省で働くハリー・ポッターはいまや三人の子の父親。 今年ホグワーツ魔法魔術学校に入学する次男のアルバスは、英雄の家に生まれた自分の運命にあらがうように、 父親に反抗的な態度を取る。幼い頃に両親を亡くしたハリーは、父親としてうまくふるまえず、関係を修復できず にいた。そんな中、アルバスは魔法学校の入学式に向かうホグワーツ特急の車内で、偶然一人の少年と出会う。彼は、父ハリーと犬猿の仲であるドラコ・マルフォイの息子、スコーピウスだった! 二人の出会いが引き金となり、暗闇による支配が、加速していく…。

7月からの出演キャスト一覧 ★は継続出演キャスト
ハリー・ポッター  平方 元基/吉沢 悠
ハーマイオニー・グレンジャー 木村 花代/豊田 エリー
ロン・ウィーズリー  ★石垣 佑磨/ひょっこりはん/矢崎 広
ドラコ・マルフォイ  ★内田 朝陽/永井 大/姜 暢雄
ジニー・ポッター  ★白羽 ゆり/大沢 あかね
アルバス・ポッター  佐藤 知恩/渡邉 蒼
スコーピウス・マルフォイ  ★西野 遼/浅見 和哉/久保和支
嘆きのマートル  出口 稚子
ローズ・グレンジャー・ウィーズリー  飛香 まい
デルフィー  ★鈴木 結里/乃村 美絵/高山璃子
組分け帽子  ★尾尻 征大
エイモス・ディゴリー  ★間宮 啓行
マクゴナガル校長  ★榊原 郁恵/★高橋 ひとみ
★秋山 和慶/★安藤 美桜/★安楽 信顕/★荒澤 恵里奈/チョウヨンホ/★半澤 友美
隼海 惺/久道 成光/星 郁也/★伊藤 優佑/亀井 陵市/柏村 龍星/北代 祐太/小結 湊仁
★倉澤 雅美/黒田 陸/松尾 樹/★馬屋原 涼子/仲本 詩菜/★小川 希/★扇 けい/★岡 直樹/★織詠
★大竹 尚/★篠原 正志/★髙橋 英希/★手打 隆盛/★上野 聖太/★薬丸 夏子/★横山 千穂
ルード・バグマンの声  吉田鋼太郎

概要
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
会期会場:上演中~2025年2月末 TBS赤坂ACTシアター
主催:TBS ホリプロ ATG Entertainment
特別協賛:Sky株式会社

With thanks to TOHO
In association with John Gore Organization

公式Web:https://www.harrypotter-stage.jp