ウクライナ出身の作家ブルガーコフの代表作『白衛軍』@新国立劇場取材会レポ

二十世紀ロシアを代表するウクライナ出身の作家、ブルガーコフ。彼の代表作『白衛軍』は1918年の革命直後のキーウを舞台に、時代に翻弄されるひとつの家族を描いた作品。
小説発表から、ちょうど100年を迎える今年、新国立劇場では、2010年に英国のナショナル・シアターで上演されたアンドリュー・アプトン版に基づいて上演。
初日に先駆けてフォトコールと会見が行われた。

フォトコールの様子

冒頭のシーン。ニコライ(村井良大)のギターの弾き語り。帽子を斜めに被っている。場所はトゥルビン家の居間。

同じくゥルビン家の居間。兄弟の従兄弟で、キエフの大学に通うためにトゥルビン家に下宿することになる青年・ラリオン(池岡亮介)。既婚者であるエレーナ(前田亜季)を口説く軍人・レオニード(上山竜治)、そして大尉のアレクサンドル(内田健介)。アレクセイ(大場泰正)、エレーナ、ニコライ、そして訪れた人々皆でテーブルを囲んでの酒宴が始まる。ウオッカをあおり、盛り上がる。

まずは挨拶、役柄について。
村井良大「トゥルビン家の末っ子です。18歳で兵隊に入っておりますが、階級は伍長で、兄さんは大佐です。差がありますが、家族の中では末っ子で明るいキャラクターかなと。本番中ではギターを弾いたり、歌を歌ったりしています。そういったシーンが見どころと思っています」

前田亜季「ニコライとアレクセイの真ん中のエレーナという役を演じます。兄たちと違って戦争に行ったりとかで出ていくのを家で守ったりして、港のような存在です。優しさだったり、柔らかさがあったりときには母のような大きさがあったりとかいろんな面を見せる女性だなと思います」

大場泰正「アレクセイ役です。長男ですが、両親がいない家なので、父親的な役割もするし、世代間で言えば、ロシア帝国の生活や文化が土台になっている、深く刻み込んでいる人間。役所としてはこれからの若者たちにどう引き継いでいくのか、若者たちの将来を多分一番よく考えているのではないかという人物ではないかと思います」

池岡亮介「マリオカ役です。3兄弟の従兄弟です。大学進学のために田舎から突然、お邪魔してきて、賑やかして散らかしていく役です。軍人ではなく、今を生きる若者として等身大で…温かい愛されるキャラクターになれるように頑張ります」

上山竜治「軍人、レオニードいう役をやらせていただきます。戦時下ではありますがその中でも甘い声で歌いながら人妻を口説く役どころ、エレーナに恋している、家族になるのかどうかは見ていただいてという感じなんですけれども、本当に敗戦を経験しながらも、もうすごく先を見ながら突き進む生命力のある役です」

上村聡史「作中に登場してくる固有名詞にはウクライナであり、キエフであり、プロバガンダでありと今実際に起きていることと連想するようなそういう思いを想像するような作品になるんじゃないかと思います。時代は100年前の混乱の頃ですけども、でもそういった混乱であり、戦争という状況の中で、人は何を大事にして生きていけばいいのかということを丹念に丁寧に見つめて作りました。家族への思い、隣人への想いを軸にしてこの作品を作りました。とても難しそうだなっていう印象はあるかもしれないんですけども、それ以上に、この人とトゥルビン家の人たちの、そしてここに出てくる登場人物たちの生活というものを大事にして作りました。そういった喜劇的な部分もありますし、悲劇的な部分もありますが、そこの色彩といいますかバリエーションを楽しんでいただければなと思います」

撮影:宮川舞子。右から)上村聡史、上山竜治、村井良大、前田亜季、大場泰正、池岡亮介

見どころについて

村井良大「たくさんあるんですけども…今回初めてギターを舞台上で演奏して歌ったりするので、今年の9月下旬ぐらいからすごく練習をしてきました。人前で弾くのは本当に初めてなので、結構ちょっと緊張してるんですけども、何か生活感の中に音楽があるこのトゥルビン家の…少し柔らかいニコライの性格もありますので、そういった部分もお客様と時間を共有しつつ、何かギターの楽しい時間が音楽がいかに人々の心を救ってくれるかみたいな…皆様と共有できたらいいなと思っておりますので、ぜひギター演奏も見てください」

前田亜季「100年前に書かれた物語なんですけども厳しい状況の中で生きてる人たちも、でも本当にユーモアも忘れずに、みんなで励まし合いながら、明るいシーンもたくさんありますし、そういった彼の作品を届けたいなと思いますし。あとは彼が未来に託していた願いであったりとか、祈りであったりとか、そういうものもセリフの中にたくさんとり込まれています。それを見てらっしゃる方に丁寧に届けていきたいなと」
困難な時代に生きている人々が、生きている様を本当に生き生きと演じたいと思うし、そういう今そこでリアル感ということをやっぱ大切にしたいなと思います。」

大場泰正「重複いたしますが、困難な時代に生きている人々が、その生きている様を本当に生き生きと演じたいと思うし、そういう今そこでリアル感ということを大切にしたいなと思います」

池岡亮介「舞台美術がすごいです。もう本当にいろんな表情を変えてと言いますか、こんなにお客さんとの距離も近いんだっていうそういう意味でも、あの家の周囲であっても、戦禍のシーンであっても、その距離感をすごく楽しんでいただける作品になっていると思います」

上山竜治「戦争というテーマで上村さんもおっしゃるように、地続きというところがテーマではあるんですけれども、すごく緩急があるコミカルなシーンもたくさんありますし、歌うシーンもありますし。何しろ新国立劇場の、今おっしゃったその機構をフルに使った演出がもうすごくて!セットがぐわーーーーってきたり、上に上がったり回ったりするんですよ。(一応上下もするんですよby演出家)すごい!本当に新国立劇場、みたことない舞台、ぜひ見に来てください!」

また、上山竜治曰く「笑いが絶えない現場」といい、村井良大は「上山さんがいちばん面白い(笑)」と返した。さらに上山竜治は「普段のミュージカルとかやらせていただくことが多いのですが、このストレートの舞台の中で、歌の威力ってすごいなって。いきなり歌い出す面白さだったり、そこの何か情熱だったりとか、何かそういった感情がすごく湧き出てくるのが面白いなって思いました」とコメント。
大場泰正は「ちょっと真面目な話になるけど、帝政ロシアのそういう文化…バレエにしろ、文学にしろそういうものをすごく生み出した時代なんですけれども、そういうものが家庭に溢れてるっていうのは実はそうではない。階級があって、その上に繁栄があるわけですよね。だから”私達のこういう生活を守りたい”と、こちら側が思っているわけですけれども、そうじゃない動きとして、民衆が動き出したときに、その彼らを”敵”っていうふうに、私が言うセリフがあるんですけれども。”敵”だけども、本当はみんな巻き込んでいい国作りたかったわけなんです。けれども、その上に、それの支配の上に実はその安定だとか、そういう文化というのは成り立っていることを奥行きを自覚してる人間の立場だと私が演じる役(アレクセイ)は思ってるんです。そういうマイナス面、自分たちの繁栄がそういうものの上に成り立ってるんだっていうことを自覚してるっていうことが今にも繋がってるし、それを守りたいし、逆にそれを広げていきたいっていう思いは帝政の人間でさえ同じだっていうことを思いながらやってます」と語った。

また質疑応答で「稽古を積み重ねて新しい発見があったかどうか」の質問が出た。
演出の上村聡史は「始める前はこれずっとやりたかった作品なんですけども、この世界の情勢を見てみると、ちょっと悲しいかな時期に上演が叶ってしまったと思うんですね。そういった意味ではその作家の世界観に真摯にくまなくちゃいけないという思いで作りましたが、自分でも意外だったのは、すごくいいセリフがいっぱいある作品だなっていうふうに気づきました。胸に迫るセリフもあれば、楽しくて笑えるセリフもあり、そして今のこの時代に想像が及ぶセリフ、それこそ100年前のこの時代に真摯に生きた人たちの思いが伝わるセリフがたくさんあり、久しぶりにそのセリフで楽しめる芝居って言ってしまうとちょっと大げさかもしれないんですけどでも。総勢19人の俳優が紡ぐそのセリフの質感がすごくエンターテイメントになってる、そういう形で仕上がったと思ってまして。そういった意味ではセリフの聞き心地といいますか、面白いセリフがたくさん詰まった作品になったというのが意外といいますか、そういうところがあります」とコメント。
また、舞台セットについての質問がでた。上村聡史は「上山さんがおっしゃったことと重複しますが、地続きになっているということを非常に念頭に置きました。何もない暗闇から歩き世界が現れてっていうそれは過去が現れて、それが今にも繋がっているんだという思いを込めました。ぜひラストシーン楽しみにしてもらいたいんですけども、そういった意味でシチュエーションは、この今起きていることと100年前は短絡的に結び付けていいものではないっていうのは重々わかってはいるんですけども、でも過去の先人たちが生きて培ってきたものが今に繋がっているっていうことを、今回一番コンセプトとして大きく置いたので、そういった意味で立体美術案内し舞台を演出したという…」とコメント。ここは必見シーン。

最後に公演PR。
村井良大「ロシアとウクライナを題材にしている作品なんですが、描かれているのは、家族愛だったり、人間模様だったり、群像劇としていろんなシーンを見ることができます。戦争物ということで少し堅いイメージがあるかなとも思いますが、キャラクターが非常に生き生きと楽しく生きるエネルギーに溢れていて、それを見ていただけるだけでエネルギーをもらえると思います。僕はこんなに素晴らしい演出舞台、舞台機構も含め、ここまで立体感のある舞台を見るのは初めてです。それが8800円、正直オトクすぎるというのをちょっと感じております(笑)。見て後悔しない作品ですので、『白衛軍』心に残る作品だと思います。12月皆様お忙しい時期ではありますが、クリスマスにちなんだシーンもありますので、季節的にもちょうどいい作品です。みんなの生きる姿、懸命に戦う姿を見ていただければ幸いでございます」

ストーリー
革命によりロシア帝政が崩壊した翌年──1918年、ウクライナの首都キーウ。革命に抗う「白衛軍」、キーウでのソヴィエト政権樹立を目指す「ボリシェヴィキ」、そしてウクライナ独立を宣言したウクライナ人民共和国勢力「ペトリューラ軍」の三つ巴の戦いの場となっていた。
白衛軍側のトゥルビン家には、友人の将校らが集い、時に歌ったり、酒を酌み交わしたり…この崩れゆく世界の中でも日常を保とうとしていた。しかし、白衛軍を支援していたドイツ軍によるウクライナ傀儡政権の元首ゲトマンがドイツに逃亡し、白衛軍は危機的状況に陥る。トゥルビン家の人々の運命は歴史の大きなうねりにのみ込まれていく……。

概要
『白衛軍 The White Guard』
日程・会場:2024 年 12 月 3 日(火)~12 月 22 日(日) 新国立劇場 中劇場
作:ミハイル・ブルガーコフ
英語台本:アンドリュー・アプトン
翻訳:小田島創志
演出:上村聡史
出演:村井良大、前田亜季、上山竜治、大場泰正、大鷹明良/池岡亮介、石橋徹郎、内田健介、前田一世、小林大介
今國雅彦、山森大輔、西原やすあき、釆澤靖起、駒井健介/武田知久、草彅智文、笹原翔太、松尾 諒

公式HP:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-white-guard/