
2019 年に現代に潜む家族問題を扱ってオフ・ブロードウェイの話題をさらった、舞台『リンス・リピート ーそして、再び繰り返すー』。 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA にて開幕。
初日に先駆けて簡単な会見と公開ゲネプロが行われた。
舞台上はシンプル、一人の若い女性が登場、大学生のレイチェル(吉柳咲良)、スーツケースを携えている。摂食障害で施設での治療を経て家に帰ってきたところから始まる。母を呼ぶ、「ママー、ママー」「ただいま!!」「おかえり!!」母・ジョーン(寺島しのぶ)と父・ピーター(松尾貴史)、笑顔、弟のブロディ(富本惣昭)もやってきて、久しぶりに家族全員揃った。

治療を経て戻ってきた、とは言え、治っているわけではない。家族のシーン、母は働き者、移民としてやってきた土地でキャリアを積んで、ようやくここまできた。ピーターは甲斐甲斐しく台所に立つ、普段から家事をやっている様子。4人揃って食卓を囲む。レイチェルは施設でのことを思い出す。

レイチェルの不安定さ、ベーグルを食べるシーンがあるが、軽いものを選んだり、体重計に乗ったり。隠れてゴミ箱で食べたものを吐く。摂食障害は女性、思春期に多いそう。母親の関心を集めたい、母親が好きだから嫌われたくない、親に負担をかけたくない、そうこうしているうちに無意識に拒食・過食を始めてしまうそう。
母は忙しい、服装でもわかるが、パンツスーツをビシッと着こなし、弁護士、収入も多そうで、家事をしたり、ゴルフに行く父とは真逆。苦労して得た社会的地位、娘にも困難を乗り越えて幸せになって欲しいと願う。この願い自体は決して悪いことでもなんでもない。ただ、期待される方にとっては重荷になってしまう。母は大好きだが、自分に向けられている期待と愛情、だんだんと苦痛になっていくのは想像に難くない。

食卓を囲むシーン、たくさんの料理、父はワインを開け、弟・ブロディ(富本惣昭)はコーラを開け、母はフォークとナイフで料理を食べる。最初はあまり食が進んでなかったレイチェル、「私だって頑張ってる」と言い、もりもり食べる。

セラピストとの会話を思い出す、「まだ、自分に自信が持てないの?」と言われる。鏡を見て(太ってると思い込み)走ったり、バーピージャンプ(※1)したり、マウンテンクライマー(※2)したり、その様子を見た弟、「何やってんの?」。誰も見てない隙に無言で勢いよく食べてゴミ箱に吐く、片付ける。だが、ストレスを抱えているのは娘だけではない。母もまた、帰宅し、食べ物をやたら手にして食べる。

すれ違う気持ち、そう簡単には解決しないこと、母と娘を主軸にした家族の風景、いつの時代にも通じる家族の話、絵に描いたようなハッピーエンドとは無縁な作品であるが、共感するところや考えさせられるところは観客それぞれあるかと思う。タイトルの『リンス・リピート』何回も同じことを繰り返すということの表現、観ているうちに、このタイトルの意味するところがだんだんとわかってくる。決して他人事ではない『リンス・リピート』、現代的な作品。登場するキャラクター、全てそう簡単には演じられない、普通の人々、家族全員、どこかにいそうな性格、状況。

母として、そして一家を支える立場としての苦悩、ストレス、寺島しのぶが自然体(これが難しい)で演じる。レイチェル演じる吉柳咲良、後半は髪の毛ボサボサで家族、特に母親との関係に悩み、傷つく娘を好演。父・ピーター、松尾貴史、家事をこなし、ゴルフに行き、ジョギングをする、一家の大黒柱が妻、という立ち位置、良い父だが、稼ぎがない、少ない?どこか逃避しているようにも感じる。弟はそんな家族をよくみている、富本惣昭が等身大で演じる。現代的な家族の姿、東京は5月6日まで。
会見では寺島しのぶ、吉柳咲良、松尾貴史が登壇。
寺島しのぶは「普遍的な家族の話なので、来てくださるてくださるお客様には、何かしら感じていただける話にはなっていると思います。ただハッピーハッピーな話はないんですけれども」とコメント。吉柳咲良は「台本から汲み取れることもすごく多かったし自分にとてもよく似ているなという印象が強かった」と語る。松尾貴史は「稽古はとても和やかに進んでおりました…取り組みがいがありました。とにかく演出家の稲葉さんがよく喋る!これもう言葉が湯水のようにね、巧みにというか豊かに」と語り「日本の社会はみんな自分と同じことを求めるという割合が大きいので、自分が理解できないことは変なことである、あるいは本人が悪いんだとか努力が足りないんだとか、認識が間違ってるんだというような、それこそ間違った認識で、奇異の目で見たり自分と違うんだっていう目で見られたり、でもこれは誰にも起きうることなんだろうと思うんです」とコメント。
また、質疑応答では寺島しのぶは「ジョーンは稼ぎ頭、弁護士で大成功して、男の人と共同経営を弁護士としてやっている、すごく成り上がって這い上がってきた女性です。常に物事を白か黒か、物事を勝ち負けで考える、自分にも厳しい人物。娘が摂食障害になった原因っていうのも、もしかしたらここにあるんじゃないかとか、結構きつい母親なんです。子供に対してどう接していくのか、とか、自分の夢を無理に押し付けたりとか、息子が同じような仕事してますからときに結構つらく言ってしまうこともあったりもしますし、私と母の関係からしても母は私よりも全然強い人だったので『あなたはもう本当に心が弱い』って言われたこともあります」と自分自身のことを振り返る。また、吉柳咲良は初のストレートプレイ、「歌わないってだけでセリフ量がこんなにも多いものかとすごく思いました」とコメント。
また、タイトルの”繰り返す”、繰り返してしまったことについては、寺島しのぶは「楽屋でフットバスを使うのが好きなんですけど、探したら見つからなくて。捨てちゃったと思って買ったら、あったんです。まったく同じものを繰り返し買っちゃってる自分が情けなかったです」吉柳咲良は「考えていることを書き残しているんですけど、読み返したら5年前と同じ悩みを今も悩んでいて…悩み続けてるのを繰り返してます」とコメント。松尾貴史は「深酒!」と回答。
最後にPR。
松尾貴史「他者に対する想像力、思いやりなんでしょうけど、それが上辺であったりごまかしではなく、本当にどうすることが最善なのかというようなこと、他のいろんなことでも考えるきっかけになるような芝居になったら嬉しいなと思いながら臨みたいと思っております」
吉柳咲良「相手を本当の意味で思いやるっていうことはどういうことなのか、そういうことをもう一度考えていただけるような舞台になるんじゃないかと思います。どんな答え、どんな解釈、それが(全て)正解だと私は思っています。それぞれの楽しみ方で楽しんでいただきながら、作品が持つメッセージ性をすごくちゃんと伝えられるように明日から頑張っていきたいと思ってます」
寺島しのぶ「もうお2人がお話してくださったので…(舞台上は)ご覧の通り何もございません。抽象的で洗練された舞台、揺れるように波のように変わっていく様とか、こだわった照明も綺麗でビジュアルもとても喜んでいただけるものになっております。ぜひお越しください」
※1 バーピージャンプ:立っている状態からしゃがんで腕立て伏せの体勢になり、そのまま立ち上がる流れでジャンプをするトレーニング。酸素を活用し脂肪を燃焼する有酸素運動と、筋肉が鍛えられる無酸素運動のどちらの要素も含まれているため、ダイエット効果が高いと注目されている。
※2 マウンテンクライマー:腕立て伏せの姿勢で足をおなかに引き寄せて、体幹と足に負荷をかけるトレーニング。足や体幹を鍛えると同時に、脂肪燃焼効果も期待。
物語
命が脅かされるほどの摂食障害を抱えていた大学生のレイチェル(吉柳咲良)が、施設での治療を経て、4か月ぶりに家族の元へと帰ってきた。家族とともに食事をして、以前のように自立した生活を手に入れるためだ。母・ジョーン(寺島しのぶ)と父・ピーター(松尾貴史)は愛する娘の帰宅を心から喜び、弟・ブロディ(富本惣昭)も交えて家族との平穏な時間を過ごすように思えた。
ジョーンは、移民として苦労しながらもキャリアを築いた経験があり、娘もこの状況を乗り越えて明るい将来を掴み取ってほしいと期待を膨らませる。しかしレイチェルは、セラピストであるブレンダ(名越志保)との会話を思い出しながら、次第に愛する母親からの愛情を苦痛に感じ、家族こそが自分を追い込んだ原因なのではないかという疑問に変わる。
すれ違う母と娘。愛情に隠れた本当の気持ちを知ったとき、家族は大きな一歩を踏み出す。
概要
舞台『リンス・リピート ーそして、再び繰り返す―』
東京公演
期間:2025年4月17日(木)~5月6日(火・祝)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
主催・企画制作:ホリプロ
公演詳細>>https://horipro-stage.jp/stage/rinserepeat2025/
※京都公演あり
スタッフ
脚本:ドミニカ・フェロー
翻訳:浦辺千鶴
演出:稲葉賀恵
美術・衣裳:山本貴愛
照明:横原由祐
音響:星野大輔
ヘアメイク:高村マドカ
音楽:西井夕紀子
演出助手:城田美樹
舞台監督:大刀佑介
主催・企画制作:ホリプロ
キャスト
ジョーン:寺島しのぶ
レイチェル:吉柳咲良
ブロディ:富本惣昭
ブレンダ:名越志保
ピーター:松尾貴史