
1972年から『マクベス』を時代や自身の思考に合わせて演出してきた串田和美。
6度目となる本作では、9人の俳優とともに、21世紀のための”新たな古典”を描き出す。
数々のヒット作を生み出し、日本の小劇場演劇を牽引した「オンシアター自由劇場」(1966―96 年)。 串田は自身が探し求める演劇活動『自由劇場』を再開するため、2023 年、『フライングシアター自由劇場』と名を改め、 企画創作を開始。
その第5作目、『そよ風と魔女たちとマクベスと』、東京は4月25日~5月4日、その後は松本にて5月9日~11日上演。
原作は、勇猛果敢だが小心な一面もある将軍マクベスが妻と謀って主君を暗殺し王位につくが、内面・外面の重圧に耐えきれずに錯乱して暴政を行い、貴族や王子らの復讐に倒れるシェイクスピア四大悲劇の1つ『マクベス』。
出演には、元宝塚歌劇団宙組トップスター・大空ゆうひ、約3年前から俳優活動を開始し数々の演出家からオファーを受け、急躍進を続けている串田十二夜、唐組でメインの役どころを多数担ってきた福本雄樹、劇団「柿喰う客」にて活躍中の原田理央、演劇ユニット noyR を立ち上げ精力的に活動している大木実奈、日本のビッグバンド「渋さ知らズ」の メンバー・反町鬼郎、映画や舞台など各方面に活躍中のさとうこうじ、劇団「はえぎわ」を率いる演出家で劇作家でもあるノゾエ征爾、そして本作の脚色・演出・美術に加え衣裳と宣伝画も手がけ、カンパニーを先導する串田和美と、現代の舞台芸術シーンを率いる個性豊かなアーティストたちが揃った。
国王暗殺というとんでもない大それた行動までして、憧れの地位を得たマクベス夫婦。それはギリシャ悲劇をも思わせるような運命に操られたものだ。そう、少なくとも予言に心動かされた者、マクベスの悲劇がそこにある。しかもこの串田脚色の舞台では、マクベスを予言で操る魔女は 8 人も登場する。幕開け早々、マクベスの演説の「みなさん、そよ風にはご用心」と言った直後に、白い大きな布を貼ったパーテーションに映し出されたシルエットから一斉に(あるいはわさわさと)飛び出してくる魔女たちが口々に“クチュクチュ!”とか“ブルブル”とか魔女語でリズムを刻み、また口琴やカズーといった楽器で囃し立て、お馴染み「きれいは汚い 汚いはきれい」とハモりながら場を去る‥‥。
串田和美が《マクベス》を上演すること六度め、が、そこにはコピー&ペーストの演出はない。もちろん上演した時代も違うし、俳優も違うのだが、まずはタイトルロールの串田十二夜のマクベス。亡霊以上に時代を超えた魔女という超自然の存在と相対して、心の内部にまで達する闇、罪の深さが感じられ、愚かな人間が作る歴史について語る名台詞もストレートに通じ心にしみてきた。今回令和のこの時代に起きているウクライナ侵攻を筆頭とする紛争に対する串田の“時代に対するそよ風感”が一歩踏み込んだ形となって表現しているようだ。
一方で、マクベス以上に野望をたぎらせ、夫をたきつける夫人も、その内なる野望に目覚め、野望のために滅んでいく姿を、血まみれのグローブも含めて真っ赤が似合う大空ゆうひが中身の濃い演技で迫っていた。これがあったからこそ、最後の串田シートン(この場では魔女役)との「LongLongAgo」の詩の掛け合いが心に沁みてくるのだ。
幕間狂言のように後半突然現れる三河漫才ならぬ沙翁漫才、ノゾエ征爾と串田和美のコンビ(この場面のみノゾエ執筆)、反町鬼郎とさとうこうじの“ロストアンガス”凸凹コンビも軽快で好調だ。
段ボール仕立ての大きな兵士たちの攻防もあれば、ボトルの頭に特製人形を設えて乾杯!するなど、シンプルな中にも想像力をかき立てる美術の空気感、こんなところにも“そよ風”を感じ、最後には森があたかも動いてるような、灯火が吹き消され塵になる王の姿が目に浮かぶようだ。どこまでも《そよ風と魔女たちとマクベスと》遊べる2時間だった。(演劇ライター:佐藤優)
概要
フライングシアター自由劇場 第5回公演
『そよ風と魔女たちとマクベスと』
日程・会場:2025年4月25日(金)~5月4日(日/祝) すみだパークシアター倉
※アフタートークあり。
4月25日(金)19:00 初日セレモニー(GUEST:飯塚直さん)/終了
4月26日(土)17:00 アフタートーク(一青窈さん×串田和美)/終了
4月28日(月)19:00 アフタートーク(松岡和子さん×串田和美×大空ゆうひ×串田十二夜)
4月29日(火祝)13:00 アフタートーク(河内大和さん×串田和美×串田十二夜)
5月1日(木)19:00 アフタートーク(玉置玲央さん×串田和美×原田理央)
5月2日(金)14:00 アフタートーク(中井美穂さん×串田和美)
原作:ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』より
翻訳:松岡和子
脚色・演出・美術:串田和美
照明:齋藤茂男・大屋惠一/音響:市來邦比古/舞台監督:三月一/演出助手:河内哲二郎
衣裳・宣伝画:串田和美 /衣裳進行:中野かおる/宣伝美術:八十島博明/宣伝写真・制作:串田明緒
制作:三國谷花 /制作助手: 臼田菜南
企画製作:フライングシアター自由劇場
共催:すみだパークシアター倉
主催:(有)自由劇場
松本公演:2025年5月9日(金)~5月11日(日) 信毎メディアガーデン
公演 HP : https://www.k-jiyugekijo.com/macbeth
撮影:串田明緒