こどものためのオペラ劇場『 小さなエントツそうじ屋さん』開幕@新国立劇場

ゴールデンウィークの新国立劇場に、「こどものためのオペラ劇場」が登場! イギリスを代表する作曲家ブリテンの、舞台と子どもたちへの愛情がたっぷり詰まった名作『オペラをつくろう!小さなエントツそうじ屋さん』が開幕した。
オペラ『小さなエントツそうじ屋さん』では、子どもたちの驚きや喜び、恐れ、幸福感が美しい音楽になって描かれており、曲と曲はせりふで繋がれるので、オペラが初めてという子どもたちも、展開についていけなくなってしまう心配なし、オペラデビューにはもってこいの作品。
『オペラをつくろう!小さなエントツそうじ屋さん』を作曲したベンジャミン・ブリテンは、20 世紀イギリスを代表する作曲家。オペラやバレエなど、舞台のための作品も沢山作っているが、子どものための作品もライフワークとしていた。管弦楽曲『青少年のための管弦楽入門』は、世界中で音楽鑑賞教材として親しまれている名曲。そのブリテンの愛情がたっぷり詰まった『オペラをつくろう!小さなエントツそうじ屋さん』は、世界中で愛されている作品。
オペラ『小さなエントツそうじ屋さん』には、客席の子どもたちが歌うためのとっておきの洒脱な曲が含まれているのが特徴。子どもたちも自然と、能動的にオペラの世界に入り込んでいく仕掛けに。


第1部は子どもたちと大人の会話からオペラ創りが始まる劇。「オペラって何?」「私たちにもオペラができるかな」という会話から、この舞台は動き出す。第2部は客席の観客も一緒に歌って参加する、劇中歌の「リハーサル」。そして第3部としていよいよ、皆で創り上げたオペラ『小さなエントツそうじ屋さん』が舞台にかかる。


第1部、キャストの衣装は現代的、子供たちが賑やかに登場するところから始まる。大人たち、Mr.ハーモニックがオペラについて説明したり、そして、いかにもマダム然としたマーコット夫人がある話をする、これをオペラにしよう!という話になる。

それから第2部は劇中歌のリハーサル、楽譜が配布されるので、それを見ながら練習、もちろん、観客も練習、キャストたちが客席にやってきてみんなで歌う、これは楽しい(笑)。

休憩をはさんで第3部はいよいよオペラ。登場人物、この作品のメインキャラクター、小さな少年・サム。いかにも意地悪そうな雇い主の男2人、ボブとクレム、親子、サムを小突いたり。

ボブとクレム、ミス・バゴット

お手伝いさん、ミス・バゴット、ちょっと気難しそうなお屋敷のお手伝いさん。サムは体にロープを巻かれ、煙突の中に、ボブとクレム、ミス・バゴットはどこかへ行ってしまった。それから部屋に子供たちが、ここの屋敷の子供とそのいとこたちがかくれんぼをして遊んでいたら、「助けて!」の声。

ここで歌われる曲は聴きどころ。

煙突から出てきたのは…。

姿は見えない、どうも煙突から聞こえてきてる様子、子供達は力を合わせてサムを救出。すすだらけのサム、彼の境遇を知り、なんとかしてサムを助けたい、自由にしてあげたいと思う子供たちは大人の目を盗んで、サムを匿い、お風呂に入れたり。子供達に家庭教師のローワンも加わり、皆で知恵を絞ってサムを家に帰そうと考える…というのが大体の流れ。

ローワン、子供たちの味方。

コミカルな芝居、可愛らしい雰囲気の部屋、そしてブリテンの楽しい楽曲、ところどころセリフもあるので、オペラ初心者や子供には見やすい構成。サムのボーイソプラノが聴かせる。歌いやすく聴きやすい楽曲なので、冒頭では配布されたスコアを見ながらキャストと観客が一緒に歌う、いわゆる観客参加型の演出、指揮者も観客の方を向いて棒を振るので!

ミス・バゴットに危うく見つかりそうになり、気絶したふりをして注意を逸らす。
朝ごはんを食べるサム。イギリスなので、ハムエッグ。

また、子供たちが知恵を絞ってサムを助けようとするシーン、時折、意地悪な大人たちが部屋に入ってくる度に、観客はオチはわかっているものの、ちょっとヒヤヒヤ(笑)。気軽に楽しめる作品。作り込んだアンサンブルの曲もあり、聞き応えのある曲もあり、また、キャラクターの描き分けも巧み。皆、楽しそうに演じているので、見ている観客も楽しい気分になる。

ブリテンは平和主義者、社会的弱者への愛情のこもった作品も多く、この作品もその一つ。物語の時代設定は19世紀初頭、1788年、実はイギリスの法律で8歳以下の子供を煙突掃除に従事されることを取り締まる法律ができたが、法律違反を摘発するような内容であり、ブリテンの慈しみの精神も感じられる作品。ゴールデンウィークの後半、上演時間も休憩込みでも短めなので、お子さんと一緒に、もちろん大人だけでも大丈夫、公演は6日まで。

オペラ『小さなエントツそうじ屋さん』ものがたり
小さな男の子サムは、意地のわるい男ボブとクレムのもとで、エントツそうじの仕事をさせられている。ある日エントツに入ってそうじをしていたサムは、体がはさまって出られなくなってしまう。エントツから聞こえるさけび声に気づいた、その家の子どもたち――ジュリエット、ソフィー、ゲイ、そしていとこのジョンにヒューとティナ――は、中に男の子がいるのにびっくり。みんなでサムを引っぱり出してボブとクレムに見つからないようにかくし、すすだらけの体をおふろでピカピカにあらい、食べ物を食べさせる。サムからつらい生活の話を聞いた子どもたちは、何とかしてサムをボブとクレムから助け出して家へ帰そうと、サムをにがす作戦を立て始めた……。

概要
日程・会場:2025年5月5日、6日 新国立劇場
作曲:ベンジャミン・ブリテン
台本:エリック・クロージャ―
訳詞・脚色:加藤 直
指揮:冨平恭平
上演台本・演出:澤田康子
美術:長田佳代子
公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp

撮影:阿部章仁 提供:新国立劇場