バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 栗原ゆう インタビュー来日公演『眠れる森の美女』主演・ソリスト出演

イギリスにおいて英国ロイヤル・バレエ団と並びバレエ文化の一翼を担う二大バレエ団のひとつ、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB)が、カルロス・アコスタ芸術監督体制下となって初、2018年以来7 年ぶりの来日を果たす。
披露されるのは、ピーター・ライト、デヴィッド・ビントリー、ともに芸術監督として同団を今に繋いできた振付家が演出・創作した、世界中で愛されるおとぎ話が題材の2作品̶。古典の継承者を任じる英国が“十八番”と誇る『眠れる森の美女』と、流麗な振付と軽やかなドラマ性、子どもから大人までが楽しめるエンターテインメント性が持ち味の『シンデレラ』。
かつて英国ロイヤル・バレエ団のトップ・プリマとして絶大な支持を受け、今なおその類まれなる技術と表現で輝き続けるアリーナ・コジョカルが『眠れる森の美女』に再び登場するほか、端正な佇まいと伸びやかな踊りがエレガントな英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル、ウィリアム・ブレイスウェルの『シンデレラ』ゲスト出演にも注目。また長らくBRBの顔として活躍し今まさに円熟の時を迎える平田桃子と早くから注目されこのたび待望のカンパニー日本公演初主演を務める栗原ゆう、2人の日本人プリマがそれぞれ『シンデレラ』と『眠れる森の美女』に主演する。このたび日本公演では初主演を務める栗原ゆうさんのインタビューが実現、日本公演への想いや作品について、また自身のバレエに対する気持ちなどを語っていただいた。

ーー入団されて今回が初めての日本ツアー、しかも主役ということですが、まず、その感想をお願い致します。

栗原:率直にお伝えしますと、すごく緊張しています。私の中では日本でお世話になり、今もお世話になっている方々、いろんな方に恩返しできるようにという思いが強くあります。ちょっとプレッシャーも感じてはいますが、同時にすごく楽しみです。

ーー7歳からバレエを始めたそうですが、きっかけは?

栗原:姉がバレエがすごく好きで、先に習っていました。私はまだ幼かったので母と一緒に姉の送り迎えに行ったり、たまにクラスを見学したりしていたのですが、周りのお母さま方や先生が『いつもいるんだったらやればいいのに』って言われて。それでぼちぼちと始めた感じでした(笑)。

 

ーーお姉様の影響ですね。初めたばかりの頃は、楽しいとかちょっと動きが難しいなとか、当時、色々感じていたと思いますが。

栗原:初めはあまり興味がなかったのと、しかも人前で踊るのが恥ずかしくて…自分からやりたいとは思っていなかったんです。私はボーっとしててクラスも遅れちゃう…そんな感じの子どもでした。一方で幼い頃からピアノは習っていましたので、クラシック音楽に対する快感…音楽を聞くことで気持ちが幸せになるような感覚がすごく好きだったんです。初めて出たバレエの発表会の時のことですが、舞台という大きな空間の中で、とても素晴らしい音楽を聞きながら、自分で踊って表現しているということにとても幸せな気持ちになりました。私にとってそれはすごく素敵な経験で、その舞台がきっかけでバレエに魅力を感じ、楽しいという気持ちに変わり、以降は前向きに取り組むようになりました。

ーー初舞台でそういう気持ちに。

栗原:そうです。

ーーそれがきっかけでバレエに対して前むきになったのですね。

栗原:やりたいものに変わりました。

ーーしかもご所属のバレエ団、もうすぐ…来年で100年ですね。

栗原:来年100年ですね。すごく歴史が深いカンパニーです。元々英国ロイヤル・バレエ団、ロンドンにある大きなバレエ団と一緒のカンパニーだったんです。英国ロイヤル・バレエ団の中でツアーを担当している部門が独立してバーミンガムに拠点を移し、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団という名称になり、現在にいたります。英国ロイヤル・バレエ団とは姉妹カンパニーのような関係ですね。

ーー歴史あるバレエ団に入団した時のお気持ちは?

栗原:本当に光栄です。私はロイヤル・バレエスクールに通っていたのですが、卒業する生徒たちの試験を英国ロイヤル・バレエ団と英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団、イギリスの二つの主要な国立バレエ団の監督が見に来るんです。私が卒業する年は、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が先に生徒にオファーを出せる年で、そこで私もオファーをいただけたんです。私の踊りを観て、自分のカンパニーに来て欲しいって最初に声をかけてくださるところに何か縁を感じましたし、とてもありがたかった…素直に本当に嬉しいっていう気持ちでした。またとても素晴らしいバレエダンサーの吉田都さんが元々所属されていたカンパニーでもあります。すごく誇り高いカンパニーだと思っていたので、そのようなバレエ団からオファーをいただけてとても嬉しかったです。

ーーバレエ団のお稽古はどんな感じでしょうか。

栗原:毎日クラスもありますし、リハーサルもあります。最も独特なのが1年間に120回ぐらい公演があるんですよ。ツアーも多く、世界各地をまわりますのでスケジュール的な面ではすごく大変だと思います(ヨーロッパのカンパニーは9月から7月がシーズン)。

ーー1年間120回公演、相当ありますね。

栗原:結構多いですが、これでも減った方らしいです(笑)。

ーー今回の公演が来日公演で、、主演でカンパニーと一緒に来日、しかも主演として初めて、ということですけど、その感想を。演目は『眠れる森の美女』、オーロラ姫、役柄などをお願い致します。

栗原:『眠れる森の美女』はカンパニーによってバージョンが全く違いますし、キャラクターも違ったりすることもあるので、面白いと思います。『眠れる森の美女』は元々すごく古い作品。それを歴史あるカンパニーが独自のバージョンで公演(注)をするのですが、舞台の作り方や、衣裳の素材、舞台装置のパーツが非常に試行錯誤され、工夫を重ねられているのが本当によくわかるんです。すごく貴重な価値のある作品を、日本で、自分の母国で踊り、表現できるのはすごく嬉しいし、みなさんどう受け止めてくださるのかがすごく興味深いです。
1幕ではオーロラはとてもピュアで、気品があり、無邪気というところから始まります。2幕の幻影の場面は、非常に幻想的な美しさに溢れています。ドライアイスを使ったり、舞台技術を駆使してまるで心のオアシスのような美しい世界を表現しています。舞台をご覧になる皆様にそのような美しさを感じていただけるよう、すごく力の入った演出になっているので、作品の世界観も楽しんでもらえたら嬉しいです。3幕になるとオーロラは100年の眠りを経て、目覚めた後に結婚する、結婚式の場面になります。古典バレエですので、どういった体のあり方、立ち方にするのかは決まっています。一方で表情や手の先に至る細かいところまで、すべてを使い、どうやって1幕から3幕まで、オーロラの成長をストーリーとして客席に伝えるかということは大きな挑戦です。表現することは非常に難しいことなので、より深く伝えられるように毎日試行錯誤しています。

ーー本当に貴重な公演ですね。演出家さんや振付家さんによって変わりますし、バレエの舞台写真を見ますと、同じ作品でも本当にカンパニーによって違いますね。

栗原:イギリスのカンパニーなので、英国バレエとしてのスタイルや形、枠が確立していると思います。英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団もそうですが、イギリスではどこのバレエ団も半分以上のダンサーはイギリスの学校に行って、しっかりと英国バレエのスタイルというものを学んできています。そういった面では、イギリスのカンパニーにいるからこそできることっていうのがあるんじゃないかなと思います。

ーー7歳のときからずっとバレエをやっていらっしゃってますが、栗原さんにとってバレエは何でしょう。

栗原:私の人生の中の一つの生き方であり、自分を幸せにしてくれるものかなと思います。

ーー音楽に合わせて踊るのは、シンプルに楽しい瞬間があるかと思います。

栗原:プロの世界なので、厳しいこともたくさんありますし、つらいことももちろんあります。バレエは芸術であり、見てくださる方々の時間が、豊かなものになれるよう、私自身はこれからももっともっとお客様のために踊っていきたいと願っています。気張らず、楽しむ気持ちを忘れずに、いつも自分でも日々踊れるように稽古に励んでいます。

ーー最後に読者に向けてメッセージを。

栗原:『眠れる森の美女』は皆さんにとって童話でもお馴染みの、絶対に楽しんでいただけるお話だと思います。ストーリーも分かりやすいのでバレエを観たことがない方にはぜひ観に来ていただきたいです。バレエは元々ヨーロッパから発祥した芸術です。本場のプロフェッショナルなカンパニーが日本に来て、皆様に作品をお届けすることはすごく意味があることではないでしょうか?皆様にはもちろん楽しんでいただきたいし、夢のような場になればいいなと思っていますので、殻も壁も作らずに、自由にリラックスしてきていただけたら。耳からも目からも肌でも感じられるものが本当にたくさんあると思います。そういったオープンな気持ちで来ていただいたら、より楽しんでいただけるんじゃないかなって思います。

ーーストーリーはよく知られているのでお子さんにもお勧めできますね。

栗原:はい。夢の場所ですし、現実を見せるためにお仕事はしていないので(笑)。皆さん社会でいろいろ難しく大変な分、現実逃避というのでしょうか、ひととき、心に余裕を持っていただき、夢を見るような気持ちで舞台をご覧になっていただきたいです。楽園のような…そういう時間をお届けしたいという気持ちで、私はいつも踊っています。特に女の子は、キラキラした衣裳を着て、本当にお姫様になりきって舞台で踊る…そういうのに憧れるお子さんもいらっしゃると思いますので、ぜひお子様を連れてみにきていただければ。

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

(注)ピーター・ライトによる『眠れる森の美女』は、1984年の初演以来、BRBにおいて40年以上にわたって上演されている、同団の財産ともいうべき重要なレパートリー。ライト版の演出は、マリウス・プティパによる伝統を尊重しつつも、英国らしい明確でドラマティックな物語展開、洗練された振付と深みのある心理描写、全体としては踊り+演技バランスの良さ、総合的な美しさが特徴。振付においては、1890年に帝政ロシアのマリインスキー劇場で初演されたプティパ振付の『眠れる森の美女』を基盤としつつ、チェケッティ・メソッドに基づいた無駄のないラインが特徴の品格あるスタイルを取り入れている。物語の進行の鍵となるリラの精とカラボスは多くの版においてリラの精は踊る場面の多い役だが、ライト版では原典同様マイムのみの威厳にあふれるキャラクター・ロール。カリスマあふれるカラボスとの対立がドラマに深みを与えている。
ピーター・ライトは1975年から1995年までの20年間バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BRB/旧サドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団)の芸術監督を務めた演出家。

概要
「眠れる森の美女」
日程・出演者
6月20日(金) 18:30
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル(ゲスト・アーティスト)
王子:マチアス・ディングマン
6月21日(土) 14:00
オーロラ姫:栗原 ゆう
王子:ラクラン・モナハン
6月22日(日) 14:00
オーロラ姫:アリーナ・コジョカル(ゲスト・アーティスト)
王子:マチアス・ディングマン
会場:東京文化会館(上野)
上演時間:約3時間(休憩2回含む)
指揮:ギャヴィン・サザーランド
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

「シンデレラ」
日程・出演者
6月27日(金) 19:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:ウィリアム・ブレイスウェル(ゲスト・アーティスト)
6月28日(土) 14:00
シンデレラ:ベアトリス・パルマ
王子:マックス・マズレン
6月29日(日) 14:00
シンデレラ:平田 桃子
王子:ウィリアム・ブレイスウェル(ゲスト・アーティスト)
会場:東京文化会館(上野)
上演時間:約2時間30分(休憩2回含む)
指揮:ポール・マーフィー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

公演公式サイト:https://www.nbs.or.jp/stages/2025/birmingham/index.html

栗原ゆう撮影:Shoko Matsuhashi