
5月28日、ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニーによる『母』が開幕。
プラハに次ぐチェコ第二の都市、ブルノにあるブルノ国立劇場は、新国立劇場と同じ、オペラ、バレエ、演劇の3部門を擁した、チェコ共和国最大の劇場のひとつ。
劇場付きのスタッフ・キャストが所属する「ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー」が初来日し、2022年4月の初演以来、レパートリー作品として定期的に上演されているカレル・チャペックの名作『母』を、新国立劇場で上演。
1936~1939年に起こったスペイン内戦を受けて執筆された、戦争により夫と息子たちを次々と失くしていく母親の物語は、シュチェパーン・パーツル氏による、現在の世界情勢をすくいとったかのような見事な演出により、約90年の時を経ても色あせず、「現代社会に生きる私たちの物語」として立ち上がる。
字幕は英語と日本語で表示。タイトルにもなっている『母』、つまり、母親が中心、登場人物は夫、彼女の息子たち、実は末の子供以外は皆、死んでいる、しかも戦争、紛争で。亡くなった息子たちがまるで生きているが如くに現れ、わちゃわちゃと。兄弟間のよくある、会話、時折客席から笑いも起こる。
だが、彼らは死んでいる。しかも戦争で命を落としたことを「正当」化している。つまり正義のために自分は死んだのだという信念。彼女も夫もまた然り、さらに存命の末の息子まで戦争に行こうとする。母はそれを認めない、子供たちはことあるごとにいう「どうせ、母さんにはわからない」母はどんな些細なことも大事にしたい、全てが大事なこと、だから息子たちが、夫がわざわざ、自ら命を落としに行くのは耐えきれない、という気持ち。
それが特別なことではなく、日常の延長のように描かれている。だから、観ている観客は、戦争、紛争の虚しさをより感じることとなる。時折、テレビでどこかの戦争や紛争が報道されている。この無機質な雰囲気がより、そのことを引き立てる。翻って現代もウクライナなど戦争は継続している。我々を取り巻く世界情勢がこの物語を今日的なものとして認識させる。夫、息子たちは「逆転する正義」を支持し、母は「変わらない愛」を貫こうとする、だから平行線を辿る。俳優陣のリアリティのある演技、すぐそこで営まれている彼らの日常を観ているかのような空気感、だから、胸に迫る。公演は6月1日まで。
あらすじ
夫をアフリカでの戦いで失ったドロレスには5人の息子がいた。長男は医師として、次男はパイロットとして、それぞれの使命を果たして死んだ。双子の三男と四男は内戦に巻き込まれ、戦いの中で2人とも殺される。亡くなった者たちは霊となってドロレスに話しかける。戦火が激しくなり、戦争への参加が呼びかけられる中、唯一生き残っている末息子のトニは軍への入隊を志願し、死んだ父と兄弟たちはトニの決断を支持する。トニまで失う事はできないと必死に抵抗するドロレスだが…。
概要
日程・会場:2025年5月28日〜6月1日 新国立劇場 小劇場
予定上演時間:
約1時間55分(第1幕 60分 休憩 20分 第2幕 35分)
作:カレル・チャペック
演出:シュチェパーン・パーツル
ドラマトゥルグ:ミラン・ショテク
キャスト
ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー
テレザ・グロスマノヴァー
トマーシュ・シュライ
ロマン・ブルマイエル
マルチン・ヴェセリー
ヴォイチェフ・ブラフタ
ヴィクトル・クズニーク
パヴェル・チェニェク・ヴァツリーク
美術:アントニーン・シラル
衣裳:ズザナ・フォルマーンコヴァー
音楽:ヤクブ・クドラーチュ
英語字幕翻訳:ヤロスラフ・ユレチュカ マルチナ・ナーフリーコヴァー
日本語字幕翻訳:広田敦郎
制作:ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー
後援:チェコ共和国大使館
協力:チェコセンター東京
Supported by Embassy of the Czech Republic in Tokyo
Cooperation by Czech Centre Tokyo
写真提供:ブルノ国立劇場
新国立劇場公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp