山崎静代,青山美郷,細川 岳,稲川実代子,増子倭文江,平田 満出演『ザ・ヒューマンズ─人間たち』開幕@新国立劇場

スティーヴン・キャラムのヒット作、舞台『ザ・ヒューマンズ─人間たち』が6月12日より開幕。劇団 KAKUTA 主宰の桑原裕子を迎え、新国立劇場にて日本初演。出演は弁護士エイミーには山崎静代。作曲家を目指す次女ブリジットには、オーディションを経て出演が決定した青山美郷、その恋人・リチャードには細川岳、認知症により車椅子生活をおくる祖母モモには稲川実代子、母ディアドラには増子倭文江、そして悪夢にうなされ不眠が続く父エリックを平田満という布陣。


マンハッタンの老朽化したアパートを舞台に、感謝祭を祝うために集まったある家族の会話から、貧困、老い、病気、愛の喪失への不安が浮かびあがる一夜の物語。ピュリツァー賞演劇部門最終候補、そしてトニー賞ベストプレイを受賞した本作は、21年、作家自身が監督を務め、A24製作により映画化された。
家族ドラマに、気味悪さ、恐怖という予想外の要素を混ぜ込んだ異色作。感謝祭を祝うために集まったある家族の会話から、貧困、老い、病気、愛の喪失への不安、宗教をめぐる対立などが浮かびあがる一夜の物語。だんだんと吐露されていく彼らが感じている様々な不安。人間の抱える人生の大きな不安を描くこの物語の世界は、現在のアメリカの縮図であり、それは私たち日本の現在とも重なっていく。

初日に先駆けてフォトコールと取材会が行われた。フォトコールは冒頭の25分ほどが披露された。舞台は1階と2階の二層構造。

それから取材会が行われた。まず、初日を控えての感想、思い。

桑原裕子(演出):「チャイナタウンに集まって温かい夜を家族で過ごすはずだったのが、不思議なことがいろいろ起こったり、それぞれの家族が持ち寄った不安の種が爆発して思わぬ方向に進んでいくこと…この面白い物語を皆さんに見ていただく日がやっと来まして、とてもわくわくしております。何とも言えない気持ちでご覧になっていただけたらいいなと思ってます」

平田満「お客様がどういうふうに見てくれるか全く想像がつかなくて、普通だったら『これはこう見えるのかな?』と思えたりするんでしょうけど、全く稽古のときからわからない。もう桑原さんの演出だけを信じてやりますので初日開けてのお楽しみかなと思います」

増子倭文江「感慨深いです。ただセリフの量と応酬がとても激しく、稽古はとても奮闘した日々でした。『なんか(初日は)こんなふうに来るんだな』って全部セリフが入って、こうやって人前に立つ日が来るんだなと、今日しみじみと思いました」

山崎静代「皆さん健康で無事にこの日を怪我なく迎えたことをまず嬉しく思います。稽古、約1ヶ月半ぐらい前に初めて皆さんとお会いして、本読みと話し合いをすごく重ねて重ねて…いろいろ本当に難しいなと思いながらやってきました。みんな一生懸命皆さん真面目に頑張ってらっしゃったので、私も頑張ろうと…こうやって家族を一生懸命作り上げてきました、それをお客さんに伝えることができるように努めたいと思います」

青山美郷「皆さんおっしゃったように、本当にこうやって初日の前のこのゲネプロを迎えられることがすごい奇跡みたいです。今回の作品は現実なのか、物語なのか、本当に自分でもわからなくなってしまうことがすごくたくさんあって、いろんな悩みや葛藤もあったんですけれども、演出の桑原さんを筆頭に素敵なスタッフの皆さんに支えられ、こうしてキャストの皆さんと何とか手を繋ぎ合って、光の方へ…1人でも多くの方にご覧いただきたいなと思っております」

細川 岳「初日を迎えるのがもうめちゃくちゃ怖いです、めちゃくちゃ怖いんですけど、どう思ってもらえるのか、平田さんもおっしゃっていたみたいに全然想像もできないんですけど。わからないものとかは何か、観察しに来てもらえたらなと。みなさんが面白いと思うかどうかわからないんですけど、でもきっと何か跳ね返ってくる、見終わった後に跳ね返ってくる人は絶対にいるなと感じていて。そういうものを残せるように明日から頑張りたいと思います」

稲川実代子「おばあさんをやっております。皆さんの猛烈な量のセリフの合間合間にわけのわからないことをちょこちょこっと喋りますが、無口な私ですので、あまり多くは語れません。初日、いよいよ明日ということで、本当に皆さんおっしゃってたように、初日を迎えられる。本当に信じられないというか。体力勝負で、みんな怪我もせず、病気もせず、本当に嬉しく思っております。明日からまた気合いで頑張りましょう」

台本には細かい指定が入っていたり、セリフとセリフの間にスラッシュ(/)が入っているそう。これは次のセリフを言う人が前の人がセリフを言わなく終わる前に、ここから重ねて話し始めなさいという指示。同時にいうセリフは2段組で書かれていたり、上の階と下の階が同時に物事を動かす、食事を会話の合間に食べないといけないなど、演じるに当たって難しい場面が多々あるそう。苦労したところについて、

山崎静代「いっぱいあるんですけれども…2人でじっくり喋るシーンとかよくわかりやすくやれるんですけど、やっぱり何人もいて、それぞれがどんどん重なり合っていくとかいうところはタイミングいろいろ難しいところがすごいあって。私がよく、悲しいところは悲しく、演じてしまう、そこを隠したり、逆の表現をする、しないといけないのにそのままストレートにやっちゃうのが結構あって。自分の性格、私はボクシングでやってたんですけど、ストレート打ちますよっていう…相手にバレバレの感じで。気持ちが前に行って嘘をつけない、ちょっとフェイントつけて舌打ち…とかいうのがなかなかできずに。自分の性格がつい出てしまい、そこが結構苦労、いっぱい間違えてたところですね」

青山美郷「最初、次女の2番目の無邪気さみたいなところをつかむのがすごく苦労したなと思ってます。あとは食べながら人のセリフを聞きながら、でもストレスをどんどん積み重ねていかなきゃいけないシーンがありまして、そこは本当にとても苦労しました」

細川 岳「会話が全部繋がってるので、(難しいところは)もう全部なんですけど、リチャードっていう役は結構面白くないことやずれたりしたことを言ったときに、シーンとした空気になるのが……本当に滑るとは…もうあってるのかなみたいな感じになるのが、毎回そこがちょっと合ってるか未だに不安です」

稲川実代子「皆さんのセリフの量と比べたら、私はセリフないです。ただ時々喋るためには、全部を聞いてなきゃいけなくて、流れを覚えてなきゃいけない、そこで居眠りでもしようものなら、きっかけゼリフを出さないことには、えらいことになるのでずっと耳を傾けていなければならない集中力っていうのは、ちょっと大変でしたね。高齢なもので…でも何とか楽しくやれそうです」

増子倭文江「皆さんがおっしゃってるように、全部大変なんですけれど私が今も苦戦してるのは、ダイエット中にも関わらず、ものすごく食べるんですよね。食べながらセリフを言うんですけど、もういっぱいだよっていうぐらい食べながら、セリフを言わなきゃいけないっていうのがとても大変です。今もすごく緊張しますね。どこ行っちゃうかわからないので面白い、そこはちょっと怖いですね」

平田満「年齢的に目も耳も衰えてきてまして。とにかくこの登場人物全員を聞き分けて、きっかけを全部取らなきゃいけないと…これやっぱり大変でしたね。まず聞けるようになるまでが大変でした。でも僕らがちゃんと聞いてないとお客様に伝わらないから、多分その辺が整理がつくように今はなってると思うんです。そういう意味では、これだけきっかけの多いのは初めてかもしれないなと思います。アクションとかではなく、ちっちゃいきっかけがいっぱいあるんで。それとわからないようにずっと滑らかに進んでいけばいいなと思ってます」

また、演出面で大変だったことについて
桑原裕子「2階と1階が断面図みたいな感じの舞台で、そこではみんな全然違う感情をそれぞれ持ちながら、下で楽しい話をしてたり、上で泣いてたり、ご飯を食べてたかと思ったら、1人でまた上の方では全然違うやり取りが行われてたり。お客さんが一つの事象に集中して、ガイドライン引かれてここを見ていけばいいんだなっていうふうに優しく誘導してくれない、ちょっとこっちの気持ちに感情移入して聞いてたら、すぐ次に上で全然違うことが起きるっていうちょっと迷路的に作っていて、その迷路の中でキャストが実際に人生の迷子になってる、登場人物たちが右往左往するので、本当に見どころがありすぎてそれを整理してみていただくっていうのはすごく難しいというんでしょうか、キャストの人たちも迷ってる様を見せなきゃいけないのに、演じてる方は迷っちゃいけないっていうところをやっていくのがすごく難しいなと思います。いろんなことを抱えている家族がみんなで集まって同時に喋りながらご飯食べる…実は私達もそれぞれの家庭だったり、気の置けない友達とかだと、毎日のようにやってることなのに、これ実際にそれをつまびらかにちゃんとしながら細かく細かく実際演じてみようとするとこんなにテクニカルな難しいことやんなきゃいけないんだっていう…キャストの皆さんが一番大変ですけど、難しかったですね」

改めて作品の魅力について。
桑原裕子「1人1人ご挨拶されてるキャストの皆さんが、一律に不安げっていうところでわかってもらえると思うんですけれど。コメディと書いてありながら全然笑えないというか…客席全体が終わって笑うようなコメディって、それはどこか安心があるから笑えるんじゃないかと思うんですけど、この作品は客席を安心させてくれない芝居…笑った後に笑っちゃいけなかったんじゃないかってお客さんが後悔するような…ちょっと人が悪い気持ちでニヤリってするような瞬間とか、その家族の誰かに自分を投影したときに、笑いたくなるようなことはあるんですけど、でも登場人物の不幸を思ったら、おいそれと笑えないなっていうふうに。自分を責めながら笑うみたいな…すごくひねくれた部分があると思うので。それから笑ってるのに不安になるっていうようなシーンがいっぱいありますので、これは怖いのか面白いのかどっちなんだろうと迷ってみていただくことになると思うんです。迷ってみていただくことこそが醍醐味というんでしょうか、なんだか見ている方もちょっとずつストレスがたまっていくような感じがするのがあるのが意味正解なのかなと思います。キャストも不安だし客席も不安だしみんなで不安が充満していくようなそういう感じがこの芝居の見どころかなと思ったりします」

平田満「気持ちの良いお芝居ではないと思います。はい。私どもの同業者に多いんですが、普通の芝居を見てて、全く誰も笑ってないとこでワハハって笑う人をよく知ってるんですけども、そういう人は笑うと思います。でも、みんなで安心してそうやって楽しくやろうねっていう人はどう見ていいかわからないかもしれないです。そういうお芝居になると思います」

山崎静代「この1階と2階のセットで同時にいろんなことが行われるっていうのもすごく珍しいと思います。愚かな人間たちを見ていただき、そういうとこは楽しく見ていただけたらなと思います。アメリカのニューヨークのお話で、遠い国の全然関係ない話かなと思いきや、全然すごく身近な話、家族、皆さんが感じたことがあるものがある…人間ってどこの国でもどんなところに住んでても人って同じなんだなっていう…そう感じてもらえるようにやりたいなと思います」

豊橋、大阪公演があるが、穂の国とよはし芸術劇場は、平田満は「芸術文化アドバイザー」として活動し、以降もアソシエイト・アーティストの肩書で24年まで活動していたが、現在は桑原裕子が芸術監督を務めている。また、大千秋楽を迎える大阪茨木は山崎静代の出身地。各地での上演に向けて。

山崎静代「茨木でお芝居をやらせてもらうっていうのは初めてで。地元の学生時代の友達とかバイトしてたところの友達とかに連絡したら、めっちゃ来てくれる、すごい嬉しくて。10年、20年近く連絡してなかった人たちに声かけたら、いっぱい集まってくれるのですごい嬉しいし、父親茨木に住んでいるので、もう年ですが、茨木だったら近いから行けるっていうことで、久々に舞台を見に来てくれる、本当にこれが最後…生で見せれるのは最後かなと思うんですけど、そういう機会がもらえてありがたいなと思います」

平田満「確かにニューヨーク、アメリカの話ではありますけれども、茨木とか、豊橋とかそういう地方でも、芝居を普段からもうしょっちゅう見られているような方じゃなくても、わかって共感して、あるいはハラハラドキドキ楽しんでいただける。そういう舞台になれたらいいなと思っています。地方でやる意味合いはとてもあると思います。多分、新国立にいらっしゃるような方たちはとてもハイソな方が多いと思いますので。僕の知り合いとか親戚とか、そういう人が見てもわかる、同じ家族の話として思っていただけるように頑張ります」

桑原裕子「アドバイザーから芸術監督になって7年ぐらいですが、その前から平田さんのお芝居だったり、ぷらっといろんないいお芝居が来ているとので、劇場が7年前から比べてもそうですが、市民の人たちの中でお芝居の面白さみたいなものが根付いてきて、その見る目が肥えてきているのを、何か感じているんですね。ちょっと難しい部分もあるかもしれないし笑って楽しかったとかそういうのじゃない、モヤモヤしたものを感じたり怖いなと思ったり、定義できないようなことって、ちょっと難しいみたいなふうに思っちゃう人っているかもしれないんですけど、そういうところをすごく深く楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。一方で、豊橋って朗らかな雰囲気ありますから、笑いたいなっていう要求が客席から漂ってくるかもしれないんですけど、それはそれで笑ってほしいなと思ってます」

記者席からキャスティングについての質問、山崎静代の弁護士役について。

桑原裕子「テレビを通じて『しずちゃん』として見ている方からしたらちょっと意外な新しい一面が見えるかなと思うんですけど、そういうところを踏まえてこの役を山崎さんに、と考えた理由はしずちゃんの演じる役はちょっとバリバリキャリアのある弁護士さんで自立していて、達観をしていて、皮肉な言葉をいっぱい知ってて皮肉なことも言うって考えると、およそしずちゃんっぽくない、でもそこが逆にいい、しずちゃんの良さはちょっと前に前に出て、ぱっと笑っていくっていうよりも、ちょっと一歩引いたところでポンって言ったことがすごい面白かったり、言った後も『これあの本人どう思ってるのかしら?』っていう本人の中にちょっとミステリーを残る感じが元々しずちゃんの中にあって、『この1人で何考えてんのかな?』ってそそるようなイメージがすごくしずちゃんの中にあったんでお願いしたいなと思いました。家族を優しく思う、家族を支えてる、平和的な部分、頭がいいからこそ、優しく見守ってくれるようなところがあるんですけれども、今回演じてるしずちゃんの優しさ、人柄の良さ、悲しい気持ちや人の優しさとか理解してるからこそ、響く、演じたときにその人が見える、人間のそういうところが面白いなって思いました」
それを受けて、山崎静代は「すごくありがたいです」と恐縮。時間になり、取材会は終了した。

あらすじ
眠れぬ夜を過ごしているエリック(平田 満)は、感謝祭の日、フィラデルフィア郊外から、妻ディアドラ(増子倭文江)と認知症の母モモ(稲川実代子)を連れ、次女のブリジット(青山美郷)とそのボーイフレンド、リチャード(細川岳)が住むマンハッタンのアパートを訪れる。そこに長女エイミー(山崎静代)も合流し、皆で夕食を共にする。雑多なチャイナタウンにある老朽化したアパートでは、階上の住人の奇怪な物音や、階下のランドリールームの轟音がして、祝日だというのに落ち着かない。そんな中始まった食事会では、次第にそれぞれがいま抱える人生の不安や悩みを語り出し、だんだんと陰鬱な雰囲気を帯びてくる。その時、部屋の照明が消え、不気味な出来事が次々起こり……。

概要
日程・会場:2025年6月12日(木)~29日(日)新国立劇場 小劇場
作:スティーヴン・キャラム
翻訳:広田敦郎
演出:桑原裕子
美術:田中敏恵
芸術監督:小川絵梨子
出演:山崎静代、青山美郷、細川岳、稲川実代子、増子倭文江、平田満
主催:新国立劇場

全国公演
愛知:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール 2025年7月5日(土)13:00、6日(日)13:00
大阪:茨木市文化・子育て複合施設 おにクル ゴウダホール(大ホール) 2025年7月19日(土)14:00

公式サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-humans/