この「Out of Order」は1990年に発表され、ローレンス・オリビエ賞に輝いた傑作コメディー。原作者はレイ・クーニー、「ラン・フォー・ユア・ワ イフ」、「パパ、I LOVE YOU!」などがあり、加藤健一事務所でも公演されている。
さて、この「Out of Order」、与党副大臣のリチャード(加藤健一)、舞台はロンドン、臨時国会の最中だというのに、こともあろうに敵対する野党議員の秘書ジェーン(加藤 忍)といわゆる“不適切な関係”にあり、高級ホテルであるウェストミンスター・ホテルのスイートルーム でワクワク。テムズ川が一望できる景色を見ようをカーテンを開けたら・・・・・・・「キャーーーーー!!」とジェーンが腰を抜かす。そこには・・・・・・ヤバい、ヤバすぎる!こんなところでこんなことが!自分たちの関係がバレたらスキャンダルネタで大変なことに!きっと!なる!焦りまくるリチャードは「もみ消さなきゃ!」とばかりに秘書のジョージ(浅野雅博)を呼ぶ。ことの次第を聞き、露骨に嫌がるジョージ。しかし、有無を言わさずにジョージに後始末を押し付ける。
そんなところにホテル支配人(新井康弘)やらウエイター( 坂本岳大)やらメイド(はざまみゆき)やらがやってくる。とっさにつく嘘、嘘、嘘。そして行き違い、すれ違いで、状況は好転するはずもなく、スピーディに泥沼化!果てはリチャードの妻(日下由美)、ジェーンの夫・ロニー(阪本篤)、ジョージの母親の付き添い看護婦(頼経明子)も来ててんやわんや、そして謎の男(さとうこうじ)は何のために・・・・・、この顛末は?がだいたいの流れ。
緻密な伏線、ストーリー展開、しかもハイスピードで状況が変わっていく。基本的に自己中、自分の保身のためなら「なんだってやるさ!」的な態度で生真面目そうな七三分けのヘアースタイルに反して不倫、嘘、自分が可愛い、しょーもないが憎めない人・リチャードを加藤健一が嫌味なく軽やかに演じる。それに対してジョージは生真面目、こんな大臣に対しても秘書らしく、状況に応じて反射的に右往左往しながらもリチャードの嘘に付き合うが、これを大汗かいて浅野雅博が熱演する。ジェーン演じる加藤忍は、コケテッシュな魅力を放つが、ダメンズにハマるタイプのようで彼女の夫であるロニーは嫉妬深く、、さらに地球は自分のために回っているかのごとくなリチャードにも引っかかってしまう恋愛体質キャラクターを的確に表現する。とにかく登場人物全てが“キャラ立ち”、しかも挙動がいちいち可笑しく、客席は笑いっぱなしだ。ハプニングに次ぐハプニングに動揺しまくり、気が動転して、冷静な判断ができない。そんな状況でもウエイターはしっかりとチップを稼ぐ、なかなかなしっかり者ぶりに思わずクスリと笑みが。ジョージはリチャードに言う「あなたを中心に世界は回っているわけではありません」、しかしリチャードは“どこ吹く風”だ。
登場人物たちに悪人はいない、夢を語るわけでもなく、目の前のことにひたすら必死だ。自分のためならなりふり構わない。ジョージは上司であるリチャードに忠実だが、巻き込まれてしまい、嘘にも加担、これがバレたら自分も無事では済まない、だからリチャードをフォローする。彼らの心理状況、設定はオーバーだが、実は人間誰しもが持ちうる感情だ。そんな人間の『ある、ある』をパニック・コメディーにして笑い飛ばす。観客は大笑いしながらも大きくうなずき共感、疾走する2幕物、ラストはこのこんがらがった人間関係と感情が急速にまとまっていく。さすが、“笑劇の王様”と言われるレイ・クーニー、「何でこんなに面白いの?」と呟かざるを得ないくらいだ。余談だが、彼の息子であるマイケル・クーニーもまたコメディー作家、「キャッシュ・オン・デリバリー」などの傑作を書いているが、血は争えない。
【公演概要】
加藤健一事務所 vol.103「Out of Order 〜イカれてるぜ!〜」
2018 年 9 月 26 日(水)~10 月 10 日(水)
下北沢・本多劇場
作:レイ・クーニー
訳:小田島恒志
演出:堤泰之
出演:加藤健一、 浅野雅博(文学座)、さとうこうじ、 坂本岳大、 阪本篤(温泉ドラゴン)、 加藤忍、 日下由美、 頼経明子(文学座)、はざまみゆき(ハイリンド)、 新井康弘
公式サイト:http://katoken.la.coocan.jp
撮影:石川純
文:Hiromi Koh