ミュージカル『パリのアメリカ人』ガーシュインのメロディーにのって!悩み忘れて!恋に夢に邁進するのみ!

ミュージカル『パリのアメリカ人』は、1952 年にアカデミー賞を受賞し、“アメリカ音楽の 魂”と称されるガーシュウィン兄弟の代表曲が散りばめられた同名映画に想を得た作品。 ロイヤル・バレエ団アーティスティック・アソシエイトとして、『不思議の国のアリス』『冬物 語』等、数多くのバレエ作品を手掛けるクリストファー・ウィールドンが演出/振付を担当し、 2014 年にパリ・シャトレ座で初演、翌 2015 年にはブロードウェイ・パレス劇場に 進出。同年のトニー賞で振付賞、編曲賞、装置デザイン賞、照明デザイン賞の 4 部門を獲得し ました。劇団四季による公演はいよいよ 1 月 20 日(日)、東急シアターオーブ(渋谷区)で開幕。それに先駆けてゲネプロ公演が行われた。

舞台上には映像で凱旋門、そして中央にはピアノが1台あるだけ。そして一人の男が登場する。名前はアダム(斎藤洋一郎)といいアメリカ人、終戦になっても国には帰らずにパリに住んでいる。戦争で足を悪くしている。タバコをくゆらせる、戦争のことを話す、この物語のバックボーンだ。彼の語りとともに舞台上では象徴的に描かれるその時代、フランスはナチスの占領下にあり、暗い時期があった。それが解放され、戦争は集結、この表現が鮮やか、ナチスの旗が瞬時にフランスの国旗に変わる、時代が目まぐるしく、ドラスティックに変化したことをビジュアル的に見せる。それから物語が本格的に動き出す。

パリの風景は基本的にプロジェクション・マッピング、これが美しく、まさにアート、サラサラと舞台後方にスケッチされ、また淡い水彩画のようにもなったりもするが、ここはテクノロジーの進化の賜物と言えるであろう。ガーシュインの曲が流れる。ガーシュインの交響詩「 An American in Paris」は1928年にカーネギーホールで初演されたが、時を経て20世紀の前半の名曲と21世紀のハイテクの融合、歴史を感じさせる瞬間だ。

アダム、ジェリー(酒井 大)、アンリ(小林 唯)、この物語の主要な3人の男が出会い、意気投合するのにさほど時間はかからなかった。ジェリーは自分のことを「ただのジェリー」と言う。単なる『自分』、シンプルだが、この言葉は深い。兵隊でもない、肩書きも何もない。そこにいるのは自分そのもの、と。3人は「自由と平等と博愛に乾杯!」と言って大いに盛り上がる。そして名曲「アイ・ガット・リズム」にのって軽快にテンポよく!3人の気分や時代の空気を観客に提示する。「悩み忘れ・・・・」と誰もがテンションアゲアゲで!ジェリーはパリで画家として生きていくことを考えており、アダムは作曲家になる夢があり、アンリはショーマンになりたいと思っている。夢は彼らの原動力となっていく。

ジーン・ケリー主演の有名すぎる映画に想を得ているので、オチもなんとなくわかってしまうが、それでもちょっとドキドキ、ハラハラするのは作品の力。この仲良し3人組が図らずも同じ女性に「Fall In Love」これは運命の悪戯としか言いようがないが、この悪戯によって登場人物たちすべては気づきを得る。

ミュージカルならでは、舞台ならではの表現がとにかく目を見張るものが多く、どのシーンも秀逸。しかし、その中では、なんといってもダンスシーンは想像力を掻き立てられ、視覚的にも独創的で言葉がなくてもわかるノンバーバル的な要素もある。フォーメーション、振付、バレエ、ジャズダンス等のベーシックなスタイルがベースになっているものの、そこからさらに進化した動き、演出家であるクリストファー・ウィールドンの手腕によるところが大きいだろう。ロイヤル・バレエ団でダンサーとして活躍後、ニューヨーク・シティ・バレエ団でソリストとして参加、振付も手がけ、この作品でトニー賞振付賞を受賞。リズ(石橋杏実)を主演とした劇中劇のバレエ公演のシーンは、これだけでも成立するほどの完成度の高さ、衣装もシンプルでいながら洗練されており、一人一人のダンサーの動きも完璧、背景もモダンかつアート、お洒落、世界最高水準とはこういうものなのかと納得。また想像のシーンであるがアンリがニューヨークのラジオシティで踊り歌う場面もタップも楽しく、華やか。また小道具やパネルなどは出演者が動かすのだが、ただ動かすのではなく、これもまたパフォーマンスの一部、切れ目なく場面が流麗に流れていき、滞ることはない。

ラブストーリーであるには違いないのだが、大きな戦争を経験した若者たちが心や体に傷を負いながらも夢を追いかけ、恋に身を焦がし、「悩み忘れて」生きようとする姿には共感を覚える。この「アイ・ガット・リズム」がライトモチーフ的に流れ、このフレーズが脳内でリフレインする。この曲に乗せて『前を向いていこう』という応援的なメッセージも含まれている。単に恋に浮かれているだけではなく、様々な思いや哲学、理念が含まれている蘊蓄のある作品、それを難しく語るのではなく、恋物語にのせて見せる。

俳優陣のスキルの高さ、主要キャラクターを演じる面々はゲネプロ段階ですでに安定感もあり、幕があいてからどのくらい進化するのか楽しみ。ジェリー役の酒井 大の跳躍する時の高さ!、恋に一途な青年役がハマる。そして石橋杏実は可愛らしくもあり、心迷いつつもも芯のあるリズを好演、アダム演じる斎藤洋一郎の翳りを見せながらも時代を生き抜く男を表現、小林 唯は育ちの良い『お坊ちゃん』アンリを小気味よく演じ、4人のバランスも良い感じ。また『大人』キャストはしっかりと芝居で脇を固める。ここは劇団ならではの結束力の高さであろう。春にふさわしい恋物語、時代も場所も超えた真実がここにある。

 <出演者コメント>

酒井 大(ジェリー・マリガン役)

これまでバレエダンサーとしてバレエ作品に出演してきましたが、今回この舞台に挑戦する機会をいただき、大変光栄です。クリストファー・ウィールドンさんが手がける振付は、これまで経験したことがないほど斬新であり、非常に難しいもの。この美しいダンスを通してジェリーという役、そしてこの作品の魅力を余すことなくお客様にお届けできるよう、精一杯演じたいと思います。

石橋杏実(リズ・ダッサン役)

劇団四季の新作という大舞台で、ヒロインのリズ役を演じることができ、光栄に思うと同時に身が引き締まる思いです。
この作品は第二次世界大戦後のパリを舞台に、戦争で受けた傷を抱えながらも、前を向いて生きていく若者たちの姿が描かれています。リズは求められていることをすべきか自分の心に従うべきか思い悩む、一人の女性。この役を通して作品のドラマをしっかりとお届けできるよう、一回一回の舞台を誠心誠意努めてまいります。

【公演概要】

劇団四季ミュージカル『パリのアメリカ人』
2019年1月20日〜
東急 シアターオーブ
2019年3月19日〜
KAAT神奈川芸術劇場
劇団四季公式HP:https://www.shiki.jp

文:Hiromi Koh