舞台「TAKE ME OUT 2018」

 

 

この作品、『TAKE ME OUT』は、2003年トニー賞作品賞&助演男優賞を受賞した傑作。日本では2016年初演。一部キャストを変えての再演である。舞台は中央、それを挟む形で客席。天井にはモニターがある。中央に1人の男が立つ、そこにスポットライト。このストーリーの語り部的な存在のキッピー(味方良介)が登場する。それから、この物語の登場人物たちがゆっくりと登場する。アメリカメジャーリーグの黒人プレイヤー・ダレン(章平)が自分がゲイであるとメディアを通して告白する。もちろん、この発言は物議を醸し出す、世間だけでなく、チーム内でも。

 

 

物語のほとんどはロッカールームで展開される。野球、チームの勝利は彼らにとって“共通”であるが、それ以外の価値観や考え方、感じ方はバラバラ、しかもここは人種のるつぼ、アメリカだ。

ダレンの告白を好意的に受け止める者もいれば、怪訝な顔をする者もいる。そんなぎくしゃくとした状態で、当然、試合で良い結果が出る筈もなく、である。また、ロッカールーム故に着替えの場面が頻繁にあるが、単に着替えているだけでなく、試合という戦いが終わり、“鎧”を脱ぐ、ということでもある。ちょっとしたことで彼らの本音やバックボーンも透けて見えてくる。シャワーシーンもあり、本水を使用しているのだが、一見丸裸に見えて実はちょっとした仕草でそうではないことがわかる。
そんな折に、天才的なピッチャーであるシェーン・マンギット(栗原類)がチームにやってくる。負けがこんでいたチームに一筋の光が見えたが、彼は異様なまでの潔癖性で、しかも差別主義者でもあった。そんな彼のテレビでの発言は、ほぼ暴言で「ホモ野郎とシャワーに入るのは気持ち悪い」と。彼は何か考えがあってそういった発言をしているのではなく、心底そう思っているので、説得して考えをあらためさせる等到底あり得ない。しかも試合中に大事件を起こしてしまうのだった。

 

 

この物語に登場する人物は全て“善”である。暴言を吐くシェーン・マンギットですら、である。「自分は何者なのか」「自分の居場所はどこにあるのか」と迷える人達である。マイノリティな人々を傷つけることによって自分の立ち位置を確認・確保する。そういった行為は実は日常にも潜んでいる。特にアメリカは人種の問題等、そういったことは日本と比べようもないくらいハッキリしている。

シェーン・マンギットは結局、野球界から永久追放され、その後は破滅的な状態になるが、これを役者の演技ではなく、それ以外の登場人物が語るのだが、その方がかえって彼のどうしようもない転落ぶりと苛立ちが伝わってくる。

ラストは愛を感じさせる幕切れ、皆、個性があり、感じ方も違う、人種の違いや宗教や文化のバックボーンも千差万別だ。そういったものを乗り越えて、みんな仲良くしましょう的な正義をふりかざすことはしない。結局、マイノリティへの偏見も差別も結局のところ、なくなりはしない。それが人間というもの。

タイトルにもなっている「TAKE ME OUT」は「私を連れ出して」という意味で、例えば「レストランに連れていって」のような場面に使われる。それに対して「GET ME OUT」は何かここにいたくない状況で「ここから出して!」というニュアンスとなる。

さて、どこへ「TAKE ME OUT」なのか、それは人それぞれの中にある。

 

 

 

<ストーリー>

男たちの魂と身体が燃え滾る、「ロッカールーム」。彼らにとってそこは、すべてをさらけ出せる楽園だった。ひとりのスター選手による、あの告白までは-。

黒人の母と白人の父を持つメジャーリーグのスター選手、ダレン・レミングは、敵チームにいる親友デイビー・バトルの言葉に感化され、ある日突然「ゲイ」であることを告白。それは、150 年に及ぶメジャーリーグの歴史を塗り替えるスキャンダルであった。しかしダレンが所属するエンパイアーズ内には軋轢が生じ、次第にチームは負けが込んでいく……。

そんなときに現れたのが、天才的だがどこか影のある投手、シェーン・マンギット。圧倒的な強さを誇る彼の魔球は、暗雲立ち込めるエンパイアーズに希望の光をもたらしたのだが-。

 

【公演概要】

日程:2018年3月30日(金)~5月1日(火)

会場:DDD青山クロスシアター

作:リチャード・グリーンバーグ

翻訳:小川絵梨子

演出:藤田俊太郎

出演:玉置玲央 栗原類 浜中文一 味方良介 小柳心 陳内将 Spi 章平 吉田健悟 竪山隼太 田中茂弘.

 

http://www.takemeout-stage.com/

 

文:Hiromi Koh