2019年5月18日(土)にKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『恐るべき子供たち』が神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオにて開幕した。本作は、フランスの詩人・小説家・劇作家ジャン・コクトーによる思春期の少年・少女を主人公とした中編小説を原作とし、同劇場にて近現代戯曲を現代視点で蘇らせるシリーズに取り組んでいる白井晃による“近現代戯曲シリーズ”の最新作となる。
“近現代戯曲シリーズ”として4月の『春のめざめ』の再演に続き、同じく思春期の‘生’と‘性’をテーマにした作品の連続上演という同シリーズにとって新たな挑戦となる本作。
父が姿を消し、病身の母を抱える姉エリザベート(南沢奈央)と弟ポール(柾木玲弥)。物語は、ポールたちが学校で雪合戦をしているところから始まる。男子生徒ダルジュロス(馬場ふみか)が投げた雪玉がポールに当たり、ポールは倒れてしまう。ポールの友人・ジェラール(松岡広大)はダルジュロスの投げた雪の玉に石が入っていたと主張するが、ポールはダルジュロスをかばう。その怪我が原因で、ポールは学校に通うことが出来なくなり、家で自由気ままな日々を送るようになってしまう。
やがて、病気の母が亡くなり、エリザベートはモデルとして働き始め、そこで知り合ったアガート(馬場ふみか)という娘を時折家に呼ぶようになる。彼女はポールが憧れていたダルジェロスにそっくりだった……。
テーマの魅力について、演出・白井は「思春期の子供たちが大人になっていく過程の物語を描く作品というのはどこかに惹かれる部分がある」と語り、続けて『春のめざめ』との違いを「『春のめざめ』は親や学校という社会にプレッシャーをかけられながら、その中で悶絶する子供たちの姿と、そこからどうやって抜け出て行くのかという話。今作は大人になることを拒絶し、社会から自分たちを切り離して、自分たちだけの繭の中に生を得ようとする子供たちの話。同じ思春期ですが、中身は全然違う方向を向いています」と説明する。
コクトーの代表作の1つで、古典文学の悲劇を思わせるという点で最もコクトーらしい作品とも言われている原作を戯曲として手がけるのは、様々なジャンルで活躍する劇作家・演出家・俳優のノゾエ征爾。ノゾエとの初タッグとなる白井は、ノゾエの上演台本について「『春のめざめ』は戯曲でしたが、こちらは小説。それをどのような目線で作っていくのかというのがありました。そこで、ジェラールの視線を一つ外に置いて、エリザベートとポールを見ているジェラールの視線を観客と同じ視線に持っていこうとするという仕掛けがあり、そこが面白いです」と解説していた。
客席に入ると目を引くのが、ステージに幾重にも覆いかぶさる純白で巨大な布だ。雪合戦のシーンでは雪として、時にはベッドの布団、海辺では寄せる波など、ステージ上で様々な演出に用いられ、シンプルでありながらも印象的だ。演者たちがその布の中に潜り込むシーンでは、白井が語った“繭”というものをイメージさせられる。また、シーンによって布がステージの上や横へと持ち上がり、ステージ上の空間に幻想的な広がりも感じさせ、鮮烈な印象を残す。
エリザベートを演じる南沢は普段はコミカルさを見せながらも、残忍で傲慢な姿を露呈する時にはエキセントリックまでの狂気を見せる。“カメレオン俳優”とも呼ばれる柾木は、幼稚で享楽的な価値観のまま、姉という“繭”に包まれながら成長していくポールを好演。二役を演じる馬場は、モデルとしても活躍する彼女を思わせるアガートと、闇を抱えながらも魅力的な男性であるダルジュロスをしっかりと演じきっていた。そして、ストレートプレイ初出演となる松岡は純朴なジェラールを演じながら、第四の壁を破って観客に語りかける。物語の語り部的な役割を担い、ジェラールとして語る松岡の言葉が観客を作品へと引き込んでいく。
愛情と憎悪、そして嫉妬に満ちた思春期の姉弟の歪んだ関係。その果てに待つものは何か? 4人の行き着く先をぜひ劇場で見届けてほしい。
【公演概要】
タイトル:KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『恐るべき子供たち』
日程・場所:5月18日(土)~6月2日(日) KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
原 作:ジャン・コクトー
[コクトー 中条省平・中条志穂:訳「恐るべき子供たち」/光文社古典新訳文庫)
上演台本:ノゾエ征爾
演出:白井晃
出 演:南沢奈央、柾木玲弥、松岡広大 馬場ふみか デシルバ安奈、斉藤悠、内田淳子、真那胡敬二
劇場公式HP:https://www.kaat.jp/d/osorubeki
取材・文:櫻井宏充