ブロードウェイミュージカル「ピピン」、自分は何者なのか、何がしたいのか、旅路の果てに見つけた景色は?

ブロードウェイミュージカル「ピピン」が上演中だ。

『Pippin』(ピピン)は、ロジャー・O・ハーソン脚本、スティーブン・シュワルツ作詞作曲、ボブ・フォッシー演出およびリブレットによるトニー賞受賞のブロードウェイミュージカル。若い王子であるピピンが人生の意義を探す物語が語られる。この作品の起源になっている人物は中世初頭のピピンとその父親であるカール大帝なのだが、歴史的な史実には全く沿っていない。
初演は1972年10月23日、1977年6月12日までインペリアル劇場にて上演された。ボブ・フォッシーの演出および振付、1973年のトニー賞では、ミュージカル主演男優賞(ベン・ヴェリーン)、ミュージカル演出賞(ボブ・フォッシー)、振付賞(ボブ・フォッシー)、装置デザイン賞(トニー・ウォルトン)、照明デザイン賞(ジュールス・フィッシャー)に輝いた。
その後は何度か上演されたが、マサチューセッツ州ケンブリッジで『ピピン』を上演していたアメリカン・レパートリー・シアター(ART)のプロダクションがブロードウエイに進出することとなり、ミュージック・ボックス劇場にて2013年3月23日からのプレヴュウ公演を経て4月25日に『ピピン』再演が開幕。ダイアン・ポウルズが演出を務め、サーカスおよびアクロバティックな部分の演出はチェット・ウォーカーとジプシー・スナイダー。この再演により第67回トニー賞において10部門にノミネートされ、再演ミュージカル作品賞、ミュージカル主演女優賞(ミラー)、ミュージカル助演女優賞(マーティン)、ミュージカル演出賞(ポウルズ)の4部門を受賞した。
さて、日本語版での上演は、東宝が1976年4月に上演、ピピン役は秋野大作、その後は2007年にテレビ朝日主催、ネルケプランニング企画・制作で上演、ピピン役は相葉弘樹・kimeruのダブルキャスト、この時に中尾ミエがベルタ役(2019年日本版ではバーサ)を演じている。

今回の2019年版、演出にはダイアン・ポウルズ。主演のピピン役には城田優、reading playerにはCrystal Kay、チャールズ に今井清隆、ファストラーダは霧矢大夢、キャサリンに宮澤エマ、ルウィスは岡田亮輔、バーサは中尾ミエ、前田美波里のWキャストとなる。

最初に登場するのはreading player(Crystal Kay)、そして幕が開き、次々とキャラクターが登場する。客席に向かって「ようこそ!」と呼びかける。舞台上はサーカス小屋、客席はそのサーカス小屋の観客席という趣向だ。華やかなオープニング、「みなさん、今宵はお目にかけますのは」といい「観たら一生忘れられないクライマックス」というreading player。そこへこの物語の主人公であるピピン(城田優)が登場する。ピピンは自分が何者なのかを見つける夢を語る。野心に満ちた冒険の旅、というわけだ。ピピンは一旦、父である国王(今井清隆)のところに戻るが、賢いピピンとうまくコミュニケーションが取れない。そして、この国には、もう一人の王子が、名前はルイス(岡田亮輔)、さらに継母・ファストラーダ(霧矢大夢)がいる。王は戦について語る、ピピンは戦に行くことになるのだが・・・・・・。

戦いと言っても昨今のような殺陣やアクション満載!ではなく、サーカス小屋なので、まるでサーカスを観ているようなエンタメ性がバッチリのシーン、reading playerが歌う、風刺の効いたダンス、歌、めくるめくシーンではあるが、このシニカルさが「ピピン」という作品の真骨頂。ピピンは戦争に参加したが、すぐに嫌気がさしてしまい、ファストラーダに追われた祖母(中尾ミエ/前田美波里・Wキャスト)をたずねる。ピピンはまだ見つけられない、自分がどうしたいのか、どんな風になりたいのか。祖母はピピンに「考えるのはよしなさい」といい「私は時間のエキスパート!」という。

ゲネプロでは中尾ミエであったが、ここは圧巻!なんと空中ブランコを披露!かっこいい!思わず、ストーリーを忘れて見入ってしまうほどに!ここで大きな布が!そこには歌詞が「さあ、楽しもうよ 残りの時間を大事に 季節は変わってゆく あっという間に」一緒に歌える場面なので、ご一緒に!「おばあちゃんの言う通りだ!」とピピンは言う。すっかりその気になり、様々な女性と遍歴を重ねてみるものの、それが空虚であることに気づいていく。そこへreading playerが新聞を持ってくる。それを読んだピピンは革命を計画する、そして専制政治を敷いていた国王を殺害し、国王の座につくピピン。ところが・・・・・・思い通りにいかない!ピピンはそこを出て、ある女性に出会う。彼女の名前はキャサリン(宮澤エマ)、未亡人で子供もいる。ピピンはそこで普通の生活を営んでみる。ピピンは普通のことができない、「特別なことがやりたい」と。ここのシーンは華やかかつ迫力!高いところに登る、補助付きであるが宙返り、会見でも本人が説明したが、歌いながら行うので文字通りの『体を張った芝居』シーン、ここは大きな見どころであろう。そしてキャサリンは息子とともに残される。普通の生活を営んでみたピピン、「次は何があるの?」「まだ、あるわよ、ピピン!」そしてクライマックスへ!

めくるめく華やかさとスピード感をもった展開、ピピンの自分探し、自分は何者なのか、何者でありたいのか、答えは結局、自分で探すより他にない。それはこの『寓話』を観ている観客とて同じこと。誰もが気がつかない、いや気がついていてもどこかスルーしているのかもしれない。『ずば抜けた人生』と『普通の人生』と。実は2013年版の「ピピン」の新たなプロダクションにはオリジナルなエンディングが追加されている。これがなかなかに哲学的で、今回のエンディングは、このバージョン。人生は多様であり、多彩。そのどれが良いとか、そういうことではない。また、舞台の場所をサーカス小屋にしたことによって『寓話』であることを印象付ける。衣装もいかにもサーカスっぽいものもあれば、国王は冠をかぶって王様っぽいが、ピピンは『いかにも王子様』ぽい服装ではなく、ラフなトップスを着用している。この『バラバラ』感が型破りな芝居、という風に観客に印象付ける。バーレスク的で、パロディーぽくもあり、風刺も効いているが、こういったスタイルが、この作品の基調。無難にまとめるのではなく、どこか危うさを感じさせつつ、実は緻密に計算され尽くした舞台作品「ピピン」。時代に合わせて演出も改訂できる伸びしろを持たせつつ構成。独創的かつ想像力を掻き立て、しかもどこか猥雑なコリオ、キャッチーな楽曲、そして芸達者たちが勢ぞろいし、「ピピン」の世界を観客に提示する。ピピン役の城田優は安定した歌唱と芝居、reading playerのCrystal Kayはミュージカル初挑戦だそうだが、とてもそうは見えないうまさ。国王の今井清隆は朗々とした歌を聴かせ、ファストラーダ演じる霧矢大夢は抜け目のないキャラクター作り、艶やかさで存在感を示す。祖母であるバーサ、ゲネプロでは中尾ミエだったが、さすがの貫禄、宮澤エマの未亡人は可愛さ満点、岡田亮輔演じるもう一人の王子・ルイスはちょっと頭が悪そうな風情だが、それでいてしっかり周囲を見ている、といった感じで要所要所でアピール。適材適所、日本で考えられる最高水準のキャスティング。会見では城田優が「楽しめないわけがない!」とPRしていたが、まさに120%楽しめるミュージカル!この夏、必見!

【公演概要】
ブロードウェイミュージカル「ピピン」(英語タイトル: The Broadway Musical PIPPIN)
作詞・作曲 :スティーヴン・シュワルツ
脚本: ロジャー・O・ハーソン
演出:ダイアン・パウルス
振付:チェット・ウォーカー
サーカス・クリエーション:ジプシー・シュナイダー
出演:城田優 Crystal Kay 今井清隆 霧矢大夢 宮澤エマ 岡田亮輔 中尾ミエ/前田美波里(Wキャスト)
神谷直樹 坂元宏旬 田極翼 茶谷健太 常住富大
石井亜早実 永石千尋 妃白ゆあ 伯鞘麗名 長谷川愛実 増井紬 ほか
<東京公演>
日程:2019年6月10日(月)~6月30日(日) (全25回)
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
<名古屋>
日程:2019年7月6日(土)、 7月7日(日)(全2回)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
<大阪>
日程:2019年7月12日(金)~7月15日(月・祝)(全6回)
会場:オリックス劇場
<静岡>
日程:2019年7月20日(土)、 7月21日(日)(全2回)
会場:静岡市清水文化会館マリナート 大ホール
オフィシャルサイト: http://www.pippin2019.jp/

取材:Hiromi Koh