カナダ気鋭の劇作家、リー・マクドゥーガルの戯曲処女作『High Life / ハイ・ライフ』。1996 年にカナダ/トロントのクロウズ・ シアタ―で初演。国内各都市及びニューヨーク、ロンドンでも上演され、同年のトロント地区最優秀新作戯曲賞を受賞。日本初演は 2003 年、流山児★事務所。翻訳を手掛けた吉原豊司氏は、第9回湯浅芳子賞を受賞。
物語の登場人物は過激かつ反社会的な四人― ディック、ビリー、バグ、そしてドニー。彼らが会すると、いつでも違法薬物と犯罪の臭気が立ち上 る。生活も人生も行き詰まって根無し草のような彼らは、ある計略を強行して大金を得ようと手を組む。それぞれがそれぞれの思惑を胸に、仲間内で繰り広げる懐柔・牽制・挑発・脅迫…。社会と常識から完全に逸脱した過激なジャンキーの生き様をフリークショウのように見せながら、絆や敬意、対立や憎しみを描いて、人間の、生の本質の一面を浮かび上がらせるドラマ。 止められない、でも、脱け出したい。渇き飢えた本能は、四人を何処へと奔らせるのか?ブルータルでオーセンティックな悲喜劇である。
舞台の上にところ狭しと並べられた様々なもの。ソファに椅子、マネキン、スタンド型の灰皿に便器等、これらは一見、なんの脈絡もなさそうな、がらくたに見えるが、どこかに打ち捨てられた廃棄物のように薄汚れていて、見るからに不衛生きわまりない【物】。まず、ミュージシャンが登場し、音楽を奏でる。音楽、と言っても、その旋律は不協和音で騒々しく、ノイズサウンドの様相を呈しており、“心地よい”と言う言葉からは遠く離れた騒々しさで客席いっぱいに鳴り響く。そこへ2人の男がやってくる。汚い、下品な言葉が次から次へと男の口から出てくる。この乱暴な男はバグ(伊藤祐輝)、言動、挙動がいちいち粗暴な男で、もう1人はディック(古河耕史)、眉唾っぽい美味しい話を持ちかける。そして2人はジャンキー、我慢出来なくなり、薬を……映像と音楽と狂ったような動きで、その様子を表現、ハードロックより猛々しく、デタラメで無軌道さを見せる。それから、バグがいなくなり、そこへ長髪の男・ドニー(ROLLY)がやってくる。どうもバグが苦手の様子で、ディックはまたもや同じ怪しげな儲け話を語りかける。次に現れたのはちょっと見は真っ当なビリー(細田善彦)、しかし、彼もまたジャンキー。そして今度は4人が一堂に会し、ディックは計画の詳細を伝える。成功を夢見る4人、トリップ。さて、こんなこと、上手く行くのか???
登場人物はたったの4人、銀行のATMも出てこないし、見た目は4人がいるところは変わらないが車中になったりもする。この作品では音楽と映像が大きな役割を果たす。ミュージシャンは舞台の上におり、役者の演技に合わせてサウンドを繰り出す。時には大音量で、時にはささやかなノイズ的な音で、彼らの状況を雄弁に彩る。一攫千金を狙うが、しかも、どう考えてもヤバそうな手口で刹那的。そんな危うさをも音楽で表現する。映像は、特にトリップする場面では舞台いっぱいにそれが広がるのだが、そのキャラクターによって映像が異なる。カラフルなポップな抽象絵画調だったり、あるいはたくさんの回転木馬、あるいは銃だったり、それぞれのキャラクターや状況を感じさせてくれる。
結局のところ、彼らがどうなったのか、結末は先刻承知。そこに至るまでの過程、狡猾そうなディック、すぐに怒りを爆発させるバグ、神経質そうで貧乏揺すりが止まらないドニー、一見まともに見えてジャンキーで一癖あるそうなビリー。相性がいいとは到底思えない4人、しかし、この状況から抜け出したい気持ちは一緒だ。閉塞的で、お先真っ暗、何がきっかけになったのかわからないが、どうしようもない転落人生、彼らは根っこは善人だが、社会的にはいつムショに行く事になるかわからない。それでも懸命に生きている。そして過去から学ばない。ディックは言う「これで、俺たちはハッピーになれる!」と。誰もがハッピーになりたい、彼らもまた、しかり。結局は成長もしなければ、どうしようもない夢を見続ける。この物語はドラッグ中毒者の話のようでいて、実は普遍的なことを提示している。クダラナイ4人のクズっぷり全開の生き様、しかし、彼らは生きようとするエネルギーに満ちている。
役者も実力派揃いでディック演じる古河耕史は、時折狂気をはらんだ眼差しで他の登場人物を圧倒し、怪しげな計画に「YES」と言わせる。伊藤祐輝のバグは威圧的で彼らの狂った状況をさらに色の濃いものにする。ドニー演じるROLLY、小心で神経質そうな空気感、ビリー役の細田善彦は、登場した瞬間は一見爽やかそうに見えて、そこから少しずつ本性が垣間見えていくが、その見た目のギャップがアクセントに。この4人のコンビネーションが絶妙で、この「High Life」のアップテンポなステージングを魅せている。谷賢一の既成概念にとらわれない演出も光り、2時間程の1幕もの、演劇好きは一度は見ておきたい作品に仕上がっている。
なお、初日に向けてのコメントも到着している。
演出:谷賢一
演劇をはじめて20年が経ちまして、そうすると段々と普通のお芝居にも飽きてきまして、毎度毎度「観たことのないものを作ろう」「はじめてのことをやろう」と心がけているのですが、それができました。Open Reel Ensemble with 山口元輝さんによる素晴らしい音楽と清水貴栄さんんいよるキッシュな映像がアクの強い俳優達の演技と融和し、愉快に狂った世界を楽しんでもらえると思います。
古河耕史(ディック役)
なにかしら、どこかしら、なぜだか、気になって下さるのなら、どうかご自身の目と耳で、確かめに来て頂きたい。数ある舞台、数ある演劇、数あるエンターテイメントの中で、私はこの芝居と歩む四月を、愛しています。身を粉にしています。楽しんでいます。評判・評価もございましょうが、ひととき「クダラネェ」と共に呟いて頂けたなら、実はそれこそ恐悦至極な作品なのであります。
細田善彦(ビリー役)
注)これは青春モノです!
が、汗水流して追い求めるモノは青空のもと追う白球ではなく、暗闇を掻き分けて掴む白い粉!そんな、我々ジャンキーたちが一世一代の大仕事、銀行強盗をする。そんな夢の扉を開ける瞬間!この謎の疾走感を劇場で体感して欲しい。
伊藤祐輝(バグ役)
稽古では、谷さん、キャストの皆さんと、役についてじっくりと反し合う機会を多く取っていただき、とても幸せな時間でした。今は初日を迎える嬉しさと緊張で、落ち着きません。全身全霊でぶつかり合う4人の姿を見て頂けたらと思います。
ROLLY(ドニー役)
男子4人だけのお芝居、歌も歌わない(ほんのちょっとだけ歌うかも)ギターも弾かない、50歳をとうに過ぎての大きなチャレンジですが、必ずやROLLYの歴史に残る作品になるはずですので、皆様!見逃すと後悔しますよ!是非、マヌケなニューキャラ、ドニーを応援して下さいね!!!
<ストーリー>
集まった男4人は孰れもジャンキー。保護観察中のディック(古河耕史)、出所したばかりのバグ(伊藤祐輝)、女性関係で追い込まれているビリー(細田善彦)、そして腎臓が一つしかないドニー(ROLLY)…… 人生に行き詰まった彼らは、一発逆転を狙って大金を手に入れようとディックが思いついた「ある計略」に乗って、銀行のATMを襲うために渋々手を組む。
ディックの期待、バグの苛立ち、ドニーの緊張、ビリーの高揚……盗難車の中で息を潜める四人のテンションが極限まで張り詰めて、一触即発の事態が。
※この物語は、違法薬物の使用等についての反社会的な思想や行為を容認するものでは決してありません。
【公演データ】
High Life -ハイ・ライフ-
日程:2018 年 4 月 14 日(土)~28 日(土)
会場:あうるすぽっと
脚本:リー・マクドゥーガル
翻訳:吉原豊司
上演台本・演出:谷賢一
音楽:吉田 悠(Open Reel Ensemble)、吉田 匡(Open Reel Ensemble)、
山口 元輝(moltbeats)
映像:清水 貴栄 (Drawing & Manual)
出演:古河耕史、細田善彦、伊藤祐輝、ROLLY
主催・製作:株式会社 ソニー・ミュージックアーティスツ
公式サイト:http://sma-stage.com/highlife
文:Hiromi Koh