ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」が上演中だ。ストーリーに関しては、特に説明するまでもないくらい有名な作品であるが、日本では多くの演出家、キャスト、スタッフがこの作品を引き継いできた。現在は演出は3年目になる藤田俊太郎、そしてピーターパン役は吉柳咲良、こちらも3年目になる。
舞台の緞帳には大きな本が描かれている。本を開くと・・・・・という趣向だ。ライザ(久保田磨希)は多くの子供達の面倒を見てきた、という設定。客席から登場して観客に語りかける、というより、観客と掛け合い、と言った方がすんなりくるかもしれない。「こんにちは!」といえば客席からも「こんにちは!」そして舞台に上がり「ピーターパンの世界を一緒に旅をしましょう!」といえば客席からは「ハーーーイ」と元気の良い返事、・・・・・子供の声も大人の声も!そしてネヴァーランドの住人たちが!海賊にインディアンに迷子の子供達が舞台上に!踊る、踊る、客席からはクラップも起こる。それから『本編』が始まる。ユーモアたっぷりにストーリーは進行していく。飼い犬・ナナはやたら大きく、ダーリング氏(EXILE NESMITH)は「また、犬の毛がついた」とご機嫌斜めでちょっとイライラ。優しくおっとりとしたダーリング夫人(入絵加奈子)に元気な子供達。よく見る光景だ。
物語は進んでいく。もちろんウェンディたちはピーターパンとともに空を飛んでネヴァーランドへいく。そして早速アクシデントが!白い鳥に間違えられたウェンディに子供たちが放った矢が!あわや!でもピーターパンからもらったどんぐりのおかげで事なきを得る。そしてウェンディたちとピーターパンと子供達の楽しい生活が始まるのだった。しかし、本当の親が恋しくなるウェンディたち、帰ろうとしたら・・・・・フック船長に捕まってしまって・・・・・というのが大体の流れだ。
演出的には、『本の世界の事である』というのがライザの立ち位置によってより明確になっていること。ライザは舞台上で本をめくる動作を行う。本のページには様々な場面が映像で映し出され、それが『飛び出す絵本』風だったり、絵が動き出したり、そしてライザが両手を広げて幕を開けると舞台上は先ほどまで映像だった場面がリアルに観客の目の前に飛びだしてくる、という見せ方、これで『これは本の中のこと』というのがさらに視覚的にわかる仕組みになっているので、より作品世界が捉えやすくなっている。またキャラクターの変化、ウェンディはいうまでもないが、ダーリング夫妻もまた変化を遂げている。子供たちはかけがえのない存在であるには違いないが、いなくなってしまったことによって今まで当たり前だったことを愛おしく感じるようになる。そしてダーリング氏もまた、1幕のイライラ感が薄らいでいる。しかもダーリング氏とフック船長は同じ俳優が演じている。ある意味、真逆なキャラクターであるが、そこが『マジック』、そこをどう捉えるかは人それぞれであるが、ある意味、フック船長とダーリング氏は表裏一体なのかもしれない。また、大人になったウェンディを子供時代のウェンディと同じ俳優が演じるところも舞台ならでは。成長し、大人になり、子供もいる。それを演技で見せることによってよりリアリティが増してくる。その中でピーターパンは変わらない存在としてそこにいる。ピーターパンは「大人になんかならない」と言い、「若さ、喜び、そして自由」と叫ぶ。観客は羨望の眼差しを含みながらも共感する。絶対にピーターパンにはなれないからだ。そして大人になったウェンディも、だ。すっかり飛べなくなっているのだが、彼女の娘はピーターパンと空を飛ぶ。精神だけは不滅、きっと脈々と続いていくのであろうことは想像に難くない。このミュージカルもこの先、キャストが変わっても演出家やスタッフが変わっても脈々と続いていくであろうということとシンクロしていく。そして本、「本なんて古い」と思う人々がいることは確かであるが、本の中にあるものは古びない。きっと脈々と続いていくことであろう。ラストシーンはそんなことも想像させてくれる。「ピーターパン」と「ネヴァーランド」は「NEVER」だからだ。
キャスト陣、ピーターパン役の吉柳咲良は初演と比較するとずいぶんとたくましくなり、フック船長との戦いの場面ではアクションもキレがよく、またピーターパンとしてしっかりと演じていたのが印象的であった。また、本格的なミュージカルは初めてというEXILE NESMITHは、初めてとは思えないくらいの安定感、フック船長は『悪の塊』みたいなポジションであるが、ふと見せる仕草はちょっと愛すべきキャラクターになっており、ピーターパンに地団駄を踏んでいる姿はちょっと応援したくなる。宮澤佐江のタイガー・リリーも元気いっぱい、河西智美のウェンディは好奇心旺盛で共感できる。海賊たちも楽しく、子供達も個性的。チームワークの良さも感じる座組、すっかり夏の風物詩となったこの作品、ずっと上演し続けて欲しいものである。
<キャストコメント>
[吉柳咲良 ピーターパン役]
稽古場とはまた違い、劇場に入ると今年も始まった!と気持ちがひきしまります。今夏で 3 年目となりますが、何度やっても最初のフライング稽古には、胸が高鳴ります。 内容を知 っていても見ていてワクワクする程ストーリーの奥深さやアクションがパワーアップしていま す。1 公演 1 公演を大切に、皆さんをネヴァーランドに連れて行く案内人になれるよう頑 張ります。 是非、この夏の思い出に劇場にてピーターパンの世界を体感して頂きたいです。
[EXILE NESMITH フック船長/ダーリング氏役 ]
今回、初めて本格的なミュージカルに挑戦させて頂きかなりの緊張もありまし たが、稽古の中で皆さんとコミュニケーションを取らせて頂き、どんどんチームワークが生まれ、それ ぞれが声を掛け合ってこの作品を最高なものにしたいという想いの中、ピーターパンの世 界に入り込んで作っていっています!自分自身も稽古を重ね、フック船長・ダーリング氏そ れぞれが形になり、僕が演じるキャラクターとしてオリジナルなものが出来上がったのでは ないかと思っています! 令和初のピーターパンを体感していただき、沢山の感動、勇気、希望を持って帰って頂け ればと思います!
ぜひ劇場に足を運んで頂けたら嬉しいです!
[河西智美 ウェンディ]
いよいよお客様の前に立つ時が来ました!!
わくわくが止まらないです! 早く早く皆さんに届けたくてたまらなかったので本番は思いっきりピーターパンの世界を皆 さんと楽しみたいです! 去年に引き続きウェンディ役を演じさせて頂きますが、咲良ちゃんの凄まじい成長が素晴 らしくて毎日心を動かされます。日々進化していくさくらピーターにも注目して頂きたいです! また新しい演出や、新しいキャストのみんなにも囲まれて今年もとても新鮮な気持ちでウェ ンディとして舞台に立つことができます。同期であり友である宮澤佐江と共演できるのも個 人的にとても嬉しく、ぜひぜひ沢山の方に今年の夏もピーターパン見届けて頂きたいで す!!劇場でお待ちしてます!
[宮澤佐江 タイガー・リリー役 ]
舞台稽古ってキャストもスタッフさんも本当に大変。だけど、よりお客様に素敵な舞台を届 けるには必要不可欠な時間なんです。全ては観に来て下さるお客様のため。スタッフさん の愛をしっかり受け取って、自分自身はしっかり役を身体に落として、作品に携わっている 全員がそれぞれの役割を自信に溢れた状態で本番を迎えたいと思います。今年のピータ ーパンも絶対絶対大成功させます!!!
<キャスト>
吉柳咲良:ピーターパン
EXILE NESMITH:フック船長/ダーリング氏
河西智美:ウェンディ
宮澤佐江:タイガー・リリー
入絵加奈子:ダーリング夫人
久保田磨希:ライザ
萬谷法英:スミー
笠原竜司:ヌードラー
森山大輔:チェッコ
髙橋英希:マリンズ
西村 聡:スターキー
安田カナ:トゥートゥルズ
田畑亜弥:双子
庄司ゆらの:スライトリー
出口稚子:カーリー/ジェイン
川村海乃:ニブス
小山圭太:ジョージ・スコーリー
長嶋拓也:アルフ・メーリン
松本城太郎:チャールズ・ターリー
石上龍成:フォジェティ
三浦莉奈:ナナ/ワニ
持田唯颯:ジョン
山田こはな:マイケル(Wキャスト)
遠藤希子:マイケル(Wキャスト)
【公演概要】
タイトル:青山メインランドファンタジースぺシャル ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」
日程・場所:2019年7月21日(日)〜7月28日(日) 彩の国さいたま芸術劇場大ホール
2019年8月2日(金)〜8月5日(月) カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)ホール
原作:ジェームズ・M・バリ
作詞:キャロリン・リー
作曲:ムース・チャーラップ
翻訳/訳詞:青井陽治
演出:藤田俊太郎
音楽監督/作・編曲:宮川彬良
振付:新海絵理子
美術:原田 愛
照明:日下靖順
音響:鹿野英之
衣裳:前田文子
ヘアメイク:宮内宏明
フライング:松藤和広
擬闘:栗原直樹
映像:横山 翼
声楽指導:林アキラ
音楽監督補/稽古ピアノ:近藤麻由
演出補:伴・眞里子
舞台監督:土門眞哉
エグゼクティブプロデューサー:堀威夫
公式HP:https://horipro-stage.jp/stage/peterpan/
撮影:渡部孝弘
提供:ホリプロ
取材・文:Hiromi Koh