レイ・クーニーの傑作コメディが三越劇場で7月27日に開幕した(7月31日まで)。主演は山本一慶、本格的な翻訳もののコメディは初挑戦となる。
舞台セットは中央からシメントリーにメアリー(花奈澪)の家、バーバラ(七木奏音)の家、となっている。中央にソファ、どちらにも電話がある。二人の女性が登場、似た動作、同じようなことをつぶやく。時間軸が同じことを視覚的に示してくれるので、文字通り「みれば、わかる」状態。
メアリー側のドアが開き、頭を包帯でぐるぐる巻いたジョン(山本一慶)が入ってくる。彼はタクシー運転手、事故に見舞われてしまい、病院で手当を受けてから帰宅したのだった。当然のごとく心配するメアリー。この事故は、彼をみるみるうちに窮地に陥る「序章」に過ぎなかったのである。
ジョンは優柔不断な性格ゆえに実は二重結婚していたのだった。先に結婚したのはメアリーであったが、ひょんなことで知り合ったバーバラと惹かれあい、こちらとも結婚してしまったのだった。そしてかなりの至近距離で2つの家庭をもち、タクシー運転手という比較的自由な立場を最大限に生かし、綿密なスケジュールを組み立てて両方の家を行ったり来たりしていたのだった。
それが事故によって歯車が狂っていく。しかも自ら墓穴を掘ったりもしつつ、それでもなんとか取り繕おうとメアリーの家の2階に住んでいるスタンリー・ガードナー(ルー大柴)を無理やり巻き込み、この状況を打開すべく、その場に応じて「作り話」、要するに嘘に嘘を重ねて、どこでどういう話をしたかもごっちゃになりかけ寸前の状態で、しかもそれでもどうにかなると信じ、行動するジョン、それにキレかかりながらも協力するスタンリー、実はジョンからお金を借りている、弱みを握られているゆえの協力だ。
そして警察関係者、トラウトン警部(青木空夢)、真面目で洞察力もあり、ジョンは何かを隠していると疑い、もう一人のポーターハウス警部(我善導)はお人好しで騙されやすい、いわゆる「いい人」だ。そしてバーバラの家の上に住む住人、ボビー・フランクリン(鮎川太陽)、デザイナーでオネエ、強烈な個性でバーバラ宅に出現する。
2つの家をビジュアル的に同時に見せ、そしてこの舞台で「有効に働く」小道具として電話がある。携帯電話のない時代、固定電話に電話をするのだが、このシーン、全てがおかしく、そして「そのあと、どうするんだろうか」「やばいよ、やばいよ、やばいよ!」と観客に思わせる、本当にハラハラドキドキさせる、すごい『名脇役』ぶりを発揮する。ここは見てのお楽しみシーン。また、スタンリーが「なりすまし」をするのだが、ここに・・・・きちゃいけない人がきて・・・・・ここは「トリック」であり「マジック」、完璧ともいえる脚本、そして翻訳の巧みさ、展開のスピード感、世界中を笑わせてくれるレイ・クーニーの真骨頂だ。
主演の山本一慶は他の芝居では「二枚目」を演じることが多いが、ここでは情けなく、残念な小市民。こういったキャラクターは実は演じるのが難しいが、後半になるにしたがって、主人公の情けなさぶりがどんどん大きくなり、ここまでしょうもない、全く成長しないジョンを大汗かいて大健闘。スタンリー役のルー大柴は他のカンパニーでも、このスタンリーを演じており、ジョンの行動に巻き込まれ、そして開き直り、とも捉えられる態度、しかし、性根はきっと正直な人なんだろうなと思わせる暖かいキャラクター作りで芝居を引き締める。ジョンと二重結婚した女性2名、メアリーとバーバラ、タイプの異なる女性、そしてどちらもジョンを愛しており、少々強気な女性、これを花奈澪、七木奏音が後半はかなりの迫力(!)で演じるので、この2人の間を右往左往するジョンの姿を一層、滑稽なものにしている。そしてこれも真逆な警部2名、青木空夢と我善導が見た目を生かしてきっちりと演じる。そして登場するたびに強烈な存在感を放つ鮎川太陽のゲイのデザイナー、自分のいいたいことをズバズバいう、はっきりした性格、一歩間違えると『お笑い』になるところを絶妙なさじ加減で演じきる。
派手な映像もなく、歌もダンスもアクションもない、本当に芝居だけできっちり見せる演劇好きにはたまらない作品、公演は7月31日まで!
[山本一慶:コメント]
ーー初日を迎えて
稽古を経て信頼関係も生まれていますし、やってきたことをやるだけです。お客様が入って完成する舞台なので、お客様の反応を見て助かる部分もあると思います、だからこそ丁寧にやらなければいけなくて役者としての挑戦であり面白いところでもあります。
初日は新鮮で楽しく迎えさせていただいていますが、今回は特にその気持ちが深く思える舞台です。一公演一公演、大切に演じていきたいです。
ーー稽古を経て見所は?
信頼関係が築き上げられたからこそテンポも良くなっているのでそこをまず観ていただきたいです。そして最後の混沌がこの作品の見所、息つく間もなくすごいスピードですれ違いが描かれます。後から「あ!そうだった!」と発見があると思います。
ーーメッセージ
頭をからにして楽しめる舞台で、ありえなさがこの作品の魅力です。非日常を味わいにきていただけたらと思います。
新しい舞台は不安もありますが、それ以上に面白い作品に仕上がっています。皆さんに楽しんでもらえるよう、僕たちは全力で汗を流して挑みます。期待して観に来てください。
<あらすじ>
ジョンは真面目で平凡なタクシー運転手。だが、人には言えない秘密があった・・・その優柔不断な性格から、二重結婚するハメになり、2人の妻と、2つの家庭をタクシーを運転しながら、正確に行き来する日々を送っていた!
ところがある日、事故に巻き込まれてそのスケジュールが狂ってしまうところからストーリーは始まります。必死で隠そうとするジョン。ウソにウソを重ねて大変な騒ぎに!
【公演概要】
日程・場所:2019年7月27日(土)〜7月31日(水) 三越劇場
訳:小田島雄志/小田島恒志
演出:菅原道則
出演:山本一慶、花奈澪、七木奏音、鮎川太陽、青木空夢、我 善導/ルー大柴
企画・製作:アーティストジャパン
お問い合わせ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp
(C)2019 Artist Japan
取材・文:Hiromi Koh