ーー鬼才マーティン・シュレップァー率いるバレエ・アム・ライン、9月に「白鳥の湖」公演!斬新な演出でヨーロッパでは完売!ロングインタビュー掲載!公演はもうすぐ!ーー
昨年秋、バレエ・アム・ラインは、芸術監督で振付家のマーティン・シュレップァー演出「白鳥の湖」を発表。チャイコフスキーが 1877年に制作した原典譜を採用し、またその当時の初版台本に基づいて登場人物を設定するなど、オリジナルを尊重しつつ単なる古典への回帰で はなく、きわめて普遍的な人間ドラマに仕立て上げ、不屈の名作を復活させたどころか新しい息吹をもたらした。チケットが売り出されるや否や完売。ヨーロッパバレエ界では話題作品に。
そして2019年9月にはドイツ国外初の海外上演となる≪白鳥の湖≫ を引っ提げてカンパニーが初来日する。
‟21 世紀バレエ芸術のパイオニア“と称される、鬼才マーティン・シュレップァー率いるカンパニー、その公演がいよいよ9月20日に幕を開ける。そのマーティン・シュレップァー芸術監督のロングインタビューを入手、観劇の前に、チケットを買う前に、必読!
ーー2009 年から『バレエ・アム・ライン』の芸術監督をされていますが、どのような改革が行われて今があるのでしょうか?
マーティン・シュレップァー:私が「アム・ライン」に来る前は、「ライン・ドイツ・オペラのバレエ団」という名前 で、私が就任する前からすでに大きな成功を収めているバレエ団でした。劇場も変わらず、 デュッセルドルフとデュースブルクで行うこと、デュッセルドルフ・フィルハーモニーとデ ュースブルク・シンフォニカという 2 つのオーケストラでやることも変わりません。私が 来てから変わったことは、アーティスティックな状況の変化です。新しく「バレエハウス」 (5 つのスタジオ、3000 平方メートルの大きな建物)を作ったこと、そしてカンパニーの 名前が変わりました。美徳の部分を変えたと言えるのではないでしょうか。純粋なダンスに 目を向けたというのは、決してストーリー性があるバレエをしないとか、嫌いとかではなく、 アーティスティックな観点からの変革を続けてきたことで、我々のカンパニーに対する外 からの評判や印象が変わったのではないでしょうか。
ーー「バレエハウス」が出来て、具体的に変わったことはありますか?
マーティン・シュレップァー:大きなバレエスタジオが 5 つありますので、複数の作品を平行して稽古することができ ます。ダンサーの為だけでなく、事務局チームの為のオフィススペースもたくさん作ること ができました。リラックスできるキッチンも作り、静かに過ごせるリラックスルームや、サ ウナもあります。マッサージや治療を受けられる部屋もあります。トレーニングジムもあり、 ダンサーたちをきちんと受け入れられる準備が整っています。バレエは精神と身体の距離感が近いので、それを開放できるようなスペースを作ることができて、精神的に良い結果をもたらしています。また、本番と同じサイズの舞台でリハーサルが出来ますので、それもとても良い条件です。オペラハウスの中には、私たちのためのスペースがなかったので、これは必要なことでした。
ーー2018 年の新作「白鳥の湖」について、これまで膨大な数の「白鳥の湖」が作られてきましたが、この時代に新たに作ろうと思った理由は?
マーティン・シュレップァー:私個人として大型の古典的な作品を取り扱うことをずっとテーマにしていたのですが、 その準備に 3、4 年は必要だと思っていました。「白鳥の湖」にするか「眠れる森の美女」に するか迷っていて、初めは「眠れる森の美女」のほうがストーリーを抽象的に表現できるの でその方が自分に合っていると思ったのですが、抽象的なものが好きなのと同時に、人間関 係を心理的に見ていく作業が私はとても好きなので、やるならば「白鳥の湖」かなと思っているときに、小澤征爾が指揮するチャイコフスキー原典版の録音を聞き、倒れてしまうぐらいの衝撃を受け、それが最後の決め手になりました。小澤征爾の「白鳥の湖」はとても不思 議で、ダンスにフォーカスしていないのに、彼の録音を聞いた時、ものすごくドラマを感じ るダイナミックな音でした。これまでの「白鳥の湖」の音楽のように幅広くどっしりとした 感じではなく、テンポがスピーディな感じで、この(小澤征爾のテンポ)方向でいこうとい うことになりました。リブレット(台本)はオリジナルを使っているので、プティパ・イワノフ版とは違うのですが、オリジナルは登場人物が多いんですね。なので、新しく演出して いくにはこの音楽がいいのではないかと確信しましたし、私の場合、まず音楽が一番なので、 そこからインスピレーション受けました。
ーーオリジナル・リブレットというのはご自身で書かれたものということですか?
マーティン・シュレップァー:オリジナル・リブレットというのは私が書いたものという意味ではなく、改編される前 の初版台本のことです。オリジナルは登場人物が多いのですが、最初に作られたモスクワの 一つ目と二つ目の作品は、チャイコフスキーの音楽を彼の意図に反して切り貼りをしてし まったため失敗に終わりました。その後徐々に変化が加えられ、1895 年サンクトペテルブ ルクでプティパとイワーノフによって成功を収めますが、これも黒鳥の音楽をチャイコフ スキーは元々1 幕で書いていたものを 3 幕で使ったりして変えています。私はオリジナルを 大切にしたかったので、チャイコフスキーが求めた、創造したストーリーと音楽を使って、 演出もオリジナルを忠実に再現したかったのです。オリジナルでは登場人物でオデットの お祖父さんが出てきたり、オデットの継母が悪役で登場します。オリジナル以外ではロット バルトは悪役として描かれていますが、本当は悪い魔女なのはオデットの継母であって、ロ ットバルトは継母の言うとおり魔法を遂行するだけの人であったりします。私にとって大 事だったのは、新しく作るのであれば、今まで成功しているプティパとイワーノフのコピー だけは避けたかった、それは意味のない演出になってしまうと思ったので。やるのであれば、 一から新しくしたかったのです。
ーー舞台の映像を拝見し、複雑な人間関係だけれども衣装が似ていたり、髪型が似ていたり、 “お祖父さんならお祖父さんらしい衣装”という敢えてわかりやすいかたちではなく、均 一なかたちにされた意図は?
マーティン・シュレップァー:役割はわりとクリアになっていると思います。お祖父さんの役柄だからお祖父さんらし い衣装を着せて、お祖父さんらしく動かすということはしません。モダンダンスの作品を作 る私としては、ダンサーはダンサーであって、そのダンサーが役を踊るという基本的考えが あります。もちろん物語を描くのですが、クリアに心理的に見せようとしています。日本語 で言う“行間”でしょうか、“間にある空間”を大事にしています。お客さんにも想像してもら いたいので想像できる“空間”を残しています。ですので、あまり具体的に表現していないと いうところもあります。例えば、日中は白鳥で夜になると女性になるという設定ですが、私 の演出では裸足であることで彼女たちが自然体であることと同時に魔女のもとにさらされ る無防備な女性たちだということを表現しています。1 幕と 3 幕での王宮のシーンではトウ シューズで踊るダンサーが登場しますが、それは靴を履くということで伝統的な王宮での 暮らしやルールを表現しています。また白鳥の中で唯一オデットがトゥシューズで踊りま す。オデットは祖父に守られているため(ほかの白鳥とは)違うステータスを持つ、いわば 冠の代わりとなるシンボルとしてトゥシューズを使用しているのです。
ーー「白鳥の湖」を作る段階で、オリジナル版の音楽や演出を大事にされたり、お客さんが 想像できるようにされているとのことですが、それ以外でこれまで上演されてきたクラ シックバージョンと違うところやこだわりは?
マーティン・シュレップァー:私はマーラーのシンフォニーにバレエを付けたり、ブラームス・レクイエム、モダンな ところで言うとリゲッティなどの音楽に振付しています。音楽としては存在しているが、バ レエとしては存在していないものに振付しているので、わりと自由に仕事をしています。現 代(コンテンポラリー)ダンスの振付家としては、トウシューズを使う数少ない振付家だと 思っております。私が特に大事にしているのは、私は現代の振付家で、現代のわれわれの生 きている世界と常に関係性があるもの、私たちの今の生活と関連性があるようにすること を心掛けています。
「白鳥の湖」の台本は幾重の層で出来ています。第 1 幕目と第 3 幕目には現実でも起こ り得るエピソードがあります。王子は王家継続のために結婚することを母から迫られます。 結婚させたい母と結婚したくない息子の対立といったヒューマンドラマです。これをロマ ンティックと感じる人もいるでしょうが、私はそうは感じません。彼が相手を愛しているか 否かに関係なく結婚を強いられるのです。普遍的な人間の葛藤の話です。友人も誰も彼を救 うことはできません。この絶望的な知らせを聞き彼は白鳥の狩りに出ます。そして現実逃避のため空想によって第 2 幕となるファンタジーの世界に舞い込むのです。この解釈は観客 の想像力にお任せしますが・・・ここでおとぎ話の要素が出ます。善と悪の永遠の戦い、死 より強い愛の存在…素晴らしいドラマの要素があります。私はバレエを演劇のように作る よう心がけています。そして緻密で、いつも主人公を近くに感じるようにしています。
ーーシュレップァーさんの「白鳥の湖」を観て、現代におけるパワーバランスみたいなもの を感じましたが、
そういうところで現代の私たちを惹きつけたいと思われますか?
マーティン・シュレップァー:まさにその通りで、私が大事にしているのは“心理が本物であること”です。現代の私た ちが心理的に共感できること、それが絶対大切だし忘れてはいけないことなのですが、この 物語はメルヘンでもあるんですね。例えば大都市を舞台に「白鳥の湖」の演出をするのはあ まりに現実とかけ離れた馬鹿げたアイデアだと思うのですが、人との関連性は大切です。そ れと私の作品の中では女性はいつも強く、女性が弱い作品はひとつもありません。
ーー「白鳥の湖」ではスピーディで動きもめまぐるしいですが、シュレップァー氏の振付を こなすために、ダンサーに特別に求めているものは?
マーティン・シュレップァー:できる限り私自身がカンパニーのレッスンをすることを心掛けております。私のレッス ンというのはとても独特なものだと思いますが、常識外れではない。音楽のダイナミックさ に合わせてすばやく激しく動くことを求めています。私のカンパニーのダンサーは、体格も 違うし国籍も多種多様で日本人では加藤優子さんという素晴らしいダンサーがいて、彼女 は 47 歳ですが偉大なアーティストです。色々な年齢の方もいます。私の作品は身体への要 求は高いと思いますが、振付はいつもハーモニー(調和)なものではなく、私自身ヨーロッ パ人なのでレジスタント(抵抗性)も好きですし、舞台上でのフリクション(衝突)を大事 に思います。舞台上ではハーモニーたっぷりな作品よりドラマがあるほうが面白いものに なりますね。
ーーフリクションがあったりするのは、現代の社会を反映しているから?
マーティン・シュレップァー:人生とは衝突の連続ですよね。ハーモニーを得るためにも衝突は必要ですし、人と人と の出会いもアクションという意味では衝突ですが、私にとって大事なのは人間と人間の間 に起こる心理をどう表現するかです。白と黒の間の距離がどうなっているか、そういった要 素でダンスの仕事をしています。「白鳥の湖」もストーリーでいうと上手に物語が展開する
わけではないですが、お客さまがストーリー性のあるダンスをなぜ好むのかというと、スト ーリーがあるとダンスを理解した気になり易いからじゃないでしょうか。本当のところは どうなのかわかりませんが…。ですが、私自身も色々なジャンルの書物を読んで勉強し、社 会的、政治的、文化的部分が現代に繋がるように努力はしています。「白鳥の湖」よりも「マーラー7」などのほうが政治的要素に繋げやすいなどはありますが。マーラーは社会的マイ ノリティなことを取り上げていて、音楽もユダヤですし、私は好きですが「白鳥の湖」とは 違います。例えば、ジークフリート王子は結婚しなければならないという部分で、そこを美 しく語るのではなく、実際の人生でも結婚したくない相手と結婚しなければならないこと、 それを命令してくる母親とはうまくいかない、だからそこを美しく描くのではなく、衝突させます。
ーーオリジナルのチャイコフスキーの意図に近い音楽で構成されているとのことですが、 小澤征爾の音楽もチャイコフスキーの意図に近いものですか?
マーティン・シュレップァー:まさにその通りで、小澤征爾の音楽はチャイコフスキーが書いたテンポを忠実に再現し ているのと、チャイコフスキーの順番どおりに録音されている。私は小澤征爾の大ファンです。
ーーそういう意味で、今回の作品はチャイコフスキー・オリジナル版を用いた「白鳥の湖」 と言えますか?
マーティン・シュレップァー:そうですね。そしてオリジナル・リブレットを用いた「白鳥の湖」と言えます。現代の 作品なので私もカットはしましたが。何をカットしたかというと、最初のそれぞれの国を代 表するダンス部分で、王宮というのは私の舞台では作らなかったので合わないと思い、やむ を得ずカットしましたが順番は変えていません。
ーーしばしば「演劇的」と評されることがあるようですが、それについてはどうお考えです か?
マーティン・シュレップァー:そのように評されても構いません。ダンスは演劇ですから。しかしダンスは抽象的に表 現される傾向があります。今日のダンスは人間が生み出す芸術としての意見や見解、色彩、 そして知性的でや感情的な動機とアイデンティティーが必要だと感じています。個人的に は飾りもののようなダンスやバレエには少し飽き飽きしていますが…こういうことを言う
ので私のことをとても感情的でインテリで難解だと感じている人もいるでしょうね。
ーーバレエにおける「古典(classic)」と「現代(modern, contemporary)」の融合につ いてお聞かせください。
マーティン・シュレップァー:クラシカル、ネオクラシカルとコンテンポラリー・ダンスを区別するのはやめましょう。 重要なのは、それが良いものであるか、芸術的なビジョンを持っているか、観る者の心を揺 さぶって変化させられるかということです。 音楽やドラマ、文学の世界にはこのような区別はありません。古典がモダンに反対し、逆も 起こるのはダンスの世界のみです。私たちはもう少し大人になってこの偉大な芸術を守り ましょう。今日創造されている芸術はすべてコンテンポラリーであるはずです。しかしなが らこれは内的な取り組みの問題であって、振付師がバレエシューズを使うかどうかの問題 ではありません。モダニズムは頭の中にしか存在しないのです。
ーー2020 年からはウィーン国立バレエ団芸術監督にご就任なさいますね。今後の展望や 挑戦についてお聞かせください。
マーティン・シュレップァー:アーティストとしての道は続きます。自分らしいまま、自分のビジョンに誠実でありた いと思います。そうでないと感覚やパワーを失ってしまいます。ウィーンでの仕事はエキサイティングで素晴らしい一歩です。とても尊敬しています。そして芸術を守り、育てる大き な責任を感じています。ウィーンは世界でも数少ない本当の芸術の都です。そこで働き住む ことができるのはとても幸運だと思っています。
ーー初来日に際して、どのようなことを期待しますか?
マーティン・シュレップァー:日本の観客とどのようにコミュニケートできるか楽しみです。日本の人々と繋がり、会 話をし、国や文化を超えて、人生についての本質的な問いやお互いに共通する何かを見つけ られれば嬉しいです。それが私にとって最高の芸術が成し得ることなので。
ーー日本の観客へメッセージをお願いします。
マーティン・シュレップァー:今回の日本公演は、私にとってとてもエキサイティングなことです。長年私のカンパニーと共に日本を訪れ、私たちの芸術を紹介したいと願っていました。日本はダンスにとって 重要な場所です。素晴らしい舞踏作品はすべて日本を訪れています。日本という国とそこに 住む人々にはとても親近感を感じますし、光栄に思うとともに謙虚な気持ちになります。また、美味しい日本食も楽しみにしています!
<トークショーも決定!>
東京:9/21(土)11:30公演 アフタートークあり(女優・真飛聖×マーティン・シュレップァー)
兵庫:9/28(土)15:00公演 プレトークあり(女優・真飛聖)
【公演概要】
日程・場所:
<東京公演>
2019年9月20、21日 オーチャードホール
<兵庫>
2019年9月28日 兵庫県立芸術文化センター KOBELCE大ホール
公式HP:https://ballettamrhein.jp/
舞台写真クレジット:Gert_Weigelt