『サンセット大通り』はもともと往年の名画、1950年、ビリー・ワイルダー監督、主演はグロリア・スワンソン、ロサンゼルス郊外の豪邸を舞台にし、ハリウッド映画の光と影、そしてサイレント時代の栄光が忘れられない往年の女優の妄想と悲劇を描いた作品でアメリカ映画の傑作のひとつに数えられている作品だ。
そして1993年、『サンセット大通り』は、『キャッツ』、『オペラ座の怪人』、『ジーザス・クライスト・スーパースター』など、数々の大ヒットミュージカルを生み出してきた、＜現代のモーツァルト＞アンドリュー・ロイド＝ウェバーによりロンドンにて初演され、早くもその。翌年にはブロードウェイにて上演され、1995年トニー賞最優秀ミュージカル作品賞を獲得。あわせて、主役ノーマを演じたグレン・クローズが最優秀ミュージカル主演女優賞を受賞、その他計７部門を受賞し、大きな話題に。芸術を愛しながらも、自らの屋敷に閉じこもり、若き才能に執着する主人公・ノーマはロイド＝ウェバーの代表作『オペラ座の怪人』のファントムを彷彿とさせる。日本でも、長らく上演が待たれていたものの、そのキャスティングの難しさや壮大なセットにより、上演は不可能だとされていた『サンセット大通り』。その幻の作品が、2012年、ついに日本で初演。演出に濃密な人間ドラマを描くことで定評のある鈴木裕美、数多の女優たちが熱望していた大女優・ノーマ役に安蘭けいを迎え、高い評価を得て、日本のミュージカル界に新たな歴史を刻んだ。
その後、2015年の再演では、もう一人の主演の大女優ノーマ役に、ロイド＝ウェバーの最新作『ラブ・ネバー・ダイ』にも出演し圧倒的な歌唱力を誇る濱田めぐみを迎え、ふたりの歌姫による夢の競演が実現。そして2020年、再び上演することに。今回で２度目、ノーマ役を演じる濱田めぐみさんに最初に演じた時の思い出、また役柄や作品について、また次の公演に対する抱負などを語っていただいた。
――前回、出演が決まったときの感想は？
濱田：グレン・クローズさんなどいろいろな方が演じられていて、世界的に有名な作品ですしプレッシャーはありました。年齢がもう少し上になってから演じたほうがよいのかなと思うことはあったんですが、運命のめぐり合わせで私が演じることが決まりまして。とにかく役柄を研究することを心がけました。（4年半前の）その当時の自分で納得していただけることをがむしゃらに演じていました。
――主人公のノーマはとてもエキセントリックな印象を受けますが……。
濱田：本当にその通りだと思います。きっと、日本人の我々としては彼女のような気質は理解しがたいと思いますし、しかも当時の世相も絡んできていて。振り返ったら自分の生きていた世界が真逆になる、そんな登場人物を自分が演じているわけですが、4年前の当時の自分よりも今のほうがノーマの置かれている立場を理解できているのかな。これまでにもノーマを演じている女優さんはベテランばかりなので、自分の経験を演技に踏襲させていらっしゃる方が多いのかなと思います。経験がまだ浅い私が演じるには、もっともっと模索して自分に還元していく作業が必要だなと実感しています。
――現在の言葉に置き換えるなら、「引きこもり」のようですよね。
濱田：20年間屋敷に入る、その情報をお客様に見せるということが、今までやってきたミュージカルの役柄とは全く違う表現が必要だと思いましたね。彼女が住む世界はまるで異次元のようですから。その中でジョーがやってきて、無理やり現実の世界へと引き戻される。彼女にとってはとても酷な状況だなと感じます。知らなければ穏やかに過ごせたのに知ってしまったがために、今までやってきたことがすべて悪に思えてくる。この模索具合はそのような経験をしてきた人でなければわからない感覚ですよね。
――でも、見ていくにつれて実は純真がゆえの出来事なのでは？とも思えます。
濱田：疑わない、という心が原因で引き起こされていますよね。疑い深い人だったら他人を間に置きますよね。でも彼女は自分が矢面に立っていった。外と内とを両方見られるのはマックスだけでしたが、彼はノーマを守るために生きているようで……少し心が痛いですね。
――あのエンディングだと彼女自身はあながち不幸せというわけではなさそうでしたが……。
濱田：ノーマはノーマで、栄華を極めた中で、自我が爆発したとなれば彼女の中では幸福だったのかもしれません。それでも彼女の行く末についてはいろいろな解釈ができると思います。「サンセット大通り」という作品自体が、客観的に全体像を見るということと、ノーマを見ることと、ノーマの中身を感じること、3点から見ることができるので。どの役を主軸に置くかで見方が変わりますしね。
――自分の身近なものに置き換えると見えてくるものがあるのかな、という作品でもありますね。
濱田：例えば地方にずっといた子が都会に出てきて、自分の価値観を崩されたときの動揺ぶりなどが見えやすい作品ではあると思います。ミュージカルを演じている側としては「この作品はこういうものなのではないか」と論理的な解釈が入ると、登場人物の性質を超えてしまい違和感が生まれてくるので、彼女の考えにできるだけ寄り添うように気をつけています。
――再演決定についての感想は？
濱田：ああ、あの感情を再び演じることになるのか、と。（笑）。じゃあどのように演じようか、足りないところはなかったか、など初めてではないからこそ出てくるものがたくさんあります。ひたすら精進ですね。前回はあまりにがむしゃらすぎて、千秋楽がどうだったかすら覚えていないんです。でも、私の場合はそれがよかったのかな。その見え方がノーマという女性に見えたらいいかな、と思います。
――再演に向けて読者にメッセージを！
新しいキャストの方もいますし、安蘭さんも私も、相手役が前回とは違いますので別バージョンの「サンセット大通り」をお観せできればな、ということと、初日まで力いっぱい、エベレストを登るぐらいの気持ちでがんばります。よろしくおねがいします。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
【公演概要】
2020年3月14日（土）～29日（日）
東京都 東京国際フォーラム ホールC
作曲：アンドリュー・ロイド＝ウェバー
脚本・作詞：ドン・ブラック、クリストファー・ハンプトン
演出：鈴木裕美
修辞・訳詞：中島淳彦
＜キャスト＞
安蘭けい／松下優也
濱田めぐみ／平方元基
山路和弘／平野 綾
太田基裕／戸井勝海／浜畑賢吉 他
公式HP: https://horipro-stage.jp/stage/sunsetblvd2020/
公式ツイッター：https://twitter.com/sunsetblvd2020
文：Hiromi Koh
