古今東西、繰り返し上演され続けてきたシェイクスピアの『ハムレット』をミュージカル仕立てに、しかも”元ネタ”である「アムレート」の要素を盛り込み、新たな相関関係も盛り込んだそうである。
幻想的なセット、ローゼンクランツ（木内健人）とギルデンスターン（加藤良輔）が歌いながら登場する、「王子は狂った」と。そしてハムレットが歌う「亡霊を見た」と・・・・・・。基本的には世界中の人がよく知っている物語であるのだが、いくつかの新しい”設定”が盛り込まれている。物語の一番最後に出てくるフォーテンブラス（米原幸佑）、ここでは頻繁に登場する。彼はハムレッットの『心の友』ということになっている。回想シーンなどに出てくるのだが、ここでハムレットとの関係性、なぜ『心の友』となりえたのかが、わかるようになっている。観客はここでラストのハムレットの遺言とつなげて見ることができる。
基本的にはあの『ハムレット』と物語の展開は同じであるのだが、そういった点を考えながら見ていくと違う景色が見えてくる。弟であるクローディアスが兄である先王の殺害に至った動機、様々な要素の嫉妬、権力欲、先王がいなくなれば、今まで手に入れたくてもできなかったことが一気に自分の手中に！しかし、ハムレットの存在が彼にとっては大きな弱みであり、恐れである。前半部分でハムレットの狂気はどこからくるのか探りを入れるが、単なる恋の病と思わず、どこかぞくっとするような恐れが大きく膨らんでくる。ハムレットをこのままにしておけない、そんな折にオフィーリア（皆本麻帆）の父であるポローニアス（小寺利光）を誤って刺し殺してしまったハムレットをこれ幸いとばかりにイングランドに追いやろうとする。レアティーズ（金井成大）も最初は復讐心が”メラメラ”、しかし、決闘の時点で真実を知ることになるが、タイミングが『残念』。また観客は”今更”と思って見ているが、クローディアスが神に懺悔する場面がある、それは自分にやましいところがあるからに相違ない。
こういった場面の解釈、しかし、ちょっと深読みした方が、作品が言いたいことが鮮明に見えてくる。ハムレットは父の怨念を晴らすため、というのが動機。レアティーズもまた父と妹が死んだのはハムレットのせいと思い、こちらも復讐心に燃える。ヒートアップしてクローディアスの卑怯な申し出を受け入れてしまうのだ。怨念や復讐心からは何も生まれない。感情に支配された登場人物たち、ラスト近くで死んだポローニアス、ローゼンクランツ、ギルデンスターンが”生きている”人々の傍に佇んだり、座っていたり。彼らは”怨念”や”復讐心”の間接的犠牲者である。そんな彼らの視線は冷たい。そしてラストの決闘、誰が何を言い、どういう行動をとるのか、最後はどうなるのか先刻承知。それでもそのドラマに見入ってしまう。
矢田悠祐のハムレットは歌唱もしっかりしており、感情の揺れ動く様子をドラマチックに見せ、オフィーリアの皆本麻帆は２幕で狂っていくが、狂うほどに純真無垢な空気感をまとっていく。舘形比呂一はしなやかで粘着質な気性なクローディアス、粘着性があるがゆえにガートルートをいつまでも思い、執着し、兄を殺害してまで手に入れる、理にかなった役創り。ハムレットの心の友であるフォーティンブラス、演じるは米原幸佑、原作では最後にどーんと登場するだけであるが、ここでは頻繁に登場、堂々とした佇まいで、友情に律儀な性格創りで「フォーテンブラスは本当はこういう人物だったのか」と思わせてくれるリアルさ。彩輝なおのガートルート、妖艶な雰囲気を醸し出す。そして少々お調子者のローゼンクランツとギルデンスターン、木内健人と加藤良輔が軽やかに演じる。若松渓太はハムレットに忠実なる友、ホレイショー、いつもハムレットを引き立て、行動するが、人としてもハムレットをリスペクトしている、影になり、日向になり、な行動、慎ましやかな佇まい。
わかりきっている物語でも解釈や設定をほんの少しだけ変えただけで印象もガラリと変わる。良い作品というのは、こういうものだ、と教えてくれる。公演は11月18日まで。
＜キャスト＞
矢田悠祐/ハムレット
皆本麻帆/オフィーリア
米原幸佑/フォーティンブラス 小寺利光/ポローニアス 加藤良輔/ギルデンスターン 金井成大/レアティーズ 木内健人/ローゼンクランツ 若松渓太/ホレイショ―
彩輝なお/ガートルード
舘形比呂一/クローディアス・先王ハムレットの亡霊
【公演概要】
ミュージカル『ハムレット』
日程・場所：2019年11月8日~18日 博品館劇場
脚本・演出: 荻田浩一
原作: ウィリアム・シェイクスピア
音楽: la malinconica 福井小百合
振付: 港 ゆりか
プロデューサー: 栫 ヒロ
企画・製作: 博品館劇場/M・G・H
博品館劇場HP：http://theater.hakuhinkan.co.jp/
取材・文：Hiromi Koh
