真矢ミキさん主演舞台『正しいオトナたち』。『Le Dieu du carnage』(本作原題)は2006年にチューリッヒで世界初演。そして08年にはフランスで作者であるヤスミナ・レザ自身による演出で上演され、大ヒットを記録。またイギリスの俳優レイフ・ファインズらの出演版で09年のローレンス・オリヴィエ賞演劇部門最優秀新作コメディ賞を受賞。同年ブロードウェイ版はトニー賞演劇部門最優秀作品賞のほか、最優秀主演女優賞と最優秀演出家賞の計3部門等、数々の世界的な名誉ある賞を受賞し、さらに11年にはレザとロマン・ポランスキーが共同脚本し、ポランスキー監督の作品として映画化もされた。物語は子供同士の喧嘩を発端にお互いの両親による話し合いから始まる。進歩的な考えを自負している親たちは冷静に事態を収めようとするが、話し合いは次第にエスカレートし、四人個々の主義主張、夫婦間の亀裂まで一気に加速。お互いの人間関係が浮き彫りになり、心の奥底にしまってあった憎悪が吹き出してしまう。人間の怒り、憎悪が瞬間的に方向を変えるストーリーの巧みさは、まさにヤスミナ・レザの真骨頂。そして全世界から喝采を浴びたこの作品に真矢ミキさんが挑戦する。久しぶりの舞台出演についての感想、作品について語っていただいた。
「最高にシュールな題ですよね。台本を読んでからというもの、「正しいオトナ」ってなんだろう?って」
――今回久々の舞台ということで、ストレートプレイを演じるにあたって現在の心境を。
真矢:とても楽しみです。副題のようにいろいろ苦しむこともあるかもしれませんが、楽しんでいこうということもセットで考えています。苦しむこともそんなに嫌いではないので(笑)。なぜならステップアップするときは、あらゆることへ踏ん張ることも必ずありますし、そういうバイタリティが自分の中から生まれることが楽しみなんです。4年半、映像作品や情報番組に出演してきて、舞台から遠ざかっていたことも踏まえて考えていました。
――生放送の情報番組にも長いこと、出演していらっしゃいましたね。
真矢:生放送は、舞台に近いんです。良くも悪くも失敗したら取り返しがつかないから……。でも、リアルに反応が返ってくるので、もともと舞台で芸能界デビューをして舞台で育てられた私としては、合っているなって思っています。この限られた時間に自分の実力を出し切って、結果を残してやろう、というところが特に。
――今回のタイトル『正しいオトナたち』。世間的には「正しいオトナ」といえば分別があったり、常識があるというイメージですが。
真矢:最高にシュールな題ですよね。台本を読んでからというもの、「正しいオトナ」ってなんだろう?って、毎日頭の中に浮かぶんですよ。そのたび言葉の意味が滑稽なものだったり、研ぎ澄まされたものだったりと変わっていくような気がして。こんなに面白くて、考えさせられる言葉はないんじゃないかと思います。今現在は……「オトナ」という球体が惑星みたいになっていて、太陽にあたる別のなにかに照らされたのが「人から見えるオトナ」、陰の部分が「水面下で努力しているオトナ」の二面性があるのかなって考えていました。もしかしたら当日全然違うものになっている可能性がありますが(笑)。
「私は夫婦それぞれが違う景色を見ているような状況って嫌いじゃない(笑)」
――この作品は、二組の夫婦が登場しますね。
真矢:物語には「子供」が絡んでいるんですよね。子供たちが戦ったことによって二組の夫婦が出会う。タイトルこそ「オトナ」ですが子供たちとの比較も台本を読んでいて面白いなって思いました。あと読んでいて思ったのは、夫婦それぞれが自分なりの「オトナ像」を作り出し、彼らが円でつながっているようなイメージ。それが人と関わっていって、重なって、間に子供だったり生活だったりと違う円もあったりしてそれぞれ個人が違う模様を作っていくのかなと。誰もが自分のことを「正しいオトナ」だと思っているもの、ということを提案してくる作品ですが、夫婦自体も昔理想とされたような「夫婦ともに志は一つ」というわけでもなくて。私は夫婦それぞれが違う景色を見ているような状況って嫌いじゃない(笑)。自分では考えつかないこともパートナーが思っていたりするから、視野が広がるような気がします。
――登場人物が4人しかいないですが、みなさんそれぞれ考えがバラバラですよね。
真矢:台本をずっと読んでいると登場人物全員が年齢を重ねただけの子供に見えてくるんです。今は「男だから」「女だから」という言葉は古い考え方として捉えられるようになりましたが、同様に「大人なんだから」という言葉も意味を為さなくなってきたのではないかな、と思えてきます。この街から「大人」という言葉がなくなったとして、「年齢を重ねただけの子供たち」の誰もが無邪気に振る舞っていったらどうなってしまうのかしら、と考えるときもあります。
――「大人」という言葉はたしかに都合のいい言葉のように聞こえますね。
真矢:なんとなく「大人」を言葉の前に使うと高級感とか、渋さみたいなものが出てくるスタイリッシュな表現として使われがちなんですよね。最近はこの台本と出会って、「大人(おとな)」も「子供(こども)」も同じ3文字なのに、どの時期どの分岐点で自分自身が年齢を重ねた人間たちを大人と呼ぶようになったんだろうかと読みながら紐解いています。
「観た後は「大人」と「子供」という言葉自体の印象がガラリと変わるかもしれません」
――『正しいオトナたち』は共演の方々も個性的ですよね。
真矢:岡本さんと近藤さんは舞台やドラマですでにご一緒したことがあります。近藤さんはドラマで同じシーンだったときに、とてもお芝居で幅広い感情を表現されていたのでとても共演が楽しみです。中嶋さんもラジオドラマではじめてご一緒して、作品は谷崎潤一郎の『痴人の愛』だったんですが、なんて興味深い演技をされる方なんだろうって。一緒に演じていて楽しかったのを覚えています。やっぱり役者は「お芝居が好き」という情熱を持っているから、それぞれが交わって化学反応が起こされる、という体験は他に代えがたいものがあります。
それに、舞台のリハーサルが今から楽しみで。みなさんがリハーサルでどう人物を作り上げていったのか、稽古や人の出会いでどう表現を変えていったのか、どう関わっていったのかが観られるのが楽しみなんです。
――最後にメッセージを!
真矢:私、この脚本をいただいたのが結構前の話になりますけれど、読めば読むほど日常が影響を受けていくんです。「舞台を観てどう思いましたか?」と問いかけることはないですが、観た後は「大人」と「子供」という言葉自体の印象がガラリと変わるかもしれません。いかに「大人」という言葉を使って頑張って生きているのか、舞台をご覧になった方に気づいていただいたり、楽しんでいただけたらなと思います。
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。
<STORY>
舞台はウリエ家の居間。ウリエ夫妻(妻ヴェロニック/夫ミシェル)とレイユ夫妻(妻アネット/夫アラン)が対峙している。“安全”と思われる公園で、レイユ家の息子が、ウリエ家の息子に怪我を負わせてしまったのだ。お互いを探りながら、冷静に話し合いは始まる。二組ともそれなりの家庭であるとの自負がある。ミシェルは小売業を営み、ヴェロニックはアフリカの事情に詳しく本を執筆中。アランはやり手の弁護士で、アネットは資産運用の仕事をしている。レイユ夫妻は地位と裕福さを匂わすが、ウリエ夫妻は良識ある家庭を築いていることを強調する。そんな緊迫した話し合いのなかなのに、アランは携帯をはなさず、仕事の緊急事態に下品とも言える指示を出し続け、ついにアネットの怒りが爆発!そこから事態は、思わぬ方向に。お互いにホンネむき出しのバトルが始まります。もはや制御不能となった大人たち。これは果たして悲劇、それとも喜劇・・・。
【公演概要】
タイトル:『正しいオトナたち』
作:ヤスミナ・レザ(現題:Le Dieu du carnage)
翻訳:岩切正一郎
演出:上村聡史
出演:
ヴェロニック 真矢ミキ
アラン 岡本健一
アネット 中嶋朋子
ミシェル 近藤芳正
<東京先行公演>
公演日:11 月28 日(木)~11 月29 日(金)
会場:IMAホール
主催:テレビ朝日、インプレッション
<名古屋公演>
公演日:12 月4 日(水)
会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
主催:メ~テレ、メ~テレ事業
<兵庫公演>
公演日:12 月 7 日(土)~ 8 日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター
阪急 中ホール
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
<東京公演>
公演日:12 月 13 日(金)~ 24 日(火)
会場:東京グローブ座
主催:テレビ朝日、インプレッション
企画・制作:インプレッション
主催・製作:テレビ朝日 インプレッション
公式HP:https://www.tadashiiotonatachi.com
取材・文:Hiromi Koh
真矢ミキ撮り下ろし撮影:金丸雅代
衣装協力:
・ニット ¥39,000(税抜)
・パンツ ¥29,000(税抜)
マレーラ / 三喜商事株式会社
(問い合わせ先)03-3470-8233
・イヤリング ¥12,000(税抜)
アンティエーレ 青山本店
(問い合わせ先)03-3479-4925