前作『いつか~one fine day』で2019年読売演劇大賞上半期の候補作にノミネート(スタッフ賞=音楽)されたconSeptのMusical Dramaシリーズ。 その第3弾として2019年11月20日~29日まで都内の[六行会ホール]と[ひらつかホール]の2会場で上演される『In This House~最後の夜、 最初の朝~』 出演は岸祐二、 入絵加奈子、 綿引さやか、 川原一馬。 初演に引き続き演出は板垣恭一、 音楽監督は桑原まこ。
日本が海外初上演となった『In This House~最後の夜、 最初の朝~』は独白と会話、 歌と音楽が奇妙に入り組んで進行するオフブロードウェイの隠れた秀作。
元アメフト選手から一転、 グラミー賞を含め80年代~90年代の音楽チャート・ナンバーワン曲を12曲も手がけた稀有なキャリアを持つ作者マイク・リードの情緒豊かで哀愁漂うメロディーが、 大人のドラマを知的に紡いだと絶賛された。
客席通路からヘンリー・アーデン(岸祐二)とルイーサ・アーデン(入絵加奈子)、ゆっくりと登場する。ヘンリーはルイーサに手を差し伸べるが、その手を握らないルイーサ。すれ違う夫婦、嫌いとか、そういう感情ではなく、違和感を持っている、そんな感じに見受けられる。そして古い家に入る、かつての彼らの住まい、今は別のところに住んでいるが、時々、見に来る、という設定。古びたソファー、サイドテーブルに本など。懐かしさでいっぱいになる二人、思い出話に花を咲かせるも、どこかギクシャクしている。ここで歌われるナンバー、『時間』を歌う、”この家で”時を重ねた、希望に満ちていた頃、実はありふれた感情、そんな気持ちを抱いたことがあるという観客もいると思う。そこへドアを叩く音がする。若い二人、明らかに恋人同士、アニー・フリードキン(綿引さやか)とジョニー・ダマート(川原一馬)。車の故障で立ち往生、この二人をヘンリーとルイーサは招き入れることに。
この二人がやってくることによって変化が生まれる。自己紹介感覚でお互いのことを話し始めていくが、次第に4人が抱えている事柄が明らかになっていく。
歌とセリフ、セリフから歌に移行する場面がなめらかで、すーっと心に入っていける、大晦日の夜、そして新年の朝、何か事件が起こるわけではない。初老の夫婦、ごま塩頭の夫、足取りがゆっくりな妻、夫婦には取り返しのつかない過去、ある出来事があった。そのことがこの夫婦に大きな影を落としている。お互いのことを語るうちに、様々なことが露呈していく。その過程をセリフ、ミュージカルナンバーで綴っていく。4人はお互いに波風を立てないようにして生きてきた。特に初老の夫婦・ヘンリーとルイーサは若い時に大恋愛の末、夫婦になった。長い年月がすぎていくうちに隙間風がふくようになったが、それを表立って大きくはしてこなかった。それは、お互いのことを気遣っているから。そして若い二人もまた、お互いに好きであるが、歩んでいる道が異なる。そこで感情のすれ違いが起こったりする。そんな4人を緩急つけながら見せていく。”In This House”、この家の中で4人の人間模様が繰り広げられる。様々な解釈が可能な作品、単純に『幸せとは』という作品ではない。何かを諦める、何かを我慢する、何かを追い求める、人間なら、誰もがそういった場面に直面する。自分を出していくことによって気づきもある、傷つくこともある。アニーは救急看護師という職業柄、あちこちを飛び回る、どこかに落ち着くことに違和感を感じるのも不思議ではない。一方のジョニーはアニーを愛しているが、アニーが抱いている違和感をうっすら感じつつ、それがどういうことなのかイマイチ理解できていない様子。
少しずつ、気持ちの扉を開いていくことによって起こる変化、生演奏のアコースティックな音色、静かに深く、心に迫る作品。芸達者な4人の俳優陣、無骨で実直そうな初老の夫、岸祐二がナチュラルな雰囲気を醸し出す。また素直だが、自己否定感のある妻、心がすれ違う様を入絵加奈子が落ち着いた演技で見せる。アニー・フリードキン演じる綿引さやかは仕事に邁進している30代の女性を活発で、アグレッシヴな雰囲気をまとって存在する。ジョニー・ダマート演じる川原一馬はまっすぐさが好感が持てる役創り。
ラスト近く、長年連れ添ってきた二人、寄り添う気持ちが生まれる瞬間は胸が熱くなる。人が人を思う気持ち、たとえ不器用でも、それは尊いもの。すっかり冬めいてきたが、心に染み入る作品は冬の季節にふさわしい。
ロビーでは二人でツーショットが撮影できるコーナーが設置されているが、観劇の記念に。
俳優陣と日本語上演台本・訳詞・演出の板垣恭一からコメントも届いた。
[岸祐二]
無事に初日を迎えることができました。 再演ということを言葉では言っていますし、やっている事ももしかしたら同じに見えるか も知れないですが、内面は全然違っていて、新たに一から作りあげ、それが形になったと いう事にとても幸せを感じています。 もともと演劇というものは完成しないものだと思うのですが、この作品は本当に完成もし なければ、これだという答えがあるわけでもなくて、来ていただいたお客様の解釈によっ てとても深いものになったり、身近なものになったりもする作品ですので、それを丁寧に 最後までお届けしていきたいと思います。ぜひ一度足を運んでいただき、この作品を共有 して育ててやっていただけたら嬉しいです。
[入絵加奈子]
ご来場ありがとうございました。
私は本当にこの作品を愛しています。1 回 1 回の稽古を誠心誠意を込めて大切にやって参り ました。そして今日観ていただいたお客様が受け入れてくださったように感じたので本当 に幸せな気持ちになりました。 これから回を重ねていくごとに作品がよくなって、お客様の心にもっと届くような作品に 成長していけるよう日々頑張って参りますので、In This House 2019 をどうぞ皆さん応援してください。
[川原一馬]
無事に終わってほっとしています。 この作品は僕が今までやってきた作品、僕が歩んできた道を一回振り返って今現在も自分自身と向き合って挑んでいる作品です。なので是非また生で観ていただけたらと思います し、僕にとってはこの作品を通して僕自身がもっと成長できるということと、今までの僕 を浄化するというダブルミーニングがあったりもしますので、お客様もそれぞれにいろん な意味を感じとっていただけたらいいなと思ってます。
最後まで頑張ります!
[綿引さやか]
In This House 初日が開きました。
ご来場くださった皆さまありがとうございました。 稽古を積み重ねてきて今日初日を迎えてお客様の反応やお客様の物語と一緒に In This House が新しく走り出したなという感じがします。今回は2つの会場で、それぞれまたち ょっとずつ違った In This House になるんじゃないかなという予感もしています。そしてロ ビーには素敵な SNS スポットもあったりしますので、皆さんそこで是非写真を撮って載せてみたりもしてください。 それではこれからの公演、皆さまのご来場をお待ちしてます。 最後まで頑張ります!アニー・フリードキンでした。
[日本語上演台本・訳詞・演出: 板垣恭一]
「キライだよミュージカルなんて」という人を誘っていただけたらと思います。歌と台詞がシー ムレスにつながっていて、まるでストプレのような印象を持っていただけると。90 分ちょっと の上演時間、老夫婦と若いカップルによる大晦日のワンナイトストーリー、しかし登場人物4人 にはそれぞれ秘密があり……というシンプルながら味わいある物語。とても耳ざわりの良い音楽、 歌声に定評のあるキャストたちの演技。すべてが見どころです。ぜひご来場ください。
[CHARACTOR]
ヘンリー・アーデン(岸祐二)
ルイーサの夫。 豪快で男らしい人物であると同時に、 いろんなことに好奇心旺盛でもある。 ユーモアのセンスも逸品。
ルイーサ・アーデン(入絵加奈子)
ヘンリーの妻。 生涯バージニア州の片田舎で暮らしてきたが、 率直で気品のある女性。
アニー・フリードキン(綿引さやか)
救急看護師。 特に世界の災害地で活動しているため、 年中世界を飛び回っている。 神経質だが頭の回転が速く機転がきく。
ジョニー・ダマート(川原一馬)
イタリアからアメリカへの移民3世。 ハンサムで面倒見がよくやる気に満ちている。 ワシントンD.C.で警察官の職に就いている。
<SYNOPSIS>
とある大晦日、 年老いた農夫であるヘンリー・アーデンと彼の妻・ルイーサはバージニア州の片田舎にある、 長年住んでいた家を久し振りに訪れる。
壁の岩は一部が崩れ、 ドアのヒンジは片方がなくなっている。 彼らの間にはどこか張り詰めた空気が流れ、 二人は過ぎた時間を振り返る。
そこへ若い二人のカップルがやってくる。 ジョニー・ダマートとアニー・フリードキンだ。 ジョニーが恋人であるアニーを迎えに空港に行った帰り、 雪道に滑ってしまい車が故障で立ち往生しているので助けて欲しいと頼まれる。 その田舎道は携帯が通じないため電話を貸して欲しいと言うジョニーだったが、 あいにくヘンリー達の朽ちた昔の家に電話はなく、 翌朝天気が落ち着くまでその家でお世話になることに。
その大晦日の夜、 4人は代わる代わる自分とお互いの話を語ることになる。
ヘンリーが昔はマイナーリーグで将来有望な野球選手だったこと。
ルイーサとヘンリーが大恋愛をしていたこと。
ジョニーがイタリアからの移民3世で警察官の職に就いているが実は文才があるということ。
そしてアニーは世界中の被災地を駆け回る、 野戦病院の救急看護師であるということ。
楽しげに生い立ちや今の暮らしを語る一方で、 4人はそれぞれの胸に後悔と葛藤、 そして隠し事を抱えていた。 ヘンリーが野球を辞めてしまった理由、 アーデン夫妻の娘が亡くなった経緯、 アニーが自分との結婚に躊躇している理由を理解できないジョニー、 どこかに落ち着くことへの違和感を拭えないアニー。
やがて夜も更け4人は少しずつ胸の内を語り始める。
<DVDの予約をconSeptショップでも受け付け!>
11月20日18時〜
https://t.co/OMa3wUZcn1
※劇場でお申し込みの場合は送料無料。ショップでの受付は送料が発生いたします。ご了承ください。
【公演概要】
日程・場所:2019年11月20日~29日 六行会ホール・ひらつかホール
[STAFF]
脚本:サラ・シュレジンジャー(Sarah Schlesinger)
マイク・リード(Mike Reid)
ジョナサン・バーンスタイン(Jonathan Bernstein)
作詞:サラ・シュレジンジャー(Sarah Schlesinger)
作曲:マイク・リード(Mike Reid)
日本語上演台本・訳詞・演出:板垣恭一
翻訳:主計大輔 / 音楽監督:桑原まこ / 美術:乘峯雅寛 / 照明:中村嘉雄(REDEL)
音響:戸田雄樹(エディスグローヴ) / 衣裳:KO3UKE / ヘアメイク:田中エミ
舞台監督:後藤恭徳(ニケステージワークス) / 宣伝デザイン:柚木竜也(aboka design)
スチール撮影:前康輔 / プロモーション動画制作:深沢麿央 / 撮影:角 直和(極楽映像社)
協力:キューブ、 オスカープロモーション、 エレメンツ
宣伝:大林里枝 / 制作:ウォン・ジヘ / プロデューサー:宋元燮
後援:TBSラジオ / 企画・製作・主催:conSept
公式HP:https://www.consept-s.com/in-this-house/
撮影:岩田えり
文:Hiromi Koh