真矢ミキ主演:『正しいオトナたち』分別のある大人たち、”怒りスイッチ”が入り、修羅場と化す、4人の男女が火花を散らす。

真矢ミキ主演舞台『正しいオトナたち』。『Le Dieu du carnage』(本作原題)IMAホールで東京先行公演が開幕し、その後は名古屋、兵庫にて上演し、12月13日より東京グローブ座で公演する。
舞台上のセットはウリエ家の居間という設定で、テーブル近くにはたくさんの本、壁には民族的な面が飾ってある。真ん中の壁から外の様子が見える。全体として落ち着いた感じの品の良いリビングだ。暗転から2組の夫婦がそこに佇んでいる。一方はこの家の『主』であるウリエ夫妻(妻ヴェロニック(真矢ミキ)/夫ミシェル(近藤芳正))、そしてもう一方の夫婦はレイユ夫妻(妻アネット(中嶋朋子)/夫アラン(岡本健一))。レイユ夫妻の子供がウリエ夫妻の子供に怪我をさせた、というのが発端だ。事故ではなく、子供同士の喧嘩、なんとウリエ夫妻の子供は前歯を折ってしまったという。普通に考えても加害者側の親は被害者側の家に謝罪にいく、これもそういう状況だ。一見和やかに雑談しつつも事実関係を確認したりする、どこにでもありそうなありふれた光景、フレンドリーに話そうと『いいオトナ』らしく、4人ともそんな風情で振る舞う。この家の主婦であるヴェロニックは温かい飲み物とケーキを持ってくる。ケーキは買ったものではなく義母のレシピで作ったもの。手作りのケーキを持ってくるあたりは、かなり気を使っている、という状況。雑談しながら『探りを入れる』、これもよくある風景だ。営業などでもいきなり「買ってください」とは言わない。相手の個性や状況を見極めつつ『本題』に入る、これもよくある行動だ。文書を交わして了解しあう、そのつもりだった、常識的に、分別のある大人らしく。ところが・・・・・そんな時にアランの携帯電話が鳴る。普通はOFFにするところだが、こんな時でもONにしている、周囲の微妙な空気をよそに電話に出て喋り始めるアラン、しかもやや興奮気味で声も大きい。ミシェルは貧乏ゆすりを始める。やや落ち着かない様子、緊張しているようにも見受けられる。頻繁に携帯が鳴り、そのたびに電話に出ては大きな声でしゃべるアランに物静かそうに見える妻・アネットは眉をひそめる。自分たちは加害者であり、被害者宅にお邪魔している状況で、基本的に肩身の狭い状況にもかかわらず、空気を読まずに大きな声で携帯で喋りまくる夫に、やや切れかかっている。それは被害者のウリエ夫妻も内心『なんだかな』という空気感。そうこうしているうちにアネットの様子がおかしくなっていく。気分がすぐれないようだ。気を使うウリエ夫妻、飲み物を持ってきたりするのだが、妻が急変しているにもかかわらず電話でしゃべる夫・アラン。「いい加減にして!」と怒る妻、もっともなリアクション、「任せっきり!」と畳み掛けるようにいう。そして・・・・・・さらに・・・・・、というのが大体の流れだ。
しょっぱなから、”何か起こりそう”な空気感のリビング、4人4様の行動、リアクション、世間的には『分別のある大人』であり、それなりに『地位を築いている大人』であり、『尊敬される大人』であるはずの4人の『大人仮面』が少しずつ外れていく。センスの良い、落ち着いた服、洒落た服で『武装』している4人。どこにでもありそうなシュチュエーションから、本音爆発の”普通、そこまでは・・・・・如何なものか”への移行がナチュラル。4人4様の行動に発言、演劇なのでオーバーであるが、観客はちょっとした心理状況や行動はところどころ共感もし、また見聞きしている状況をふと思い出したりもする。日常でも「こんな時、携帯電源OFFでしょ」という場面にしょっちゅう出くわすし、周囲の行動に眉をひそめることもある。『大人仮面』が剥がされていく過程は目が離せないし、彼らが『崩壊』(本当の姿が出てくる)のを壁に飾ってある面が不気味に見つめている。その面はあざ笑う様なものもあれば、怖い鬼の様な面もある。

1時間45分の1幕もの、4人、ほぼ出ずっぱり、そして時間が経過していくに従って変化していく。芸達者が4人、4重奏の様に時には不協和音を奏でながら、ラストに向かっていく。大人、”大きい人”と書く。確かに子供と比較すると背も高いし、大きい。しかし、その中身は・・・・・・大人になり、社会に出て、様々な試練、理不尽なことだらけだ。それに揉まれて揉まれて、成長すると思いきや、どこか危うく、ちょっと何かの、さしずめ『怒りのスイッチ』が入れば・・・・・・。怒りと憎悪とストレスと・・・・・身につまされる内容であるが、ヒットしている作品というのも頷ける。悲劇とか喜劇という括りでは説明しづらいが、『心理的リアル』な戯曲。ちなみに「Le Dieu du carnage」、英語では「God of Carnage」、この「Carnage」の意味は「虐殺、殺戮」だが、ここではさしずめ「修羅場」。この座組だからこその舞台、公演は24日まで。

<STORY>
舞台はウリエ家の居間。ウリエ夫妻(妻ヴェロニック/夫ミシェル)とレイユ夫妻(妻アネット/夫アラン)が対峙している。“安全”と思われる公園で、レイユ家の息子が、ウリエ家の息子に怪我を負わせてしまったのだ。お互いを探りながら、冷静に話し合いは始まる。二組ともそれなりの家庭であるとの自負がある。ミシェルは小売業を営み、ヴェロニックはアフリカの事情に詳しく本を執筆中。アランはやり手の弁護士で、アネットは資産運用の仕事をしている。レイユ夫妻は地位と裕福さを匂わすが、ウリエ夫妻は良識ある家庭を築いていることを強調する。そんな緊迫した話し合いのなかなのに、アランは携帯をはなさず、仕事の緊急事態に下品とも言える指示を出し続け、ついにアネットの怒りが爆発!そこから事態は、思わぬ方向に。お互いにホンネむき出しのバトルが始まります。もはや制御不能となった大人たち。これは果たして悲劇、それとも喜劇・・・。
【公演概要】
タイトル:『正しいオトナたち』
作:ヤスミナ・レザ(現題:Le Dieu du carnage)
翻訳:岩切正一郎
演出:上村聡史
出演:
ヴェロニック 真矢ミキ
アラン 岡本健一
アネット 中嶋朋子
ミシェル 近藤芳正
<東京先行公演>
公演日:11 月28 日(木)~11 月29 日(金)
会場:IMAホール
主催:テレビ朝日、インプレッション
<名古屋公演>
公演日:12 月4 日(水)
会場:日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
主催:メ~テレ、メ~テレ事業

<兵庫公演>
公演日:12 月 7 日(土)~ 8 日(日)
会場:兵庫県立芸術文化センター
阪急 中ホール
主催:兵庫県、兵庫県立芸術文化センター

<東京公演>
公演日:12 月 13 日(金)~ 24 日(火)
会場:東京グローブ座
主催:テレビ朝日、インプレッション
企画・制作:インプレッション
主催・製作:テレビ朝日 インプレッション
公式HP:https://www.tadashiiotonatachi.com
取材・文:Hiromi Koh