”ロマンチックな群像劇ミュージカル”と銘打った『Fly By Night~君がいた』が9月1日、開幕した。
登場人物は、ごくありふれた人々、その日、その日を懸命に生きている。
プロローグ、まずナレーター(原田優一)、つまり物語の進行役が登場する。”ちっぽけで広大”、”複雑でシンプル”、と歌う。真逆、人間の人生は、地球上にいる人間の数だけある、それは無数に存在しているし、様々な状況も無数に存在する。その一つ、一つは小さいかもしれないが、その中では無限に広がる未来や哲学、そんなことに思いを馳せる。
それから、この物語のメインキャラクター、6名、ナレーターが舞台上に。そして歌、「Fly By Night」、「時間は1964年11月9日からの1年間」とナレーターが説明する。そしてこれから始まる物語の構造を説明してくれる。そして”本編”という趣向。
ハロルド(内藤大希)とその父・マックラム(福井晶一)佇む、不幸があった。マックラムの妻が他界したのだった。生きとし生けるものは生まれれば、必ず死ぬのは必然。それはわかっているが、長く連れ添った夫婦の場合は残された者は悲しみに打ちひしがれる。マックラムも例外ではない。もちろん、息子のハロルドも母がいなくなり気落ちする。ここで入るナンバーも象徴的、それから遺品整理。ギターを発見し、息子のハロルドは、そのギターを持っていく。彼はサンドイッチ屋で働いている。サンドイッチ屋になりたいわけではなく、生活のためだ。
時間軸は行きつ戻りつ、ナレーターは別の人物を紹介する。ダフネ(青野紗穂)、スーツケースを持っている。これですぐにわかるが、これから旅立つ、夢と希望を持ってNYへ、スターになる!という思いを胸に。彼女には姉・ミリアム(万里紗)がいた。ミリアムはNYのパンケーキハウスでウエイトレスの仕事をしており、よくあるパターン、姉を頼ってNYに”上京”する。
物語のおもなる場所はNY、様々な生い立ちの人間が数え切れないほど住んでいる大都会。勘のいい観客なら、ここでわかるはず、言わずもがな、だ。メインの登場人物、それぞれの人生を瞬間を生きる。
恋愛、三角関係、そして将来の夢、現実。ハロルドが働くサンドイッチ屋のオーナー・クラブル(内田紳一郎)、毎日、サンドイッチを作る、単調であるが、これが当たり前の日々。「マヨネーズ、肉、チーズ、とレタス」と歌う。彼の日常を描写、そんな彼は若い頃、空軍にいたという。
恋愛に臆病なミリアム、悩むハロルド、スターへの夢に向かうダフネ、名門一家に生まれた故に劣等感を感じる若手劇作家のジョーイ(遠山裕介)、悲しみに沈むマックラム、単調な毎日に埋没するクラブル、皆、どこにでもいそうな人物ばかりで、共感できる部分が多い。そういった設定もさることながら、このミュージカルの構成の面白さ、時間軸が行きつ戻りつするが、これが、かえって物語をわかりやすくしている。
登場するキャラクターもバックボーンがしっかりと描かれており、彼らが歌うナンバーは性格や状況にマッチしていてすんなり観客の意識に入ってくる。テンポのいい展開、舞台転換は俳優が行うので、皆、舞台にいる時間が長い。そして自分が演じていない時はセットの移動はもちろん、その場、その場でクラブの観客になったり、通行人になったりと、なかなか忙しい。しかし、それが効果的。この作品の輪郭を際立たせてくれている。ナレーターは、物語の進行を行っている時はクールな佇まいで、そして様々な役にスイッチする時は、瞬時に!違うキャラに。その切り替わりがかなりの”難役”だが、ここは原田優一が鮮やかに演じる。稽古場取材時は「地獄です」と笑っていたが、改めて、その芸達者ぶりを見せてくれる。
彼らの人生、途中で占い師(ナレーターの原田優一が演じており、笑える)、ちょっと怪しげだが、この占い師はミリアムのことについて”予言”する。占い師といえば・・・・・光る玉!そんなものを見せつけられて、しかも予言されてしまったミリアムは驚き、戸惑い、逃げ出してしまう。ここは現実離れしているように見えて実は日常的に似たようなことはある。年の初めのおみくじで一喜一憂、誰しも先のことはわからないし、知ることもできないが、それでも知りたくなるのは人の性だ。
冒頭でナレーターが1964年11月9日から1年間と言っているが、ここがポイント、1年後にはNYの大停電が起こる、もちろん、人々は、そんな未来がくるとは知らずに生きる。この停電は大規模でアメリカのみならず、カナダでも起こった。2500万人と207,000 km²の地域で12時間、電気が供給されない状態に陥ったそうである。翻って現代、新型コロナウイルスが世界中で蔓延している。去年の今頃はどうしていただろうか?思い出してみるとちょうどラグビーのW杯直前であった。2019年9月20日から11月2日まで日本で開催され、いわゆるインバウンドでホテルや観光地は大いに賑わっていた。この時期に誰が、今の2020年の状況を想像できたであろうか。しかし、この2020年、今まで気がつかなかったことに気づかされたり、あるいは見えていなかったことが見えたりする。NY大停電は文字通りの暗闇、そして今は・・・・・。大事なことは決して見えないが、そこはかとなく感じることは可能かもしれない。この物語の登場人物たちは果たしてどうするのか、どうしたのか、そこは劇場で!また、全公演生配信も行うので、ご自宅でも視聴可能。観客がクラップなどで参加できる場面もあり、ライブ感覚もあり、ライトモチーフも効果的で楽曲も多岐にわたる。25曲、メロディーがキャッチーで耳に残るし、歌上手なキャスト揃いで、ここは注目ポイント。また、ラスト近く、福井晶一が!オペラのアリアを!さすがの歌唱力、パワフルさの中に繊細さを表現しており、思わず聞き惚れてしまう。
「Fly By Night」、様々なニュアンスを内包、副題の”君がいた”、『君』に該当する人物は人それぞれ、この舞台を観た後は、これらの意味を噛みしめることができるであろう。
<キャストコメント>
内藤大希
「無事に初日を開けることが出来て、とても嬉しく思っています。
横浜公演まで含めて全公演配信がありますので、自宅にいながら、出掛けた先でも観ていただけます。映像の世界で楽しんでいただくも良し、映像を観て劇場に足を運んでいただくも良し、劇場で観て配信をご覧になるも良し。ぜひFly By Nightの世界を堪能していただけたらと思います」
青野紗穂
「こういうご時世で開幕出来る事が有難いです。無事に初日が開きましたので、千秋楽に向けて頑張りたいと思います」
万里紗
「まず何よりもこうして劇場に立てる事、お客様の顔を拝見出来る事が喜びであり、深く感謝します。とてもロマンチックな作品なんですが、この半年間ロマンチックな事を信じる勇気が無くなっていたことを改めて感じています。この作品が持っているメッセージを私たちが一生懸命もがいて演じるので、お客様に届くことを願っています」
遠山裕介
「無事初日が開きました。イエイ!こんなハッピーな事は無いです。
この作品、あと19回、東京と横浜で公演があります。ライブ配信もありますので、日々変化して行く舞台ならではの楽しさを、劇場で、ライブ配信で楽しんでいただけたらと思います。皆さん、楽しんでください!」
内田紳一郎
「このような状況禍で、初日を無事迎えられ、お客様にも観ていただけて嬉しいです。本来はお芝居はリラックスしてただ楽しんでいただけたらいいのですが、今は我々もお客様も細心の注意を払って公演を行わざるをえなく、普通に観劇していただく事が夢のような状況です。まだまだお芝居はこの世の中に絶対必要なものなんだ、と感じながらお芝居ができて、この公演は自分にとって特別なものになりました」
福井晶一
「このような状況禍で舞台に立てる、初日を迎えられるという事は奇跡だと思いますし、たくさんの方の協力があって今日があると思っているので、幸せを感じています。今回は客席が半分なんですが、配信もございますので「Fly By Night」をぜひ興じていただけたらと思います。暗闇の中から希望を見つけ出すというのが作品のテーマにもあります、みなさんに少しでも元気と勇気をこの作品で与えられたらと思いますので、ぜひご覧になってください」
原田優一
「conSeptさんとは以前グーテンバーグ・ザミュージカルという作品をご一緒しました。福井さんとの二人芝居で、その時も初日はすごく緊張したのですが、今回ある意味それを超えたかなというぐらいの緊張感です。以前は福井さんとの掛け合いで支え合える安心感があったのですが、今回ナレーター役という、誰も周りに支えてくれる人がいなくて、自分が破綻したら、物語が滞るという、まさに重責を感じています。他にもいろいろな役で登場するのですが、お客様にちょっとしたスパイスというか笑いの部分を担っていますので、その部分は楽しんでいただこうと演じさせていただいています。そういった意味では今回の作品は自分にとっては物凄く試練であり、これを乗り越えた時には凄い絶景が待っているのでは無いかと思っています」
公式HP:https://www.consept-s.com/fbn/
◇作品概要
実際に起こった大規模停電をモチーフに描かれる群像劇ミュージカル
この物語は1965年11月9日に実際に北アメリカとカナダを中心に起こった大停電(ニューヨーク大停電)をモチーフにしている。
この停電で実際に約2500万人に及ぶ人々が暗闇の中で12時間過ごす事になったという記録が残っているが、はっきりとした原因は不明で、「UFOの攻撃があった」という話が都市伝説のように残っているほどの大事件だったという。
極寒のニューヨーク、寒さと暗闇の中で人々は混乱し信号の停止で交通事故も多発したというが、ある場所では寄り添い暖をとりあったり、人が文明の利器を離れ互いを支えあったというエピソードも残っている。
■Fly By Nightとは?
よく使われる意味としては「夜間飛行」「夜逃げ」「胡散臭い」などの意味がありますが、一方で「束の間の」「刹那の」という意味も持つ言葉。
物語の中にこの言葉がどのように散りばめられているのか、というところも楽しんでみてください。
■Character
・ハロルド:サンドイッチ屋で働く青年。母親を亡くしたばかり。サンドイッチ屋で働く以外の人生を見つけたいと悩んでいる。
・ダフネ:サウス・ダコタの田舎町から女優を目指してニューヨークにやってきた野心的な女の子。
・ミリアム:ダフネの姉。内気で信心深く星を眺めるのが好きな素朴な女の子。
・ジョーイ:ニューヨーク生まれニューヨーク育ちの若手劇作家。名門一家の中で自分は落ちこぼれだと感じている。
・クラブル:ハロルドが務めるサンドイッチ屋のオーナー。若い頃は空軍で航空管制官をやっていたらしい。
・マックラム:ハロルドの父。最愛の妻を亡くし心の拠り所を探している。
・ナレーター:物語の時間軸を動かす。あらゆる瞬間に突如出現する。
■Story
1965年、ニューヨーク、11月9日
彼らは巡り会い、惹かれあい、そして・・・
1964年11月9日。母の葬儀を終えたハロルド(内藤大希)とその父・マックラム(福井晶一)。ハロルドは遺品の中にギターを見つけ「母さんはギターを弾いていたの?」と驚きつつ、形見として持ち帰ることにする。一方すっかり気落ちしたマックラムは、妻が大好きだった「椿姫」のレコードを聞きながら毎日を無為に過ごすようになる。
ちょうど同じ頃、人口1000人ほどの田舎町サウス・ダコタで暮らしていたダフネ(青野紗穂)は、女優を目指してニューヨークに行くことを決意。姉のミリアム(万里紗)に一人では心もとないからと泣きつき、母を説得。姉妹は一緒にニューヨークで暮らすことになる。行動的なダフネは洋服店で働きながらオーディションを受ける日々を過ごすが、あるとき、店の近くのサンドイッチ屋で働いていたハロルドと出会い恋に落ちる。ミリアムは星や宇宙が大好きな内気な女性。そんな彼女が唯一他人と繋がれるのは、カフェでウェイトレスをしているとき。ある日、ダフネがオーディション会場で若手劇作家のジョーイ(遠山裕介)に見初められ、新作ミュージカルの主役に抜擢される。その稽古に明け暮れるうちハロルドとすれ違い始めるダフネ。ミリアムは、突然現れた占い師(原田優一)に未来を予言されるが、その中に出てきた恋人の条件に合致するのはなんとハロルド。彼女は自身の気持ちに戸惑い田舎へ逃げ帰ってしまう。 サンドイッチ屋のオーナー・クラブル(内田紳一郎)は今日も、優柔不断なハロルドに発破をかけている。孤独を募らせたマックラムはある決心をする。
そして 1965年11月9日、ニューヨーク大停電が起きた。
【TIMETABLE & ACCESS】
■シアタートラム
日程:2020 年9 月1 日(火)~13 日(日)
■横浜赤レンガ倉庫1 号館3F ホール
日程:9 月19 日(土)~22 日(火・祝)
■プレイガイド
カルチベート・チケット対象公演(学生無料チケット・枚数限定)
https://www.consept-s.com/cultivate/
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FLY BY NIGHT Conceived by Kim Rosenstock
Written by Will Connolly, Michael Mitnick, and Kim Rosenstock
■出演
内藤大希 Naito Taiki(ハロルド)
青野紗穂 Aono Saho(ダフネ)
万里紗 Marisa(ミリアム)
遠山裕介 Toyama Yusuke(ジョーイ)
内田紳一郎 Uchida Shinichiro(クラブル)
福井晶一 Fukui Shoichi(マックラム)
原田優一 Harada Yuichi(ナレーター)
■STAFF
原案:キム・ロゼンストック
脚本・作詞・作曲:ウィル・コノリー、マイケル・ミットニック、キム・ロゼンストック
日本語上演台本・訳詞・演出:板垣恭一
翻訳:工藤紅
音楽監督:桑原まこ
美術:乘峯雅寛
照明:三澤裕史(あかり組)
音響:戸田雄樹(エディスグローヴ)
衣裳:風戸ますみ(東宝舞台)
振付・ステージング:当銀大輔
ヘアメイク:竹節嘉恵(shuhari beauté)
演出助手:明羽美姫
舞台監督:齋藤英明(Roots)、大友圭一郎
イタリア語指導:三戸大久
演奏:桑原まこ(Pf)、成尾憲治(Gt)、堀井慶一(Ba)、長良祐一(Dr)
協力:ACT JP、アルファーエージェンシー、エイベックス・マネジメント、エンパシィ、ショウビズ、SUI、レプロエンタテインメント(五十音順)
宣伝デザイン:柚木竜也(aboka design)
スチール撮影:前康輔
PV動画製作:深沢麿央
PV動画撮影:角直和(極楽映像社)
票券:林晴美
宣伝:大林里枝
制作:上野正人(ゴーチブラザーズ)
プロデューサー:宋元燮
後援:TBSラジオ
共催:横浜赤レンガ倉庫1号館(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)<横浜公演>
企画・製作・主催:conSept
公式HP:https://www.consept-s.com/fbn/
文:高 浩美
撮影・岩田えり