ーーバリキャリな私、でも、どうして?「君は君のままでいて欲しい」ーー
大阪公演も順調に終わり、6月1日からミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』、開幕。
『シカゴ』『キャバレー』等の名作で知られるジョン・カンダー &フレッド・エッブによる華やかな楽曲と笑い溢れるラブロマンスで、トニー賞最優秀スコア、脚本等 4 冠に輝 いたコメディミュージカル。
幕開きはドラマチックなオーバーチュアで始まる。生演奏、それから軽快なリズムに変わっていくが、多彩なメロディー、これだけでワクワク感!トニー賞の最優秀スコアー賞受賞、ナンバーを聴いているだけで、想像力が膨らんでいく。
会場いっぱいに響き渡る声、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー!」主人公のテスはこの年の最高の女性に与えらえる称号を手にした。しかし、しかし、だ、ここでテスが歌うナンバーの歌詞をよく聴くと・・・・・・夫をボロクソに。「しばりつける夫なんて絶対に必要ない」と得意満面で歌い上げる。晴れがましい舞台に立つ状況と歌の対比が面白く、またテスの複雑な心境をよく表している。
そこから時間軸は遡る。彼女がキャスターを務める番組で漫画を低俗だと言い放つ。これを視聴していた漫画家たちは当然、怒り心頭。特に風刺漫画を描くサムは彼女をモデルにしたキャラを描く。これがそもそもの発端だ。何事にも自信たっぷりのテスは「正義は私にある」と歌い上げる。
テスの家に行ったサム、出会う2人、たちまち恋に落ちるが、ここはユーモアたっぷり、客席からは笑い声、大袈裟に見えるが、恋に落ちる時はいつも突然、そこに理屈などない。ここには優秀過ぎる秘書・ジェラルドに堅物そうな女中のヘルガ、この2人、なんとも濃く、少々驚くサム。
テンポよく物語は歌と共に進行する。チャッチーで耳に残る楽曲、コミカルで蘊蓄のある歌詞、テンポの良い会話、スピーディで滑らかな舞台転換で観客をぐいぐいと引き込む。
こうして始まったテスとサムの恋、そして結婚、ハイテンションのまま、突っ走る。しかし、テスは普通の女性ではない。自らを「完璧!」と思い、実際に頭も良く、ニュースキャスターを勤め上げるほどの有名人。かたや漫画家、いわゆるクリエイター、さてさて、どうなることやら〜と観客は舞台から目を離せなくなる。
もちろん、コメディと謳っているからには当然、ハッピーエンドに決まっているのだが、その定番のオチにいくまでが面白く、しかも粋な、それでいて、ちょっとコミカルな展開で最後はホロリ。「そうくるか」的なところもあって「トニー賞を獲るだけあるな」と感心させられる。
有能だが、黙っているだけでもうっとおしい秘書・ジェラルド(「黙れ、ジェラルド」というナンバーもある!)、今井朋彦、超ど真面目な表情をすればするほどに可笑し味がこみ上げる。女中のヘルガ、仕事キッチリだが、動きがどことなくファニーで可愛らしく、これを春風ひとみが流石な貫禄で演じる。相手役になるサム、相葉裕樹がイケメンで誠実だが、風刺漫画家らしい毒もちょっと匂わせる感じでインパクトのある役作り。サムと一緒にキャスターをやっているチップ・サリスベリー、かなり困った人で、独特の言葉使い、出てきただけでどっと可笑しい、ショーストッパーな感じで原田優一が、なりふり構わずに演じきる。2幕の後半に登場するテスの元夫の妻・ジャン、ベタなおばさんで観客の記憶に残る演技、コメディならお任せ、な樹里咲穂。ロシアから亡命してきたというダンサー、アレクセイ、流石のバレエシーン、そしてかなりのコメディセンスも見せてくれる宮尾俊太郎。主人公のテスは何事にも全力投球で常に結果を残してきたバリキャリ、しかし、私生活はどっちかというとダメダメ、コミカルでおバカなシーンも振り切った演技、早霧せいな、キュートな役創りで、しかもなかなかのコメディエンヌぶり。
全てのキャラクターに見せ場があり、ほとんどのシーンが見どころと言っても過言ではない、なんとも贅沢な舞台、ミュージカルなのでキャラクターも描かれている状況もいささかオーバー気味だが、共感できたり、ちょっと我が身を振り返ったりも出来る。本当は互いに想っているのに、すれ違いや言葉の行き違い、考え方の違いから仲違いしてしまうことはありがちだ。しかし、そのままにせずに勇気を持って一歩踏み出すと、案外、晴れ晴れとしたりもする。演出のみならず、上演台本、訳詞も手がける板垣恭一のセンスも抜群、ところどころに小ネタを挟み込み、客席からは頻繁に笑いが起きる。バレエシーンではやたらガタイのいいチュチュを着たダンサーやウエスト太めのダンサーが登場、その他、ちょっとした“珍獣”ダンサーがチラホラいるのでここは要チェック。また、サムが描く漫画が映像で登場するが、俳優の動きとシンクロする場面もあり、ここはなんともキュートなシーンに仕上がっていた。
季節は梅雨、劇場でカラッと笑いとばしてジメジメを吹き飛ばそう。
なお、ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは早霧せいな、相葉裕樹、宮尾俊太郎。すでに大阪公演は終了、早霧せいなは「場所が変わるとお客様も変わるので、新たな気持ちで挑戦したい」と気を引き締める。相葉裕樹も「自分たちを信じて・・・・・・楽しんで頂けるミュージカルです」と語る。宮尾俊太郎は「大阪のお客様がもの凄い笑ってくれた。東京のお客様がどういう反応をするか楽しみ」と語るが、笑いには厳しい目を持つ関西の観客の心を掴んだようで、まずはいい調子。早霧せいなは「お客様と一緒に作る舞台」と語ったが、客席の笑いはコメディには不可欠。宮尾俊太郎は「喉の調子が全く分からなくって、二公演で喉がカスカスになったりしましたが、やっていくうちに徐々に見えてきた」と語るが、歌の場面でしっかり聴かせてくれ、ミュージカルでもがっちりやれることを証明。また、男性との本格的な共演は初、の早霧せいなは「新鮮に女子のときめきを思い出しながらやっています」と言えば、相手役の相葉裕樹は「稽古中、照れちゃったりします」と返した。ゲネプロでは、カンパニーもよくまとまっており、フォーメーションや台詞のやり取りに安定感を感じる。
最後に早霧せいなが座長らしく「是非、是非、劇場へ!楽しんでください!」と締めて会見は終了した。
<ストーリー>
その年の最も輝いた女性に贈られる賞“ウーマン・オブ・ザ・イヤー”の授賞式を控えた人気ニュースキャスターのテス・ハーディング【早霧せいな】。お互い一目惚れでスピード結婚した風刺漫画作家サム・クレイブ【相葉裕樹】との新婚生活をスタートさせ、公私共に順風満帆の筈だったが・・・!?バリバリのキャリアウーマン(バリキャリ)道まっしぐらのテスは、何よりも仕事が最優先。気付けばサムとの関係には亀裂が生じ、早くも離婚危機に陥ってしまう。愛するサムの事は大切にしたい、でも今まで築き上げてきたキャリアは絶対的なもの。そんな時、テスが取材をした亡命中の有名バレエダンサーの思いがけない決断が、彼女の心を大きく突き動かす。家庭と仕事、女性の本当の幸せは、果たしてどちらにあるのか?キレっ切れのテス・ハーディングが目指すパーフェクトな人生とは・・・
【概要】
ミュージカル『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』
2018年5月18日〜5月27日
梅田芸術劇場シアタードラマシティ
2018年6月1日〜6月10日
TBS赤坂ACTシアター
脚本:ジョン・カンダー
作詞:フレッド・エップ
上演台本・演出・訳詞:板垣恭一
出演:早霧せいな 相葉裕樹 今井朋彦 春風ひとみ 原田優一 樹里咲穂 宮尾俊太郎 (K バレエ カンパニー) 他
公式サイト:http://www.umegei.com/womanoftheyear/
文:Hiromi Koh
舞台写真撮影:森好弘