新国立劇場公演 バレエ「ドン・キホーテ」相思相愛の男女の恋愛模様、現実と空想がごっちゃのドン・キホーテ、ラストは如何に。

 古典バレエ『ドン・キホーテ』が10月23日より開幕する。
大原永子前舞踊芸術監督の任期最後のシーズンの2020年5月に上演中止となったが、吉田都・新芸術監督にそのまま引き継ぐがバトンを引き継ぐ意味も込めて、バレエ団が一丸となって取り組む渾身の舞台となる(HP:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/)。

セルバンテス著「ドン・キホーテ」のエピソードが原作である本作は、床屋のバジルと町娘キトリの恋物語が、陽気に賑わうバルセロナの町で繰り広げられる。闘牛士や町の女たちによるスペイン舞踊、風車 のエピソード、ドン・キホーテの夢の中で繰り広げられる美しい群舞、そして最終幕の恋人たちによるグ ラン・パ・ド・ドゥまで、古典バレエの美しさとバラエティに富んだ踊りの数々を堪能できる人気演目。この陽気で力強さに溢れる本作では、充実した新国立劇場バレエ団のソリスト達と定評ある美しい コール・ド・バレエによる、古典レパートリーならではの充実した舞台を披露する。

初日に先駆けて前日の22日、ゲネプロが執り行われた。その前に吉田都芸術監督が挨拶、自粛期間も皆、稽古をしていたとコメントした。
幕開き、リズミカルな楽曲、最初に登場するのは、一人の男、ドン・キホーテ。この男、騎士物語を読んでいるうちに現実と空想の区別がつかなくなり、物語に出てきたドルネシア姫に会うために旅に出るところから始まる。お供は農夫の太めなサンチョ・パンサ。ちなみに”パンサ”とは太鼓腹と言う意味(そのまんま!)。バレエでは、ドン・キホーテは脇役、主軸は宿屋の娘のキトリと彼女の恋人であるバジルである。

1幕の見所は、バルセロナの様子。とにかく賑やかで、大勢の人々が行き交う。そしてキトリとバジルの登場、出てくるだけで場面がもっと華やかになる。そして二人の仲睦まじい様子が描かれる。ダンサーたちの美しいダンスもさることながら、登場人物たちの芝居にも注目したい。キトリの父ロレンツォは娘大好きで、幸せを願い、貴族でお金持ちのガマーシュに嫁がせたい、見た目はイケメンでもお金がなさそうな床屋のバジルには嫁がせたくない、バジルとのコミカルなやり取りはクスリと笑えるし、ガマーシュのいかにも『僕はお金持ちなんです』風情、帽子をいつもかぶっている(頭を隠したい)、キャラ立ちしていて、場面でのアクセントに。また、おしゃれな女性陣に、人気者の闘牛士・エスパーダ、女性達の憧れの的、スパニッシュなダンス、ここも見所だ。そして皆、細かい芝居をしており、舞台に登場している人物全てが生き生きしている。バレエはダンスだけではない、ということがよくわかる。
2幕は、町外れの居酒屋から始まる。闘牛士達の群舞、色っぽい女性陣のダンス。花形闘牛士・エスパーダのイケメンぶり、賑やかでかつ楽しそうなシーン。端っこに目を配ると、バジルが酒をラッパ飲みしてたり(笑)。そこへ!来ては困る人が!キトリのパパであるロレンツォ!バジルの狂言自殺を図るシーン、ここもなかなかにコメデイ。そんなこんなで大騒ぎ!ドン・キホーテが!サンチョ・パンサとともに現れる。ドン・キホーテ、”かっこいい騎士”になりきっている。彼の活躍でキトリとバジルは!そして一転して森のシーン。ドン・キホーテは風車に突撃して吹き飛ばされ気を失う(吹き飛ばされ方に注目!)。夢の中で憧れの姫に出会う。ここは幻想的で、それまでとはガラリと雰囲気が変わる。ここのダンスも見所で、妖精達の群舞がファンタジック。そして3幕は結婚式の場面、ここはもう純粋にダンサー達の超絶な技巧を楽しみたい。

跳躍もとにかく高い!しかも空中で止まっているかのようにも見えるくらい。また数え切れないくらいに回転、その技にひたすら感嘆。
ゲネプロではキトリは柴山紗帆、バジルは中家正博、ドン・キホーテは趙 載範、サンチョ・パンサは髙橋一輝。愛らしいキトリ、イケメンだけど2幕の花形闘牛士の場面ではお酒をラッパ飲みしてふてくされる、ちょっと可愛いぞ!バジル、現実と空想の区別がついていないにもかかわらず堂々として物事に動じないかっこいい騎士になりきりのドン・キホーテ、彼に振り回される姿が愛嬌たっぷりの”お笑い担当”サンチョ・パンサ、コンビネーションも絶妙。配信も予定されており、劇場が遠いという観客はぜひ!物語もわかりやすく、『バレエって難しい?』と思っているなら、これを見れば!面白い!ダンスがすごい!とシンプルに感動できること、請け合いだ。また振付も古典バレエではあるが、古いという感じはしない。洗練された振付はいつの時代でも受け入れられるもの。これを見れば必ず『バレエは面白い!』『バレエはかっこいい!』と感じることであろう。

<物語>
ドン・キホーテは農夫サンチョ・パンサを従えて冒険を求めて諸国を遍歴する旅に出る。活気あふれる港 町バルセロナ。宿屋の看板娘キトリの恋人は床屋のバジルだが、キトリの父ロレンツォは娘を金持ちの 貴族ガマーシュに嫁がせようと考えている。広場で人々が陽気に騒いでいるところに、ドン・キホーテと サンチョ・パンサが登場、ドン・キホーテは、キトリを自分の理想の女性であるドゥルシネア姫だと信じ 込む。しかし彼女は騒ぎの間にバジルと一緒に町外れの居酒屋に隠れてしまう。追ってきたロレンツォたちは二人を見つける。キトリにガマーシュとの婚約を無理強いしようとするロレンツォに、バジルは 「キトリと結婚できないのなら自殺する」と狂言自殺を図る。義憤にかられたドン・キホーテは、ロレンツォに槍を突きつけて、バジルの最期の願いであるキトリとの結婚を認めるように迫る。ロレンツォが しぶしぶ了解すると、死んだふりをしていたバジルは飛び起きて、キトリと喜び合うのだった。
ドン・キホーテとサンチョ・パンサは森の中をさまよっている。ドン・キホーテは風車を巨人と見誤って突撃するが、回り始めた風車の羽根に引っかかり、地面にたたきつけられ気を失う。夢の中でドン・キホーテはドゥルシネア姫(キトリ)と出会う。一方、サンチョは狩りを楽しんでいた公爵夫妻に会い、気を失っている主人を助けてくれるように頼み込み、公爵たちはドン・キホーテを自分の館に招くことにする。公爵夫妻はサンチョ・パンサからキトリとバジルの恋物語を聞き、館で二人の結婚式をあげるよう取りはからう。結婚を祝って華やかな宴が繰り広げられ、キトリとバジルも喜びに満ちた踊りを披露する。

<公演概要>
令和2年度(第75回) 文化庁芸術祭主催公演 2020/2021 シーズン
バレエ「ドン・キホーテ」 Don Quixote
日程・会場:2020年10月23日〜11月1日 新国立劇場 オペラハウス
芸術監督:吉田 都
音楽:レオン・ミンクス
振付:マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴルスキー
改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ
美術・衣裳:ヴャチェスラフ・オークネフ
照明:梶 孝三
指揮:冨田実里
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
出演:新国立劇場バレエ団
主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場
上演予定時間:約2時間35分(休憩含む)

公式HP:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/
撮影:鹿摩隆司
取材・文:高 浩美