世界中で親しまれている『ピーターパン』の前日譚。
12月10日より新国立劇場・小劇場で公演中である。
手作り感いっぱいの温かみのあるセット、抽象的で、これが様々な表情を見せる。俳優陣がゆっくりと舞台に上がってきて、それぞれの役名、キャラの説明をしてくれるので、子供にも容易にわかるようになっている。この作品は幅広い世代が楽しめる内容、それだけにこういった配慮は嬉しい。
2つの船がポーツマスを出港した。一つは「ネバーランド号」、もう一つは「ワスプ号」。名前のない少年(入野自由)は、孤児院の院長に他の孤児2人とともに「ネバーランド号」に売られてしまう。この孤児2人も個性的で、一人はちょっと臆病なプレンティス(内田健司)、もう一人は太めのテッド(新名基浩)。そんな3人は、船内で一人の少女に出会う。名前はモリー(豊原江理佳)、闊達で聡明、勇気のある少女だ。売られたこと、モリーと出会ったことが彼らの運命を変えていく。
複数役を演じる俳優陣の役の切り替えが見事で、ここは見所。セットには随所に”四角い穴”があり、これが演出面で思わぬ威力を発揮する。俳優の出入りだけでなく、ここが様々なものに変化。最新テクノロジーは一切なし、頭を使いまくったアナログな演出がすこぶる面白く、「次はどういう風にするのかな?」と思わず期待してしまうほど。そして、『ピーターパン』といえば海賊!お宝を狙う海賊は、もう”お約束”。ボスである黒ひげ(櫻井章喜)と子分のスミー(宮崎吐夢)。このスミーがちょっと抜けてるのもわかりやすく、その挙動には笑わずにはいられない。2幕は幕前で、手作り感満載の人魚達が!歌って踊って!人魚といえば、上半身は”ヌード”。この扮装のチープ感がほのぼの。歌って踊って!そして豊原江理佳がタップを披露!さすがミュージカル『アニー』出身!そしてピーターたちはモラスク島に漂着、そこで待ち受けていた”冒険”は…。
この2幕ではなぜ、名前のない少年が”ピーターパン”になりえたのか、また、『ピーターパン』でおなじみのフック船長やお約束のキャラクターが、なぜ、彼らがそうなったのかが描かれていて興味深い。
1幕では、ごく普通の元気な少年だったのが、様々な試練に巻き込まれて”ピーターパン”になっていくさまを入野自由がナチュラルに表現。そして彼に多大なる影響を与えるモリーを演じる豊原江理佳は芸達者で、モリー以外では、2幕冒頭の人魚や島の原住民などを演じており、将来が楽しみ。ピーターの仲間の孤児2人、宮崎吐夢、櫻井章喜が存在感を示す。そしてのちの世界一有名な船長になる黒ひげ、小者感いっぱいのスミーのコミカルな味付けで、脳内で『ピーターパン』が蘇る。展開もスピーディ、ブロードウェイではプアシアターと呼ばれる手法がベース。プア(poor)、日本語ではよく”貧乏”と訳されている言葉だが、決して”貧乏”ということではない。多大なる金銭をかけずに俳優の身体をメインに創意工夫するメソッド、とでもいうのだろうか、それをベースにした演出。実験的な要素もあり、大掛かりな装置もなく、プロジェクション・マッピングのような最新映像もないが、これが作品世界観にマッチ。船が崩壊する場面は最新映像なら迫力満点になるところを、小さな船を手で真っ二つに!客席から温かい笑いが起こる。また2幕では俳優陣が植物の枝を持って!これが森の木々が風で揺れているようにも見えたり、あるいは島の住人が集団でやってくる場面では森から続々とやってくるようにも見えて、これはマジック。緻密に、しかも大胆に表現、かなり演劇的、小さめの劇場の空間にぴったり。新国立劇場では27日まで上演、その後、年明けに兵庫他で公演が予定されている。
<コメント>
[演出:ノゾエ征爾]
いやぁやばいです。間に合ってないです。ってそれはもちろん冗談ですが、まんざら冗談とも言い切れないくらい探索の尽きない作品です。そしてこの作品は特に、お客さんが最後のピースを担う要素が強いように感じます。次々と切り替わる風景を、生演奏と共に、気楽に楽しんでいただけたらと思います。皆さんと一緒に、ピーターの船の帆をあげていけましたら、それ以上の喜びはありません。
[主演:入野自由]
僕が演じる「少年」は、永遠の少年「ピーター・パン」になる男の子。特別な男の子のようですが、素朴で人間味のある子です。僕自身も、役者をやっている上で、自分の取り柄ってなんだろうと周りを見渡したときに、僕は普通だな、特別な人間じゃない気がすると感じ、引け目に思うことがあります。今回はそこを逆手に、自分自身がもつ素朴さや普通だと感じる部分が、ピーターと巧くリンクしたらいいなと思っています。
こどももおとなも楽しめる作品になるよう、必死にみんなで探りながら作ってきました。シンプルな舞台上でキャストが身体を使って表現する、演劇の魅力が詰まった舞台になっています。楽しみに観に来ていただければ嬉しいです。
[ものがたり]
ビクトリア朝時代の大英帝国。孤児の少年(のちのピーター・パン)は仲間とともに、卑劣な孤児院の院長により「ネバーランド号」に売られてしまう。船内で出会ったのは、好奇心旺盛な少女モリー。モリーは、父アスター卿と同じく「スターキャッチャー」として、世界制覇を企む奴らから、地球に落ちてきた星のかけら「スタースタッフ」の威力を遠ざける使命を帯びていた。宝がつまっているトランクを狙う黒ひげたち海賊は船に襲いかかり、少年とモリーたちはトランクとともに海中に放り出されてしまう。やがて不思議な島モラスク島にたどり着いた彼らには、更なる冒険が待ち受け、そして……。
<入野自由インタビュー記事>
《インタビュー》入野自由 ピーター・パンの前日譚 『ピーター&ザ・スターキャッチャー』@新国立劇場 コメント&稽古場映像も到着!
<公演情報>
タイトル:『ピーター&ザ・スターキャッチャー』
会場:
新国立劇場・小劇場
上演期間:
2020年12月10日(木)~27日(日)
プレビュー公演:12月5日(土)・6日(日)※終了
[地方公演]
2021年1月9日(土)、10日(日)14:00 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2021年1月13日(水)18:00 サンポートホール高松 大ホール
2021年1月17日(日)13:00 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2021年1月24日(日)13:00 北九州芸術劇場 中ホール
2021年1月30日(土)、31日(日)14:00 水戸芸術館 ACM劇場
作:リック・エリス
原作:デイヴ・バリー、リドリー・ピアスン
音楽:ウェイン・バーカー
翻訳:小宮山智津子
演出:ノゾエ征爾
出演:
入野自由 豊原江理佳 宮崎吐夢 櫻井章喜
竹若元博 玉置孝匡 新川將人 KENTARO
鈴木将一朗 内田健司 新名基浩 岡田 正
演奏:田中 馨 野村卓史
公演詳細:https://www.nntt.jac.go.jp/play/peter-and-the-starcatcher/
チケット:ボックスオフィス 03-5352-9999
Webボックスオフィス http://nntt.pia.jp/event.do?eventCd=2027067
撮影:宮川舞子
舞台写真提供:公益財団法人 新国立劇場運営財団
文:高 浩美