2020年、新型コロナウイルスの蔓延により、多くの舞台が中止や延期になってしまったが、この『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』も無論、例外ではない。当初は上演決定、日程未定と発表、それから2020年12月25日に日程が発表になった。公演は2月24日から演劇の街・下北沢にある東演パラータにて。
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の台詞を抜粋し、ソネット詩などの言葉も加え、大胆に再構築された本作は、“ロミオとジュリエット”という名前の老父婦を描く全く新しいラブ・ストーリー。夫婦として共に生き、年齢を重ねても変わらぬ愛の輝き中で、原作とは異なる“別れ”に二人は対峙する。脚本は、NTliveで日本公開もされた「リーマン・トリロージー」が評判のべン・パワー。09年にイギリスの名門ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーにて初演、開幕と同時に絶賛、世界各地で上演されている秀作だ。
今回の日本初演にあたり、シェイクスピア劇の全訳が完結間近の松岡和子によって既存訳の改変、調整が演出家・荒井遼とともに行われた。キャストには歌唱力で定評のある土居裕子と数多くの映画・ドラマ・舞台において確かな演技力で高い評価を得ている大森博史という最高の組み合わせが実現した。コロナ禍においてみっちり稽古を重ねてきた土居裕子・大森博史に出演の経緯や作品などについて語っていただいた。
――この作品の出演オファーがあったのはいつごろですか?
大森:今年の1月頃だったと思います。1月だとまだ感染症云々の話題は薄かったですね。
土居:私も、間違いなく今年だったと記憶しています。緊急事態宣言が出たころだったので、4月頃だったのではないでしょうか。
――舞台がバタバタと閉まっていったわけですけれど、その時はどうされていたのでしょうか?
大森:自粛期間は散歩と家事手伝いをひたすらしていた記憶があります。
土居:この際だからと、家でやりたかったことを同時に全部はじめたんです(笑)。まず、ギターを始めたし英会話をリモートで始めて……あとは、映画を観まくりました。(お芝居ができなくなったからこそ)この時間を利用しないでいつやるんだと思って(笑)。
大森:実は映画で元・ジャズピアニストの役をやらなくてはならなくなったので、ピアノを勉強しはじめたんです。でもコロナで仕事が全部なくなったものだから、時間をピアノの稽古に費やして、ある程度は弾けるようになりました。
――緊急事態宣言が解除になって、こちらの作品の稽古にも入って。台本を読んだうえでの、この作品の印象は?
土居:役柄はおじいさん、おばあさんですけれど、セリフは『ロミオとジュリエット』なんです。はじめ渡されたときは「なんじゃこりゃー」って思いました。ただでさえシェイクスピアのセリフって一文が長かったりして難解なのに、なおさらわけがわからない(笑)。なんでオファーを受けたのって思いかけたんですけれど、そのときマネージャーから「この構成を手掛けたベン・パワーの他の作品を観て、あまりに面白かったので間違いないと思いました」と話されて、グウの音も出なかったですね。そして、リモートで翻訳の松岡和子さんを交えて、大森さんや演出家の荒井さん、演出助手の絢ちゃんなどみんなでああでもないこうでもない、と話していくうちにどんどん削ぎ落とされたりわかりやすくなって、今の台本ができあがったんですよね。それはわりと時間のかかる作業だったし、もし公演日が1ヶ月後と決まっていたりするとそこまで突っ込めなかったなと思うと、このご時世のおかげで台本を熟解読することができたのかなと感じています。
大森:僕ははじめに荒井さんが『ロミオとジュリエット』のテキストを変えずに組み替えたシチュエーションで、老夫婦がしゃべるというのを聞いただけで飛びついちゃったんです。やっぱりシェイクスピア、好きなので。結構一つひとつの言葉がズキンと響くんですよ。その言葉をうまく使った上で発想するというのはすごいなと思いました。実際読んでみたら、結構わかりにくかったんですよね。シチュエーションもイメージで綴られている感じがあったので、最初はかなり戸惑いました。でもやっぱりベン・パワーという人がすごいんだなと、「リーマン・トリロジー」という映画があるんですが、それを観たときに実に素晴らしい作品だったんです。だんだん読みながら「きちんと考えて、思いながら構築しているんだ」と把握できて。本来なら。9月に公演予定を立てていたんですが、それが結局コロナで延期になってしまった。延期にはなったけれどテキストを僕らが納得行くまで読もうというのを目標にかかげて、一つひとつ進めていけたのはよかったと思います。だいぶ作品を僕らなりに理解できるものだと思えたから。
――いわゆるジュークボックス・ミュージカルならまだしも、既存のセリフをバラバラにして違う作品にしてしまう構成が面白いですよね。
大森:それが実際によく読んでみるとかなり詳しい人でないとやる気になれないくらいの難しさと面白さを感じます。例えばロミオが喋っていた部分をジュリエットが喋ったりして全然逆になっていたりして、それでいて一つのことを語っている作品になっているので面白いなと思います。
――出てくる登場人物2名が老夫婦というのもポイントですよね。
大森:そもそも、『ロミオとジュリエット』が若い青年と少女の物語。それを老年の男女にやらせるという発想はまず思いつかないですよね。
土居:『ロミオとジュリエット』って中学生と高校生くらいの年齢なんですよね。悲劇的なことがなければさっさと別れているかもしれません(笑)。
大森:シチュエーションはだんだん病気になっていったり、介護していたりしながら『ロミオとジュリエット』の言葉が乗るというのが面白いんですよ。人に対する想いというのは年齢で変わりがないということを知られた作品でもあります。
土居:やっぱり、人って誰かと関わり合ってこそ何かを生み出すものですから、それをずっと関わり合ってぶつかったり並行して進んだり。いちばん密な二人が究極的にどこへ行くのかというストーリーなので、すべての年代どころか人間に相通ずるものがあるのではないかと。ある意味普遍的なストーリーだと思います。
――私は歌舞伎『ぢいさんばあさん』を思い出しました。あれも長年連れ添ってきた夫婦の様子がいい感じで。
土居:でも、喋れる、会話ができることって素敵なことだなって。会話を通してラブストーリーを、何十年も話しながら恋心を更新しつづけられる。なんて素敵な恋愛なのって思います。生きられる時間が限られている老夫婦だからこそ言葉の真実味が出てくるかなって。
大森:老夫婦というところはそこがポイントですよね。だから、そんな話でいながらも驚いてもらえるような、そんな作品に仕上げていきたいですね。
――それでは、最後にメッセージを。
大森:タイトルが『テンダーシング』……やさしいモノ。「テンダー」は特定した何かではないんですが、そういうものがこの中にあるので、それが伝わるといいなと思います。ぜひ観に来ていただければ。
土居:私、シェイクスピアを未だに演ったことがないんです。でも、そんな人間でもシェイクスピアのセリフがもつ惹きつけるチカラを感じるので。知識がなかったとしても気軽に楽しんでいただければいいなと思います。暖かい何かが生まれるはずなので。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<『テンダーシング-ロミオとジュリエットより-』 公演概要>
日程・会場: 2021年2月24日(水)〜28(日)全9回公演 東演パラータ (最寄駅 下北沢)
作:ベン・パワー
翻訳監修:松岡和子
演出:荒井 遼
出演:土居裕子 大森博史
☆アフタートークあり
25(木)18時: 深作健太(映画監督・演出家)×荒井遼
26(金)18時: 土居裕子×大森博史
[トークショー「ロミオとジュリエット」をめぐって]
25(木)15時〜16時30分 登壇者:松岡和子、河合祥一郎(東京大学教授)
チケット料金:¥1500
(「テンダーシング」公演の予約か半券提示で500円キャッシュバック)
[チケット料金]
一般 ¥5800
U−35 ¥5000 (観劇日35歳以下対象)
U−25 ¥3500 (観劇日25歳以下対象)
※U−35、U−25共に枚数制限あり、要身分証明書、こりっち のみ扱い
トークショー ¥1500
一般発売:2021年1月17日より発売中。
[チケット取り扱い]
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企画・製作:幻都
取材:高 浩美
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構成協力:佐藤たかし