山本一慶,橋本真一,井上希美 出演!ミュージカル・コメディ『ラヴ』プチ不幸な大人3人、愛はどこへ?

ミュージカル・コメディ『ラヴ』が開幕した。この作品は、もともとは、ブロードウェイで上演されたストレートプレイで、1964年の初演から3年のロングランを記録。これをミュージカル化し、オフ・ブロードウェイで上演されたものが本作品。1994年には、このミュージカルが西城秀樹×市村正親×鳳蘭の顔合わせで上演された。当時の音楽監督は宮川彬良。今回の演出は宮川安利、音楽監督・ピアノ演奏は宮川知子、宮川彬良のご息女。1994年当時プロデューサーであった笹部博司を監修に迎えての上演。そしてミルト役に山本一慶、その妻・エレンに井上希美、ミルトの親友・ハリーに橋本真一という顔ぶれ。
舞台は橋の上、ピアノが一台、橋はモノトーンのシックな色合い。くたびれて薄汚れたコートを着た男がよろよろと登場。橋をみて思わず身を乗り出すもちょっと思いとどまる。絶望のどん底に落ちたという風情なのに、ピアノの旋律が全く深刻さがなく、どこかコミカルな印象もある。男の名前はハリー(橋本)、オープニングの歌、そこへ品の良い値段の高そうなスーツを着た男が通りかかる、ハリーに気がつく、男の名はミルト(山本)、「そうだ、君だ」、ミルトは気がつく、身投げしようとしている男が友人のハリーであることを。ハリーは言う「誰?」「俺だよ」とミルト。思わぬ再会、ご機嫌な曲調のナンバー。

とにかくテンポがいい、ミュージカルナンバーで状況や心情を畳み掛けるように提示、物語はスピーディに進んでいく。ハリーは「この世は不条理だ」と嘆く。ハリーとは正反対なミルト、エリートサラリーマン、勝ち組、一方のハリーは負け組、同級生だったのに今や、正反対な境遇。久しぶりに再会したのに、なぜか”不幸自慢”。ここはちょっと笑えるところ。同級生で親友のはずなのに、そんな自慢をしてどうする?!と観客はニヤニヤするシーンだ。ミルトは妻がいるにもかかわらず、愛人がいる。写真をみてはニヤけている。しかし、妻は別れてくれない、地獄だと嘆く。しかし、案外図太いミルト、妻をハリーに押し付けることを思いつく。そんなミルト、スーツの裏地がいかにも、な派手さ、ミルトのキャラクターが透けて見えてくるよう。そこへ妻のエレンがやってくる。

夫にあるグラフを見せつける。夫婦生活をグラフ化、エレンは「私の人生は出口なしのどん詰まり」「良妻賢母が夢なの」と言う。これらをミュージカルナンバーでトントンと進行させる。
そして2幕はその出会いから1年後から。雑踏の音、黒いドレス姿のエレン、そこへミルトがやってくる。この2人、今の自分の状況を語るのだが、客席からみていると、きっといつまでたってもこんな2人なんだろうなということがうっすらと見えてくる。

ミルト、ハリー、エレン、自分がいかに不幸かをアピールする。3人とも次から次へとあれやこれやと言い続ける。観客は気がつく、彼らはずっと”愛が欲しい”と言い続けるんだろうな、と。たとえ愛が身近にあったとしても気がつかない、気がつけない3人。それでも愛を求める、それは一種の自分探しにも見える。自分よりも不幸な人間は断固として認めない。要するに困った人たちであるが、なぜか愛おしくも感じる。他人の不幸は蜜の味ではないが、彼らが「愛がない、愛が欲しい」と大げさに叫べば叫ぶほど、笑ってしまう。ふと見渡すと巷には、そこまでではなくても、似た光景があったりする。副題は”不幸せな大人のためのミュージカル・コメディ”とある。ちょっとシニカルで、そしてじわじわと、そのダークな笑いが観客の心に充満する。濃密でテンポ感の良い作品であるが、たった3人で紡いでいくので、歌、芝居の力量が問われるが、フレッシュで等身大、歌唱は井上希美はさすがの劇団四季出身の歌声を惜しみなく披露、男性陣も歌の訓練を相当積んだと見えて、安定感のある歌声。セリフもリズムよく、ぽんぽんと小気味好く!配役も適材適所、コミカルな芝居が、笑いを誘う。そしてピアノの生演奏、多彩な楽曲、オフブロードウェイ作品らしく、小ぶりの劇場にフィットする。
プチ不幸な大人の顛末、そこは劇場で!

なお、ゲネプロ前に簡単な舞台挨拶があった。

「ミュージカル・コメディということで、全員、ぶっ飛んでます!濃いキャラクター楽しんでいただけたら」(山本一慶)
「変な3人、三者三様の愛の形、難しく考えないで観ていただければ」(橋本真一)
「とっても人間らしい3人がわさわさと…あっという間の2時間です。ミュージカル・コメディですが、この中のメッセージが届けられたら」(井上希美)
「奇跡と言える素晴らしい役者、素晴らしいスタッフのおかげです。とても面白いステージになっています」(宮川安利)
「喜怒哀楽を舞台上で、ちょっとお笑いで」(宮川知子)
最後に山本一慶、
「愛する人のことを思う、人それぞれに思いがある、愛とはなんだろうと考えていただければ。コメディなので、何も考えずに笑って頂けると思います」

<物語>
舞台は常に橋の上。ハリー(橋本)はボサボサでヨレヨレの浮浪者で、まさに橋から身を投げようとしていた。そこにやって来たのはエリートサラリーマンのミルト(山本)。彼はくず籠に顔を突っ込み古物あさりを始めた。実は2人は大学時代の親友同士、橋の上の衝撃的な再会で幕を開ける。
キーワードは『愛』。
ミルトはハリーに言う、『君の人生には愛がないから不幸なんだ』と。
実はミルト、不倫の愛を現在進行中で妻と離婚できないかと画策中だった。
ミルトはハリーに自分の妻を押し付けることを思いつく。 そこに妻・エレン(井上)が登場、ハリーとの愛のない生活を問い詰めるのだった。
かくして役者は揃い、現代人の絶望が、愛の不毛が、悲運と空虚が、徹底的なファルスの材料として利用され、抱腹絶倒の悲劇が展開する。

<ミュージカル・コメディ『ラヴ』概要>
日程・会場:2021年3月24日〜28日 六行会ホール
マレー・シスガル作「LUV」より
台本:ジェフェリー・スウィート
作詞:ハワード・マーレン
演出:宮川安利
音楽監督・ピアノ演奏:宮川知子
監修:笹部博司
製作:アーティストジャパン
公式HP: https://artistjapan.co.jp/performance/luv/