NISSAY OPERA 2021 『ラ・ボエーム』心揺さぶられるオペラ

NISSAY OPERA 2021 『ラ・ボエーム』が、2021年6月12、13日に上演されるが、2017年初演の名舞台を新たな視点から再構築とのこと。

『ラ・ボエーム』(La Bohème)は、ジャコモ・プッチーニの作曲した4幕オペラ、最もよく演奏されるイタリアオペラのひとつで、初演は1896年2月1日、アルトゥーロ・トスカニーニの指揮によりトリノ・レージョ劇場で行われた。批評家の不評はあったものの各地での再演の度に聴衆からの人気は次第に高まっていった作品。物語はアンリ・ミュルジェールの小説・戯曲『ボヘミアン生活の情景』(1849年)から、台本はジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イッリカのコンビ。ボエームとはボヘミアンのフランス語で、自由に生きることに憧れた19世紀パリの芸術家の卵たちを指している。

舞台の中央に横になれる椅子、そこに横たわっているミミ。場所は屋根裏部屋。季節は真冬、クリスマス・イヴ。寒さに震える男性2人、一人は詩人のロドルフォ、もう一人は画家のマルチェッロ。寒いので暖をとろうにも、暖炉に火の気はない。そこへもう一人やってくる、哲学家のコッリーネも戻ってくる、ロドルフォは自分の原稿を燃やし、3人は暖をとる。この公演、原語上演ではなく、日本語。オペラ初心者にもわかりやすく、しかも字幕も出る。実はこの時点にはミミはまだ、登場しないのだが、舞台上にはミミを演じる歌手がいる。だが、遠巻きに見守っている雰囲気。原稿を燃やすも紙なのですぐに無くなってしまい、相変わらず、寒い。絶妙のタイミングで音楽家のショナールが薪とワインと食べ物を持って入ってきた。ショナールはどうやってお金をゲットしたかを得意げに話すも誰もまともに聞かない。行きつけのカフェに繰り出そうとしたら、家主がきて家賃の催促。家主にワインを振る舞い、タガが外れてしまった家主は自分の浮気話を口にしてしまい、彼らはていよく家主を追い出し、カフェへ向かうも、ロドルフォは乗り気ではなく、一人残ることに。そこへミミが来て灯りが欲しいというも、具合が悪く、その場で倒れてしまう。灯りをもらって立ち去るも倒れた時に鍵を落としたといい、探すも灯りが消えてしまい、部屋は真っ暗。ふとしたことで手と手が触れあい、恋愛感情が生まれる、というのがだいたいの流れ。

芸術家たちの日常、貧しいながらも友情もあり、その日を懸命に生きている。セットは一つで大掛かりな舞台転換はなく、バックの映像で「屋根裏部屋」「街」などを見せるので、わかりにくいということはない。また、パリの街の賑わいのシーンは本来なら、大勢の人々が行き交うのだろうが、今の状況では、そのような見せ方は難しい。今回は、部屋の中から外の賑わいを感じるような演出になっていた。物売りたちが市場へ向かうシーンはパペットを用いてユーモラスに表現、なんとも可愛らしい。ストーリー自体は原作通りに進行するので、このオペラを知っている観客は結末も先刻承知。

このオペラは初演から100年以上経過しているが、普遍的な内容、出てくる人々は皆、市井の人々。裕福ではなく、背伸びすることなく、等身大で生きている。友人同士、からかったり、また、強がりを言ってみたり、プチ自慢したり、である。暖をとるのに、詩人と画家、詩人は画家に油絵を燃やしたら臭いというくだりは「確かに!」と思ってしまう。また、楽曲や構成の巧みさで、物語の世界に観客をいとも易々と引き込んでいく。こう言った要素があるから、100年以上経っても時代設定などを特に変えたりせずに上演され続けているのだろう。テンポ感の良い音楽、そして会話から彼らの心理状況が読み取れる、しかもストレートプレイではなく、オペラ、言葉が音楽に乗って観客の心に響く。また、もう一組のカップルであるマルチェッロとムゼッタにも注目。そして最後のミミの死、ミミはいつの間にかこと切れていた。看取り損なった恋人のロドルフォが叫ぶ、悲痛な周囲の人々、で幕切れとなるが、時代劇などでは死ぬ間際に最後の言葉を渾身の力を振りしぼって語り、こうべを垂れる、みたいなシーンをよく見かけるが、この作品はそうではなく、周囲の人々はミミは最初は寝ているのかと思い、ふと気がつくとミミが息をしてないことに気がつき、ハッとする。時間は無情にも過ぎていく。パリに住む裕福でもなく、地位があるわけでもない人々のありふれた光景であるが、そこには深い生きる意味がある。楽曲の素晴らしさ、テンポ感のみならず、キャストの歌声で心揺さぶられる。細かいことを言えばきりがないが、最初の灯りが消えてしまったくだりは、ここではわざとロドルフォが灯りを吹き消し、先に鍵を見つけるも隠し、ミミに近寄る。トレンディ・ドラマっぽい“あるある”な展開、そこで有名な曲「冷たい手を」「私の名前はミミ」、”皆は私のことをミミと呼ぶけれど、本名はルチア”と歌う。そして1幕の幕切れの二重唱は聴かせる。またライトモチーフの使い方も効果的。ストーリーだけでなく、オペラとしても完成度の高い「ラ・ボエーム」。世界中で繰り返し上演されているのも頷けるであろう。

<概要>
NISSAY OPERA 2021 『ラ・ボエーム』
日程・会場:2021年6月12日、13日 各日14:00開演(開場は開演の30分前)
全4幕(宮本益光訳詞による日本語上演・日本語字幕付)
約2時間10分(休憩含む)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ、ルイージ・イッリカ
作曲:ジャコモ・プッチーニ
指揮  園田 隆一郎
演出 伊香 修吾
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
公演詳細はこちら:https://opera.nissaytheatre.or.jp/info/2021_info/la-boheme/
劇場公式HP:https://www.nissaytheatre.or.jp/schedule/boheme2021/
主催・制作・企画:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]
協賛:日本生命保険相互会社
撮影:三枝近志
取材:高 浩美