『ル・シッド』はスペインの中世の騎士、エル・シドを題材とした過激なバトル恋愛ドラマ。このエル・シドが伝説的英雄と語り継がれる以前の物語、劇作家ピエール・コルネイユ作の悲喜劇、フランスでは1637年に初演され大ヒット、エル・シッドの伝説を基にした作品。当時演劇を鑑賞しなかった女給やお針子にいたるまでが大挙して劇場に押し寄せ 「ル・シッド事件」とまで呼ばれるほど社会現象になった。エル・シッド(El Cid)は、11世紀後半のレコンキスタで活躍したカスティーリャ王国の貴族。また、『ル・シッド』を題材としてオペラ『ル・シッド』(ジュール・マスネ作曲)にもなっているが、配役の難しさで上演機会は少ない。
そして、今夏、演劇史上最も観客に愛されたお芝居がよみがえる。 出演は、亜聖樹、井上希美、宇月颯、旺なつき、小川絵莉、如月蓮、貴澄隼人、十碧れいや、舞羽美海、 麻央侑希(50音順)、オールフィメール(全員女性キャスト)に加え、TAKAのピアノ生演奏を重ねスタイリッシュなロマンス活劇として華やかに!
今回の舞台『ル・シッド』、カスティーユ国の王女役の宇月颯さん、ドン・ロドリグ役の十碧れいやさん、ドン・サンシュ役の麻央侑希さんのトークが実現した。
――今回の『ル・シッド』、台本を読んでの感想は?
十碧:第一印象はセリフが長い!ということ。「この長ゼリフで言い合うの!?」と思いましたね。
麻央:正直、やったことのないジャンルなので、「私にできるかな?」と思って。そこがすごく大きかったです。
宇月:最初はひたすら「すごいなぁ」と思って読んでいたんですけど、読み進めていくうちに言葉の多さにびっくり。
十碧:一度読んだだけだと、全て理解するのは難しいですよね。
宇月:そうそう、だからすぐもう一度読まないと、と思いました。
――人間関係がなかなかドロドロとしている内容だと思いました。それでは、稽古はどんな感じで?
十碧:まだ始まったばかり(7月上旬)なのですが、内容が濃いので、もう1、2週間やっている感覚ですね。今まで自分が経験してきたお芝居と全然違っていて、演出の笹部さんから出てくる言葉も目からウロコというか。私の今までの常識を覆すようなものでした。でも、言っていただいたことをやってみるとお芝居がガラリと変わって、毎回毎回お稽古で発見があるんです。なので、笹部さんの演出のおかげで自分にも新しいものが拓ける予感がしますし、きっと素晴らしい舞台になっているのではないかと思って、すごくわくわくしています。
宇月:このストーリー、役の心情などはお稽古しているうちに理解をしながら重ねていくんですけど、フランスの古典劇ということもあって笹部さんの演劇スタイルというか、ひとつの役の表現の仕方、声の出し方などお芝居そのものの概念を覆されているような気がしていて。役作り以前に「お芝居とは!」ということを問われている気がします。この役を表現する、物語の中で生きる、という部分の感覚が新鮮で。この作品だからこそ、笹部さんの演出だからこそ感じられるのかもしれないですし、王女という役がそもそも私にとって挑戦でもあります。
麻央:すごい人間ドラマだなと感じました。昼ドラみたいにドロドロだし、男どうしの争いなんか現代でもありそうな感じ。嫉妬したり、口喧嘩をしたり……。台本を見た時点では「自分とはかけ離れた世界かな」と思っていたんです。でも意外と、人間がそもそも持っていた感情、愛情だったり憎しみだったり。スペインを舞台にした作品ですけれど、そういうところが描かれているのに、とても人間らしさを感じました。
――フランスの古典劇ではあるものの、現代に置き換えても考えられるストーリーなんですね。
麻央:台本を読んでいる間も、もしいまだったらどんな感じなのかな、と考えたりしますね。
宇月:現代では、誇りや身分というものを物語の人物たちほど気にすることがない分、個人のこだわりや大事にしているものに置き換えることはできそうですね。
麻央:学歴とかちょっとしたコンプレックスも、当てはまるかもしれない。
十碧:でも、この時代だからこそここまで名誉を重んじたりとか、愛に生きたりとかできるのかなとも思えますね。今だったら、そこまで命をかけるのは難しいんじゃないかなって……。
――ちなみに、配役は小川さんと井上さんを除いて、全員が宝塚歌劇団のご出身。やはりお稽古場でも意識したりしている?
麻央:もちろん、緊張はしているんですけれど、学年も違いますし……。でも、宝塚歌劇団時代に得たものを共有しているから、その分受け入れられるというか、恥ずかしげもなく出せる部分がありますね。
十碧:自然体でいられますよね。
麻央:きっと、他のキャリアがある人が大半だったとしたら最初からもっと鎧というか、壁みたいなものを作っていたかもしれないです。麻央侑希という人物を知っている方が多いというのはそれだけ心強いのかも。
十碧:小川さんは私のお父様役なんですけれど、すごくエネルギーのある方なので、たくさんの刺激を頂いています。私もその熱量に負けないようにと思っています。
宇月:井上さんは、男性の役も女性の役もやられているから大変だなと思います。それぞれ全然違う役割を担っているから。今回、みんな一人ひとりが己との戦いで。セリフや感情はもちろん違うんですが、全員が同じ課題を持っている。笹部さんの演出についていくのに必死なのはみんな同じだから、一体感みたいなものを感じますね。
十碧:それを気にせず集中できるのも、宝塚歌劇団出身の方が多いからというのがありますね。例えば、初めての俳優さんとかだったらかなり気を遣うであろうところが少ない。
宇月:「どういう方なのだろう?」というのがないので、初めから信頼感があるのはありがたいです。
――宝塚といえば、大先輩の旺なつきさんもいらっしゃいますね。
麻央:すごく存在感があるんです。
宇月:でもすごくフランクに私達のところまで「降りて」お話してくださるんです。なので、かしこまりすぎるということもなくて。とても素敵な方です。
――最後にメッセージを。
十碧:フランスの古典劇ときくと、すごくカタいのかなという印象を抱くかもしれませんが、観ていただいたら案外スカッとするかもしれません。みんながみんな、これでもかというほど想いをぶつけ合うんですね。演じている私でさえも「ここまでできるの!?」と感じるくらいですし。なので、お迷いなのでしたら、ぜひスカッとしに、劇場に観にきていただければと思います。
麻央:一緒に時を過ごしてきたメンバーの方もたくさんいらっしゃるんですけれど、またちょっと新しい面を見られることも面白いです。本当に登場人物の関係性がドロドロしていて(笑)。でも彼らの行く末、着地点がちゃんとしているお芝居なので、人間ドラマを皆さんと共感し合いたいなと思います。ぜひ、観に来てください!
宇月:この作品って、観てくださったお客様が如何様にも感じ取っていただける部分があるんですね。私達の演じ方もすごくシンプル。台本の言葉を大事に伝えるようにしているんです。それは観ていただいた方だからこそわかる感覚だと思います。お客様がこれを観てどう思うのか、ということが私たちもすごく気になるので、ぜひ一緒に体感していただければうれしいです。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
<あらすじ>
ドン・ロドリグ【十碧れいや】はシメーヌ【舞羽美海】という娘に恋をしている。
しかしロドリグの父ドン・ディエーダ【小川絵莉】は、シメーヌの父ドン・ゴメス【井上希美】と政治のことで争い、手ひどい侮辱を受けてしまい、その復讐を息子に迫る。
ロドリグは恋人の父に決闘を申し入れ、戦いの末、殺してしまう。 シメーヌはロドリグを激しく愛しながらも、子として父親の敵を討たねばならぬと苦しみ、カスティーユの国王【旺なつき】の許へと出向き、父を手にかけたロドリグの死刑を願いでる。 そんな時、シメーヌに恋をしているドン・サンシュ【麻央侑希】が、ロドリグとの決闘をシメーヌに申し出る。 一方、カスティーユの王女【宇月 颯】も、ロドリグに恋をしているが、身分が違うので諦めており、自身の恋心をシメーヌに託していた。 しかし二人の恋の破綻を見て揺れ動くのを侍女レオノール【井上希美(二役)】は見透かし、王女を焚きつける。 ロドリグは男らしく、裁きを受けにシメーヌの許に向かう。
シメーヌの侍女エルヴィール【如月 蓮】は、時節を待つようにとロドリグを追い返し、「男なんて女の嘆きを作るばかり」とつぶやきつつも、シメーヌに恋心を焚きつける。
この芝居の登場人物たちは、誰も妥協をせず自分の誇りを曲げず、なおかつ絶対的な恋の炎に身を焼いている ―― さて、この入り組んだ恋の行方は…
<概要>
舞台『ル・シッド』
作: ピエール・コルネイユ
上演台本・演出: 笹部博司(米村晰 訳より)
公演: 2021年7月21日〜25日
会場: 池袋・あうるすぽっと
観劇料: S 席 8,800 円 A 席 6,600 円 (税込・全席指定)
出演: 亜聖樹、井上希美、宇月颯、旺なつき、小川絵莉、如月蓮、貴澄隼人、十碧れいや、舞羽美海、麻央侑希 (50 音順)
音楽・ピアノ演奏: TAKA
企画・製作: 有限会社アーティストジャパン
公式HP: https://artistjapan.co.jp/performance/le_cid/
構成協力:佐藤たかし
撮影:金丸雅代
取材:高 浩美