舞台『ル・シッド』この命は貴女のもの、恋と名誉とプライドと。

スペインの中世の騎士、エル・シドを題材とした過激なバトル恋愛ドラマ、舞台『ル・シッド』が開幕した。
初日に先駆けて公開舞台稽古が行われた。

舞台はいたってシンプル、また、衣裳もシックで現代的、いわゆる、バリバリのその時代っぽい衣裳ではない。ピアノが一台、まずは音楽・ピアノ演奏のTAKAがピアノを弾く、最初は進行役のさえずりパノフ(貴澄隼人)とさえずりアリス(亜聖樹)が登場する。”さえずり”小鳥がさえずるかのように可愛らしく、ちょっとおどけた感じ、物語は”バトル恋愛ドラマ”と銘打っているだけに、この二人の軽いノリが丁度良い。

最初に、この物語の主軸となる恋愛関係や敵対関係が出てくるので、物語をよく知らなくても大丈夫。ドン・ロドリグ(十碧れいや)はシメーヌ(舞羽美海)を愛しており、シメーヌもロドリクを愛している、いわゆる相思相愛。だが、それぞれの父親同士は仲が悪い。ロドリグの父ドン・ディエーダ(小川絵莉)は、シメーヌの父ドン・ゴメス(井上希美)と政治のことで争い、あっと思う間もなく、決定的な瞬間が!ドン・ディエーダはドン・ゴメスから屈辱的な一撃を喰らう。頭に血が上ってヒートアアップ、ドン・ディエーダは息子のロドリグに復讐を委ねる、「わしの仇を取れ!」、ロドリグは客観的に見ても良い息子、しかし相手はシメーヌの父、だが父の要望通り、父の名誉を重んじ、恋人の父を!!


この物語、しょっぱなから大事件が起こり、そこから登場人物たちが苦悩する。この作品が発表されたのは1637年、日本は江戸時代。恋愛に不自由で、名誉や地位、置かれた立場、家を重んじる時代。彼らは、そういったものに絡め取られつつも、自分のプライドを大事にし、懸命に生きる。そして、この作品の真骨頂は、避けられない地位や立場、状況に翻弄されつつも、モノローグでは時々、心の奥底の感情を吐露する。

例えば、カスティーユの王女(宇月颯)はロドリクに恋愛感情を抱いているが、王女の立場なら、夫となる人物はどこかの国の王子など自分の置かれた身分にふさわしい釣り合いの取れた相手としか結婚はできない。つまり、ロドリクとは一緒にはなれないのだが、シメーヌとロドリクがその”大事件”でうまくいくはずがない状況を「喜び」と言ってしまう。また、ロドリクは、この絶望的な状況下でもシメーヌへの深い愛を吐露、「私は憎しみに焼く尽くされたい」と叫ぶ。そんな中、侍女たちは傍観者的立場、王女の侍女レオノール(井上希美(二役))は王女の心情を見透かし、焚きつける。

シメーヌの侍女エルヴィール(如月蓮)もまた、時節を待つようにとロドリグを追い返し、「男なんて女の嘆きを作るばかり」とつぶやきつつ、シメーヌの恋心をさらに!この絡み合った感情、それぞれのポジション、カスティーユの国王(旺なつき)、自国を守らなくてはならない立場、またシメーヌは国王にロドリクの死刑を願い出るが…シメーヌはもちろん、ロドリクも国王にとっては大切な人物、いや軽んじていい人物などは当然いない。国王はどう対処するのか…これをどう収拾するのか、これが、なかなか鮮やか。そこは劇場で!


ストーリーの面白さ、展開もさることながら、登場人物たちが放つセリフが、観客の心に刺さる。全力でその瞬間を生きる、心の中を語り、悩みながらも前へ進む。初演時大ヒットしたという逸話が残っているが、観客の、とりわけ女性客の心を鷲掴みした、というのもよくわかる。最後は落ち着くところに落ち着いて、絶望的悲劇から!また、配役の妙というのだろうか、国王演じる旺なつきの堂々たる佇まい、小川絵莉の熱く、プライドの高いドン・ディエーダ、そして、十碧れいや、また、シメーヌに片思いのドン・サンシュ(麻央侑希)、さすがなかっこよさ。愛と名誉に苦悩するシメーヌ演じる舞羽美海の可憐さと愛の深さ。また、井上希美が真逆な二役を!ここは注目。


2幕物、後半の怒涛の展開、感動のラスト、キャッチフレーズは”ハッピーエンドの幕切れの悲劇”時を超えての物語、ピアノ演奏が過剰にならずに登場人物の心情を彩る。公演は25日まで。

<コメント>
▼舞羽美海
本日は、御来場頂きまして誠にありがとうございます。劇場へ足をお運び下さり感謝の気持ちでいっぱいです。
お稽古が出来る事、お芝居が出来る喜びを毎日感じております。
初日を迎える事でとても緊張していますが、愛と誇りと名誉の為に生きるシメーヌの人生を、共に生きたいと思います。
日本初演です。皆様に愛され、心に残る公演となる様に、精一杯務めさせて頂きます。
本当に素敵な座組で、最高のスタッフさん達と創るル・シッドの世界観を楽しんで頂けましたら幸いでございます。そして、エンターテインメントのパワーが少しでも皆様のお力になれます様に。

▼宇月颯
このような時期に、こうして初日を迎えられたこと、お客様に観ていただけたことがとても嬉しく、有難い事だなと強く思います。
この作品を観てくださったお客様がどのように感じられたのか、とても気になるところです!!
千秋楽まで出演者全員で駆け抜けたいと思います。
笹部さん演出の元、誰も妥協しない恋愛バトル「ル・シッド」をどうかよろしくお願い致します。
安全にお客様に観て頂けるよう、私達もしっかり対策をして、お待ちしております。

▼十碧れいや
お客様にお届けしたい!という一心で、お稽古して参りましたので、無事に初日の幕が開き、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
登場人物たちの真っ直ぐな魂と魂のぶつかり合いを、日常を忘れて心の底から楽しんで見て頂ける作品に仕上がっていると思います。見て下さったお客様がどう感じてくださるか、その感想をお聞きするのもとても楽しみです!
また、シーンに合わせたピアノの音色が、その場面の情景を素敵に描きだしてくださっていて、何重にも楽しめると思いますので、是非見に来て頂きたいです!
千穐楽まで常に新鮮に、真摯に作品と役に向き合い、皆様の心へお届けしたいと思います!

<インタビュー記事>
https://theatertainment.jp/translated-drama/83589/

<あらすじ>
ドン・ロドリグ【十碧れいや】はシメーヌ【舞羽美海】という娘に恋をしている。
しかしロドリグの父ドン・ディエーダ【小川絵莉】は、シメーヌの父ドン・ゴメス【井上希美】と政治のことで争い、手ひどい侮辱を受けてしまい、その復讐を息子に迫る。
ロドリグは恋人の父に決闘を申し入れ、戦いの末、殺してしまう。 シメーヌはロドリグを激しく愛しながらも、子として父親の敵を討たねばならぬと苦しみ、カスティーユの国王【旺なつき】の許へと出向き、父を手にかけたロドリグの死刑を願いでる。 そんな時、シメーヌに恋をしているドン・サンシュ【麻央侑希】が、ロドリグとの決闘をシメーヌに申し出る。 一方、カスティーユの王女【宇月 颯】も、ロドリグに恋をしているが、身分が違うので諦めており、自身の恋心をシメーヌに託していた。 しかし二人の恋の破綻を見て揺れ動くのを侍女レオノール【井上希美(二役)】は見透かし、王女を焚きつける。 ロドリグは男らしく、裁きを受けにシメーヌの許に向かう。
シメーヌの侍女エルヴィール【如月 蓮】は、時節を待つようにとロドリグを追い返し、「男なんて女の嘆きを作るばかり」とつぶやきつつも、シメーヌに恋心を焚きつける。
この芝居の登場人物たちは、誰も妥協をせず自分の誇りを曲げず、なおかつ絶対的な恋の炎に身を焼いている ―― さて、この入り組んだ恋の行方は…

<概要>
舞台『ル・シッド』
作: ピエール・コルネイユ
上演台本・演出: 笹部博司(米村晰 訳より)
公演: 2021年7月21日〜25日
会場: 池袋・あうるすぽっと
出演: 亜聖樹、井上希美、宇月颯、旺なつき、小川絵莉、如月蓮、貴澄隼人、十碧れいや、舞羽美海、麻央侑希 (50 音順)
音楽・ピアノ演奏: TAKA
企画・製作: 有限会社アーティストジャパン

公式HP: https://artistjapan.co.jp/performance/le_cid/

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