加藤健一事務所 vol.110 SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~ なんとしてもこのピンチを!借金まみれのプロデューサー、さあ、どうする?!

加藤健一事務所 vol.110 SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~が好評上演中だ。

70年前に書かれたジョン・マーレイ、アレン・ボレッツの典型的なドタバタ喜劇。
追い出しをはかるホテルと、一発逆転をねらう役者たちの攻防戦、底抜けの楽天主義で世の中の鬱屈を吹き飛ばす痛快喜劇。

物語の舞台はホテルの一室、場所はここから移動しない。この部屋には演劇プロデューサーのゴードン・ミラー(加藤健一)が宿泊している、というよりほぼ住んでいる。そこへウエイターがやってくる。ところが、どう見てもウエイターなのだが、実はウエイターを演じている役者。この設定に客席から笑いが起こる。ウエイターが立ち去り(立ち去ったのがポイント)、ホテルの支配人がやってきてツケの話をする。ホテル側からしてみれば、未払いのまま、居座られても、しかも劇団員がツケで飲み食い!支配人と入れ替わりに演出家、制作助手がやってきて、さらに作家もやってくる、皆、ミラーが頼り。だが、そんなに頼られても困るミラー、逃げることを考えるが…。内心は芝居を打ちたい、上演できれば借金もどうにかなる、なるはずだが、金がない、スポンサーさえいれば!だが、そううまくいくはずもなく、というのがだいたいの流れ。


伏線が緻密に張り巡らされ、また、細かい笑いが多く、客席からは笑い声が絶えない。例えば、新人作家(千葉健玖)がミラーを頼ってやってくるが、まさか借金まみれとはつゆ知らず、部屋から母親へ電話をかける、それが長距離!ミラーは思わず「?!」な表情をする。また、借金が回収できない支配人に向かって高圧的な態度をとる重役を演じる新井康弘、加藤健一事務所出演では常連、背が高いので、高圧的になればなるほど、キャラにはまるが後半は…ここは見所。また、複数役を演じる俳優陣、誰がどの役をやるのか、ここもユーモアたっぷり。「さっきと全然違うんだけど」の状態でここも出てきた途端に客席からクスクスと笑いが起こる。嘘をついたり、手の込んだ”芝居”をしたり、ここまでやるか、というくらいにあの手この手でピンチを切り抜けようとすれば、するほど、それがばれた時の笑撃が!!楽天主義といえば聞こえはいいがノー天気、どんな状況でもめげない強さも感じられる。もちろん、喜劇なのでバッドエンドにはならないことは最初からわかっているが、「もう駄目っぽい」な状況でも、すれすれのところで切り抜ける。

特に2幕では新人作家に「どう考えたってバレる」大芝居をやらせるところは抱腹絶倒。「脈がない…」ミラー始め、演劇人が大いに泣き叫ぶ。大げさすぎて嘘っぽさ満点なのだが、なぜかこの作品ではヒール役に当たる重役がここで真剣に受け止める場面は、「いやいや、どう見ても嘘っぽいだろ」と突っ込みを入れたくなる。最後にこのホテルの最重要人物である上院議員が!!どうにか開幕した芝居を見て!ミラーたちのピンチを!!さっきまでの大騒動が嘘のように収まる下りも面白可笑しく、また上院議員を演じている俳優は、冒頭で演じていたのは…ここはポイント。ひたすら笑える物語ではあるのだが、根底には舞台が好きで好きでたまらない、その気持ちが流れている。初演時は『It’s SHOW TIME』(1994年)というタイトルだったが、今回は『SHOW MUST GO ON』に変更。このコロナ禍において劇場の営みを絶やしたくないという加藤健一の思い。そして、劇中に出てくる芝居のタイトルは『GOD SPEED』、「成功」「幸運」などの意味。まさにこのミラーたちの状況「幸運」を祈る、という状況で粋なタイトル。そして、多くの舞台が途中で中止になったり、あるいは上演を断念しているが、リアルに「GOD SPEED」、千秋楽まで無事に終えて欲しい。

これは懐かしの…。

1994年初演ポスター

<物語>
ブロードウェイ、とある二流ホテルの一室。ここには演劇プロデューサーのゴードン・ミラー(加藤健一)が暮らしている。 彼の劇団は今、新人作家の脚本でもうすでに7週間も稽古を積んでいる芝居がある。芝居の出来は上々。いつ初日を迎えても良いくらいだけど、足りないものがあと一つ――そう、ショービジネスを成功させるために重要な多額の資金だ。 だがミラーの劇団は経済的に大ピンチ。今すぐスポンサーを見つけなければ、初日を迎えるどころか、このホテルから追い出されてしまう。だって、ミラーのツケで22人もの劇団員たちがこのホテルに内緒で飲み食い寝泊りしているのだから。 ホテルの支配人も黙っちゃいない。ぶ厚い請求書を突きつけて「支払えないなら出て行け!」とうるさくミラーにつきまとう。 そうとなったら残された道はただ一つ、いつものあの手、トンズラだっ!!
そう思ったその矢先、都会暮らしを始めようと田舎から出てきた新人作家がミラーを頼ってやってくる。 演出家と制作助手も荷物をまとめてミラーのもとへ転がり込んできた。 次から次へと降りかかる面倒な事件。なんてこった、一体いつになったら芝居は打てるのか? 「この芝居が当たったら、ちゃんと支払います。だからそれまで待って…。」 そこへまさに渡りに船、ついにスポンサーが現れた!だが、世の中そんな甘いワケがない!! 崖っぷちからの起死回生!?ミラーと劇団の運命やいかに!?

[出演]
加藤健一
新井康弘
辻 親八 奥村洋治(ワンツーワークス) 林 次樹(Pカンパニー) 土屋良太
伊原 農(ハイリンド) 千葉健玖(Studio Life)
加藤 忍 岡﨑加奈

<概要>
日程・会場:
[東京公演]
2021年9月1日〜9月12日 本多劇場
[京都公演]
2021年9月18日 13:00 開演/夜 18:00 開演 京都府民ホール“アルティ”
作:ジョン・マーレイ アレン・ボレッツ
訳:小田島恒志
演出:堤 泰之

加藤健一事務所公式HP:http://katoken.la.coocan.jp

舞台撮影:石川純